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第32話 騎士団の説得

 アンリエットに一歩遅れたアルフレッド王子も騎士たちを前に剣を構え、俺も胸のロザリオにそっと左手を添えて、小さな声で魔法の詠唱を開始した。


 騎士団に対して徹底抗戦の構えを見せる俺たちに、ジリジリと隙を窺う騎士たち。だが、まさに一触即発の状態を打ち破る声が、突然騎士団の背後から聞こえた。


「何をやっているんだお前たちは!」


 騎士団の後方から馬でやって来たのは、一際立派な防具を身にまとった騎士だった。かなり身分の高そうな印象で、おそらくこの国の高位の貴族なのだろう。だとしたら下手に行動すると厄介ごとに巻き込まれ、また別の国に逃亡しなければならなくなる。


 どう行動すべきか迷っていると、アルフレッドがその騎士に向かって一歩前に進んだ。




「ランドルフじゃないか。僕だ、アルフレッドだ」


 ランドルフと呼ばれたその騎士は怪訝な顔をしながらアルフレッドを見つめる。


「誰だ貴様は。俺に修道士の知り合いなどいないし、俺の知っているアルフレッドと言えば・・・ってお前はまさか!」


「ようやく気がついたか。お前のクラスメイトだったアルフレッドだ」


 するとランドルフは慌てて馬から飛び降りて、アルフレッド王子に近づいてきた。


「お前は魔法アカデミーに編入したと父上から聞いていたが、そんな修道士の格好をして一体何をやっているんだ」


「僕はエール病の患者を救うために、臨時の修道士としてそこの救護キャンプで治療を行っていたんだ。それより聞いてくれ、ランドルフ。この村人達はエール病患者で体力もない。早くキャンプに入れて治療をしたいんだ」


「・・・バカな修道士と2人の修道女が制止を振り切ってボノ村へ向かったと通報を受けたので、騎士団に命じてそいつらが街に戻らないよう見張らせていたのだ。・・・まさかそのバカがお前だったとは」


「バカを承知で頼む。ここを通してくれ」


「いくらお前の頼みでもそれはできない。街にこれ以上病気が広がれば大変なことになる」


「その逆だ! 僕たちはこの病気の原因を突き止めたんだ。早くしないとエール病で街が全滅するぞ」


「エール病の原因だと。口からでまかせを言うな」


「僕がこんなことでウソをつく男だったかは、お前が一番わかっているはずだ」


「・・・・・」


「頼む」


「・・・そうだな。お前は確かにこんなウソをつく男じゃない。だが病気の原因がわかったというのも、とても信じられない。何か証拠でもあるのか」


「証拠はないが、ローレシアがそう言っているのだ。僕は彼女の言うことなら何でも信じる」


「ローレシアって、婚約を破棄されて暗殺されたって噂が俺の耳にも届いていたが」


「ここだけの話、その噂はデマだ。彼女は死んでおらず今ここにいる。ローレシア、そのベールを脱いでランドルフに顔を見せてやってくれ」





(ローレシア、このランドルフという男を信用してもいいのだろうか)


(アルフレッド王子のご友人であれば、わたくしは信用してもいいと存じます)


(わかった。ローレシアがそう言うなら)


 俺は頭のベールを脱いで、その素顔をさらした。




 長い金髪がベールから解放されてサラリと肩から滑り落ち、エメラルドグリーンの大きな瞳が、その整った容姿に清らかな彩りを添える。


「おお・・・」


 騎士たちは俺の顔をただ呆然と見つめて、ゴクリと生唾を飲み込んだ。そして隊長が、


「ランドルフ騎士団長・・・このアルフレッドという男と金髪の少女は一体何者なのですか。随分親しい間柄のようにも聞こえましたが」


「この男は俺が留学していた先のクラスメイトで、フィメール王国の第4王子アルフレッドだ」


「フィメール王国の王子! そんな高貴なお方がどうして修道士の格好をして、こんなバカな真似を」


「それは俺も聞きたいことだ。そして彼女は王国第3王子の婚約者だったローレシア・アスター侯爵令嬢」


「これが噂に聞くローレシア姫か・・・・なるほど、これは美しい」


「だが暗殺された彼女がなぜこうして生きている」


「暗殺は失敗し、ローレシアはそこにいる騎士アンリエットと二人で逃亡を図った。僕はその事実を誰よりも先に掴んで修道院に口止めし、ローレシアは死んだことにしてもらった」


 実はアルフレッド王子は俺たちの知らないところで裏工作をしていた。そのおかげでクールンで冒険者として活動していた時も、新たな暗殺者が送り込まれてくることがなかったのだ。


 俺もアルフレッド王子からそのことを聞かされた時は驚いた。王子はできる子だった。




「ローレシアが生きていることはわかったが、病気の原因についてまだ話を聞いていない。どういうことか聞かせてもらおうか」


 ランドルフは俺の方を見て説明をするよう促した。俺はボノ村やその森の洞穴で見たこと、下町で発生した疫病が修道院と関係なく街の中央へ広がって行ったことを、仮説をもとに丁寧に説明した。


「つまりこのエール病は異国の旅人が最初に持ち込みそれをネズミやダニが媒介して村人や城下町の住人に感染させています。病気をこれ以上広げないためには、街中のネズミやダニを徹底的に駆除し、身体を清潔にして肌を露出させないようにすることが必要です」


 さあこれで信じてもらえるか。ランドルフは騎士団長らしく、彼が納得すれば少なくともここにいる騎士たちは言うことを聞かざるを得ないはず。


 俺は祈るような気持ちでランドルフを見つめた。




 するとランドルフは「ふっ」と軽く笑うと、両手で万歳をしながら、


「そんな病気の対策方法など古今およそ聞いたことがないが、こんな美少女に真剣な目でお願いされたら、無碍にダメとは言えないじゃないか。わかった、俺も君の言うことを信じるよ」



 え?


 コイツ、美少女の言うことだから信じるのか。そんなんで本当にいいのか?



 ・・・だがその気持ち、実によくわかる。



 もし今の俺がランドルフで、ローレシアから真剣な顔でお願いをされた日には、どんなアホなお願いでも二つ返事でOKを出しているに違いない。美少女の真剣なお願いを断れる男など、いたら是非見てみたいもんだ。



「王子っ! そんなことで病気が防げるわけがありません」


 ・・・目の前にいたよ。


 どうやらこの隊長は美少女の真剣なお願いを断れる、かなりの剛の者らしい。


 しかもこのランドルフってやつも王子だったのか。どうりでアルフレッドとため口をきいているはずだ。だがそのランドルフが隊長を一喝する。


「王子と言うな、騎士団長と呼べ!」


「はっ! 失礼しました騎士団長。でも彼女の話す病気の対策はどれも聞いたことのないものばかりで、とてもうまく行くとは思えません」


「だが何もしなければ病気は広がるばかり。お前には他に名案でもあるのか」


「・・・ありません」


「ならダメで元々、やれるだけやってみようじゃないか。それに女性の願いを叶えてあげるのも、騎士としての大切な務めではないのか」


「・・・確かにそのとおりです、騎士団長。エール病の蔓延で焦りが生じてしまい、どうやら騎士の本分を忘れていたようです」


 そう言うと隊長は馬を降りて俺の前に片膝をつき、


「ローレシア様、先ほどはあなたに剣をふるってしまい、大変失礼いたしました。心よりの謝罪を申し上げます」


 深々と頭を下げた隊長に俺は、


「わかりました。あなたの謝罪を受け入れます」


「はっ! ありがたき幸せ」


 そして隊長はすっくと立ち上がると、後ろの騎士達に村人を救護キャンプへ送り届けるよう命じた。





 騎士達が荷車を引っ張って村人全員をキャンプ地に収容すると、俺は修道女たちを呼び集めた。


「皆様、たった今ボノ村の村人全てをこのキャンプ地に避難させてきました。中程度の患者20名、軽症患者30名の全50名。わたくしたちの受入能力を越えてしまいますが、この方々の命も何とか助けてあげたいのです。皆様のお力添えをいただけないでしょうか」


 俺が頭を下げると、


「頭をお上げください、ローラ様」


「村の人達を助けてあげたいのは、私たちもみんな同じ気持ちです」


「私たちが少し無理をすればこれぐらいの人数、まだまだ大丈夫ですよ」


 修道女たちは誰一人嫌な顔をせず、この村人全員を受け入れる覚悟をしてくれたようだ。


「みなさま本当にありがとう存じます」


 俺はもう一度修道女たちに、深く頭を下げた。




「それから皆様に大切な報告がございます。このエール病の感染源がわかりました。ネズミやダニなどの害虫を介して病気に感染するのです。みなさまはいつも通りの感染対策をしっかりしてください。わたくしは今から街に戻って、このことを伝えに行ってきます」


「まあっ!」


 すると、修道女たちの表情が一斉に明るくなった。今まで手探りだったエール病との闘いに、一筋の光が見えたからだ。


「対策を伝えたらまたすぐにここに戻って参ります。それまでは、この村人を含めた患者のお世話をよろしく頼みます」


「「「はいっ、ローラ様! お任せください!」」」





 笑顔で送り出してくれる修道女たちを見て、村人達の命がひとまず繋がったことに俺はホッとした。だが病気の蔓延を防ぐためには、城下町のネズミを全て駆除をしなければならない。


 魔力が枯渇し徹夜で体力も消耗した身体に鞭を打つと、俺たち3人はランドルフと共に今度は城下町へと急いだ。

次回、ローレシアに新たな協力者が


ぜひご期待ください

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