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第57話 襲撃

 ジャンと別れた俺は、そのまま5か所目のチェックポイントである⑤谷底に向けて全速力で走っていた。だがルートの途中で、ある生徒が先生たちに救助されている現場に遭遇した。


(こんな何もない平原で救助って、一体何があったんだろう)


(ここは正規ルートだから魔獣に襲われる心配もないし、なんでしょうね)


 担架で運ばれているのは女生徒だった。名前は知らないが顔はみたことがある。赤いマントだからアンリエットと同じ火属性クラス。救護キャンプのボランティアには来ていなかったな。


 俺は救助現場の横をそのまますり抜け先を急ぐと、やがて平原の真ん中に巨大な地割れが現れた。この下が谷底か。


 こんな巨大な地割れがどうやってできたのか想像もつかないが、南北に1キロ以上に渡って伸びる亀裂は幅も数百メートル程度あり、上から底を覗き込むと、吸い込まれそうなほど地下深く空間が続いている。


(ナツ、怖いからそんなに覗き込まないでください)


(ローレシアは高所恐怖症なのか?)


(違います。この高さだと、普通は誰でも怖いです)


(でも断崖絶壁というほどでもないし、ちゃんと下へおりる道もつながっている。早速降りてみよう)





 地表から谷底へと降りる道は、地割れの壁面に沿ってなだらかに南へと延びていた。そしてはるか先の方で折り返すと今度は反対の北へ向けて緩斜面が続いていく。その行ったり来たりを繰りかえして、道はやがて谷底へとつながっているようなのだが、道に沿って降りていくとかなり時間がかかりそうなので、やはりショートカットがしたくなる。


 道から一本下の道まで崖を真っ直ぐ降りると、下道までそれなりの高さがあり俺のワームホールでは全く届かない。だが昨日と同じように途中まで自力で降りてから10メートルほど手前でワープすれば、一応は降りられる。


(という方法で行こうと思うのだが、どうかな?)


(ナツならそう言うと思っていました。まあその方が早そうなので、それで行きましょう)




 俺は道から崖を降りる。昨日と同じで岩を足場に降りていくが、ここは岩盤がしっかりしてて足場が崩れる心配はなさそうだ。それに今日は携帯用の登山グッズも装着済み。手足が岩盤にしっかりグリップする。


 高さ10メートルぐらいまで崖を降りて、そこからワームホールで地面まで転移する。そしてまた道から崖を降りてまた転移する。これを何回か繰り返していると、途中でメアリーを見つけた。


「メアリー」


「あ、ローレシア様だ!」


 メアリーが坂道をこちらに走ってきた。


「あなたここにいらしたのね。ここは確か3か所目だったかしら」


「はい。ローレシア様は、ここで5か所目ですよね。さすがです」


「せっかく会えたのですから、一緒に参りましょう」


「え・・・・でも私は足が遅いので、ローレシア様のご迷惑になります」


「大丈夫ですよ。この崖を直接降りて行けば歩く速度など関係ございません」


「え!? この崖を降りるのですか?」


「はい。メアリーもこちらから行くと早いですよ」


「わ、私には無理です。カトレアと違って登山グッズを持ってきていないし、・・・ちょっと運動が苦手でどん臭いし、絶対に落ちて死んでしまいます」


 メアリーは運動が苦手なのか。


「・・・そう、それは残念ね。あ、それならわたくしがメアリーをおんぶして差し上げます。メアリー一人ぐらいなら、わたくし余裕ですよ」


「い、いえそんな、ローレシア様におぶっていただくなどと、とんでもございません!」


「そんなに遠慮なさらなくても、わたくしの修行を手伝っていると考えればよろしいのです」


「修行をお手伝いしている・・・・うーん、それならなんとか」


「それでは、わたくしの背中にしがみついていてくださいませ」


「はい・・・で、では、よろしくお願いいたします」




 俺はメアリーを背負って崖を降りて行くことになったが、女の子一人ぐらい余裕なほど筋力は鍛えてあるし、スタミナもヒールによって常時補給されるので、全く問題ない。ワームホールも闇の球体に入っていれば転移する人数に特に制限もない。


 だが、何も問題がない訳でもなかった。


「こ、恐い・・・ろ、ローレシア様、落ちる・・・」


 メアリーがビビりまくっていることだ。


「大丈夫ですよ、メアリー。わたくしにしっかりつかまって」


「はっ、はひーっ!」




 メアリーが俺を力強く抱き締めると、彼女の巨乳が俺の背中にぎゅむっと押し付けられる。こっ、これはなかなかの弾力とボリュームである。


 おそらく大人になったアンリエットに勝るとも劣らない大きさだと思うが、17歳にしてこれならこの先メアリーの胸は一体どこまで成長するのか。将来が楽しみである。


 そうだ! メアリーにも聖属性魔法グロウをかけてみればいいじゃないか! これは今日一番のヒラメキではないだろうか。まさに天才的発想だよ。


 よーし後でメアリーに、中心エリアまで一緒に走らないか誘ってみよう。運動が苦手だって言ってたからうまく誘わないとな・・・あっ!


 次は俺、⑥砂漠へのショートカットだった。


 くっ・・・不覚。



 なんてことを考えていると、そろそろローレシアに悟られそうなので、心を無にして崖を降りて行く。


(ナツ、もう遅いです。今の全て筒抜けでしたよ)


(え、まじか・・・)


(もうっ! エミリーにまで変なこと考えないでくださいませ!)


(うわぁぁぁ・・・俺にプライバシーなどもはや存在しなかった)





 そんなこんなでエミリーを背負って谷底まで降りてきたが、チェックポイントはすぐに見つかった。先生に5つ目のスタンプを押してもらい、すぐに立ち去ろうとしたが、


「二人ともちょっと待って。このあたりで生徒同士のいざこざがあって、アリス・ヒューバードさんがケガをさせられて今手当を受けているそうです。アリスさんにけがをさせた相手を探していますが、危ないので二人とも十分に注意してくださいね」


「え? ケガをさせたって・・・生徒同士でそんなことが許されるのですか」


「もちろん許されません。見つけ次第その生徒を失格にいたします。ただアリスさんを襲った人物がわからないのです。おそらく認識阻害の魔術具を使用していて、アカデミー内ならともかくこのゴートモアルではその魔術具を無効化する手段がないのです」


「・・・承知いたしました。では認識阻害の魔術具を使った生徒を見かけたら警戒するようにいたします」





 俺は帰りもメアリーを背負って崖をよじ登った。


 メアリーはビビって嫌がっていたが、襲撃の話を聞いてメアリーを一人にするのが不安だったからだ。


 だがメアリーは崖がよほど怖いのか、下りの時以上に俺にしっかりとしがみついてきた。


 ムニムニである。


 そして地上にたどり着くと、メアリーを連れて先ほどの先生たちが集まっていた地点まで走った。もちろんローレシアが警戒するので聖属性魔法グロウは使わなかったが。


 さっきの場所には、まだ女子生徒と先生たちが残っていた。負傷した女子生徒はやはりアリスで、彼女は光魔法によりすでに回復している。


 聞くと、アリスは先生が救出に訪れた時刻をラップタイムにしたようで、本日の遠足を中断して犯人が捕まった後にでも遠足を再開することにしたとのこと。


 それでちょうど今からアリスが先生たちと中心エリアに戻っていくところだったので、ついでにメアリーも同行させてもらうことにした。


「それではメアリー、気をつけてね~」


「ローレシア様こそ、お気をつけて下さ~い!」




(さてと、ジャンの警告通りだとすると犯人はカミール・メロアということになる。だが朝の時点で1位だった生徒が、そんなリスクを冒すだろうか。バレたら失格だぞ)


(確かにそうですね。いくら認識阻害の魔術具を使用しているとしても、失格になることを考えれば、わたくしならそのまま有利な状況で競技を続けます)


(だとすると、ジャンがウソをついているということになる。ウソをつくようなヤツには見えなかったが)


(・・・どちらかが怪しいか、あるいは別の誰かか。でもここで考えていても分かりませんので、とにかく先を急ぎましょう)


(だな。じゃあ、いよいよ最後のチェックポイント。⑥砂漠へ、いざ出撃っ!)





 エミリーと別れた場所がチェックポイントから中心エリアに少し戻った位置だったため、最短ルートからはずれてしまっている。


 ここから斜めに、⑥砂漠のチェックポイントを直接目指そう。さっそくいつものブースト状態で走り始めるが、⑤のエリアにいる間は基本的に平坦な草原だったので走りやすかったものの、⑥に近付くにつれて空気が乾燥し始めて下が砂地へと変わっていった。それとともに出現する魔獣も動物系からワーム系へと変わっていく。


(ナツ、ここの魔獣は気持ちが悪いですわ・・・・。あまり戦いたくないのですが)


(王子の言っていた通りだな。巨大なムカデとかミミズとかワーム系の魔獣は強いしちょっとグロすぎる。時間的にはロスになるけど、正規ルートに戻ることにしよう)


(そうしていただけると、精神衛生的に助かります)


 とりあえず目の前にいるワーム系だけは倒さなければならないが、俺もあまり近付きたくなかったので、魔力効率は悪いがアンチヒールで敵を倒していく。






 そして、正規ルートまであと少しというところで、生徒同士が争っている現場にで食わしてしまった。


(ローレシア、先生が言っていたのってアレだよな。片方は認識阻害の魔術具を使用しているから間違いない。彼らに巻き込まれないようにやり過ごすこともできるが、どうする?)


(アリス・ヒューバード様のようにケガをさせられようとしている生徒を、このまま見過ごすわけにはまいりません)


(だよな。ローレシアならそう言うと思ったぜ。なら加勢に行くぞ!)





 だが、生徒同士の争いに参戦すべく彼らに近付いて行った俺たちは、戦っている生徒を見て思わず我が目を疑った。


「アンリエット! カトレア!」


 認識阻害の魔術具によって正体不明の生徒6名が、アンリエットとカトレアの2人に襲いかかっていたのだ。カトリアを守るために必死に防戦するアンリエットの姿を見て、俺は完全にぶちギレた。


(あんの野郎ども! アンリエットとカトレアを襲いやがって。全員ぶっ殺してやる!)

次回、はじめての対人戦です


ご期待ください

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