第22話 第4王子、魔法アカデミーに編入する
魔法アカデミーへ編入して、1週間が過ぎた。
ローレシアになるべく早くこの身体に慣れてもらうために、できるだけ彼女に身体のコントロール権を渡すようにした。
その結果、午前と午後のアカデミーでの魔法訓練の時間はローレシアが、夜にアンリエットと行う戦闘訓練や筋トレ中は俺が、この身体を動かすという役割分担になった。
そして今夜も俺とアンリエットは、この街のギルドの闘技場を借りて、木製の模擬剣を使った戦闘訓練をしていた。お互いに剣を交わしながら、
「私、ローレシア様とナツのどちらが身体を動かしているのか区別ができるのです。どこで見分けていると思いますか」
「さあどこでしょう・・・歩き方でしょうか?」
「気品です。ローレシア様の動作には気品がありますが、ナツの動作には気品が足りません」
「なるほどそうでしたか。それではクールンで冒険者をしていた時は、わたくしの戦い方に気品が足りなかったということでしょうか」
「さすがに戦闘時に気品の違いはわかりませんでしたが、宿屋でのちょっとした仕草には違和感を感じておりました。魔法アカデミーでは、室内での勉強時間が多いため、冒険者の頃よりもちょっとした動作にお二人の違いがよく表れています」
「まあ、そうだったのですね。では学園ではローレシアの動きをよく観察して、いつかアンリエットも騙せるぐらいの完璧なコピーをしてみせますから、覚悟してくださいませ」
「それは楽しみです。頑張ってください、ナツ」
俺とアンリエットは、訓練をしながら雑談を楽しめるぐらいには、良好な関係を築くことができたのだ。
その次の朝、闇魔法クラスの教室でいつものようにクラスメイト達に囲まれて授業前の時間を過ごしていると、やがてチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
「今日は新しい仲間を紹介する、また編入生だ」
そして先生が一人の男子生徒を教室に案内した。
「今日からこのアカデミーに編入することになった、アルです。みなさんよろしくお願いします」
その男子生徒は長身かつスマートな体形で、金髪碧眼のイケメンだった。かなりの美形であり、クラスの女子生徒たちが一斉に黄色い声を上げたほどだ。
そのイケメンのアルが、なぜか俺の方を見て微笑みかけてきた。ローレシアの知り合いか?
(ナツ、あれが第4王子アルフレッドよ。この前は認識疎外の魔術具が働いていて、顔がわからなかったと思うけど、彼がそうよ)
(あいつが第4王子か、すごいイケメンだな。確かに王子って感じだよあれは。そうかアイツ、ローレシアを追ってこの学校に転入してきたんだ。どうする?)
(そうですね・・・。まずは彼と話をしてみましょう。彼の本当の目的もわかりませんしね)
(このまま君に彼の相手を任せても大丈夫か。よければ俺が代ろうか?)
(・・・いいえ、彼との付き合いは長いので、わたくしが直接話をしてみます)
そうして俺は対応をローレシアに任せて、ひとまず静観することにした。
自己紹介が終わったアルフレッドは、先生に指示されて教室の空いている席、つまりローレシアの隣に座ることになった。アルフレッドは正面を向いたまま周りに聞こえないような小さな声で、
「ローレシア、君と二人だけで話がしたい。次の休み時間、アンリエットのいない場所で話をする機会を、この僕にくれないか」
「・・・この前のアンリエットの反応を考えると、ゆっくりお話をするにはその方がよさそうですね。わかりました、その提案に乗りましょう」
「ありがとうローレシア・・・」
そして休み時間、アルフレッドと2人だけで話をするために、さっそく校舎裏に移動する。
【ワームホール】
アルフレッドが魔法を発動させると、俺たち二人の身体を闇の球体が包み込み、校舎裏まで一気に運んでしまった。
すごい、これがワームホールか。この王子はすでにワームホールの使い手だったんだ。
俺は魔法にひたすら感心していたが、ローレシアは特に感情を表すこともなく、平然と王子の正面に立った。
「ローレシア、まず最初に謝らせてくれ。第3王子エリオットの行いを止めることができず、君を助けられなかったことを改めて謝罪したい。本当に申し訳なかった」
アルフレッドはローレシアに深々と頭を下げた。
「頭をお上げください王子。わたくしはあなたに対しては何も怒っておりません。あなたのお立場で変に口を出してしまうと、第3王子やその母である王妃との間に無用の衝突が生まれていたでしょう。だからわたくしは、あの時に軽率な行動を慎んだあなたの判断は正しかったのだと理解しています」
「そうではないのだ、ローレシア。あの時、側近に止められていたとはいえ、君を見捨ててしまったことを僕はひどく後悔した。そして間もなく修道院で君が暗殺されたことを聞いて、僕は自分自身を呪った。あの時に君を守っていれば・・・君を失うことはなかったのだと」
「アルフレッド王子・・・」
「だから君が暗殺を逃れて生きていると聞いた時には神に感謝したんだ。この奇跡を絶対に無駄にしない。命に代えて、もう二度と君を離さないと神に誓った。ローレシア、君を愛している。僕と結婚してほしい」
「それは・・・」
「王妃や第3王子などもう敵に回してもいい。僕が必ず君を守るから一緒に王国に帰ってくれ」
「・・・いけません。もしそんなことをすれば王国に混乱を招き、下手をすれば無用な血が流れるかもしれません」
「しかし!」
「第3王子の背後にはキュベリー公爵がいます。公爵は罪を捏造してでもわたくしを王家から排除しようとしました。あれほど強引な手を使うほどですから、わたくしが王都に戻れば必ず動き出すに違いありません」
「くそっ・・・キュベリー公爵のヤツめ」
「だからわたくしのことはもう諦めて、王都へお戻りください」
「しかし僕は神に誓ったんだ。もう二度と君を離さないと」
「それでもわたくしは、二度と王都へは戻りません」
「・・・・わかった。では僕が王族をやめて君の騎士になる。そうすればいつも君を守ることができるし、何の問題もないはずだ」
「問題しかございません! 王族が勝手にそのようなことを行えば王族の権威が損なわれて国が乱れます」
「だが君をそばで守るためには、それしかないんだ。結婚してくれなんてもう言わない。せめて騎士として、近くで君を守らせてくれ。それが僕の一生の願いだ・・・頼む」
そう言うとアルフレッドは静かに跪いて、ローレシアに臣下の礼をとった。
「おやめください、アルフレッド王子。王族がそのような真似をしてはなりません」
「僕はもう王族ではない。ローレシアの騎士・アルフレッドだ」
何を言っても考えを曲げないアルフレッドに、ついに根負けしたローレシアは、
「・・・わかりました。それではこの学校にいる間はわたくしの護衛をお任せすることにいたします。でもわたくしはこのまま王国を離れて国外に移住するつもりです。その時には大人しく王国にお戻りください」
「いや大丈夫だローレシア。僕は移住先でもどこでも君について行くよ」
「・・・はあ。もう勝手にしてください」
次回、アンリエットの想い
ご期待ください




