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第51話 胸の高鳴り

 目的地の③山頂は、このゴートモアルでも最高峰の地点にあるため、どこまでも上り坂が続く。途中大きな谷にかかった吊り橋を渡ったり、急な崖地をよじ登ったりしながら、なおも道は上へ上へと続く。


 俺たちよりも前を進んでいた生徒たちも途中でバテてしまったのか、岩に腰かけてぐったりしている者がチラホラ出てきた。


「わたくしたち、頑張れば上位を狙えるのではないでしょうか」


「そうかもしれないな。なにせ毎晩あのアンリエットにしごかれているからな」


「わたくし、王子よりも2か月以上長くアンリエットのスパルタ指導を受けてまいりました。体力なら王子にだって負けません」


「そうかもしれないが、僕だって男だ。女のナツなんかに簡単に後れをとるほどやわではない」


「随分と挑戦的な言い方ですね。それでは、どちらが先に山頂に到着するか競争いたしましょう」


「いいとも。ただし走るのはなしだ。山道は危ないからな」




 岩がゴロゴロ転がる山肌をどんどん登る。ここまでくると山頂以外にここより標高の高い場所は周りには見当たらない。山から見下ろす景色はまさに絶景だ。


「すごい景色ですね・・・」


 俺が思わずつぶやくと、後ろを歩く王子がそれに答える。


「そうだな。こんなすごい景色、フィメール王国ではまず見ることができないよ」


「わたくし、フィメール王国のことはよく存じ上げておりませんが、このように高い山はないのですね」


「そうか、ナツはフィメール王国をよく知らないんだったな。平地が多く山も緩やかな農業や牧畜が盛んな国なんだ。だからソーサルーラよりはるかに広い国土を持っているが、それほど強い国ではないんだよ」


「のんびりとしたいい国のようですね。ローレシアにとっては危険な国ですが、わたくしはクールンとその道中の森しか見ておりませんので、いつかフィメール王国をゆっくり観光できる日が来ることを望みます」


「そうか。ナツなら気に入ってくれるかもしれないな僕の国を。ただ・・・」


「・・・どうかしたのですか? 王子」


「その姿で話されると、ローレシアがフィメール王国を気に入っているような錯覚を感じてしまう」


「あっ、確かにそれは違和感がありますね」


「ローレシアはフィメール王国を憎んでいるからな」


「あれだけのことをされれば、仕方のないことだと存じます。・・・ただわたくしは、王子の辛いお気持ちも少しはわかるのですよ」


「ナツ・・・」


「自分ではどうすることもできない理由で、好きな女の子から拒否されるのはとても辛いことと存じます」


「・・・・・」


「・・・・わたくしはローレシアと王子の関係に口を挟むつもりはございませんが、元の関係に戻れるような素敵な解決方法が見つかればいいと願っています」


「・・・僕に気を使ってくれてるんだな。すまない」


 そう言うと王子は突然スピードを上げて俺を追い越すと、どんどん先へと進んでいった。


「あ、待ってください。ズルいですよ王子!」




 こちらを振り向くことなく、俺を置いて岩山を駆け上がっていく王子。


 だが突然、王子が足元の岩につまずいてバランスを崩すと、滑りやすくなっていた斜面をこちらに向かって滑り落ちてきた。


「危ないっ!」


 俺はとっさに腕を伸ばし、王子の腕をつかむ。


「くっ!」


 タイミングよく、王子の腕をつかんだところまでは良かったが、スリムだが長身で筋肉質の王子は体重もそれなりにある。その重さで俺まで山肌を滑り落ちそうになるが、必死にこらえて何とか踏みとどまった。


「危ない所でしたね・・・」


「ナツ、助かった。・・・このまま滑り落ちていたら大ケガをするところだった」


 王子はバツが悪そうに頭を掻きながら、制服に着いた砂埃をはたいて立ち上がった。


「痛つつ・・・」


 だが、どうやら足をくじいたのか、王子は痛そうに足首を押さえた。


「足をくじいてしまったようですが、大丈夫ですよ。こう見えてわたくし光魔法が得意ですのですぐに治してさしあげます」



 【キュア】



 右手の先の魔法陣から光の魔力のオーラが流れ出し王子の足首を癒す。すぐに痛みが引いたようで、痛そうにしていた王子の表情も穏やかになった。


「何から何まですまないな、ナツ」


「王子、ローレシアのことで落ち込むのは少しお休みにして、今日は遠足を楽しみましょう。さあ、元気を出してください王子」


「ナツ・・・」


「それと危ないので競争はもうやめにして、山頂まで一緒に登りましょう。さあ手を貸してくださいませ」


「あ、ああ・・・」


 そう言って俺は王子の手をつかむと、そのまま手を引っ張って山頂へと歩いて行った。山頂には山小屋があり、中で先生がスタンプ台の前で待ち構えていた。




「君たちはかなり早くついたな。では台紙にスタンプを押してあげよう」


 1つ目のスタンプをゲットした。


 次のチェックポイントを目指すため、すぐに山小屋を立ち去ろうとすると、後ろで先生が、


「さっきからずっと手をつないでいるけど、君たちは恋人同士なのかい? 仲がいいね」


「ち、違います先生。アルフレッドが途中で足をくじいたので、危ないから手を引いて山道を登ってきただけです」


 俺は慌てて手を振りほどいて隣を見ると、王子の顔は真っ赤だった。そして俺の顔もなんとなく熱い。


 先生め。


「美男美女のとてもお似合いのカップルじゃないか。先生の勘違いだったかな?」


「もうっ! 先生は余計なことばかり言わずに、大人しく仕事をしていてくださいっ」


「はいはい」





 俺は先生がからかってくるのが嫌で、足早に山小屋を去った。そして自分の心臓の鼓動が速くなっていることに気付き、急に頭が混乱してきた。


 な、なんで俺が王子にドキドキしてるんだ!


 王子とはここで別れることとなるが、このまま二人でいると頭が変になりそうだったので正直助かった。


「お、王子は中心エリアに一度戻ってから、⑤谷底を目指すのでいいですね」


「あ、ああ。直接向かっても距離的に大差ないだろうし、途中にトラップもあることを考えれば余計に時間がかかりそうだからな。ナツは直接④洞窟に向かうのかい」


「ええ、最短コースを狙って行きます。わたくしたちは③山頂をわりと早く通過できたようですし、積極的に上位を狙うならここはショートカット一択かと」


「わかった。だが絶対に無理せずケガだけはするな。ナツ・・・必ず無事に帰ってきてくれ」


「・・・は、はい!」





 王子は少し微笑むと今来た道を足早に戻っていき、俺はそれとは別の道を下って行く。


 王子がいなくなってホッとしていると、


(ナツ、あなたどうしてアルフレッド王子にドキドキしているのですか)


(これは違う! ローレシアの感情が俺に伝わって、おかしなことになっていたんじゃないのか)


(あそこでわたくしが王子にときめきを感じる理由がございません)


(ローレシアは王子のことが好きだったじゃないか)


(わたくしは令嬢の嗜みとしてある程度感情を抑えることができますし、山道では冷静にナツと王子のやり取りを見てました。これは明らかにナツの感情です)


(そんなバカな)


(・・・男同士でそういう関係になる方もいらっしゃいますし、先生も恋人同士だと勘違いするほど、ナツと王子はいい雰囲気だったのでしょうね)


(なぜ俺が王子なんかと・・・)


(でもひょっとするとですが、この女の子の身体がナツの心に何か影響を与えているのかもしれませんね)


(この女の子の身体が俺の心に・・・まさかそんな)





 俺は自分が自分で無くなるような不安を感じ、それを打ち消すために遠足に集中することにした。とにかくこの山頂から全力で下山しよう。


 岩がゴロゴロした下り坂は思ったよりも怖い。だが不安を打ち消すように駆け抜ける。たまに滑ってしまうがいっそそのまま身を任せて、大きな岩を両足で蹴ってスピードと方向を制御する。


 モーグルをしてるみたいで、ちょっと楽しい。




(もうお昼近くになっちゃったけど、この遠足はやっぱり一日じゃ絶対に終わらないな)


(そうね。台紙の裏にも注意書きがございましたが、遠足を中断する際は中心エリアでラップ時刻を記録して、魔導ゲートからアカデミーに戻るそうです)


(なるほど。ラップ時刻の合計時間で勝敗を決めるんだな。うわあっ!)




 前方に突然崖が現れ、俺は止まりきれずに足を踏み外した。慌てて岩の出っ張りに腕を伸ばして落下こそ防げたが、崖から5メートルほど滑り落ちてしまっていた。


(危ない・・・崖だ。全然見えてなかった。これ落下したら大ケガじゃすまなかったな)


(でも、どうしましょう。見たところずっと崖が続いていて回り道もできそうにないし、このままここを降りるしかなさそうですね)


(下までまだ大分あるが、上に登って回り道を探すのは致命的なロスになる。かなり怖いけど、崖を降りるしか選択肢は無さそうだ)

次回は、修行の成果です


ご期待ください

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