第45話 冒険者パーティー・アスター騎士団の結成
服の仕立てが終わって商人たちが引き上げて行く頃にはもう夕方近くになっていた。
侍女たちは再びメイド服に着替えると、食事の準備や屋敷の掃除にバタバタと動き始めた。一方で、身体の操作をローレシアから交代した俺は、特にやることもなく手持ちぶさただった。
「ねえアンリエット。ドレスの仕立てが終わったばかりで恐縮ですが、今から装備を整えに行きませんか。わたくしいつの間にか大聖女にさせられてしまいましたが、本来は最強を目指す勇者なのですよ」
「そういえばナツとお嬢様は勇者でジョブ登録をしたのだったな。大聖女が板についていて、すっかりそのことを忘れていた。ちょうどいいので、さっそく装備を整えて今日から夜の修行を復活しよう。夕食が終わったら久しぶりに冒険者ギルドに行くので、アルフレッドも一緒に来るといいだろう」
「僕も参加していいのかい、アンリエット」
「ああ。これからはこの3人がアスター騎士団なのだから、毎日の訓練もこの3人で行う」
「わかった。ありがとう、アンリエット騎士団長」
「それでは2人とも、夕食まで少し時間がございますので、街に出て装備を整えに行きましょう」
俺たち3人は、冒険者ギルドの近くにある武器屋街にやって来た。ここは武器、防具、ポーション類を取り扱う店が集まっていて、いくつかの店をはしごできるため、品ぞろえが実に豊富なのだ。俺はドレスには全く興味はないが、武器屋街なら一日中でもいられる気がする。
「それではアンリエット、まずは防具を見に行きましょう。わたくしアンリエットが着ていた鋼のよろいに憧れていたのですよ。騎士団で勇者となれば、やはり頑強な重装備がお約束ですよね」
「うーん、鋼のよろいか・・・。それはやめておこうナツ。我が騎士団は3名しかいないから、どちらかと言えば冒険者パーティーに近い。ならば全員が騎士になるよりは、役割分担を決めた方がいい」
「・・・なるほど、冒険者パーティーですか。では、どのような役割分担を考えているのですか」
「前衛は盾職1人に、攻撃役が1人。後衛は攻撃兼支援職1人だ。幸い3人とも魔力が強いので、魔法防御シールドによる防御を基本に考えて、盾職以外はなるべく軽装でスピード重視のスタイルにしたい。だからよろいを身にまとうのは盾職だけで、これはアルフレッドに任せる」
「分かった。僕はそれで構わないよ」
「その役割分担ならおそらくわたくしが後衛なのだと存じますが、どのような装備になるのでしょうか」
「ナツと私は2人とも魔剣士の装備を考えている」
「魔剣士っ! か、かっこいいですわね」
「ああ。なるべく軽装でスピードが活かせるような装備を購入しよう」
そしてアルフレッド王子とは一旦分かれてアンリエットと2人で防具屋を見て回ったのだが、アンリエットが選んだ装備を一緒に試着してみて、思わず首をかしげてしまった。
「これは・・・布の服ですよね。こんな装備で大丈夫なのでしょうか」
「我々はとにかく俊敏に動くために、装備の防御力はこの際切り捨てた。この布の服は軽業師やシーフ用の装備で、動きやすさに重点が置かれたものだ」
「軽業師やシーフ用ですか。なるほどそれはいい考えですね。ですが・・・」
俺とアンリエットは今、色違いのお揃いの装備を試着している。上半身はグレー系統の長袖のシャツで肩から胸元にかけて大きな三角の襟がついている。襟の色が俺は白でアンリエットは赤。女の子らしいかわいいデザインの服だ。そして両手は冒険者用の大きな革の手袋をつけている。そこまではいいのだが・・・、
「このスカートちょっと短すぎませんか? 少し動くだけで中が見えてしまいそうです」
「大丈夫だナツ。これはキュロットスカートだから、どんなに動いても下着は見えないようになっている」
「そうでしたか」
茶系のチェック柄のスカートの下は、いつもの白のニーソックと靴は冒険者用のしっかりとした革靴だ。鏡で自分の姿を確認するとアンリエットとお揃いの服に、胸にはいつものロザリオが光っていて、よりお嬢様っぽく仕上がっている。
うん、ローレシアはいつ見ても可愛いな。
さて次は武器だ。
アンリエットが選んだのは白銀に輝く細剣だった。刀身が細いためとても軽く取り回しが楽な反面、攻撃力は少し弱そうだ。
「この剣を選んだ理由はなんでしょうか」
「これはいわゆる魔剣で、使用者の魔力を吸い取って攻撃力に転嫁することが出来る。例えば私がこの剣を握ると火属性の魔力がこの剣に宿り、攻撃の際に火属性の追加効果が与えられる。ナツの場合はどの属性でも付与もできるから、相手の弱点属性を選べば通常の剣よりもはるかに攻撃力が増すはずだ」
「そ、それはすごいですね・・・。でもとても高価な武器ではないのですか」
「多少値は張るが今の我々に一番適している武器だ。買って損はないだろう」
「ちなみにおいくらでしょうか」
「1本1万ギルだ」
「1万! ・・・ちょっと高すぎませんか」
「そんなことはない。今日買ったドレスに比べれば安いものだ」
「・・・・確かにそうですね。はぁ、わたくし貴族の金銭感覚には当分ついて行けそうにありません。ところでこの武器に名前はあるのでしょうか」
「魔剣シルバーブレイド」
このあと、道具屋でマジックポーションや攻撃用のアイテムをいくつか購入していると、別行動だったアルフレッド王子が合流した。王子はいかにも「騎士」といった装備で身を固めていて実にかっこいい。
俺もこんなガーリーな装備ではなく、あんな男らしい装備がよかったな。
夕食を食べに一度屋敷に戻ると再び外出し、今度は冒険者ギルドにやってきた。
エール病騒動の前は毎晩のように来ていたなじみの場所だ。中に入るとすぐに飲み屋スペースになっていて、テーブルは冒険者たちでいっぱいだった。受付嬢のカウンターはその奥にあるのだが、いつもは適当に挨拶してすませる飲み屋の酔っ払いどもも、今日はいつもと様子が違って大騒ぎだ。
「おい、誰なんだあの美少女は。あんな冒険者ここにいたか?」
「いや俺は見たことがない・・・今日初めてこのギルドに来たんじゃないか? よし俺が案内してくるよ」
そう言って席から立ち上がろうとした冒険者を別の冒険者が制止した。
「いや待て! あの金髪の美少女・・・あれは大聖女ローラ様じゃないか」
「ろ、ローラ様だって?!」
「さすがに違うだろ。なんでローラ様がこんな時間に冒険者ギルドなんかに来るんだよ!」
「いや、あれだけの美少女は滅多にいない。それに隣の緑髪の美少女、ローラ様が街ごとエール病を浄化されていた時に傍にいたのを俺は覚えているぞ」
「・・・俺も見ていたが、あの2人の組み合わせは間違いない。確かにあれはローラ様だ」
そういえば以前の俺は修道服にベール、アンリエットは騎士装束で兜をつけていて、2人とも顔が隠れていた。酔っぱらいたちが混乱するのも無理はないか。俺たちはそんな彼らをそのまま無視して受付嬢のところに行くが、
「あ、あ、あ・・・」
受付嬢もパニックになっている。
「すまないが、また裏の闘技場を貸してほしい」
「ひ、ひ、ひ・・・」
「ひ?」
「あ、あなたたち、ひょっとしてアンとローラ!? 裏の闘技場で修道服を着ていつも激しいトレーニングをしていた子がまさか大聖女ローラ様だったなんて」
「実はそうなのだ。それと今日からはこの3人で毎晩訓練を行うことにしたので、以前と同様に裏の闘技場を使わせてほしい」
「わ、わかりました・・・。使い方はいつもの通りだから・・・」
受付嬢が呆然と俺たちを見送る後ろで、冒険者たちはさらに目を丸くして驚いていた。
「・・・あの甲冑娘と修道女の謎の二人組・アンとローラが、まさか大聖女ローラ様たちだったなんて!」
俺たち3人がギルド裏の闘技場に入ると、酔っ払い冒険者たちもギャラリーとしてゾロゾロとついてきた。だがアンリエットは特に気にすることなく淡々と訓練を始める。
「これよりアスター騎士団発足後初の訓練を行う! まずはナツ、いつものようにグロウをかけてくれ」
「え、今ここでグロウをかけるのですか?」
「そうだが、何か問題でもあるのか?」
「いつもは誰もいませんが、今日はたくさんのギャラリーが見ています」
「別に見られて困るようなものでもないし、構わないのでは?」
「そうですか? わたくしは恥ずかしいのですが」
「見た目が変わるものでもないし、何も恥ずかしいことはないだろう」
「・・・アンリエットがそれでいいのなら、別に構いません。わたくしはどうせ見た目が変わりませんし」
「何でナツの機嫌が悪くなるのかわからないが、早くかけてくれ」
「・・・承知いたしました」
【聖属性魔法・グロウ】
俺が長い呪文を唱えるとウィザーと同じように無駄にド派手な神の降臨エフェクトが始まり、そして3人の身体が虹色に輝きだした。グロウが発動したのだ。
このグロウは最盛期の肉体を一時的に得る魔法であり、俺たちはおそらく20代半ばぐらいの身体に成長しているんだと思う。前半はこの身体で訓練を行って、自分の持てる能力の限界に挑戦し、後半は元の身体に戻って先ほどの動きをトレイスするのだ。
変身の終わったアルフレッドは、筋肉がしっかりついてより精悍で男らしい身体つきになった。アルフレッドは随分と見た目が変わったが、このローレシアの身体はアルフレッドほどハッキリとした見た目の変化は見られない。
アンリエットはたぶんこのローレシアの身体の変化しか見ていないから、さっきのようなことを言うんだと思う。そして自分も甲冑を着ていたから気付かなかったと思うけど、俺は知っている。アンリエットの身体がハッキリとした変化を見せることを。
そして今日のアンリエットは俺とお揃いのガーリーなミニスカコーデ。もう、どうなっても知らないぞ。
さて魔法少女の変身シーンのような虹色の輝きが消えると、アンリエットの身体にはやはり大きな変化があった。
17歳の身体でもわりと大きかった胸が、20代半ばぐらいまで成長することでよりボリュームが増えている。可愛いデザインの服に不釣り合いなその胸は、シャツを押し広げるように隆起してなんかエロい。
上半身ばかりではない。チェック柄のミニスカートと純白のニーソの隙間の絶対領域がムチムチ過ぎて、酔っぱらい冒険者の視線を釘付けにしていた。
だがアンリエットはそんな自分の姿に気付く様子もなく、俺と王子相手に模擬剣をひたすらに打ち込んでくる。そのたびに胸が大きく揺れるのだが、王子もやはり男の子で、俺同様に目線のやり場に困ってしまい、その隙をアンリエットに打ち込まれて、激しく叱責されるというシーンが目立っていた。
だが王子、お前の気持ちは痛いほどよくわかるぞ!
次回、アンリエットの胸の内
ご期待ください




