表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/200

第36話 大聖女ローラ様

 さて、いよいよ患者への治療を開始する。修道女はローレシアを含め総勢18名、魔法アカデミーの生徒が今日は15名、魔法は使えないが患者の世話をしてくれる修道女が10名の計43名が戦力の全てだ。


「今から手順と役割を説明いたします」



1、男子が患者をテント外の空き地に円形に並べる


2、ウィザー発動後、修道女がキュアをかける


3、アカデミーの生徒がヒールをかける


4、手伝いの修道女がお粥や消化のよい食べ物を用意




「以上ですが、何か質問はございますか」


「はい! ローラちゃん、ウィザーって何ですか?」


「エール病を治療する魔法でございます」


「えぇぇっ! そんな魔法あったのかよ!」


「はい。これから使いますので、その時にぜひご覧くださいませ」


「すげーっ!」


「他に質問がなければ、これから作戦開始です。男子は患者を運ぶの頑張ってくださいね」


「うおーっし。俺たちの頑張りを見ててくれ、ローラちゃん!」


「はい、期待してます」





 まずは第1行程。


 アルフレッド王子を含むアカデミーの男子生徒たちが患者をテントの外に運び出していく。身体を鍛えているアンリエットや俺もそれに加わった。


 最初に運び出したのは重症患者20名。


 かなり危険な状態なので慎重に運び出し、外の日陰になっている場所に順番に寝かせていく。ウィザーの効果が全員にキチンと届くように、縦横の間隔を揃えて全体が円の中に入るようにする。




 患者を並べ終わるとつぎは第2行程だ。


 俺は左手をロザリオに当て、右手を前につきだして呪文を唱える。長い呪文の果てに、患者たちの頭上には巨大な魔方陣が浮かび上がった。


 そして、



 【ウィザー】



 魔法名を叫ぶと空中の魔方陣が輝きだし、いつものド派手なエフェクトがスタートする。まるで神が降臨してくるのではと勘違いしそうな神々しい光が、惜しげもなく空から降り注いで患者一人一人を優しく照らしていく。天使が空から舞い降りて来たような幻覚が見えてきそうだ。


 そんな神のごとき光が、患者の体内に巣くっている病原菌を根こそぎ死滅させていく。決して患者たちが天に召されていくのではない、とだけ言っておこう。




 そしてこの光景を見た修道女やクラスメイト達は、ある者はあまりの神秘的な光景に度肝を抜かし、ある者は口を大きく開けて呆然とその様子を見ていた。


 そして「はっ」と我にかえると、


「な、な、な、なんだこの神々しい光は!」


「神様だ! 天から神様が降臨されたんだわ」


「これってひょっとして、私たちがずっと待ち望んでいた「神のご加護」じゃないの! ローラ様が直接神様からご加護を賜ったのよ。間違いないわっ!」


「ああ・・・ローラ様。素敵・・・」


「さすが俺らのローラちゃん、まじパネェ・・・」




 まあ、このド派手エフェクトを初めて見ると、誰でもそういう反応になるよな。でもこの魔法が本当は、雑草処理に使う農民御用達魔法だってことは、今は黙っていよう。変にガッカリさせると気の毒だからな。


 そんなことよりも治療を進めよう。


「さあ修道女のみなさま、この患者たちにキュアをかけてあげましょう。重症患者ですので回復させるのに大量の魔力が必要です。各担当の患者に入念に魔法をかけてくださいませ」


 修道女1人に重症患者1人を担当させるが、3人分足りないのでそこは俺が面倒を見る。



 【キュア】



 強力な魔力で3人まとめてキュアをかける。前につき出した右手の先には、どの修道女よりも一際大きな魔方陣が出現し、大量の光のオーラが溢れ出て3人の患者を優しく包み込んでいった。


「ちょっと待て・・・おいみんな、今のを見たか! ローラちゃんが魔術具を使わずに、普通にキュアを使ったぞ!」


「え、うそ・・・闇属性クラスのローラ様が、なんで光属性魔法を使えるのよ!」


「それはどういうことですか、アカデミーの皆さま。ローラ様が闇属性クラスって本当のことですか?」


「え? 修道女さんたちは知らなかったのですか? ローラ様は私たちと同じ闇属性クラスなんですよ」


「そんなはずは。だってローラ様はこの救護キャンプでただ一人の光属性の保有者なのよ」


「え?!・・・ということは、ローラ様って光属性と闇属性の両方を持っているってことよね」


「それってつまり・・・」



「「「ローラ様は聖女だ!!」」」



 あっ、そう言えばみんなにはまだ聖女のジョブ適性があることも、それどころか全属性持ちの勇者として冒険者ギルドに登録してあることも言ってなかったっけ。これは後で大騒ぎになるかもな。


 だが今は治療が最優先だ。




「修道女のみなさまお疲れさまでした。それでは次に第3行程に入ります。今度はアカデミーのみなさま、全力でヒールをお願いします。重症患者は体力の消耗が激しいので、最初から全力で行きましょう」


「おう、任せとけって!」


「やっと私たちの出番ね。頑張るから見ててね、ローラ様」


「はい、よろしくお願いいたします。でもわたくしもヒールをかけますので皆様一緒に頑張りましょうね」


「え、ローラちゃんも俺たちと一緒にヒールをやってくれるの?」


「やったあ、じゃあ一緒にやりましょうローラ様っ」


「それでは皆様、全力でお願いします。せーのっ」



 【【【 ヒール! 】】】



 アカデミーの生徒たちと一緒に放った全力のヒールは、多数出現した魔方陣から溢れ出した光のオーラとして混ざりあい、渾然一体となって重症患者たちを癒しの光で包み込んだ。そして死の淵に立たされていた患者たち全員に、再びこの世界で生きていけるだけの活力を与えることに成功した。





 やがて次々と目を覚まし始めた患者たちは、自分がエール病から救われたことを自覚する。


「おお・・・病気が治っている」


「まさか・・・もう完全に諦めていたのに」


「治った。俺は治ったんだ!」


「奇跡だ! おお神よ!」


「しかし、どうして急に病気が治ったんだ。誰がこの病気を治してくれたんだ」



 戸惑いと喜びが入り混じる患者たちを前に、修道女やアカデミーの生徒たちは誇らしげに口を揃えてこう言った。


「病気を治してくれたのは、ここにいるローラ様よ」



 すると、


「・・・この修道女が俺たちを治してくれたのか」


「おお・・・ローラ様」


「あ、ありがとうございます、ローラ様」


 みんな口々に「ローラ様、ローラ様」と呼び、俺に握手を求めたり、足元に跪いて拝み出し始めた。かなり居心地が悪いので、治療の第4行程に進めることにした。




「みなさまは深刻な症状から回復したばかりなので、急に動き回ってはいけません。それにお腹が弱っていますので、消化のいいおかゆをご用意致しました。こちらのテントでゆっくりとお召し上がりください」


 テントの方を見ると、中では修道女たちができたての暖かいおかゆや療養食をてきぱきと用意していた。そして残りのみんなで患者たちを支えると、料理の待つテントへと連れて行った。


 そこで久しぶりの食事をとった患者たちは、


「ああ、なんてうまい」


「まさか病気が回復して、また食事が楽しめるようになるなんて」


「これもみなローラ様のおかげだ」


 患者たちはおかゆを食べながら、再び食事のできるありがたさをじっくりと噛みしめていた。


「さあ皆様、患者はまだたくさんいらっしゃいます。次は一番人数の多い中程度の患者です。最後まで頑張りましょう」


「「「はいっ! ローラ様!」」」





 それから中程度の患者を2グループに分けて治療した後、最後に初期の患者30名をまとめて治療する。


 食事を終えて出てきた元患者たちは、修道女やアカデミーの生徒たちがポーション片手に、魔法を撃ちまくって治療している光景に面食らった。


 だが最も衝撃を受けていたのはやはり、聖属性魔法ウィザー発動のシーンだった。


 この魔法を見た元患者たちは、ある者は神の降臨を期待し、ある者は神の奇跡に驚愕し、ある者は神の神秘に恐れおののいた。


 そして全ての患者の治療が完了した瞬間、元患者も修道女たちも、クラスメイトたちまでもが、キラキラとした瞳で声を揃えてこう言った。


「お疲れさまでした、大聖女ローラ様!」

少しシリアスな展開が続いたので、

次回はユルい感じの回にしようかなと思います


ご期待ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ