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第193話 結婚の決意

 終戦協定の会談が始まる少し前、俺はローレシア勇者部隊を集めてある決断を報告していた。


「わたくしローレシア・アスターは、クロム皇帝からの求婚を正式に受け入れて、ブロマイン帝国の共同統治者となることにいたしました」


 それを聞いたアルフレッドはひどく落ち込んだが、ランドルフ王子がアルフレッドの肩に手をやって、俺の話を最後まで聞くよう促してくれた。


 俺は二人の眼を見て軽く頷くと、その結論に至った背景を語った。


 カルや魔法戦部隊との戦いの痕跡は完全に消したものの、シリウス教と魔族を巡る神官総会で暴露された内容は既に外部に漏れてしまい、ゲシェフトライヒの商人たちの間で流布してしまっていた。


 経済の中心地で、商人たちのネットワークに流れた情報は、特殊作戦部隊の力を持ってしても消し去ることはもはや不可能なのだ。


 その結果、少しでも対応を間違えれば大陸全体を巻き込む新たな動乱が発生しうること、それを未然に阻止するためにはシリウス教関係組織の強力な連携と、カルによって明かされた7体の堕天使の血を引き継ぐ7つの家門の対立や分断を阻止し、融和を維持させる必要性を説いた。


「つまり大陸の平和のためにはこれからが本当の戦いとなるのですが、7家の融和を図るためには急いでやらなければならないことがあるのです」


「急いでやらないといけないこと?」


 ランドルフ王子が興味深そうに尋ねる。


「ええ。アージェント王国にはアージェント家、クリプトン家、メルクリウス家の3家が存在し、ブロマイン帝国にはランドン家が、東方諸国にはアスター家がございます。ですが残りネプチューン家とビスマルク家の2つについてはわたくしもクロム皇帝もその名前を見たことがございません」


 すると侍女長のマリアが、


「それなのですが、ステッドの魔法でわたくしたち侍女軍団が拘束を受けたことはローレシア様もご存知だと思います。そして私たちの多くは水や風の属性に強い魔力を持ってますし、それはアナスタシア様やあのステッドも同じ。つまり」


「東方諸国の貴族家の中に、残り2家の血が流れている可能性が」


「状況から判断してその可能性が高いと存じます。ただしその2つの家名にはわたくしも聞き覚えがございませんので、確かかどうかは図りかねますが」


「いいえ、それが分かっただけでも随分と違います。おそらく何らかの事情で家名は失われてしまいましたが、直系の血筋やもしかしたら固有魔法を密かに受け継いでいる家門が東方諸国のどこかにいるのかも知れません。マリアたち侍女軍団は親戚筋を辿って残り2家の情報を探しだしてください」


「承知しましたローレシア様」


「カルがやろうとしたように、魔族の存在を人々の前に具体的に見せることで、恐怖を煽り聖戦の名の元に人々を団結させることなど容易にできてしまいます。この状況で再びアージェント王国に敵意が集中しないよう、またクロムのランドン家にそれが集中しないよう、わたくしも積極的に前面に出ることにしました。そしてわたくしはシリウス教国とも関係が深いので、7家の祖先の誕生の地でありシリウス教発祥の地でもあるシリウス教国とブロマイン帝国との橋渡しに成れればとも考えております」


 これは俺とローレシアの二人で決めたことだが、それを聞いた勇者部隊のみんなは、俺とクロム皇帝の結婚を納得してくれたようだ。


「ナツ、キミの決意はわかった。キミを僕のものにできなかったのは残念だが、それでも今後もキミのそばに仕えて力になりたいんだ。それぐらいは許してくれるかいナツ」


 アルフレッドが変わらぬ優しい笑顔で、俺に語りかけてくれる。


 でも俺には、アルフレッドが少し無理をして表情を作っているのがすぐにわかった。俺は少し泣きそうになりながら、それでも頑張って笑顔を作ると、


「もちろんです、アルフレッドさえよければ喜んで。あなたはわたくしの一番の親友ですので、これからも変わらぬお付き合いをさせて頂けると本当に嬉しい」


 アルフレッドは俺がこの世界に転移して初めてできた男友達であり、俺は彼を親友だと思っている。


「そうだな。僕たちは固い友情で結ばれた親友同士、これからも助け合って行ければ、これほど幸せなことはないだろう」


 アルフレッドも俺のことを親友と言ってくれた。俺は心からの笑顔で彼と固い握手をすると、ランドルフ王子もそれに加わって、


「俺もナツと結婚できなかったのはとても残念だが、男同士の友人としてこれからも仲良くしてほしい」


「こちらこそランドルフ王子。それからソーサルーラの大聖女は今後も引き続き務めさせていただきますので、改めてよろしくお願いいたします」






 その後の終戦協定会談が滞りなく終了し、続く皇宮広場の式典では二人の最高位の神官立ち合いのもと、ランドン=アスター帝国が正式に成立した。


 そして夜に開催される舞踏会の準備をするために、勇者部隊のみんなはそれぞれ与えられた客室に分かれて行ったが、俺とクロムは自分達の家族だけを集めた小さな会合を持った。


 アスター家とランドン家の初顔合わせだ。


 ランドン家は帝国名門貴族の一つで分家も含めるとかなり大きな家門であったが、本家は驚くほど人数が少ない。クロムが皇位を争う際に暗殺事件が発生してクロムの母親とその兄であるランドン家当主など主要な親族が殺されてしまったそうなのだ。


 そのため今はクロム皇帝がランドン家当主も務めており、本家筋として残っているのはすでに引退している年老いた祖父母夫妻と、皇帝候補をクロムに一本化するため早くに皇位を辞退した実姉妹の二人だけだ。


 アスター家もランドン家同様、分家はたくさんいるのだが本家筋になると俺とイワンの二人だけになってしまう。そのためこれを機会にアナスタシアをイワンと復縁させて、この3人を新帝国のアスター側皇族とすることにした。


 たった8人だけの顔合わせだが、クロム皇帝から今後の皇族の方針が語られた。


「見てのとおり、新帝国の皇族はランドン家が5人、アスター家が3人という少なさだ。さすがに皇族の数が足りんが分家を野放図に皇族にするのも本末転倒。ゆえにブロマイン家の血筋とはなるが、リアーネとマリンの2人を皇族として働かせることとしたい。あいつらは帝王教育はしっかりと受けており即戦力になるからな。マリンはランドン家の養子として引き受けるから、リアーネはアスター家の方で引き取ってくれ」


 確かにうちの分家は今でこそ俺に絶対服従だが、もともとはローレシアを排除しようとしていた奴らだ。ランドン家の分家も似たようなものなら、確かに皇族には相応しくない。


 リアーネを見ていれば、その差は歴然だからな。


 リアーネを養子に引き取ることについては、ローレシアもアナスタシアも乗り気そうなので、俺は二つ返事で了承する。


「それは願ってもないこと。もとよりリアーネ様はわたくしの姉のような存在でしたので異存ございませんし、本当の姉になっていただけて嬉しい限りです」


「それはよかった。リアーネのことは頼んだ」


 クロムとリアーネはガチのライバルだったらしいから、いまさら姉弟の関係など気まずいのだろう。


「養子のことはいいとして、両家の共同統治とはどのように行うのでしょうか」


 俺の最大の関心事はそこだった。


「アージェント王国を手本にする。あの国はアージェント一族とクリプトン一族が実質的に共同統治をしており、我が帝国もそれに倣う形となる。まずは帝国の内政と外交に分けて分担することから始めよう」


「承知しました。ではわたくしはどちらを担当しましょうか」


「そうだな・・・余が内政を担当するので、ナツには外交をお願いしたい。東方諸国やアージェント王国、シリウス教国との関係は余よりもそなたの方がスムーズに事が運ぶだろう。それに軍事もそなたに任せる。なにせ帝国最強の勇者様だからな」


「承知いたしました。軍事と外交ならわたくしもなんとかなりそうですので、微力を尽くしとう存じます。ではいつからこちらに参りましょう」


「余としては今すぐにでも嫁いで来て欲しいが、そなたはまだ学生であろう。正式に結婚するのはそなたが成人を向かえてからで構わん。だが女帝としての職務はすぐにでも始めて貰いたい」


「ではわたくしたちの結婚式は、アカデミー卒業後の春に行いましょう」


「ああ。春が待ち遠しいな、ナツ」




 それから話し合いは所領や臣下へと話題が移った。イワンはアスター大公としてアスター王国の領地をそのまま所領とすることになり、臣下のハーネス公爵やブライト伯爵たちも爵位は伯爵を上限としつつ、領地もそのままの形で帝国貴族として叙せられることとなった。


 ランドン大公はクロム皇帝が引き続き兼任し、所領をヴィッケンドルフ家から接収した領地に移転した。


 また将来的に皇族の数をもっと増やすため、クロムの二人の姉妹やマリンにも婿を取らせることがクロムから告げられた。


「余とナツも早く世継ぎを作らねばなるまいが、リアーネにも婿を取らせて世継ぎを作らせておいてくれ」


 子供か・・・。


 この俺もいよいよクロムとの間に子供を作らなければならないんだな。


 俺は頭の中は冷静なつもりだが、この話になると心臓の鼓動が勝手に高鳴ってしまう。身体が女性なのでどうしてもこういう反応なってしまうが、その影響がじわじわと俺の頭に及んでしまう。


 ていうかなんだよこれ、恥ずかしすぎる・・・。


 たぶん顔が赤くなってると思うし、クロムの方なんか恥ずかしくて、とても顔を向けられない。


 ローレシアは平然としているが、どうやって平静を保ってるんだろ。




 だが俺だけ子作りを頑張るのは絶対に恥ずかしいので、ここはリアーネにも早く結婚してもらって道連れになってもらおう。


 それにしてもリアーネの婿を誰にするか・・・アスター家の分家にはあまりいい人がいないし、一番まともなマーカスは妻子持ちのオッサンなので論外だ。


 俺がリアーネに釣り合いそうな相手を考えていると、アナスタシアが発言を求めてきた。


「あら、お義母様。リアーネ様のご結婚相手のことで何かおっしゃりたいことでも?」


 すると、


「皇族の数を増やすというお話ですが、実はわたくし妊娠しております。現在3ヶ月なのですが・・・」


 なっ、なにーーーっ!

次回、アナスタシアの発言の真意は


お楽しみに

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