第50話 秋の遠足
国王との昼食会の日から月も変わり、いよいよ魔法アカデミー恒例、秋の遠足の日がやってきた。
あれから毎日特訓を欠かさず頑張り、闇属性魔法も水属性魔法も少しはサマになって来たし、剣術の腕も磨いた。今できる努力はすべて行い、この遠足にもある程度自信は持っている。
玄関ホールにみんなが揃うのを待ちながら、なんとなく俺はこれまでのことを思い出していた。
ローレシアとアルフレッド王子の2人はあの昼食会以降、雰囲気が少し変わった。表面上はいつもと変わらないやり取りをしているが、王子が空元気を出して取り繕っているように見える。
俺は別に、王子とローレシアがくっつくことに賛成しているわけではないが、同じ男として王子の気持ちはよくわかる。
好きな女の子にあれだけキッパリと断られて、その上自分の友人にその子を奪われてしまうかもしれないのだ。何度王子を慰めようと思ったかわからない。
だが、俺は王子のことをローレシアを巡るライバルだと思っているので、敵に塩を送る真似はしない。
ぐっとこらえて、俺は2人の事を静観した。
・・・まあ、あえて言えばだ。ローレシアがランドルフと結ばれるぐらいなら、まだアルフレッドの方がましな気がしないでもない。
あくまでも、あえて言えばだが。
一方、俺とアンリエットとの関係も最近少し変わった。俺はローレシアの事が好きなのだが、アンリエットのことも好きだ。・・・最低な男である。
でも言い訳をさせてもらうなら、俺はアンリエットの方を先に好きになっていた。女子と縁のなかった俺にとっては、アンリエットこそが初恋の相手だった。
でもアンリエットはずっとローレシアの事を崇拝していて、俺のことはどちらかと言えばオマケみたいな扱いだった。
それに俺はこんな身体だし、別にアンリエットに告白するつもりもなく、俺はローレシアと二人三脚で、ここまで生きてきた。そしてエール病騒動を乗り越えたあたりから、俺はローレシアのことを好きになっていた。
だがそれと時を同じくして、アンリエットの俺に対する態度も変わってきた。
最初は俺の勘違いかとも思ったが、アンリエットは俺の存在もちゃんと意識してくれてるように感じる。
まあアンリエットは俺の事を女だと思ってるので、恋愛感情とかではないと思うが、それでも俺の初恋の相手であるアンリエットにちゃんと認識してもらえるだけで、俺は幸せな気分になれるのだ。
でもなんだろう、この複雑な関係は。
俺とローレシアは一生結ばれない。なぜなら物理的にくっついているから。
俺とアンリエットが相思相愛になれば、ローレシアとアンリエットは百合になる。
ローレシアとアルフレッド王子と結ばれれば、俺と王子でBLだ。
なんじゃこれは・・・。
俺たちにハッピーエンドなんかあるのか?
いかんいかん。これから遠足だというのに、そんな浮わついた気持ちでどうするんだ俺!
精神を研ぎ澄ませ!
さもなければ、遠足に食い殺されるっ!
さて、アホなことを考えているうちに、みんなの準備が整ったようだ。
服装はいつものアカデミーの制服なのだが、俺は腰に魔剣シルバーブレイドと闇魔法の杖を差し、指には聖魔法の指輪と水魔法の指輪、そして胸には光魔法のロザリオを身につけている。完璧だ。
みんなもそれぞれの属性魔法の杖や剣を持ち、いざ魔法アカデミーへと登校した。そして、いつもの教室には向かわず、魔導ゲートと呼ばれる巨大な転移装置が置かれた広場に集合した。
2年生の遠足の行き先はこの魔導ゲートで転移した先にある孤島・ゴートモアルだ。ジャングルや砂漠、山岳地帯などの多彩な地形に加えて魔獣も出てくるという、とても恐い場所だ。
そして魔導ゲートの広場に集まった総勢150名の2年生の生徒たちに、先生から遠足のルール説明が行われた。
・チェックポイントは全部で6か所。
①平原、②ジャングル、③山頂、④洞窟、⑤谷底、⑥砂漠に設置されたスタンプを全て集めること。
・スタンプ台紙は生徒一人一人異なり、6ヶ所の順番が全員バラバラになっている。チェックポイントには先生がいて、台紙に示された順番でないとスタンプを押してもらえない。
・一番早く全てのスタンプを集めてゴールした者が優勝で、成績優秀者には素敵な賞品がもらえる。また個人の順位をクラスごとに集計して、最も数字の大きかったクラスがビリ。恐ろしい罰ゲームが待っている。
ルール説明の後、先生から生徒一人一人にスタンプ台紙が手渡された。みんなバラバラで友達同士で見せ合ってワイワイ騒いでいる。俺もアンリエットたちとお互いの台紙を見せ合う。
「わたくしは③④①②⑤⑥でしたが、みなさまはどうでしたか」
みんなはこんな感じだ。
アンリエット②④①③⑥⑤
アルフレッド③⑤⑥①④②
エミリー ①④⑤③②⑥
カトレア ⑤②③⑥①④
「あら、アルフレッドとは最初のチェックポイントが同じですね。それではご一緒いたしましょうか」
「そうだな。一緒に行こう」
「・・・うらやましいぞ、アルフレッド」
「あらアンリエット。わたくしたちは2番目と3番目のチェックポイントが同じですので、上手くタイミングが合えば、3番目のチェックポイントまでご一緒できますわよ」
「確かにそうですね・・・では私は二番目のチェックポイントに先に到着してそこで待っているとしよう」
「それはありがたいのですがこれは競争です。わたくしが遅い場合には先に行ってくださいね。エミリーもカトレアも無理をせずに頑張ってください」
「「はいっ、ローレシア様!」」
台紙が全員に配られると魔導ゲートが開き、生徒たちは順番にゲートをくぐって行く。ゲートの中は虹色の膜で覆われていて向こうの景色がうっすらと見えている。
ゲートの先は草原のようだ。
俺もみんなに続いてゲートに入る。虹色の膜に触れた瞬間、身体に少し抵抗を受けた気がしたがそのまま通過し、さっきまでいたアカデミーの広場から草原に転移していた。そよ風が吹いていて、草の匂いが鼻をくすぐる。
生徒全員が転移を終えたところで、再び先生からの説明が始まる。
「今皆さんがいる場所がゴートモアルの「中心エリア」です。台紙の裏に地図がありますが、大まかに言うとここから真北を向いて、時計の0時から2時までの方向に①平原、2時から4時までの方向に②ジャングルという風に、各エリアが時計回りに並んでいます。そして①から②に移動する場合、直接最短距離を目指すと、距離は短いですが難所やトラップがあったり魔獣が襲ってきます。もし自信がない人は一度この中心エリアに戻ってから次のエリアに向かうとよいでしょう。時間はかかりますがトラップや魔獣を避けることが出来ます。ただしこれは競争ですのでそんなことばかりしていると勝てません。あとは台紙の注意事項をよく読んで、気を付けて行ってらっしゃい」
それだけ言うと先生がスタートを宣言し、遠足が始まった。
(じゃあ行くか、ローレシア)
(ええ。今日はナツが身体操作でお願いね)
(わかった。任せておけ)
「では、アンリエット、エミリー、カトレア気を付けてね。アルフレッドは一緒に行きましょう」
生徒たちは一斉に走り出し、魔力に自信のある者は魔法を使って移動する。闇クラスの男子は「ワームホール」でどこかへ転移してしまい、風クラスの女子は「ウィンド」で起こした風に乗って悠々と走り出す。
「魔法を使っての移動もありですが、最初から飛ばし過ぎるのは考えものですね」
俺は③山頂を目指してまずは歩き出した。アルフレッド王子の他に③を目指すクラスメイトの女子数人と一緒だ。中心エリアから5時の方向にどんどん進んでいくと、やがて登りの傾斜が始まった。山道だ。
景色が草原からゴツゴツした岩山のそれへと変貌していき、標高が高くなってくるとゴートモアルの全体が少し俯瞰して見えてくる。進行方向左手はジャングルが広がり、右手は山岳地帯がずっと続いている。
さらに登って行くと当初は周りにたくさんいた生徒たちも次第にまばらになってきた。
山頂を目指す生徒で走ってる人はさすがにおらず、他の目的地に比べ大きな集団を形成していたのだが、その中でも早歩きで先を急ぐ生徒もいれば、体力が続かずに遅れ始める生徒もいる。
俺と王子は全体から見れば速い方らしく、一緒にいたクラスメイトたちが遅れ始めた。
「ローレシア様~、アルフレッド~、先に行ってくださ~い」
「承知いたしました~。みなさまもお気をつけて~」
そして山の中腹に差し掛かるころには、周りは俺と王子の二人だけになっていた。
「みんないなくなってしまいましたね」
「そうだな。まあ、僕たちは僕たちのペースで進んでいこう」
次回は、ナツと王子の男子会?
そしてナツは果敢にショートカットコースに挑む
ご期待ください




