第47話 魔法アカデミーへの復帰
翌朝、カトレアとニアにアカデミーの制服に着替えさせてもらったローレシアは、3人と共に3階の食堂まで降りていく。食堂には既に全員揃っていて、一斉にローレシアに挨拶をする。
「「「おはようございます、ローレシア様」」」
その後食事を終えたみんなはメイド服からそれぞれの服装へと着替えて、アスター邸の一階玄関ホールに集合した。
ちなみに本日の予定だが、身体担当のローレシアはアンリエットとアルフレッド王子のいつもの2人に加えて、今日からアカデミーに編入するエミリー、ナンシー、ジェレミア、カトレアと、アカデミー上部組織の研究科に編入するアンナ、キャシー、ケイトの7人を連れて、魔法アカデミーに登校する。
女子は全員、黒系統のブレザーに茶系のチェックのミニスカート、足には黒のブーツと白のニーソックスをはいている。そして頭には黒い大きなとんがり帽子と背中にはそれぞれのクラスを表す色のマントをつけている。
火属性のアンリエットは赤、水属性のエミリーは青、風属性のナンシーは緑、土属性のジェレミアは茶色、雷属性のカトレアは黄色、ローレシアとアルフレッド王子は闇属性クラスの紫色、そして研究科の3人は全員黒だ。
それ以外の侍女たちは、病院ができるまでは修道院の手伝いに行ったりアスター邸の掃除、洗濯、買い物を行う。もちろん、エミリーたち7名も午前の授業が終われば、午後からは侍女としての仕事に戻る。
一方でローレシアたち3人は、午後はマリエットの研究室では魔法の実習を、ギルド闘技場では騎士団の訓練を行う。
登校の前にアルフレッド王子がみんなに注意する。
「僕がフィメール王国の第4王子だってことは、まだ秘密にしておいてくれるかな。実は僕がこの国にいることは本国でも公式には発表していないし、アカデミーの中でも知っている人はごく僅かなんだ」
「「「はいっ、承知いたしましたっ!」」」
そして今度はマリア侍女長が、
「エミリー、ナンシー、ジェレミア、カトレアの4名は、アカデミーではアンリエット様の指示に従って、ローレシア様のお世話をしっかりするのですよ」
「「「はいっ、マリア侍女長」」」
魔法アカデミーに着くとみんなそれぞれのクラスへと別れて行き、ローレシアは王子と2人で闇属性クラスに向かう。エール病騒動以来久々に行く学校だ。
「あ、みんな見て、ローレシア様が登校されたよ!」
「本当だ! ローレシアちゃんが来た」
教室に入ると、クラスのみんながワイワイと集まってきて、叙爵式はどうだったとか、新居はどんな感じかとか聞いて来る。
ローレシアが侯爵になっても、みんなの態度があまり変わらないところに俺はホッとする。せっかくできた友達だから、急によそよそしくなるのはやはり寂しいからな。
ただそれにはちゃんと理由があって、魔法アカデミーの生徒の大半は外国からの留学生で、やはり大半がそれぞれの国の貴族らしい。もちろんソーサルーラの貴族や平民も混じっているのだが、いちいち身分を気にしていたら学校生活が成り立たないそうだ。
魔法アカデミーは身分よりも魔力優先なのである。
午前中は闇魔法の実習をして、昼休みはクラスメイトと食堂でランチを食べる。そこでエミリーたち侍女軍団も食堂に合流するのだが、みんなの様子を聞くとすぐにクラスに溶け込んだようで、ひとまず安心だ。
「これがローレシアちゃんの侍女軍団か。すげー」
食堂ではアンリエットを含めた美少女の侍女5人がローレシアに付き従ってお世話を始める。アンリエットともう一人が両側に座り、残り3人がアンリエットの食事が終わるまで背後に立っている。
一方でアルフレッド王子の世話を誰もしないのは、やはり王子の身分を隠すためなのだろう。そんなローレシアがクラスメイトたちに尋ねる。
「みなさまも貴族なのだし、お世話をしていただける執事や侍女を連れてこられればよろしいのではないでしょうか」
「俺たち闇属性クラスの中には、ローレシアちゃんみたいな高位貴族はいないよ。むしろ俺がローレシアちゃんの執事をやろうか?」
「でも他のクラスは侍女や執事を連れてきている子もいるけどね」
周りをよく見ると、確かにローレシアと同じような感じの生徒たちがいる。きっとどこかの国の高位貴族なのだろう。
「そういえば、ローレシア様はエール病騒動で学校を休んでいたからたぶん知らないと思うけど、来月には魔法アカデミー恒例の一大イベントがあるのよ」
「イベントですか?」
「学年ごとに異なるんだけど俺たち2年生は遠足だ」
「遠足とは、どのようなものなのでしょうか?」
「学校のみんなで日帰りの旅行に行くことだよ」
「まあっ! わたくし学園生活は、このアカデミーが初めてなのです。遠足すごく楽しみです」
「それがそんな気楽なものじゃないんだよ」
「どういうことでしょうか」
「行き先がとんでもない場所で、アカデミーで学んだ魔法を駆使しないと突破できないような所なんだよ」
(おっ、なんか面白そうな話じゃないかローレシア)
(ナツは冒険者に憧れてましたからね)
「先輩に聞いた話だと、行き先の「ゴートモアル」はジャングルや砂漠、山岳など多彩な地形がある島で、魔獣もたくさんいるんだって。そして生徒は、6箇所あるチェックポイントを通過するんだけど、その順序が生徒一人一人異なるから、お互いに助け合うこともできないらしい」
「それ日帰りで行ける旅行なのでしょうか・・・」
「もちろん一日じゃ終わらないんだけど、魔導ゲートという転移魔法を使ってアカデミーとゴートモアルを毎日行き来するから、一応日帰り旅行なんだ」
「それで全7属性150人でスピードを競うんですけれど、個人順位とそれを合計したクラス成績の両方を評価して、成績の優秀者の個人には特典がもらえるけれど、ビリのクラスには恐ろしい罰ゲームが待っているのよ・・・」
「恐ろしい罰ゲームって・・・」
「去年ビリだったクラスは、1か月間のアカデミーの掃除当番でした」
「わたくし、お掃除はあまり得意ではございませんので困りましたね」
「まあ、今年も掃除かどうかは分からないけど、罰ゲームが決まるのは団体成績なので、闇クラスがビリにならないようにみんな頑張ろうぜ」
午後はいつも通り食堂で解散し、クラスメイトたちは教養の選択科目を受講しにそれぞれの教室へ散って行った。侍女たちも下校して、アスター邸か修道院のどちらかに向かい、ローレシアはアンリエットとアルフレッド王子を護衛に連れて、マリエットの研究室に向かう。
「ローレシア様、お久しぶりです」
「マリエット、突然いなくなってご心配をおかけいたしました」
「いいえ、とんでもありません。あのような立派なことをされていたのですから問題ございませんし、ローレシア様にはアンリエットやアルフレッド王子も護衛についていますので、心配はしていませんでした」
「そう言ってもらえると助かります。それとマリエットに教えていただいた聖属性魔法ウィザーが大変役に立ちました。あれがなければエール病は制圧できなかったでしょう。改めてお礼申し上げます」
「まさかあの魔法がエール病に効くなんて考えも及びませんでした。ローレシア様のご慧眼には頭が下がる思いです」
「ご慧眼なんて、わたくしは何もしてませんし・・・それはそうと、聖属性魔法は2つとも習得いたしましたので、今日からは別の魔法を練習させていただきたいのです」
「別の魔法ですね、承知しました。それでどの属性がよろしいでしょうか」
(ねえ、ナツは何かご希望はございますか?)
(水属性だ! もう、絶対にこれしかない!)
(・・・み、水属性をそこまで熱望される理由がわかりませんが、承知いたしました)
「水属性に興味がございます」
「水属性だと以下のような魔法がございますが、よろしいですか」
・ウォーター・・・水を作る
・ブリザード・・・敵を氷結させる
・アイスジャベリン・・・氷の槍で敵を貫く
・ウォーターショット・・・水の塊を高速で射出する
・タイダルウェーブ・・・大量の水で敵をなぎ倒す
(よしいいぞ、あの魔法が使えそうだ)
(・・・? ナツには何かお考えがあるようですね)
「わかりました。ではこの魔法を習得いたしとう存じます」
「承知いたしました。それでは水属性魔法習得に向けて頑張りましょう」
次回、大人の身体に成長したアンリエットをなんとかする話です




