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第24話 気品の足りない動作をマスターせよ

 第4王子アルフレッドは隣の男子寮に部屋を借りて、そこからアカデミーに通うことにしたそうだ。


 なるべくローレシアの近くに住みたかったのだと思うが、アンリエットとの事を考えると、俺は揉め事が起きないかが心配だった。


 そんなことを考えているうちに、ローレシアの着替えが終わったようだ。目を開けると正面には制服姿のアンリエットがいる。


 アンリエットはいつ見てもかわいいな。




「アンリエット、早く学校に行きましょう」


「お嬢様、そんなに急ぐとまた転びますよ。まだそのお身体に慣れてらっしゃいませんので、私と手をおつなぎください」


「そうですね、ではよろしくお願いいたします」


 ローレシアが右手をすっと差し出し、アンリエットはそれを恭しく左手で受け止めた。ローレシアがリハビリを始めて一週間、そろそろ今の身体にも慣れて来た頃だとは思うが、油断は禁物。転ぶと大変なので、アンリエットも慎重である。




 女子寮を出たところで、女子生徒たちの集団が群がっていた。キャーキャー大騒ぎになっているその真ん中にいたのは、第4王子アルフレッドだった。


 朝から金髪がサラサラしてて「王子」って感じだ。


 女の子に囲まれたそんな王子だったが、俺たちが女子寮から出てきたのに気がつくと、女子生徒達をかき分けて、ローレシアの前に跪く。


「おはようございます、ローラさま。アカデミーまでエスコート致します」


 そう言って、スッとローレシアに右手を差し出し、それを見た女子生徒達は「何事?」と、どよめく。


「やめてください、アル。ここは学生寮の前ですよ」


「そうだアル。ローラさまは私がエスコートしているのだ。貴様は先に学校に行け」


「アン、外は危険だから男である僕がローラを護衛する。君は僕の後ろについてくるがいい」


「私は貴様より強い。よって貴様の護衛は必要ない」





 朝から早速、アンリエットとアルフレッドが揉めているが、周りの女子生徒たちも驚きを隠せないでいた。


「あの超美形の男子、編入生のローラって子の前で跪いたわ!」


「ローラって編入生、どこかの国の姫じゃないかって噂になってたけど、やっぱり本当だったのよ」


「美形男子ももしかしてどこかの王子じゃないの? あの気品や風格はただ者ではないはず」


「でも隣にいる緑髪の女子と揉めてるわよ。あの子はローラの侍女か何かかしら」


「うーん、侍女というよりは姫を取り合う2人の騎士って感じじがしない?」


「うわ本当だ。言われてみれば、そうとしか見えなくなった。・・・も、妄想が捗るわ」




 まずいな。俺たちは少し目立ちすぎているようだ。いくらここが王国の外だからって、なるべく目立たないようにした方がいい。


(ローレシア、あの女子生徒たちの会話が聞こえただろ。俺たちちょっと目立ちすぎている)


(そうですわね。どうしたらいいでしょうか、ナツ)


(このアカデミーは平民もたくさん通っている学校なのに、ローレシアたちは気品がありすぎて、貴族であることがバレバレなんだよ。よし、今日は俺が身体を操作して、気品の足りない動作とはどういうものか、見本を見せる。ローレシアはしっかり覚えておいてほしい)


(ええ、わかりました。気品の足りない動作のお手本よろしくお願いいたします)



 【チェンジ】



「いい加減になさい2人とも」


「ローラ」


「・・・ナツね」


「わたくしにエスコートは必要ございません。授業に遅れますので、2人ともわたくしの後ろについていらっしゃい」


 そう言うと俺は、2人をおいて学校に向けてスタスタと歩いて行った。そして周りに人がいなくなったことを確認してから2人に、


「わたくしたちは王国から逃亡している身です。他国の姫だとか王子だとかそのような噂がアカデミー内に飛び交っていては、わたくしたちの事をいずれ王国に嗅ぎ付けられてしまいます。そういった噂を断ち切るために、まずはわたくしを過剰に扱うのはやめてください。あと、貴族と思われるのも良くないので、これからは平民のように振る舞います。いいですね」


「わかったよ、ローラ」


「承知いたしました、ローラお嬢様」


「アン、学校では「お嬢様」も「ローラ様」も禁止です。これからはローラとお呼びくださいませ」


「承知しました、ローラ・・・さん」


「よろしい」


「あの~、ローラさん・・・。ローラさんはその喋り方を直された方がよろしいと思いますが」


「それもそうね・・・わたくしも・・・この喋り方を治した方が・・・いいとは思うのですけれど・・・あれ、おかしいですね・・・しゃべり方が全く治りません・・・くっ・・・ガリッ!」


「・・・どうされましたか、ローラさん?」


「アン、わたくひ・・・舌を噛んでひまいまひた。この言葉遣いは・・・どうやっても治らないようでふ」


「・・・プッ! わ、わかりました。怪しまれたら、ローラさんは大商人の娘という設定にしておけば大丈夫でしょう・・・ふふふっ」


「ひょうひまひょう。ひょれでは早く学校へ急ぎまひゅよ」





 教室では登校初日以来久しぶりに俺が身体担当になった。そして違和感がない範囲で「平民ムーブ」を心がける。まず教室に入る時に「おぅ、おはよっす!」と軽く挨拶する。


「みなひゃま、ごひげんよう!」


 ・・・ちょっと違うが、まあいいか。


 大股でスタスタ歩いて自分の席に座ると、いつものようにクラスメイトが俺の席の近くに集まってきた。


「ねえねえローラ様ってアルと知り合いなんでしょ。私たちのことを紹介してよ」


「よろひいでふわよ。こちらはアル、わたくひの幼馴染でふ。アル、この方々はわたくひのお友達でふので、仲良くひて上げてくだひゃいまへ」


「ローラ様・・・話し方が変だけど、どうしたの?」


「朝、思いっきり舌を噛んでひまいまひたの。今日は魔法の演習も厳ひいかもひれまへんね」


「ローラは今日はしゃべらない方がいい。今日の魔法演習の内容は後で僕が教えてあげるから、ローラは静かに教科書でも読んでるといいよ」


「うわっアル様がローラ様に優しい。あの~アル様、私たちにも魔法を教えてもらえますか?」


「もちろんだよ。ローラの友達ならみんな大歓迎さ」


「「「キャーーー!」」」


 ローレシアのお友達のみんながアルに夢中のようだ。イケメンは何をやっても女子からモテまくりだな。うらやましいぜ畜生。





 クラスメイトとランチをとるまでが俺の仕事で、午後はローレシアに交代する。マリエットの研究室では、気品が高くても特に気にする必要はないからだ。


(ローレシア、午前中の授業でやったみたいに行動すれば、平民っぽく見えると思う。明日からできるな)


(できなくはないですが、今日の動作は平民ぽいというよりは男性ぽいものに見えました。もう少し女性の動きにしていただかないと、わたくしがマネできません)


(え、男っぽかった?)


(はい。例えば椅子に座る時に脚を広げすぎですし、腕を頭の後ろに組んで椅子に寄りかかると、後ろに倒れてしまいそうでとても恐ろしいです)


(あーすまん。前世の学校での俺の行動を、そのままやりすぎてしまったようだな)


(それに、お食事の時に両手で交互に食事を口に放り込むのは、さすがにお行儀が悪いと存じます。アンリエットがそれを見て気絶しそうになってました)


(すまん、腹が減っていたのでつい・・・わかった、明日もう一度チャンスをくれ。今度は平民の女子っぽい動きを再現して見せるよ!)


(・・・今度はちゃんとお願いしますね)


(おう任せとけ!)





 そんな風に、俺とローレシア、アンリエット、アルフレッドの学園生活がスタートした。


 平民の学生になんとか擬態しながらも、その後特に何事もなく、それから2か月が経過していった。


 そして、俺とローレシアの運命を決定づけることになる、あの出来事が発生するのである。

次回から新展開です


ご期待ください

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