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第38話 わたくし大聖女ではごさいませんのに

 騎士団に連れられて街の救護所に向かうローレシア一行。救護所は3ヶ所あり、最初に向かうのは患者数も多く比較的重症の患者がいるところだ。


 場所は人がほとんど住んでいない倉庫街の片隅で、修道院のある下町から北東へと進む。


 何十名という修道女や修道士の集団が騎士団に先導されて歩いていく姿に、ネズミを追いかけ回していた街の住人たちは、その手を止めて、いよいよエール病が深刻さを増してきたのではないかと、不安そうな表情を覗かせる。


 そんな住民たちに見つめられながら、やがて俺たちは救護所に到着した。





 救護所は古い倉庫を利用しただけの殺風景な所で、そのだだっ広い内部には、騎士団の団員らしき白魔導師や王家に雇われた祈祷師やら薬師たちが床に寝かされた患者たちの治療を行っていた。その中に、


「ローラさん、魔法アカデミーの生徒たちがいます」


 アンリエットが目ざとく見つけたのは、救護所の奥にいる白のマントを身につけた学生の集団だった。


「アン、あれは確か光属性クラスの生徒たちね」


「おそらく祈祷師や薬師たちと同様、王家からの要請に応えたアカデミーが、生徒を募ってここに派遣しているのだと思います」


「彼らと話をしてみましょう」


 そう言うとローレシアは頭のベールを外して、生徒たちに話しかけた。


「みなさまは光属性クラスの生徒ですよね。わたくしは闇属性クラ」


「ああっ、ローラさんだっ!」


「ローラちゃんが俺たちに話しかけてくれた!」


「ええっ? みなさまクラスが違うのに、わたくしのことを御存じなのですか?」


「当たり前じゃん。だってローラちゃんは有名人だから、アカデミーに知らない人なんていないよ」


「わたくしが有名人ですって?」


「それはそうだよ。あの陰キャばかりの闇属性クラスに突然転校してきた謎の美少女で、超イケメンのアルと美少女剣士アンを子分にしている大富豪のお嬢様だって、みんな噂しているよ」


「そ、そんな話になっていたなんて・・・」


「それに、聞いたよローラちゃん!」


「な、何をお聞きになられたのでしょうか・・・」


「昨日の夜に闇属性と火属性クラスの奴らが興奮して話してたんだけど、ローラちゃんが外の救護キャンプで大聖女をしてて、そこでエール病を治しちゃったんだって? 本当なの、それ」


「わたくし大聖女ではございませんが、もうその話をお聞きになられたのですね。実は本日こちらにお邪魔したのは、わたくしたちがエール病の治療を行うためでございます」


「やっぱり! ローラちゃんが今日ここに来るかもって、そいつらが話してたんだ」


「みんなももうすぐここに来ると思うよ」




 昨日の話は既にアカデミーの生徒たちには伝わっていたようで、光属性クラスの生徒たちは顔を綻ばせながら救護所全体に向けて声をあげた。


「みんな聞いて! ここにいるローラさんが、エール病を治してくださるそうよ。みんな助かるのよ!」


「エール病を治す・・・それは本当か」


「この修道女たちが病気を治してくれるのか」


 光属性クラスの生徒たちが救護所中に触れ回ったため、救護所の雰囲気が途端にざわつき始めた。


 治るためなら藁をも掴みたい患者と、疑わしい物を見るような目の祈祷師や薬師たち、神のご加護が本当か早く確認したい神父さんや修道士たち、治療の実態を王家に報告しなければならない騎士団。


 それぞれの立場、思惑、興味が交錯し、全ての視線がローレシアに集中する。


「それでは修道女のみなさま、昨日と同じ手順でこれからエール病の治療を開始致します。光属性クラスのみなさまも、わたくしの指示に従って参加願います」


「「「承知しました、大聖女様っ!」」」


「いいぜ、ローラちゃん」「はい、ローラさんっ!」







 そしてローレシアたちによる治療が終わり、全ての患者が完治した。その救護所の中は、今まさに興奮のるつぼと化している。


 回復した患者たちは喜びにうち震え、祈祷師や薬師たちは自分たちの常識が否定されたことに愕然とし、神父さんたちは神のご加護を実際に目にした感動で身動きをとることができず、騎士団の隊長は詳細を報告するために王宮へ向けて急ぎ馬を飛ばした。


 遅れてやってきた闇属性や火属性クラスの生徒たちもいつの間にか合流し、光属性クラスの生徒たちと、救護所の中をはしゃぎ回っている。


 そしてローレシアとともに治療にあたった修道女たちが、


「どう神父さま、ローラ様は本当に神のご加護を賜っていたでしょう」


「ああ・・・ああ、確かにこれは本物の神のご加護。ローラは・・・いやローラ様は正真正銘、神に愛された本物の大聖女様だ。おお神よ!」


 両手を組んで、空に向かって神に祈りを捧げ始めた神父さんを見たローレシアは慌てて、


「ち、違います神父さま。あれは神のご加護ではなくウィザーというただの聖属性魔法なんです。発動時にハデな光が出るだけで神様とは関係ございません」


「ただの聖属性魔法・・・」


「はい、農家御用達の雑草処理用魔法で、決して神のご加護みたいな大袈裟なものではないし、わたくしも大聖女なんかではないのです」


「す、す、素晴らしいっ! やはりローラ様は本物の大聖女だったのだ!」


「えぇぇ・・・? ど、どうしてそのような結論になるのでしょうか」


「聖属性魔法はこの世で聖女にしか使えない魔法だ。それを使えるローラ様は聖女以外の何者でもないし、その聖女であってもあのエール病を完治させたなんて聞いたことがない。これぞまさに神の所業。ローラ様は全く大聖女に相応しい働きをなされたのです」


「そんな大袈裟な・・・」


 神父さんのあまりの興奮ぶりにローレシアは戸惑ってオロオロするばかりだったが、神父さんの話を聞いた患者たちは、ローレシアの周りを取り囲んで頭を床に擦り付けながら「ローラ様~」と一心不乱に拝み始めた。


 救護所を回る度に、この大惨事が発生するのか。





 だがそんなことを言ってられる訳もなく、俺たちはそのあとも他の救護所を回って患者を治療した。それが終わると今度は病人が多く出ている地域に出向いては、ウィザーを広域に照射してエリアごと消毒して周った。


 そして城下町のエール病が全て一掃されるころにはローレシアはすっかり街の有名人になっていた。


 それまでの間、神父さんの勧めでずっと修道院に滞在していた俺たちだったが、エール病が街から撲滅したため、とうとうここを離れて魔法アカデミーの寮に帰る日がやってきた。


「ローラ様~、またいつでも修道院に遊びに来てね」


「アンもアルも、今までありがとうね~」


「ローラ様、寂しいよー」


 修道女たちと別れの言葉を交わしていると、騎士団が馬を走らせてこちらに向かって来た。あの隊長だ。


「ローラ、アン、アル。そして今から読み上げる修道女は直ちに王宮に出頭せよ! ランドルフ王子がお呼びだ」

次回、ランドルフ王子との会談です


ご期待ください

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