第194話 新しい家族
「お、お義母様っ! その話は本当なのですか?」
アナスタシアからのまさかのおめでた報告に思わず聞き返してしまったが、彼女は頬を少し赤く染めて、
「ネオンに診ていただいたので、確かです」
「お相手は・・・」
「もちろんイワンに決まっています」
俺がイワンの方に目を移すと、気まずそうにサッと目を反らせやがった。相手はこいつで間違いない。
「で、ですよね。お義父様とお義母様、おめでとうございます・・・オホホホ」
(お母様のバカーッ! 戦いの最中にお父様と何やっているの! 恥ずかしくて死んでしまいそうよ!)
(さすがにこれはちょっと・・・。だけど、いつの間にそんなことに)
(・・・想像したくもありませんが、時期的に考えてアージェント王国にいるころ、たぶんポアソンビーチが怪しいですね)
(・・・そういえばあの二人をビーチではあまり見かけなかったが・・・まさかあの時っ!)
(嫌ーっ! もうっ! もうっ! もーーーーっ! お母様のバカーーーッ!)
ローレシアの絶叫はもちろん俺にしか聞こえず、彼女を必死になだめている俺の姿が困惑しているように見えたクロム皇帝は、俺を元気づけようとして、
「ナツ、実に喜ばしい話でないか。このことは早速夜の舞踏会で発表することにしよう」
「舞踏会で発表・・・ガクッ」
そして両家の話し合いが滞りなく終了すると、俺は自分の部屋に戻って舞踏会のための衣装に着替える。ドレスに一切興味のない俺はローレシアと身体の操作を交代した。
【チェンジ】
ローレシアは俺の部屋で待っていたリアーネに先ほどの両家の話し合いの結果を伝え、リアーネがアスター家の養子として迎え入れられること、皇族の人数を増やすためリアーネにも婿を取らせることを伝えた。
そして一通りの説明を終えると、ローレシアはアナスタシアに詰め寄った。
「いい加減にしてください、お母様! 先ほどどれだけ恥ずかしい思いをしたのか、本当にわかっているのですか!」
真っ赤になって激怒するローレシアに、しょんぼりとしたアナスタシアが、
「確かに恥ずかしいことかもしれませんが、出来てしまったものは仕方ないじゃありませんか。ずっと黙っているわけにもいかないでしょ」
だが仕方がないでは済まされないローレシアは、
「平時なら百歩譲って「お盛んですね」でギリギリ言い訳が立ちますが、勇者部隊の一員として最前線で戦っている最中に、しかも皇帝陛下のリハビリ中に一体何をしていたのかということです! このバカっ!」
バカと言われてさすがにカチンときたアナスタシアが逆ギレした。
「親に向かってバカとはなんですか、ローレシア! それにあなただって、イケメン王子を3人も侍らせてビーチでイチャイチャしていたではありませんか! あなたとやっていることは同じです」
「それはわたくしではなくナツがやっていたことですし、お母様はそれ以上のことをやっていたのでしょ。どうしてそんなことをするのよ・・・」
「だって、あんな水着を着ていたら、なんか無性に」
「待って・・・水着ってまさか、お母様たちは外で」
白目を向いて卒倒しそうなローレシアに慌てたアナスタシアは、
「・・・で、でもクロム皇帝もとても喜んでくれているし、あなたに新しい弟妹ができるのですよ。もっと素直に喜びなさい」
「どうやって喜べって言うのよっ! どうせステッドやフィリアみたいに、すぐにわたくしを殺そうとする変な弟妹ができるに決まってます! もうお母様たちに子育ては任せられません。そのお腹の子はわたくしが教育いたします!」
「そうね・・・今回の件で、わたくしもさすがに子育てには自信がなくなりました。ですので、これからは子作り一本で頑張らせていただきます」
「ま、まだ作る気なのっ?!」
あきれ果てて床にへたり込んだローレシアに代わって、リアーネがアナスタシアを祝福した。
「おめでとうございます、お母様! 今が一番大切な時期ですので、舞踏会ではあまり無理をせずお身体をいたわってくださいね」
「ありがとう、リアーネさん! ローレシアなんかと違って本当に喜んでくれているのね。うれしいわ」
そして二人は、本当の親子のように手を取り合って喜びあった。
その後なんとか気持ちを持ち直したローレシアは、メイドに舞踏会用のドレスに着替えさせてもらいながら、その隣で着替えるリアーネに話しかけた。
「これからは本当の姉妹になりますので、改めてよろしくお願いします、リアーネお姉様」
リアーネお姉様。
ローレシアのその言葉にキュンと胸を締め付けられたリアーネは、
「も、もう一回お願い!」
「リアーネお姉様」
「か、かわいい~! 妹、最高・・・」
久しぶりに妹バカが再発したリアーネは、興奮しながらローレシアに質問する。
「わっ、わたくしからは何と呼べば・・・」
目を血走らせてハアハアと息を荒くするリアーネにローレシアは、
「ではわたくしのことは呼び捨てか「さん」づけでお願いします」
「では・・・ローレシア・・・さん?」
「はい、リアーネお姉様!」
「くーーっ! さ、最高です・・・」
今回の戦勝により、妹ローレシアという最高の報奨を得た皇女リアーネだった。
それから暫くの間、興奮したリアーネに付き合って姉妹ごっこをしていたローレシアだったが、リアーネが少し落ち着きを取り戻したところで、フィリアに関する決定を伝えた。
「フィリアには、アルトグラーデスでのカルとの戦いの功績を認めて恩赦を与えることにしました。メルクリウス伯爵による監視を条件に、終身刑から国外追放処分に減刑いたします。併せて、将来フィリアが産む子供をアスター家の養子に迎え入れたい旨、メルクリウス伯爵への打診をお願いいたします」
「承知いたしました、ローレシアさん」
「・・・でもまあ、あんな薄気味の悪い娘をもらってくれる奇特な貴族がアージェント王国に存在すればの話ですが。このアイディアはクロムの発案ですけど、正直言ってわたくしは全く期待しておりません。あんな暗殺者など一生独身に決まっています」
げんなりした表情のローレシアにリアーネは、
「そうでしょうか。ローレシアさんはフィリアのことを、暗殺者気質のサイコパスだとおっしゃりますが、メルクリウス伯爵たちと共にこの皇宮で過ごしていた時の印象は、とても忠実な侍女という感じでしたよ。ローレシアさんやお母様に似てすごい美少女ですし、結婚相手などすぐに見つかると思いますが」
不思議そうにするリアーネに、
「ええっ! フィリアはこの帝都にいたのですか! しかもリアーネお姉様のいるこの皇宮に!」
「ええ。メルクリウス伯爵はずっと帝都を拠点に活動されていましたので、フィリアもここに住んでいましたし、ボランティア活動にも熱心に取り組んで帝都の臣民たちから慕われていましたよ」
「そんなことって・・・あの子、ソーサルーラの魔法アカデミーにもいたみたいだし、まるでゴキブリのようにどこにでも現れるのね。恐ろしい子・・・」
次回、舞踏会の夜
お楽しみに




