第40話 大聖女ローレシア・アスター侯爵に栄光あれ
ランドルフ王子との会談を終えた俺達は一度修道院へ戻った。修道女たちの今後の身の振り方を神父さんと話し合う必要があったからだ。
神父さんに会談の結果を伝えると、突然の話に驚きながらも彼女たちの貴族社会復帰を喜んだくれた。
だが魔力持ちの修道女が一度に全員いなくなると、街の住人たちの怪我や病気を診れなくなるため、当分の間は修道院の手伝いをしてもらえないか、神父さんからお願いがあった。
「そのことなのですが、実は王国から頂くことになる報奨金の一部を使って、この修道院の隣に病院を作ることになりました」
「病院・・・救護所のようなものでしょうか?」
「はい。病院は病気や怪我を治療する場所のことで、これまで修道院が慈善活動として行っていたものを、今後は王国の事業として行うことになりました。貧しい者は無料で、裕福な者は有料で病気や怪我の治療が受けられる専門の施設で、ここにわたくしたちが交代で勤務することになったのです」
「そんなものができるのですか・・・・素晴らしい。ではこの修道院に治療に来た人たちは、その病院とやらに行ってもらえばいいのですね」
「そのとおりです。街の住人はいつも通りに修道院に行けば結果的に治療を受けられますし、修道院は治療を行わずに隣を紹介するだけでいいですし、私たちはわざわざ病院の宣伝をしなくても住人にいつも通りの医療を提供できます」
「それはすごい。では、みなさんは引き続きこの修道院に住まわれるのですか」
「いいえ。王家がわたくしたちの新居を中心街に用意してくれることになりました。そこから通います」
「するとローラ様のご新居に、彼女たち全員が住むことになると」
「はい。みなさまにはわたくしの侍女として同居していただきます。そして病院や侍女の仕事をこなしながら、貴族の配偶者を探すことになりました」
実は、修道女たちが得た爵位は一代限りのもので、自分の子供には爵位を引き継げない。だから貴族の結婚相手を見つけて、幸せに暮らしなさいということらしい。ちなみに一代限りの爵位というのは、前世のイギリスなんかが著名人に授与しているのをニュースで見た記憶があるな。
神父さんとの話し合いも終わり、彼女たちは全員晴れて修道女からローレシアの侍女となった。そこで改めて自己紹介が行われた。
実は、これまで救護キャンプがあまりに忙しかったのと、常にベールをかぶったままマスクまでしていたので、顔と名前が一致していない人もいて、ともに働いてきたはずの彼女たちのことを、よく知らなかったのだ。
なお今回の15名の中で元貴族だったのは12名、うち3名が既婚者、9名が未婚者。残り3名は修道院で育てられた孤児で、たまたま魔力を持っていたため救護キャンプで働いていた。
12名は名誉回復のために貴族に復帰するが、この3人は回復すべき名誉も復帰すべき家門もない。だがこの3人だけを差別する訳にもいかなかったため、一緒に貴族社会への参加が認められることになった。
まず彼女たちの中で最年長はマリア・ローゼス一代男爵(28)で、ローレシアの侍女長に就任した。彼女はもう結婚はこりごりだそうで、ローレシアの侍女として一生を過ごしたいらしい。彼女に一体何があったんだろうか。
あとの2人の既婚者はノーラ・マックス(25)、エレノア・レイモンド(21)。ともに一代男爵だ。
一応、マリア以外のみんなは貴族の配偶者を探すことになったが、当分はローレシアの侍女や病院の仕事に専念したいということで、積極的には動かないそうだ。
次に未婚の令嬢のうち同年代の4名は、一緒に魔法アカデミーで勉強することになった。その中の一人、エミリー・ガーランド一代騎士爵(17)はローレシアと同年齢で水属性クラスへの編入が決まった。この子はキャンプ地で水を作る担当をしていて、ローレシアとお風呂に一緒に入ったあの巨乳の子だ。他には、
風属性クラスのナンシー・バロット(18)
土属性クラスのジェレミア・ポートレート(16)
雷属性クラスのカトレア・ブルボン(17)
カトレアはエール病にり患していて、あの治療方法の最初の被験者になってくれた子だった。
アンナ・マーブル(23)
キャシー・リンドン(20)
ケイト・バークレイズ(19)
この3人はエレノアとともにアカデミーの上の研究科に編入する。
シェリー・アップル(15)
スージー・アップル(15)
この双子の姉妹はアカデミーに来年入学予定だ。
なお、未婚の9名は一代騎士爵という爵位になる。
最後に、孤児から貴族に上がることになった3人はみんなまだ幼い。実は魔力持ちの孤児は早くから貴族の妾としてもらわれていくため、修道院には15歳以上の子はいないのだそうだ。
さてその3人を貴族にするために、ローレシアが引き取って戸籍上は義妹として扱われることになる。
サラ(14)、ニア(12)、ミル(9)だ。
「「「ローレシア義姉様よろしくお願いします」」」
「でもまさかローレシア様が、あのローレシア・アスター侯爵令嬢だとは思いませんでした」
「マリアはどうしてわたくしのことをご存じなのですか?」
「ローレシア様のお噂は私の国にも流れてきておりました。大変お美しい姫様であると。でもまさか王族から婚約破棄されて暗殺まで企てられるなんてっ! 私、絶対に許せません。フィメール王国めっ!」
「ま、まあ、そんなに怒らなくても・・・それにそのフィメール王国の王子もここにいらっしゃいますし」
「そうそう、私本当にビックリしました。ランドルフ王子とため口をきいている時は、「アルお願いやめて」って心の中で叫んでましたが、まさかそのアルがフィメール王国の第4王子なんて!」
「驚かせてすまなかったなエミリー。そしてみんな。だが今はローレシアの騎士だ。みんなとは同じ立場だから引き続きよろしく頼む」
「きゃーっ! 王子がローレシア様の騎士だなんて、素敵です!」
エミリーたちがアルフレッド王子に群がってキャーキャーもてはやしていたが、それが少し面白くなかったアンリエットが、
「エミリー、私もローレシアお嬢様の騎士なのだが」
「それはなんとなく感じてました。アンリエット様って、修道女の姿でいる時も女騎士って雰囲気がして、この人一体何者感が出てました。とてもカッコいいと思いますよ」
「そ、そうか? だが私は騎士ではあるがローレシアお嬢様の侍女でもあるのだ。だが、みんなも侍女になってしまい、私の仕事がなくなってしまった」
アンリエットがどこか寂しそうにつぶやくが、ローレシアはすぐにフォローをする。
「アンリエットには引き続き侍女兼護衛騎士をやってもらうつもりですので、安心してください。それよりも、あなたはどうしてここの爵位を受けたのですか? ブライト男爵家から離縁された訳でもないし、一代騎士爵などあなたには必要ないではありませんか」
「私はお嬢様にお仕えする身ですので、お嬢様が魔法王国ソーサルーラの貴族になられるのであれば、私も同じ貴族であるべきなのです」
「そ、そうですか・・・」
「・・・あの~、それでお嬢様にご相談なのですが、侍女としての役割が減ってしまいましたので、その分何か別の仕事を頂けないかと・・・」
「アンリエットに別の仕事ですか。うーん、そうですね・・・では新・アスター家の騎士団長というのはどうでしょうか」
「き、騎士団長っ! そ、そ、そんな大役をいきなり頂けるなんて」
「団員は王子とナツの2人しかいませんが・・・」
「充分ですっ! つ、謹んで拝命いたしますっ!」
「アンリエットにはお世話になってばかりですけど、これからもよろしくお願いいたしますね」
「はっ!」
数日後、王宮謁見の間において、ローレシアたちの叙爵式が盛大に行われた。
大勢の貴族たちや各国の外交官が見守る中、色とりどりのドレスに身を包んだ元修道女達が一人ずつ名前を呼ばれて、国王から爵位を授与されていく。
そして最後に名前を呼ばれたのがローレシアだ。
純白のドレスに身を包んだローレシアが前に進むと貴族たちの間にどよめきと感嘆の声が走った。
「これがあのローレシア・アスター侯爵令嬢か。なんと美しい」
「エール病を完治させた大聖女との噂だったが、その名に恥じずなんという清らかさだ」
「まだほんの少女なのに、これだけの貢献を」
そして国王の前で立ち止まると、スカートをつまんでそっと膝をつき、臣下の礼をとった。
国王はそれを見てニッコリと微笑むと、謁見の間に参列した貴族たちの前で、今回のエール病流行の経緯とそれを制圧したローレシアの貢献を最大限に褒め称えた。そして、
「ここにいるローレシア・アスターに、魔法王国ソーサルーラにおける「大聖女」の地位を授与するとともに、侯爵に叙するものとする。我が王国はローレシア・アスターの貢献を高く評価し相応に遇するものであるが、近隣諸国におかれてはそのことをよく理解されたく、仮に彼女を害する事があれば、我が王国は相応の報復を行う用意があることを、ここに明言する」
国王による異例の警告に各国外交官は肝を冷やす。そしてそれを見た国王がニヤリと笑うと、謁見の間全体に届くように、高らかに宣言した。
「今この魔法王国ソーサルーラに新たな貴族が誕生した。大聖女ローレシア・アスター侯爵に栄光あれ!」
「「「栄光あれ!」」」
そして謁見の間に参列した貴族たちは一斉に膝をつき、新たな高位貴族の誕生を祝福した。
次回は、フィメール王国の衝撃です
ご期待ください




