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第26話 救護キャンプ

 開拓現場に行ったり俺たちに昼食を振舞ってくれたりと、元気そうに見えた村長が急死したなんて、たった数日で何があったんだろうか。


 だがさらにその事務員の話を聞くと、亡くなったのは村長だけではなく、その家族や隣家の村人など複数に及んでおり、ボノ村全体にも多数の病人が出ているらしい。


 急遽、この街の修道院から救護班が派遣されて村人の治療にあたっているらしいが、噂では村は相当ひどいことになっているそうだ。


(ローレシア、ひょっとしたら何かの疫病かもしれないな)


(これは一大事ですね。わたくしたちも何かお手伝いができないでしょうか)


(俺達は素人だから、まずは救護班を送っているという修道院に行ってみるか。ちょうど修道服も持っているし、光属性魔法も使える。救護班の手伝いぐらいはできるかも知れない)


(それがいいと思います! さっそく修道院に行ってみましょう)





 俺とアンリエットは修道服に着替えると、さっそくこの街の修道院を訪れた。城門近くの下町のそのまた外れにある古びた教会だがかなり大きな建物で、礼拝堂では街の住人が祈りを捧げている。


 俺はその礼拝堂に入っていき、奥にいた神父さんにボノ村の疫病の救護活動を手伝わせてほしいとお願いした。


「え、本当にこの修道院に入ってくれて、しかも村人の治療も手伝っていただけるのですか!」


「はい、わたくしたちは見てのとおり他国の修道女ですが、今は訳あって魔法アカデミーの学生をしております」


「それはすごい! 魔力持ちの修道女が自ら志願して来てくれるなんて、神よ感謝致します!」


「そ、そんな大袈裟な・・・。光属性を持っているのは実はわたくしだけで、このアンは火属性なので治癒魔法は一切使えません。そこまで喜ばれてしまうと、あとでガッカリされてしまいます」


「なんと! あなたは光属性魔法が使えるのですか。奇跡だ・・・」


「えぇぇ・・・」


(ローレシア、どうなってるんだ。ちょっと喜ばれすぎだろ。光属性って、そんなに珍しいのか?)


(わたくしにもわかりませんが、調子が狂いますね)


「ちょっと気が動転してしまいましたが、もちろんアンさんの火属性も大歓迎です。ここには治療用の魔術具があるので魔力さえあれば誰でも治癒魔法が使えます」


「それならわたくしたちと一緒に来たこの男も魔力は豊富に持っています。そうだ、修道服の予備がございますので、この男を修道女に変装させましょうか」


「ローラ、僕は女装はちょっと・・・」


「いえいえ、女装は必要ありません。男性の修道士もここにはいますから、ぜひ3人で今すぐにでもここに入ってください。こちらからお願いします。ぜひ!」


 神父さんに大歓迎されて、俺たちはそのまま修道院に入ることになった。俺とアンリエットは同じ2人部屋を与えられ、アルフレッド王子も別の建物で住込みの修道士となったのだ。


 まさかこんなにアッサリと話が進むとは思っていなかったが、修道院の人手不足がそれだけ深刻なのか。





 そろそろ夕食の時間だったようで、修道女たちが徐々に食堂に集まってきた。今からここで俺達の紹介が行われるそうだが、少し時間があったので神父さんからこの修道院のことを教えてもらった。


 この修道院は孤児院を併設していて、ここで育てられた孤児が成人してそのまま修道女や修道士となることが多いそうだ。だが中には元貴族家の令嬢だった修道女もいて、彼女たちが魔法の主な担い手となっているとのこと。


 そして修道院は様々な慈善事業に取り組んでいるが、魔力を持った修道女たちによる病気や怪我の治療が、街の住人から特に求められているようだ。


 だから今回のように村に救護班を送り込むのが修道院の役割だったりする。この世界では修道院が病院の役割を果たすのが普通なのだろう。





「え、ローラは光属性魔法の適性があるの?!」


 食事の前に、神父さんが修道女たちに俺たちのことを紹介すると、光属性が使えることを知った修道女たちから大歓声が沸き起こった。そして修道女長が、


「光属性魔法はそもそも使い手が少なく、この修道院には誰もいなかったのよ。同じ魔法でも魔術具を使うのと自分でキュアやヒールを使うのとではやっぱり効率が違うらしいから、ローラみたいな光属性持ちは大歓迎よ。もちろんアンやアルも歓迎します。ようこそ私たちの修道院へ」


「さっそくですが、わたくしたちは何をお手伝いすればよろしいのでしょうか」


「今この修道院は3つの班に分かれています。一つ目は病気の発生したボノ村に行って村人を治療する班。二つ目はこの城下町の外の平原にキャンプ地があってそこに集められた患者を治療をする班、三つめが魔力を持たない修道女たちの班でこの修道院の通常の業務をこなしたり、治療に当たっている修道女が交代で休息を取りに戻ってくるのでその世話をするの」


「なるほどわかりました。それでわたくしたちはどの班に配属されるのでしょうか」


「ここに入ってきたばかりで申し訳ないのだけど、二つ目のキャンプ地での治療をお願いできないかしら。ここは重症患者が多くとにかく強い魔力を必要とするので、一番大変かも知れないけれどあなたたちにお願いしたいの」


「承知いたしました。微力ながらキャンプ地での治療をお手伝いさせていただきます」





 俺たちは夕食が終わると、荷物を持ってすぐにキャンプ地に入った。


 この救護キャンプに送られてくる患者は重症化した者が多く、キュアをかけても現状を維持するのがやっとで、油断するとすぐに症状が悪化してしまうそうだ。


 だがこれまでは修道女の魔力が足りずに治療が追いつかなかったため、患者が次々と亡くなってしまい、この班の修道女は精神的にも疲弊していた。


 そしてこのキャンプ地に送られた患者の家族も、もう助からないものと完全にあきらめている、いわば最後の終着点のような場所であった。



「これは想像したよりも酷い場所ですね、アン」


「はいローラさん、ここは死を待つだけの患者が集められた地獄です」


「いくらローラが光属性持ちでも、これだけの重症患者を全て診るのは不可能だ」


「でもやるしかありません。ざっと見てここにいる重症患者は10名。すでに亡くなった方もいるでしょうし、村には軽症者も多数残っているとすれば、アカデミーで聞いていたよりも疫病の流行は深刻だと思います」



 このキャンプには5人の修道女が配属されていたが、俺達が到着した時には5人全員が治療に当たっていた。全員が同時に魔力切れの症状を起こしていて、フラフラの状態だった。


「みなさんは、全員すぐに修道院に戻って一晩ぐっすりお休みください。今晩はわたくしたち3人が代わりに重症患者の世話を致します」


「あなたたち3人で一晩中なんて無茶よ」


「大丈夫です。わたくしは光属性魔法が使えます」


「まさか! あなた光属性持ちなの?!」


「はい、見ててください」



 【キュア】



 俺が呪文を唱えると、右手の先の魔方陣から患者に向けて柔らかな白い魔力が吹き出して、患者を優しく包み込んだ。そして、



 【ヒール】



 キュアが病魔に蝕まれた身体を修復するなら、ヒールは失われた体力を取り戻す効果がある。この2つの魔法の重ねがけにより、病気の治療効果が現れるのだ。


「す、すごい・・・」


「こんな強力な光魔法、初めて見たわ」


「これが本物の光属性魔法師の力なの・・・」


 5人の修道女が絶句しているが、


「わたくしの魔法でも、この重症患者を治療することはできないようです。でも今晩はなんとか持たせますので、先輩方は修道院で身体を回復させて、元気な状態でこの現場に戻って来てください。みんなの力が必要です!」


「わ、わかったわ」


「これからはわたくしたち8人で力を合わせて頑張りましょう!」


「「「はいっ!」」」



 それから俺達3人は、マジックポーションを飲みながら、一晩中キュアとヒールをかけ続けるというハードワークをこなし、次の日に疲労が回復した5人が戻ってくると、8人のローテーションを決めて、キャンプ地で治療をする時間帯と修道院に戻って身体を休める時間帯を細かくスケジュール管理することにした。


「こんな綿密なスケジュールを作るの?」


「はい。一日12時間勤務でスケジュールを割り振っております。そして1人当たり重症患者2名を受け持てば、症状を現状維持に留めることが可能ですので、かなり楽なスケジュールになります」


「本当だ・・・これなら休みも取れて、治療にも余裕が出てくる」


「誰がいつ何をすればいいのか、一目で理解できる」


「これなら余った魔力で、症状を改善できる患者も出てくるかも・・・」


「さあ、これで患者は誰も死なせません。みなさん、張り切ってお仕事頑張りましょう!」


「「「はいっ!」」」




 アルフレッド王子とアンリエットは、修道女たちを指揮する俺とローレシアの様子を少し離れたところから見て、ただただ感心していた。


「ローレシアはもうすっかりこのキャンプ地のリーダーだな」


「ああ、さすがはローレシアお嬢様・・・いや、あれはナツだな」


「あれはナツだったのか・・・やるな!」

次回、この世界の治療法の意外な事実に気付く


ぜひご期待ください

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― 新着の感想 ―
[一言] 急展開なのか?私的としては第四王子と仲良く成ってしまったの方がまさかの急展開だと思います。。。
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