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第35話 エール病の治療法

 俺はローレシアと身体の操作を入れ替わると、アンリエットとアルフレッド王子を急がせて、キャンプ地に駆け込んだ。


「どうしたんだナツ。そんなに急いでキャンプ地に戻って来て、一体何をする気なんだ」


「アンリエットとアルフレッド王子、どこか空いているテントに治療中の修道女4人を運んで頂けますか」


「それはいいけど何をする気なんだ」


「魔法を使って少し試してみたいことがございます。ただうまく説明できる自信がございませんので、お二人には実際に魔法の効果を見て頂きとう存じます」


「よくわからないが、4人を運べばいいんだな」


「王子、よろしくお願いいたします」






 そしてテントには、4人の修道女が運び込まれた。苦しそうに呻いている彼女たちに俺は、これからいつもと違う治療法を試すことを伝えた。


 実験なので何も効果がないかもしれないし、危なくなったらすぐに実験を中止する。そんな治療だけど受けるかどうかの判断を求めると、4人とも治療を試してほしいと苦しそうにしながらも頷いてくれた。




 実はさっきローレシアが使ったアンチヒールを見て少し気がついた事があった。


 アンチヒールは動物でも植物でも、とにかく生きているものから体力を奪う魔法だ。逆にヒールは動物と植物に体力を与える魔法ということになる。


 そしてウィザーだが、この魔法は動物には何の効果もないが植物は枯らしてしまう。つまり植物の命を奪う魔法だ。ただ動物と植物以外の生き物についての効果は不明。


 次に病気の原因として考えられものを挙げていく。主なものは①病原菌、②ウイルス、③原虫、④その他の毒素の4つと聞いたことがある。


 今からやるのはアンチヒールとウィザーを使って、この病気を治せないか試すことだが、病気の原因がもし②か④なら生き物ではないので、治療効果は全く得られないだろう。


 だがエール病の原因がもし①か③なら、治療できる可能性があると俺は考えた。




 ①病原菌は細菌であり植物とは異なるが、動物からはかなり離れた系統の生き物であり、仮にウィザーが「動物以外を殺す魔法」であれば、ひょっとしたら効果があるかもしれない。


 ③原虫は動物だ。だからウィザーは効かないが、体力は人間よりも遥かに小さいので、アンチヒールをうまくコントロールすれば、原虫だけを殺す事が可能かもしれない。


 アンチヒールを使えば①病原菌も殺せるかも知れないが、③原虫と違って患者の体内に潜んでいる数が天文学的に多すぎて、病原菌を死滅させる前に患者の体力が持たない可能性も考えられる。


 コントロールがかなり難しそうなので、この実験は一番最後にしたい。


 だから今回はまず最初にウィザーを試し、効果がなければアンチヒールを少しずつ強くして、様子を見ていこうという作戦だ。





「それでは最初に聖属性魔法ウィザーを使った治療法の実験を行います」


「ちょっと待てナツ! ウィザーってあの雑草を枯らす魔法だろ。そんな魔法でエール病が治るわけない。バカな事はやめるんだ」


「バカな事ではございませんよ、アンリエット。うまく説明はできませんが、根拠があって行う実験です。大人しく見ていてくださいませ」


「しかし患者が修道女だからって、何をしてもいいというわけではない」


「いや、アンリエット。君の気持ちも分かるが、僕はナツを信じるよ」


「アルフレッド王子・・・」


「ナツはこれまでも真剣に患者と向き合ってきた。病気を直そうと必死な姿を僕たちは何度も見てきたじゃないか。きっとナツには僕たちには想像もできないような真実が見えているんだ。ナツを信じるんだ、アンリエット」


「・・・アルフレッド、貴様に言われるのは癪に障るが、私が間違っていたようだ。すまなかったなナツ、私もお前の事を信じるよ。・・・ウィザーを使った治療、成功するといいな」


「ありがとう・・・アンリエット。それからわたくしを信頼していただいて感謝いたします、アルフレッド王子」


「僕がナツを信じるのは当たり前のことだ。さあ時間がもったいない。早くやってみよう、ナツ!」


「はい!」





 俺は魔力をギリギリまで抑えて、修道女一人分をようやくカバーするだけの、とても小さな魔方陣を患者の頭上に出現させた。そして長い詠唱が終わると、その魔方陣が輝き出した。



 【ウィザー】



 魔法名を唱えると、聖属性魔法特有の無駄にド派手なエフェクトが始まった。まるで天から神が降臨するかのような神々しい光が、被験者の修道女の上に惜しみ無く降り注いだ。


 まるで今からこの子が神に召されてしまうような、ちょっと縁起でもないエフェクトだったが、そんな光もすぐに消えてしまった。


(ナツ、あっという間に終わってしまいましたね。ひょっとして、体内に枯らす対象がなかったから、魔法が消えてしまったのでしょうか)


(そうかもしれないが、これはあくまで実験だ。これから魔法の効果の有無を調べてみるぞ)





 ウィザーの前後で、修道女の見た目に変化はない。相変わらず苦しそうに目をつぶっている。


 仮にウィザーが効いたのであれば、この時点で病原菌は体内から全ていなくなっている。ただし細胞のダメージは全く修復されていない状態なので、苦しいことには変わらない。


 ここでキュアをかける。



 【キュア】



 光属性の柔らかなオーラが彼女を優しく包み込み、病気で破壊された細胞を修復していく。


 さてこの状態ではかなりの細胞が修復されており、あとは自然回復でなんとかなるレベルになっている。仮に病原菌が死滅していれば、ここからは回復方向に進むだろうし、病原菌が体内に残っていれば、いつものように再び細胞は破壊されていく。


 キュアをかけたため、一時的にもエール病特有の黒ずんだ皮膚は白く修復されたが、それ以外に修道女の様子に明らかな変化はない。いつもの治療と同じ状態だ。




 最後にヒールだ。


 いつもの治療では無造作にヒールを使ってきたが、よくよく考えると、俺たちは患者の体力だけでなく病原菌の体力までこれで回復させていたのかもしれないな。


 だが、体内の病原菌がもし死滅していれば、ヒールをかけることで患者の体力は回復し治療は成功。死滅していなければ病原菌の体力も回復し、再び病気が進行する。


 さあどっちだ。



 【ヒール】



 優しい魔力のオーラが彼女を包み込み、体力を急速に回復させていく。そして修道女の頬がピンク色に染まる。血色がよくなり、体力が回復している様子が見てとれる。


「・・・ん、んん」


 修道女が目を開いた。


「あ、あれ? 私、全然苦しくなくなった。どうしたのこれ、ひょっとして治ったの?」


 彼女はキョトンと不思議そうに、自分の手のひらを見つめて呆然としている。


「実験は成功です! エール病は病原菌が引き起こす病気で、ウィザーには細菌を殺す効果があるのです。これでこの病気は治せます!」


「し、信じられない・・・だが、よくやったナツ!」


「ああ、ナツはとんでもないことを成し遂げたかもしれない。あのエール病の治療法を見つけたんだよ。まさかウィザーに病気を治す効果があるなんて、どうやったらそんな発想ができるんだ」


「アンリエット、アルフレッド王子、まだあと3人も修道女が残っています。彼女たちでも同じ効果があるのか早く試してみましょう」





 結局、修道女の4人とも治療が成功し、この治療法の有効性が証明された。彼女たちはすでに自分で立ち上がれるまで回復している。


「私たちの命を助けてくれて、ありがとうローラ! いいえ、ローラ様っ!」


「みなさまの病気が治って本当によかった。それからわたくしの名前に「様」はつけなくても結構です」


「はい、ローラ様っ!」


「・・・・・」


 そして4人は抱き合って互いの回復を喜びあった。


「みなさま喜ぶのはまだこれからです。このキャンプにいる100人近くの患者を今から治療しなければなりません。魔力はいくらでも必要ですので、治ったばかりで申し訳ありませんが、早速治療に参加していただけますか」


「「「はい、ローラ様っ。よろこんで!」」」





 テントから出ると、手の空いた修復女たちがテントの中の様子を見ようと、周りを取り囲んでいた。


 そして俺たちの後ろに、エール病から回復した4人の修道女たちの姿を見つけ、修道女たちは喜びに息を飲んだ。


「みんな聞いて。ここにいるローラ様が、エール病の治療法を見つけて私たちを治してくれたのよ」


「よかった・・・みんな助かったんだ。うわああん」


 そして修復女たちは抱き合って喜び、その場でみんな泣き出してしまった。患者の治療を続けていた他の修復女たちも、彼女たちの泣き声に気付くと次々と集まってきて、4人の回復を泣いて喜んだ。


 俺たちみたいな助っ人修道女と違い、ここの修道女たちはきっとお互いが家族のような存在であり、深い絆で結ばれていたんだな。


 俺はしみじみとそう思った。

次回、治療開始です


ご期待ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおー。 ウィザーの効果が動物以外という系統を利用した細菌狙い撃ちの治療法は素晴らしい……。 この世界ではミクロ以下の理解が及んでないからこその現代知識の活躍ですね。
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