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第21話 魂のスイッチ

 研究室に入るとすでにマリエットが待ち構えていて、昨日預けた死者召喚の指輪を手渡された。魔法陣の設定がうまく行ったようだ。


「いい、この無属性魔法「チェンジ」には特に呪文はないの。ネクロマンサーとしての資質とブライト家秘伝の魔法陣があれば簡単に使えるのよ」


「ネクロマンサーの資質なんか、わたくしにもあるのでしょうか」


「あるわ。昨日の水晶玉にはっきりと出ていたから。それじゃあ、今渡した指輪を指につけてちょうだい」


 俺が指輪を指にはめると、光を失っていたはずの指輪がほんのりと輝き出した。


「指輪があなたたちの魔力に反応したようね。では次に、頭の中で二つの魂が身体を入れ替えるイメージを思い浮かべて「チェンジ」と唱えて見てくれる」


(まず俺からやってみるから、成功したらローレシアも試してみて)


(わかりました)


 俺は自分の魂とローレシアの魂をイメージする。魂と言えばお化け屋敷の火の玉だ。ローレシアは赤、俺は青の火の玉にしてみたがこれでいいのかな。そしてこの身体は巨大ロボだ。今コックピットには俺の魂、つまり青い火の玉が座っている。これを赤い火の玉にして、



 【チェンジ】



 あれ? 何も起きない・・・。


 魔法は失敗したのだろうか。 




 だが俺の意思とは無関係に両手が勝手に動き出して、頬を軽くつねった。イタッ・・・。


「動かせる! わたくし自分でこの身体を動かせるようになりましたわ!」


 ・・・そうか。魔法がうまく作動して、今この身体はローレシアが動かしているんだ。


(ローレシア、魔法がうまく行ったみたいだな)


(ありがとう・・・やっとわたくしが自由に行動できるようになりました。・・・うれしい)


 ローレシアのうれしそうな気持ちが俺の方にあふれかえってきた。やはり、自分で自由に行動できないのはとても辛かったんだろう。


(そうだ。当分はローレシアが身体を動かしているといいよ)


(本当にいいの?)


(ああ構わない。これからはいつでも交代できるんだし、この身体を動かす感覚に少し慣れておいた方がいいと思う)


(あら、どうしてですの?)


(ローレシアが生きていた頃と違って、筋力が桁違いに強くなっている。ただ歩くだけでも以前の感覚とかなり違うと思うぞ)


(そこまで違うのですか)


(じゃあ、試しに歩いてみてくれ)


(歩くぐらい簡単・・・)


 ローレシアが一歩踏み出すと一歩目から勢い余って前方につんのめり、そのままバランスを崩して床に顔面から倒れ込んだ。


(痛ったーーっ! だから言っただろ、ローレシア)


(何これ? ・・・わたくしの身体が別の何かになったみたい)


「ローレシアお嬢様! 大丈夫ですか」


 アンリエットが慌ててローレシアを助け上げた。


「ありがとう、アンリエット。わたくし久しぶりに自分の身体を動かしたので、まだ慣れていないのです。少しリハビリが必要ですね」


「まあ、それでは本当にローレシアお嬢様自身が身体を動かされているのですね」


「ええそうよ。こうしてあなたと直接お話をするのも随分と久しぶりな気がするわね」


「お嬢様! おかえりなさいませ」


「ただいま。アンリエット」


 アンリエットはローレシアに飛びつくと、嬉しそうにローレシアの身体を抱きしめていた。






 そうして午後は、マリエットの研究室で「チェンジ」の練習とローレシアのリハビリに当てた。


 ローレシアも「チェンジ」の魔法がすぐに使えるようになったが、もっとスムーズに身体を切り替えられるよう、俺たちは何度も練習を繰り返した。


 その時にローレシアのイメージを教えてもらったが、彼女は俺たちの魂を男女の人形に、この身体は白い馬の人形に模していて、馬の背中に人形を乗せ換えるイメージを持っていたようだ。全く異なるイメージなのに魔法の効果が同じなんて、魔法の仕組みってどうなってるんだろうな。


 そんなことを考えていると、不意にローレシアが話しかけてきた。


(ねえ、ナツは何の迷いもなく「チェンジ」を使ってしまったけど、わたくしが「チェンジ」を唱えずに、ナツに身体のコントロールを渡さなくなることは疑わなかったのですか)


(・・・そうだな。確かにその可能性もあったが、もしそうなっても俺は別に構わないと思っていたんだ。この身体はもともと君のものだし、俺はそのおまけとして生きていければいいかなと)


(ナツ・・・)


(でも、君はそんなことをしないとも確信していた。まだ知り合ってたった2か月だけど、君がどんな女の子なのかを俺はよく知っているつもりだ)


(わたくしのことを信じてくれたのですね・・・・。ありがとう、ナツ)




 その日はしばらくローレシアのリハビリを行って、聖属性魔法の習得は明日から頑張ることにした。


 帰りもリハビリを兼ねてローレシアが歩いて学生寮まで帰ることとなったが、帰宅途中で下腹部にいつもの違和感が生じてしまった。


(ローレシア、今日からは自分でできるな)


(ナツのバカ! 女性にそんなことをいちいち聞かないでください)


(でもこれでようやく、死にたいくらいの恥ずかしさが緩和されるんじゃないか。俺はいつも申し訳なく思っていたので本当によかったよ)


(・・・そう、あなたにもご迷惑をおかけしていたのなら、申し訳なかったわね。わかりました今日からはわたくしが自分でがんばります)


「アンリエット、今からお花摘みに行きませんか」


「はいお嬢様、それでは早く学生寮に戻りましょう」


 そうしてローレシアはアンリエットと手をつないで、足早に学生寮へと帰って行った。






(・・・死にたくなるほど恥ずかしい)


(・・・・・)


(ごめんなさいね、ナツ。身体のコントロールを取り戻せても、わたくしの羞恥心と絶望感は以前と何も変わりませんでした)


(・・・考えてみればそうだよな。この身体を二人で共有している限り、状況は何も変わらないからな)


(ええ、むしろ自分の意思でする方が、余計に恥ずかしいことに今気が付きました。これなら従来通りあなたにお任せした方が・・・)


(あの、一つだけツッコミを入れたいのだが、いいかな)


(はい、なんでございましょうか?)


(いつまでもアンリエットにお願いするのではなく、ローレシアが自分でできるようになった方がいいのではないか。もう侯爵令嬢ではないのだし、そろそろ自立した一人の人間になるべきだ)


(確かに! その発想はございませんでしたので、次からはその方向で励みとう存じます)

次回、闇魔法クラスに新たな編入生が


ご期待ください

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