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第3話 異世界転生と死者復活

本編スタートです

 俺に両親はいない。


 正確に言えば一昨日2人は俺を置いて夜逃げをし、借金だけが残された。


 このボロアパートの一室で、借金取りがドンドンと扉を叩く。


 俺は身をひそめるように部屋に閉じこもり、借金取りが去っていくのを待つのだ。




 両親は有り金をすべて持って出ていったため、手元にあるのは俺のわずかばかりの小遣いのみ。まあ小遣いといっても自分で稼いだバイト代だが。


 それもきっと食料品を買えばすぐになくなるだろう。生活するためにはまたバイトをしなければならないが、こう毎日借金取りが押し寄せてくると、部屋から外に出ることもできない。


 高校の担任には詳しい事情をまだ話せておらず、体調不良を理由に欠席の連絡だけは入れてある。こういった場合どうすればいいのかネットでいろいろ探してみたが、法律的なことは苦手なので、自分ではどうしていいのかよくわからない。


 とりあえず公的な無料相談にメールを送り、その回答を待つことにした。





 俺は外の借金取りを無視して、布団に転がりながら何度も読み返したライトノベルをもう一度読む。


 異世界転生もので俺が気に入っている作品の一つなのだが、この本を読んでいる間だけは、嫌な現実を忘れられる。


「俺も異世界に転生したいな」


 もう高校2年生なので、異世界転生など現実ではありえないことぐらい理解している。でも空想するぐらい別にいいじゃないか。


 目を覚ましたしたら、このボロアパートではない別のどこかだったら、どんなにうれしいことか。


「異世界に転生したら、どんな冒険者になろうかな。最速無敗の剣士もいいけど、黒魔導師や大賢者なんかの魔法職で最強をめざすのもいいな」


 そんなことを考えながら、夜、眠りにつく。そしていつものボロアパートで、朝、目を覚ます。






 アパートに閉じこもり始めて何日たっただろうか。


 今日、市役所の職員がここに訪れることになった。俺を公的に保護してくれるらしい。


 さすがにこの散らかった部屋に来客を迎える訳にはいかないため、俺は部屋を片付けようと立ち上がった。


 だが突然、強烈な頭痛を覚えて、俺はそのまま床に倒れ込んでしまった。そして視界が歪む。


「・・・頭が痛い。・・・助けてくれ」


 急速に意識が遠のき、目の前が暗転した。






 次に俺の意識が戻ったのは薄暗い部屋の中だった。


「ここは・・・俺のボロアパートではない」


 俺が今見ているのは、あのボロアパートよりもさらにみすぼらしい、板を打ち付けただけのむき出しの天井だ。それが薄明りにゆらいでぼんやりと見える。


 たしか俺は部屋を掃除しようとして、それでひどい頭痛がして倒れた。ひょっとしたら市役所の職員が見つけて、救助してくれたのか。


 だとしたらここは病院のはずだが、こんなボロい病院どこにあるんだ。いくら俺が高校生で金がないとは言え、市役所の人がこんなボロい病院に俺を入れるだろうか。


 病院じゃないとすれば、ここはどこなんだ?





 俺の頭には一瞬、異世界転生という言葉が浮かんだ。


 ・・・まさかな。


 だが、異世界転生であれば、このみすぼらしい部屋で目が覚めた状況にも、一応説明がつく気がした。


 よし! まずは異世界に来たかどうかを確認するのが先決。


 俺は身体を起こして部屋の様子を見てみた。





 部屋には壁に祭壇があるだけで、このベッド以外は他に何もなかった。しかもベッドだと思っていたここは硬い木製の台座だった。


 明かりは祭壇にある2本のローソクだけで、それもかなり短くなっており、そう時間がかからずに燃え尽きてしまいそうだ。それまでに部屋の中を見ておかなければ。


 俺は台座から立ち上がり、自分の身体を見てみる。どうやら白い無地の布で作られた足元まですっぽりと覆う、簡単な服を着せられている。


 なんだこの服は?


 一言で言うなら死装束。葬式で見るアレだ。


 この何の飾り気もない服をつまんでみると、俺はすぐあることに気が付いた。


 手の指が細くてきれいなのだ。まるで女性の指のように・・・。




 まさか!




 俺は嫌な予感がして、目線を自分の胸元に移すが、そこには特に何もなかった。


 ぺったんこだ。


 一瞬、女性に転生してしまったのかと焦ったが、どうやら俺の勘違いだったらしい。




「ふう、危ないところでした。もし女性になんか転生してしまったら、わたくしの思い描いていた冒険者の夢は叶わなくなるところでしたわ」




 ・・・ちょっと待て! 何だ今の声は。




 この部屋には誰もいないのに、明らかに女性の声がした。しかもなぜかお嬢様言葉。


 そして喋っている内容が、俺が今考えていたことと全く同じ!


 まさか今のは俺の声・・・なのか?



 俺は試しに自己紹介をしてみる。


(俺は立花夏。17歳で趣味は読書だ)


「わたくしナツ・タチバナと申します。年齢は17歳で趣味は読書でございます」





 ガクッ・・・。


 俺は愕然として、床に崩れ落ちてしまった。


 ここは異世界でほぼ確定。俺は本当に異世界転生をしてしまったのだ。いや転移、憑依か? まあなんだっていいが、あの現実から逃れられて夢にまで見た冒険の日々が始まるのは、飛び上がるほどうれしい。


 うれしいのだが・・・。


 この令嬢ボイスは明らかに俺の声だった。まさか俺は本当に女性に転生してしまったのか・・・。


 しかも俺が言おうとした言葉が、勝手にお嬢様言葉に変換されて出てくるのはなぜだろうか。


 俺は今までに読んだラノベの知識を総動員し、そして一つの仮説を立てた。


 それは異世界転移した日本人が現地で話をする際、日本語から異世界語に自動翻訳されるというお約束がある。


 そして俺が憑依したこの身体がお嬢様だったから、お嬢様言葉に自動翻訳されたのではないかというものだ。


 だが鏡もないこの部屋では、いくら考えても仮説が増えるばかりで、いつまでたっても結論が出ない。こうなったら、まずはこの身体が男なのか女なのか直接調べて白黒つけるしかないだろう。




 俺はこの白い服の裾をつかんで服を脱ごうとしたその時、


(何をしてらっしゃるのっ! そのハレンチな行為を今すぐにおやめください!)


 突然、俺の頭の中に大声がこだました。だが周りを見てもこの部屋には、俺の他に誰もいない。


「誰です? 今わたくしに話しかけたのは」


(あなたこそ誰ですか? わたくしの身体を勝手に動かさないでください)


「わたくしの身体ですって? あなた何者なの?」


(わたくしはローレシア・アスター、アスター侯爵家の長女です。それよりもあなたこそ何者ですか?)


「わたくしはナツ・タチバナと申します。目が覚めたらこの身体に乗り移っていました。それで状況がわからず色々と調べようとしているうちに、まずはこの身体が女性なのかを確認をしようと思ったのです」


(この身体に乗り移ったですって? どうしてそのようなことが起こったのですか?)


「それはわたくしが聞きたいぐらいです。そもそもここはどこで、なぜあなたはこんな部屋に1人で眠っていたのでしょうか?」


(それは・・・)


 俺が尋ねると頭の声が途絶え、それと同時にとても悲しい気分になってきた。


 ・・・急になんなんだ、この悲しい感情は。


(・・・恐らくわたくしは殺されたのだと思います)


「殺された?!」


 いきなり不穏な話になってきた。どういうことなんだろう。


(実はわたくし無実の罪を着せられて断罪された後、実家の侯爵家からも離縁され、この修道院に入っておりました。そこで修道女としての生活を送っていたのですが、最後の記憶が夕食で、突然胸に激痛が走り喉が焼けるように熱くなったので、恐らく食事に毒を盛られていたのだと・・・)


「無実の罪で毒殺されたのですか。なんて酷いことを・・・でも、わたくしはこうして生きていますし、実は死んでいなかったのではごさいませんか?」


(・・・だとよろしいのですが、そうすると今わたくしとあなたがこの身体を共有している状態は、いったい何なのでしょうか)


「存じ上げません・・・わたくし、異世界転生してきたと思って、とても喜んでおりましたが、確かにこの状況は何なのでしょうね。そもそも元のわたくしの身体はどうなったのでしょうか?」


(異世界転生とはなんですの?)


「こことは全く異なる別の世界から魂だけ転移して、別の身体に乗り移ることでございます」


(それなら元の世界のあなたは死んでしまったのではないでしょうか)


 俺が死んだ?


 あのひどい頭痛の結果、現実の俺はそのまま死んでしまったのだろうか。


 俺は突然不安に襲われた。


(いま、あなたの不安な気持ちが伝わって来ました。どうやらわたくしたちは一つの身体を共有していて、かつお互いの感情も相手に伝わってしまうようですね)


「どうやらそのようですね。そうするとあなたもこの身体を動かせるのでしょうか?」


(さっきから動かそうとしているのですが、どうやらわたくしには無理のようです)


「そうですか。それではあなたも身体を動かせるようになるまでは、このわたくしが身体を動かして差し上げます。もしご希望があれば、なんなりとお申し付けくださいませ」


(はい・・・ありがとう存じます)





 ローレシアさんか。


 頭の中に突然声が聞こえて最初はビックリしたし、同じ身体を共有することになってどうなることかと思ったが、貴族令嬢にしては話しやすい感じの人でよかったな。


 木製の台座に腰かけてホッとしていると、部屋の扉がゆっくりと開かれた。




(誰か来ます!)

次回、この奇妙な転生の理由が・・・

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