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第54話 真面目に洞窟を探索する必要はないのです

 カトリーヌが用をすませた後、今度は俺がカトリーヌに下着を脱がせてもらって、ウォシュレットを試してみた。


(我ながらこれは凄い。本物と寸分違わぬ再現度だ)


(こ、これは・・・とても快適ですね・・・すごい。ナツの世界にはこのような魔法が存在するのですか)


(これは魔法ではなくトイレという道具なんだ。この世界ではまだ発明されていない衛生道具の一種だ)


(これが魔法ではなく道具。魔術具の一種ですか)


(魔術具ではないが・・・まあそんなものだ)


(もし他にも便利な道具がございましたら、ナツにはぜひ魔法で再現していただきたいものですね)


(なるほど、面白そうだな。・・・やってみるか!)


(ええ、楽しみにしています)


(だがその前に、この一人で脱げない下着を何とかしなくちゃな。アンリエットたちはどうしてるんだ)


(侍女は自分で着脱可能な下着を身に着けているので大丈夫です)


(なんだと? じゃあアンリエットと同じ下着をはけばいいじゃないか)


(それはなりません。下着一つにも高位貴族としての格式がございますので)


(じゃあ、せめて遠足の間くらいはなんとか・・・)


(それでしたら、まあ・・・承知いたしました)





 お互いに用を足すことのできた俺とカトリーヌは、お互いの下着をつけあって遠足を再開する。


「カトリーヌ様は④洞窟はもうお済みでしょうか?」


「いいえ、これから向かうところでございます。もしよろしければ、ローレシア様とご一緒させていただけると心強いのですが」


「もちろんです、では一緒に参りましょうか」



 そしてカトリーヌと一緒に洞窟を目指すことになったのだが、山林を進むとわりとすぐに正規ルートに合流した。俺たちは山林の奥地へと進む生徒たちとともに歩いていき、やがて洞窟の前に到着した。


 見たところかなり大きな洞窟で、遠足のしおりには中の通路は複雑で奥行きもあると書いてある。周りにいた生徒たちは、準備していた魔術具やランタンに明かりを灯して進み始める。



 【ライトニング】



 俺はライトニングを使って辺りを照らす。


「ローレシア様って本当に勇者なのですね。闇属性クラスなのに、先ほどから水魔法と光魔法しか使っていらっしゃらないのですもの」


「闇魔法クラスに編入して初めてわかったのですが、わたくし闇魔法は苦手で上手く使えないのです。実はさっきもワームホールの転移距離が短すぎて、崖から落ちてお尻を打って、悶絶したばかりでございます。わたくしが一番得意なのは実は光魔法なのですよ」


「そうだったのですか。ローレシア様にも苦手な魔法があると知って、わたくし少し安心いたしました」


「左様でございますか。それではここでお話ししていてもなんですので、奥に進んで見ましょうか」




 その時、後ろから聞き覚えのある声がした。


「ローレシア様っ!」


「まあ、アンリエット」


「ローレシア様、よくぞご無事で!」


「アンリエットこそご無事でなにより。でもわたくしの方がアンリエットよりも先に進んでいたのですね」


「さすがナツ・・・お嬢様です。私もかなり急いでこちらに参ったのですが、まさかお嬢様の方が先に洞窟に到着されていたとは・・・それでこちらの方は?」


「この方は、途中からご一緒させていただいている、水属性クラスのカトリーヌ様です」


「そうでしたか。私はローレシア様の侍女兼護衛騎士のアンリエット・ブライトと申します」


「お初にお目にかかりますアンリエット様。わたくしカトリーヌ・ド・ブリエと申します。ローレシア様に先ほどお助け頂いた者で、こうしてご一緒させていただいている次第です」


「そうでしたか。お嬢様はこの辺りの魔獣ごとき簡単に葬りされる実力者ですので、カトリーヌ様も運が良かったと思いますよ」


「いいえ、アンリエット様。わたくしが助けられたのは魔獣からではなく、お花摘みでございます」


「お花摘み? なっ! ・・・まさか、カトリーヌ様はローレシアお嬢様にそのようなことをさせたのではないでしょうか」



 まずい! アンリエットの目が完全に怒っている。これはすぐに誤解を解かなければ。



「アンリエット、少し誤解をしてますね」


「誤解・・・というと、お嬢様はカトリーヌ様のアレをナニした訳ではないと」


「アンリエットが想像しているようなことではなく、わたくしたちはお互い助け合って、お花摘みクエストをクリアーしたのです」


「お互い助け合って・・・・お花摘クエストを!? う、うらやましい」


「うらやましい?」


「はっ・・・い、いえ、そのようなことは申し上げておりません。しかしどうしてお嬢様にそのようなことができたのですか」


「わたくしの水魔法ウォーターを使ったのです。言葉ではうまく説明できませんが、それはもうとても便利な魔法で無事乗り切ることができました」


「ああ、あの必死に練習されていた魔法を使ったのですね。ぜひ今度私にも見せてください」




 アンリエットが合流して3人で洞窟の中を進んでいくが、スタンプ台はこの迷宮のような洞窟のどこかにあり、それを探し出すのも競争なのだ。


「中がたくさんの道に分岐していて、迷路のようになっていますね」


「はいお嬢様。生徒たちが道に迷って行ったり来たりしているようですので、洞窟の中にはまだかなりの人がいると思います」


「それほどこの洞窟の攻略には時間がかかるということでしょう。さてどうやって攻略するかですが」



 【ライトニング】



 俺は改めて光魔法のライトニングを発動させると、足下だけでなく洞窟全体を満遍なく照射させた。何かヒントがないか、洞窟の中をじっくり観察したのだ。


「わかりました。右から3番目の道を進みましょう」


「え!? どうして見ただけでそのようなことがわかるのですか」


「そんな大したことではなく、この道の奥からこちらに向かって走ってくる生徒が見えたからです。おそらくゴールできたから、急いで洞窟を出ようとしているのでしょう。つまり彼が走っているこの道が、スタンプ台への道です」


「ああなるほど。では3番目の道を急ぎましょう」





 その後も分岐がある度にライトニングを照射して、ゴールの場所を推定していく。


「今度は生徒が誰もいませんでしたが、どうしてこちらの道だとわかったのですか」


「足跡です。あちらこちらに方向が乱れている通路はおそらく奥に袋小路があるハズレの道で、足跡がある程度揃っている方がたぶん正解のルートです」


「一理ありますが、本当にそのようなやり方で大丈夫なのですか? 騎士団で学んだ洞窟の探索方法にそのようなやり方はありませんが」


「アンリエット、これは探索ではなく遠足なのです。ここには同じゴールを目指す多数の生徒がいて、先にゴールにたどり着いた生徒も複数います。わたくしたちは後発隊なのだから、彼らの答えを教えてもらえばいいだけです。わたくしにはこの強力なライトニングがあって、洞窟全体を照らせばみんなの動きは手に取るようにわかるでしょ。自分で真面目に洞窟を探索する必要なんて、最初からございません」


「そういうことでしたか・・・わかりましたお嬢様」


 その後も何回か分かれ道にぶつかり、その度に他の生徒たちの動きからゴールを推理していく。そしてついにスタンプ台に到達した。


「本当にもうゴールに着いてしまった・・・」


 アンリエットが呆然としているところへ、チェックポイントで待っていた先生がにこやかな顔で話しかけてきた。


「あら女の子3人組ね、はいスタンプよ。あなたたち2人はもう2つ目だから上位を目指して頑張ってね」


「はい、ありがとうございます。先生!」


 帰り道はライトニングで足下を照らして、洞窟内を疾走する。行きにブリザードで作った大粒の氷を道標にしておいたため、氷のある道を逆走すれば洞窟の外に戻れるからだ。


 俺たちは考えうる限り最速で洞窟をクリアーして、外に出ることができた。





 俺とアンリエットの次の目的地は①平原だ。④とは丁度正反対で対角線上を真っ直ぐ進むだけ。つまり作戦は一つ。正規ルートを最速で駆け抜ければいいだけだ。


「それではカトリーヌ様、わたくしたちはここで失礼させていただきます」


「はい。おかげさまで、洞窟をこんなに早くクリアーさせていただき、感謝の言葉もございません。お二人とも頑張ってくださいませ」


 俺は自分とアンリエットに聖属性魔法グロウをかけて、身体能力を自身の限界まで高める。



 【グロウ】



 無駄に神々しいエフェクトが発生し、虹色の光に包まれた俺とアンリエットは、魔法少女の変身シーンのように大人の姿へと変貌を遂げた。


 俺の胸はほんの少しだけ大きくなった気がするが、アンリエットは相変わらずの魅惑のボディーだ。


 カトリーヌ様が聖属性魔法グロウとアンリエットの姿を見て目を白黒させている。


「アンリエット、一気に走り抜けますわよ。わたくしがヒールを常時発動しますので、なるべくわたくしの近くを走ること。いいですね」


「承知いたしました、お嬢様」


「それでは、ごきげんようカトリーヌ様」


「ローレシア様もアンリエット様もどうかお気をつけて」





 まばらに生えた木を避けながら、俺たちは山林の中を一気に駆け抜けていく。


「アンリエットはヒールの範囲に入るよう、もう少しわたくしとくっついて走ってください」


「すまないナツ。・・・それでアルフレッドとはどうだったのだ。ナツはお嬢様に結婚を断られて元気のなかった彼を慰めていたのだろう」


「・・・・・」


 アルフレッド王子のことを思い出してしまった。


 あの山頂で不覚にも俺が王子にときめきを感じてしまったのは、ローレシアの考えでは、俺の気持ちとは関係なくこの女子の身体が王子に反応してしまっている可能性があるらしい。


 もしそうなら、俺の心はこの身体からどんな影響を受けてしまうのだろうか。


 俺はそれが怖いのだ。




「ナツ・・・山頂で王子と何かあったのか? まさか何かされたとか」


「い、いいえ、アンリエット。王子とは別に何もありませんでした。山頂までの道が意外と難所で、王子が危うく滑り落ちそうになったところをわたくしが助けたのです。アンリエットも山頂では気を付けてください」


「そうか・・・何もなかったのなら良かった」


「アンリエットはこのわたくしのことを心配してくれるのですか」


「当たり前じゃないか! もしナツが王子に傷つけられたのであれば、私はヤツを許さない」


「大丈夫ですよアンリエット。王子はそんなこといたしませんから」


「そうですか・・・それならいいのです」




 アンリエットが俺のことを心配してくれている。もちろんそれがローレシアと同じ身体だからということもあるのだろうが、俺のことも意識してくれているのは間違いない。


 それだけで、王子の件で不安になった俺の心が軽くなる。大丈夫、俺はまだちゃんと女の子を好きになれている。俺の心がおかしくなった訳ではない。


 アンリエットと一緒に居れば、俺はまだ自分が大丈夫だということを確認できるはずだ。

次回は遠足1日目終了までです


ご期待ください

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