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第42話 フィメール王国の衝撃②(キュベリー公爵の失敗、国王の後悔と決断)

 キュベリー公爵は王宮から帰宅すると、早々に自分の執務室に一人こもってしまった。


「今回ばかりは失敗したな。ローレシアが生きていたのは良かったが、ソーサルーラの貴族になってしまったため・・・おいそれとは手が出せなくなった」


 ため息を一つつくと、公爵は拳で思い切り机を叩いた。


「本当はローレシアをワシの妾にして、第3王子にはワシの娘をあてがってこの王国で権勢をふるうという一石二鳥の策だったのに、なぜこうなってしまった。そもそもワシがローレシアを誘拐するより先に、修道院に暗殺者を送り込んだヤツ。そいつのせいでワシの作戦が台無しだ!」


 公爵がイラつきながら窓の外を眺めていると、執務室の扉をノックをする者がいた。


「誰だ! ワシは今忙しい」


「マーガレットです、お父様。中に入れてくださいませ」


「おお、マーガレットか。部屋に入ってきていいぞ」


「失礼致します」


 キュベリー公爵の娘にして、今や第3王子エリオットの婚約者であるマーガレットが、軽く会釈をして執務室に入ってくると、部屋の中央にあるソファーに腰かけた。


「お父様、あの子がソーサルーラの大聖女になったって聞いたのですが、そんな話デタラメですよね。だってあの子は暗殺されたって、お父様がおっしゃってましたし」


「いや本当のことだ。外交ルートで確認したので間違いない」


「そんなバカなこと! そのローレシアが本当に本人だという証拠はあるのですか?」


「ある。これは公式には発表されていないが、先日のローレシアの叙爵式に第4王子アルフレッドが参列していたのを外交官が確認している。あの王子はローレシアにご執心だったから、どこからか情報を嗅ぎ付けて、密かにソーサルーラ入りしていたのだろう」


「アルフレッド王子ですってっ!」


 ギリッ・・・


 マーガレットは悔しそうに顔を歪める。


「どうしてあの子ばっかりが・・・」


「なんだお前、まだローレシアに嫉妬しているのか」


「お父様には関係ないでしょ!」


「だがお前はあのローレシアから第3王子を奪って、彼の婚約者になったんだ。お前は勝ったんだ。だからローレシアなんかもう関係ないじゃないか」


「エリオット王子はまだローレシアに未練があるの。彼がたまに言うのよ。ローレシアみたいな清純な女は滅多にいない、ああいう女をものにするのが男の夢だって。私というものがありながら、ひどいでしょ」


「そうだな。こんな可愛いマーガレットを差し置いてけしからんヤツだなエリオットは。ところでお前は何かワシに相談があってここに来たのではないのか」


「お父様。あの子が生きているのなら、殺して来てほしいの。お父様なら簡単にできるでしょ」


「殺すって・・・バカなことを言うなマーガレット。ローレシアはもうソーサルーラの貴族なのだ。彼の国の国王も明言したとおり、ローレシアに手を出せば、確実に外交問題になる!」


「だったらこっそり暗殺すればいいじゃない、修道院の時みたいに」


「・・・マーガレットもワシが修道院でローレシアを暗殺したと思っているのか?」


「だってそうなのでしょう。あの子を罠にかけて失脚させたのはお父様なんだから、修道院に行ったあの子に何かしかけない方が不自然じゃない」


「・・・さすがキュベリー家の女、勘がいいな。だがワシは暗殺者など送り込んでおらんし、今ローレシアに手を出すことは許さん。・・・機会を待つんだマーガレット」






 王宮には王妃の住む正殿の他に、側室たちが部屋を与えられている西殿がある。今この西殿では国王とその側室の一人が人払いをして、二人だけで午後のひとときを過ごしていた。


「アルフレッドは元気にやっているようだな」


「ええ、あの子がローレシアのことを慕っていたのは存じておりましたが、まさか彼女を追いかけてソーサルーラまでついて行くなんてね」


「しかし、ソーサルーラがローレシアをいきなり侯爵にしてしまったのには驚いたが、アルフレッドが外交官に手渡した密書の中身を見て納得したよ。あいつ、ローレシアとともに救護キャンプで患者の治療をやってたんだな」


「フフフ、一国の王子なのにあの子は何をしているんでしょうね。でもローレシアの持つ8属性の魔力とエール病克服の業績。ローレシアを得たことで魔法王国ソーサルーラは、近隣諸国より一歩抜きん出た存在になったわけですね」


「ああ、全くもってしてやられたよ。・・・しかしこんなことなら、ローレシアは最初からアルフレッドの婚約者にしておくべきだったな。エリオットなんかにあてがってしまったのが痛恨の極みだ」


「でもあなたはどうしてローレシアをエリオットの婚約者にしてしまったのですか?」


「キュベリーのヤツがこの王国でのさばりすぎなので、ヤツを牽制するために古くからの名門貴族であるアスター家を利用しようとしたのだ。だがあの家門がこれほど力を失っていたとは、そこを見誤ってしまったようだ」


「アスター家は年々力を失っていますが、特に現当主のハワードになってからは、その凋落が著しいと聞きます。家門の命運がローレシア一人の肩に重くのし掛かっている時点で、わたくしたちがその事実に気づくべきでしたね」


「全くもってお前の言うとおりだよ」


「だとすれば、今のアスター家にはもはや侯爵家としての資格はございません。ローレシアはソーサルーラの侯爵位を得たようですし、今はあちらのアスター家こそがご本家ではごさいませんか」


「ああ。アルフレッドの話によればローレシアは莫大な魔力を有する全属性適合の勇者、そして聖女のジョブ特性まで得て聖属性魔法を行使することも可能。まさに国の宝だよ。それをアスター侯爵・・・ハワードのバカは愚かにも自分の娘を追放してしまったのだ」


「それにローレシアはエール病の治療法まで発見して、衆人を前にして全ての患者を全快にして見せたそうですね。彼女は今や各国の注目を一身に浴びる金の卵。それをエリオット王子の愚かな所業と、それをそそのかしたキュベリー公爵のせいで、わたくしたちは全て失ってしまった」


「そうだな。私は今回のことでつくづく思い知らされた。我が国にキュベリー公爵は不要だ。私はあの一族を排除するとともに、第1王子と第3王子を廃嫡させて第4王子を王太子に据えたい」


「あなた! やっとアルフレッドを。でもそうすると第2王子は・・・」


「アイツには申し訳ないことをしたと思っているが、今のアイツの立場で王位を継がせるのは無理だ。アルフレッドの件は第2王子との兼ね合いもあるが、最大の問題は第1王子と第3王子の母親である現王妃とその兄であるキュベリー公爵の手の者がこの王宮には多すぎることだ。いいか、機会を待つんだ」


「はい、国王様」


「・・・そしてアルフレッドが頑張って、ローレシアが嫁として我が王国に帰ってきてくれることを願いたい。もしそれが叶えられれば、今度こそ我が王国は全力でローレシアを守りぬく」

次回、ローレシアたちの邸宅の内部紹介


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