第25話 農地開拓のアルバイト
魔法アカデミーに編入して2ヵ月以上が経過し、季節は晩夏から初秋へと進んでいた。
俺とローレシアの魔法の訓練は順調に進んでおり、聖属性魔法については2つともすでに使えるようになっていた。
闇属性魔法もまだまだ練習不足は否定できないが、全く使えないわけではないという程度には成長した。
アルフレッド王子はあれからもずっとローレシアの騎士を続けている。当初は反発していたアンリエットも最近は諦めたようで、相変わらず仲が悪いものの同じ護衛騎士として渋々ながらも現状を受け入れたような気がする。
アルフレッド王子には、ローレシアの身体にナツという別の世界から来た魂が同居していること、そのおかげでローレシアが8属性を有する勇者兼聖女になったことを教えた。
最初は驚いていた王子だったが、今ではすっかりそのことにも慣れ、俺とも普通に会話をするようになっていた。今日はそんなアルフレッドを連れて、俺はアンリエットとともに城門の方へと歩いていた。
「ナツ、今日は学校が休みだけど、何をして過ごす予定なんだ」
「あらアルフレッド様、どうしてわたくしがナツだとお気づきになられたのですか?」
「そうだな、なんとなく・・・・かな。アンリエットみたいにはっきりと区別できるわけではないのだが、ちょっとした仕草の違いで引っかかるときがあるんだ」
「ちょっとした仕草の違いですか。この2ヶ月でかなりローレシアのマネが上手くなったと思ったのですが、まだまだのようですね。あ、そうそう、本日の予定でしたね。本日は聖属性魔法「ウィザー」の実地訓練も兼ねて、農村のみなさまのお手伝いに参ります。新たな農地開拓のために、森を切り開いた場所の草抜きを致しましょう」
「草抜きか。わかったお供しよう」
魔法王国ソーサルーラの城下町周辺にはいくつかの農村があるのだが、今回向かったのはそのうちの一つで、大きな森に隣接したボノという村だ。ボノ村は森の開拓を進めており、俺たちは村はずれにある開拓中の場所へと直接向かった。
もうすぐ初秋と言ってもまだまだ暑く、歩くだけで汗が流れ落ちる。それもあって今日の俺はアンリエットとお揃いのワンピースを着ている。俺がピンクでアンリエットはブルーだ。
この服装になるのは相変わらず恥ずかしいのだが、ローレシアはこの服が気に入っているし、俺もさすがに修道服や制服を着てこの暑い中で開拓作業を手伝う気にはとてもなれなかった。
仕方なくの選択である。
ただ森には虫がたくさんいそうなので、俺たち3人は虫に刺されないように、身体の周りを魔法防御シールドの魔法で包み込んだ。
ああ、虫除けスプレーが欲しい・・・。
現地に到着すると村長を始め村の人たちが俺たちを出迎えてくれたが、やってきたのが1人の若者とワンピースを着た2人の少女だったため最初はギョッとしていた。だが、魔法アカデミーからの派遣であることを伝えるとすぐに納得してくれた。
「魔法アカデミーには雑草の処理で依頼を出したので、火属性魔法クラスの学生さんたちが来るものと思ってましたが、まさかこんなきれいなお嬢さんたちが来られるとは」
「アカデミーの黒系統の制服はとても暑いので、こちらのワンピースを着てきました。もちろんこの服装でも魔法は使えますので、ご心配には及びませんよ」
「そうですか。それでは開拓現場までご案内します」
開拓現場は大きな木が全て切り倒された状態になっていて、今は村の男たちが切り株を取り除いたり、女たちが生い茂った雑草を処理していた。俺は村人の作業が捗るように現場全体の雑草を枯らすのだ。
開拓地はかなり広く、このエリア全体に魔法が作用するように、少し強めの魔力を込めた。そして、
【ウィザー】
俺が呪文を唱えると、開拓地全体を覆いつくすような巨大な魔法陣が空中に浮かび上がり、空から神々しい光が地面へと降り注いだ。
まるで天から神が降臨するかのような無駄にド派手なエフェクトだが、その神々しい光を浴びた雑草は急速にしおれていきやがて完全に枯れ果ててしまった。そして草むらに隠れていたうさぎのような小動物たちが、四方八方に慌てて逃げて行く。
(ねえナツ、この聖属性魔法ウィザーは魔法の見た目はすごく派手なのですが、ただ草を枯らしているだけですよね)
(グロウを使ってみた時にも同じように神々しい光が空から降り注いでいたから、どうやら聖属性魔法共通のエフェクトみたいだな。でもこの光を見ていると、ネ〇とパト〇ッシュが天に召されていくシーンを思い出すよ)
(なんですの? その〇ロとパ〇ラッシュって)
(い、いやなんでもない。こっちの話だから気にしないでくれ)
さてここまで来れば雑草を引き抜くのに力は必要なく、村の女子供たちが片っ端から枯草を集め、それをアンリエットの火属性魔法・ファイアーで燃やすだけだ。ついでにウィザーのおかげで切り株も枯れて体積が小さくなったようで、普段よりも簡単に地面から引き抜くことができた。
こうして農地の開拓作業は半日とかからずに終了してしまった。恐るべしウィザー、農作業には絶大な効果があるな。
時間が余った俺たちは、村長さんの好意で村役場に招待されて昼食をごちそうになった。この村で採れた作物を使った地場料理だ。魔法を使った作業とはいえ、労働の後の食事は普段以上においしかった。
そして食事を終えて村から帰ろうとした時、俺は村の様子が少しおかしいことに気が付いた。
「村長さま、わたくしの気のせいかもしれませんが、ざっと様子をみる限り、今日の開拓作業に来てた人たち以外の村人は、あまり元気がなさそうですね。何かあったのですか?」
「よくお気づきになりましたね。おっしゃるとおり少し前からこの村には風邪が流行っていて、最初は1人、2人だったのがみるみる増えていき、今では20人以上が床に伏せっているのです」
「まあ、これから秋の収穫を控えて大変な時期ですのに、はやく良くなるといいですわね」
「はい、ご心配いただきありがとうございます。お嬢様たちもお体にはくれぐれもお気を付けください」
帰り際、改めて村の様子を見てみたが、半数近くは家の窓を閉め切っており、病人を看病するためだろうか、村の女たちが井戸水を汲みに何度も往復する様子が見えた。
本当に風邪なのか?
それから数日は特に何事もなく過ごし、俺はボノ村の事などすっかり忘れていた。
そしていつものようにマリエットの研究室で魔法の練習をしていた俺たちのもとに、先週の農地開拓の仕事を紹介してくれた学校の事務員がやってきて、その事実を知った。
「ボノ村の村長様がお亡くなりになられた?」
次回、急展開します
ご期待ください




