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第33話 協力者たち

 ランドルフ王子に連れられて久しぶりに入った城下町の中は、以前と変わってどこか殺伐とした雰囲気が漂っていた。


 街は静まり返って外を出歩く者がほとんどおらず、必要最小限の用事をする人以外は、病人を運び出して街の救護所に連れていく家族の者たちぐらいだ。


「救護キャンプがすでに限界なのは騎士団でも把握していた。だから王家が救護所を開設して、街の患者を受け入れるようにしているのだ」


「それは存じ上げませんでした。わたくしたちの救護キャンプがパンクしないようにご配慮頂いていたのですね」


(救護キャンプに運ばれて来る患者の数が押さえられていたということは、街では俺たちの想像以上に病気が蔓延していたんだな)


(そうですね、これはもう時間がないかもしれないですわね)


 そんな鬱屈とした街を歩いて、俺たちは騎士団が詰める建物へと入っていった。




 建物の会議室に入ると、騎士団の幹部たちの他にも街の役人や有力者たちがすでに集まっていた。ランドルフ王子が部下に命じて、緊急招集をかけていたようだ。


「先ほどローラから聞いた話は、俺から説明する。何か補足があれば頼む」


「よろしくお願いいたします、ランドルフ王子」


 王子にはまだ俺たちの身分を隠してもらうために、平民としての名前の方で呼んでもらうことにしている。そんなランドルフ王子は有力者たちの前で、エール病の蔓延を押さえるためにネズミや害虫駆除が必要なことを説明した。


 当然彼らの中には怪訝な表情を見せる者も少なくなかったが、例え半信半疑であっても自国の王子に向かってあからさまに批判的な態度は取れない。


 結局は王子の言う通り、城下町全体でネズミの駆除を行うことが正式に決まった。



「これは王子からのご命令だ。我々がそれに従って動くことに、何の異論があるものか」


「それにたとえエール病の蔓延が防げなくても、ネズミが駆除されて街が清潔になるなら、それはそれでいいではないか」



 そして一度話がまとまると、あとはみんなで真剣にああでもない、こうでもないと議論が進み始めた。最初は王子の命令だからと仕方なく付き合っていた街の有力者たちも、議論が熱を帯び始めるや次々にアイディアを出すようになり、やがて隣の席の有力者と掴み合いのケンカになるほどの激論が繰り広げられるようになった。



 これなら大丈夫だな。



 俺はホッとすると、アンリエットとアルフレッド王子に救護キャンプへ至急戻りたい旨を伝えた。


「ナツ、すまないが先にキャンプに戻っていてくれないか。私とアルはここで少しやることがある」


「ここでやることが・・・わかりました。それでは先に帰っていますので、その用事が終わりましたら、できるだけ早くキャンプに戻ってきてくださいませ」


「もちろんだ。ナツ、お嬢様のことをよろしく頼む」


「ローレシアとナツ、なるべく早くキャンプに戻るから待っていてくれ」





 そして2人に別れを告げると、俺は急いで救護キャンプに戻った。村人が増えたためきっと大変なことになっているだろう。案の定、キャンプ地では修道女たちが俺の帰りを待ちわびていた。


「ローラ様、おかえりなさい!」


「ローラ様、騎士たちの手助けもあり、テントの設置と村人の収容は全て終えましたが、やはり患者の数が多すぎます。お疲れのところ申し訳ありませんが、早速治療を手伝ってください」


 現状このキャンプにはこの村人を含めて、重症患者が20名、中程度の患者が50名、初期患者が30名となっている。必要な修道女の数に換算すると26名相当だ。18名相当がこのキャンプの限界なので8名分不足している。


「わかりました。それではまず重症患者を優先的に治療し、次に中程度の患者のうち体力のない高齢者を優先して診ていきましょう。若い患者や初期患者は申し訳ありませんが後回しにせざるを得ません」


「「「はいっ!」」」


 簡単な打ち合わせが終わると各自散開し、自分の担当患者にキュア&ヒールをかけて容態を回復させていく。これが対症療法だとしても、この治療をやめると途端に患者たちの容態が悪化して、やがて亡くなってしまうのだ。


 徹夜明けでフラフラの状態だが、俺は再びキュア&ヒールの魔法をかけ続けた。そんな俺の横では、魔力を持たない方の修道女たちが、テキパキと患者の身体をふいたり世話をしながら、ヒソヒソと何かを話していた。


「ほら見てローラ様の魔法・・・ボノ村に行く前よりも強力になってない?」


「本当だ・・・きっとローラ様の魔力が前よりも上がったのよ」


「それに見てあの集中力。たぶん私たちの話声なんか、まるで聞こえていない感じね」







 あれから何時間たったのだろうか。もう魔力が完全に枯渇して、マジックポーションも胃が受け付けなくなってきた。これ以上はローレシアの身体が持たないだろう。


(ローレシア・・・もう限界だと思う。治療はいったんここまでにして、休みを取ろう)


(いいえナツ、わたくしはまだ大丈夫です。重症患者を全て診きれていないのですから、せめてあと少しだけ)


(キュア&ヒールは君のイメージ力に頼っている分、俺よりも君の方が疲れが溜まっているはずだ。それに身体ももうボロボロ。これ以上治療を続ければ、大切な君のこの身体が傷ついてしまう)


(わたくしのことをそこまで気遣って・・・・それにナツはこのわたくしのことが大切なのですか?)


(大切に決まっているじゃないか。俺はローレシアのことは・・・)


(・・・そう思っていただけて、わたくしとてもうれしゅう存じます)


(・・・ああっ! ちっ違う、ローレシアを大切に思っているというのはそういう意味ではなくて!)


(ウフフ。そういう意味じゃないのであれば、どういう意味なのでしょうか?)


(だから、えーとそれはつまり・・・・あ、そうだ。ローレシアの身体は俺の身体でもあるわけだから、自分自身を大切にしないといけないと、そういう意味で言ったんだ)


(クスクス。では、そういうことにしておきますね)


(そうなんだよ、わかってくれて本当によかった)


 

 徹夜明けで頭が働いてないとはいえ、俺はうっかりローレシアに余計なことを言ってしまった。なんとか誤魔化し切れたが。


 ローレシアがなぜか楽しそうにしているが、冗談抜きでそろそろ休んだ方がいいだろう。


(それはそうとローレシア、そろそろ休憩をだな)





「ローラ、待たせた!」


 アルフレッド王子とアンリエットがキャンプ地に戻ってきたようだ。


「お待ちしておりました。重症患者の治療がまだ終わっておらず、早速お2人にも手伝ってほしいのですが・・・え?」


 王子の声がした方を振り返ると、2人の後ろには魔法アカデミーのクラスメイトたちがいた。


「みなさま方がどうしてここに・・・」


「私とアルでお願いしたの。救護キャンプが大変なことになっているので、手伝ってほしいと」


「アン・・・用事というのはこのことだったのね」


「ええ。闇属性魔法クラスと火属性魔法クラスから合わせて20名も助けに来てくれました。今日都合が合わなかった人たちも、また別の日に手伝ってくれることになっています」


「本当ですか! ・・・ありがとう」


「ローラ様がずっと学校を休んでいたからどうしたのかと思ったら、まさか修道女の格好をして救護キャンプにいたなんてね」


「はい・・・実はわたくしたち、ボノ村でエール病が発生したことを耳にして、修道院でお手伝いをしたいと申し上げましたら、すぐにこのキャンプに入ることになって、学校に連絡を入れる暇もなかったのです」


「なんだ、そうだったのね。みんな心配してたから、ローラ様が元気そうで安心した。今日から私たちも手伝ってあげるから、一緒に頑張りましょう」


「そうだぞ。俺たち男子も頑張るから頼りにしてくれていいぜ、ローラちゃん」


「みなさま、ありがとう・・・」


 俺はクラスメイトの暖かい言葉が嬉しくて、思わず涙が出てしまった。そうか、女子の身体ってこんなにも涙が出やすいんだな。


 だがまずい。一度流れ始めた涙が止まらなくなってしまった。これは恥ずかしい。


 俺は涙を見られないように顔を下に俯けた。


「泣かなくたっていいのよ、ローラ様。昨日は徹夜したってアンから聞いたから、後は私たちに任せてもう今日は休んでね」


「ほらこれで涙を拭けよ。汚ねえハンカチで悪いが、それを持って早くテントに入って休め。あとは俺たち男子が頑張っといてやるから」


「ありがとう存じます。で、では・・・あとはよろしくお願いします」


 俺はみんなにお辞儀をすると、そそくさと修道女用のテントに向かって走り出した。




(あんなことで泣いてしまうなんて、みんなには恥ずかしい所を見せてしまったな)


(そんなことはありませんよ、ナツ。きっとわたくしだってナツと同じように泣いていたと思います)


(でも俺は男だし・・・)


(身体は女の子なのだから、仕方ありませんね)


(・・・くっ)


(それに、わたくしは初めて学校というものに通いましたが、クラスメイトってとても素敵ですね)


(そうだな。この学校はみんないい奴ばかりだよ)

次回はネズミ駆除開始です


ご期待ください

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