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第190話 聖地アルトグラーデスの戦い④

 マイクロウェーブエミッション。


 カルが次に放とうとしているこの未知の魔法への備えはもちろんしていない。それに俺はワームホールを撃ったばかりで、これから魔法詠唱を始めてももう間に合わないだろう。


 無詠唱で魔法が撃てるという魔術具の利点を利用したカルは、連続して大魔法を放つことで俺たちを一気に畳み込むつもりらしい。


 大魔法は一度に大量の魔力を使うため身体への負担が相当あるものの、カルの魔術具なら自分の属性以外魔法も使えるし、魔石による魔力の上乗せもできる。


 だから多少の無理をしても、積極的なこの作戦を選択したのだろう。


 しかしこんな魔術具が古代遺跡にたくさん眠っているのだとしたら、確かにものすごい戦力になる。カルがアージェント王国に固執するのも理解できる。


 だが今はそんなことよりも、次の魔法への対処方法だ。魔法名から電波を使った攻撃だと思うが、電波を遮るためには確か・・・。




 【雷属性上級魔法・エレクトロンバースト】



 だが俺が考えるよりも先に、ネオンがその魔法を発動させた。


 彼女の魔法によって、カルと俺たちとの間を分断するように電撃のカーテンが構築されると、カルの魔法の発動と同時に電撃のカーテンが突然乱舞を始めて、謎の電波攻撃を吸収してしまった。


 そうか、これは電子レンジと同じ原理か!


「ばっ、バカな! 絶対に防ぐことのできないはずのこの魔法がどうして・・・」


 驚愕の表情のカルを嘲笑うかのように、ネオンがクスクスと笑った。


「カル、あなたっていろんな魔術具を持ってるようだけど、動作原理を全く理解せずに使っているでしょ。バカが使うとどんなに素晴らしい魔術具の数々も効果なしね。豚に真珠ってまさにこういうことを言うのよ。プークスクス!」


「・・・貴様は大聖女クレアっ! な、なぜ今の攻撃を防げたのか、早く理由を言え!」


「あなたなんかに教える義理はないわね。シリウス教を全く理解していないカル総大司教猊下」


「クソっ、人をバカにしやがって・・・」


「あのねカル・・・今私が何をやったかも理解できないあなたが古代ルシウス国の遺跡なんか見つけても、そこにある遺物を何一つ満足に使いこなせないでしょう。それどころか貴重な遺物もあなたにはゴミに見えて、下手をすれば捨てられてしまうかも知れません。悪いことは言わないから身の丈に合わない夢は捨てて私たちに降伏なさい」


「黙れクレア! 古代の魔術具に関しては、この私が世界で一番詳しいし、私以外に遺跡を所有する資格のある者も存在しない。貴様こそ遺跡の価値を知りもしないで、適当なことをほざくな!」


「いいえ、あなたは何も理解していないし遺跡の所有者としても相応しくありません。だってあなたが求め続けた古代の魔術具を作ったのは、あなたが最も憎んでいる堕天使スィギーンとその仲間たちなのよ」


「古代の魔術具を作ったのが魔王だと? ふざけるなっ! そんなこと絶対にあるはずかない・・・」


「信じる信じないはあなたの勝手だけど、あなたと師匠のミスト・クリプトンの夢の行き着く先は、自分が魔王になることなのよ」


「ウソだ!」





 戦いの最中に敵から言われたことを鵜呑みにするバカはいないし、クロム皇帝やネルソン大将たちもネオンの発言はカルを動揺させるブラフだと思っている。


 だがこれは真実だ。


 聖地アーヴィン大礼拝堂にあったあのエレベーターと地下の近代的な部屋を実際にこの目で見ていなければ、こんな荒唐無稽な話は信じられないだろう。


 だが、カルは明らかに動揺している。


 口では否定していながらも、何か引っ掛かるところがあるのかもしれないし、自分の夢の先が憎むべき魔王であることに精神的アレルギー反応を起こしているようにも思える。


 どちらにせよ、ネオンの機転でカルが集中力を欠いている今こそ、千載一遇のチャンスだ。


「アンリエット! 準備はできましたか?」


「ナツ、いつでも行けるぞ!」


「フリュオリーネ様はいかがですか」


「大丈夫です。まずはアンリエット様っ!」



 【系統外魔法・ゾンビ】



 毒殺されたローレシアを甦らせた死者召喚魔法の汎用版であるこの魔法により、アンリエットは先ほどデスによって殺した神官兵をゾンビとして甦らせた。


 そしてこの魔法は、ゾンビによって殺された死者もゾンビの群に加わるという外道魔法であり、6時間を経過するか術者のアンリエットが死ぬまで、ゾンビの増殖は止まらない。



 【土属性中級魔法・ゴーレム】



 それとタイミングを合わせるようにフリュオリーネもその魔法を発動させた。


 それはごく一般的なゴーレム魔法だったが、その召喚数が異常だった。この魔法を得意とするジャンでも一度に召喚できるのは50体が限度だが、彼女の場合は一桁違っていたのだ。



 ゴーレムマスター。



 300体を優に超えるゴーレムを召喚させてそれを指揮するフリュオリーネの姿は、まさにその言葉にふさわしい存在だった。


 かくして無限増殖のゾンビ軍団と生命なきゴーレム軍団が大挙して、敵魔法戦部隊全体を覆うバリアーが消失したこのタイミングで敵の中に攻め入ったのだ。


 そして一度敵中に侵入すれば、ゾンビは敵を殺すことで自己増殖するし、ゴーレムは術者の魔法によってその場で再生することができ、あたかも人体に侵入したウイルスのように敵組織を破壊する。


 これでようやく、当初の目標である敵の組織的戦闘行為の阻止が達成できた。圧倒的に人数の少ない俺たちが作り出せる混戦状態としてはこれが最善の方法だったが、その隙を作ったのはカル自身だ。


 最初に放ったライジングドライバーが失着となり、マグマの熱でバリアーを破壊されたカルは、魔術具による大魔法の連続発射を優先して、バリアーの再構築を後回しにした。


 次のマイクロウェーブ・エミッションを受けていれば正直ヤバかったかも知れないが、ネオンの魔法でこれを防ぐと、その言葉一つでカルの動揺を誘って隙を引き出してみせたのだ。




 一気に混戦状態にさせられたカルは、自分の失態に気付いて悔しそうに俺たちを睨み付けたが、すぐに表情を戻すと次の大魔法を放とうとする。


 そして浮かび上がってきた見慣れた魔法陣は・・・カタストロフィー・フォトンだ!


 古代魔術具によって放たれようとしているその破壊魔法は、自作のアポステルクロイツの指輪でブーストされたカル自身の魔力に加えて、魔術具に投入された魔石や、カルの近くにいる神官兵の魔力までも吸収してそのオーラを増大させていく。


 その魔力総量は、平時の俺に匹敵する。


 そしてカタストロフィー・フォトンは、魔力差が一定以上あれば通常のバリアーでも防げなくはないが、光という性質のため完全な防御方法がない。したがってワームホールで転移させるのが王道の対処法だが、光属性魔法ほど得意ではない俺の闇属性魔法では自分の魔力ほどもある光魔法を転移させることはできず、魔力の差分相当のダメージが残る。


 だがヤツがカタストロフィー・フォトンを撃って来た時の対処法は、事前に検討済みだ。


 実はアージェント王国では最近、光属性魔法専用のバリアーが新たに開発されたそうだ。俺はその特殊バリアーを使用すべく唯一使える彼女に指示を出した。


「フリュオリーネ様、例のバリアーを!」


「承知いたしました!」



 【無属性魔法・アンチ・ローレシア・バリアー】



 なんだとっ!


 アージェント王国は、俺と戦うためにこのバリアーを作っていたのかよっ!



 フリュオリーネが発動したその嫌な名前のバリアーは外部が鏡面で内部は真っ黒になっており、光の反射と吸収を随時切り換えられるリバーシブル構造でカルの光魔法を完全に防ぎきってみせた。


 そしてバリアーが消失して、再び視界に現れたカルはただただ茫然としていた。


「なぜだ! なぜさっきからお前たちには、古代魔法が一切通用しないんだ!」




 動揺が隠せないカルは、それでも諦めずに次の魔術具を発動させる。


 勝つために必死というか、気持ちの切り替えの早さとメンタルの強さには、敵ながら頭が下がる思いだ。



 【闇属性固有魔法・勇者召喚】



 カルがその魔法を発動させると、ゲシェフトライヒの神官総会の会場でクロム皇帝たちを転移させたのと同じ魔法陣がカルの頭上に展開し、二人の勇者を召喚させた。


「こ、ここはどこだバーツ・・・」


「どこだろうなレオンハルト・・・」


 召喚されたのは、あの裏切り者の勇者レオンハルトとバーツの二人だった。


 それに気付いたクロム皇帝が、


「ほう・・・貴様らか。よくも余の前にのこのこと、その薄汚い姿を見せることができたな。覚悟はできているのか!」


 クロム皇帝が二人を睨み付けると、皇帝の存在に気がついた二人が硬直した。


「く、クロム皇帝がなぜここにっ!」


「レオンハルト、皇帝陛下だけではないぞ! ここにはローレシアとその側近、他にも恐ろしく魔力の高いやつらがゴロゴロしている。早く臨戦態勢を取れ!」


 バーツがレオンハルトに檄を飛ばすが、


「・・・もう無理だよバーツ、僕はもうこれ以上は戦えない。十分な魔力が出せないんだよ!」


「くっ・・・実は俺もだ。全身に激痛が走ってもうこれ以上は動けん・・・降参しよう」




(なんだこいつらは・・・召喚されたばかりなのに、いきなりボロボロじゃないか。ひょっとして誰かとの戦闘中に無理矢理ここに転移させられたのか。だとしたら、一体何と戦ったら勇者二人がああなるんだよ)


(本当ですね・・・でも彼らの魔力は明らかに枯渇しているし、彼らのアポステルクロイツの指輪がくすんで輝きを失っています。ひょっとすると・・・)


(ああ・・・いよいよあの恐ろしい副作用が出てきているのかもしれない)

 



 勇者たちの疲弊した姿を目の当たりにしたカルは、憮然とした表情で、


「まさか二人とも、既に限界までその指輪を使ってしまったのですか! なぜそのようなことを・・・」


 慌てて後ろを振り返った二人は、


「カル総大司教猊下! どうしてここに」


「そんなこと決まっているでしょう! 私がお前たち二人に戦ってもらおうとここへ召喚したのです。それなのにもう戦えないとは一体どういうことですか!」


「召喚されたのか・・・だが我々はずっと魔族の部隊と戦っていて、すでに限界です。この指輪はお返ししますので、我々のことはもう諦めてください」


 そして二人が指輪を外そうとするが、


「ぬ、抜けないっ!」


 必死に指輪を外そうとする二人を見たカルは、


「その状態まで指輪を使ってしまったら、その指輪は魔力を絞りつくすまで絶対に外れない。ならば作戦は一つだな」



 【土属性固有魔法・ロボテック】



 その魔法が発動してカルの魔術具の一つが変形すると、人が搭乗できるような巨大なゴーレムが現れた。その腹部のハッチを開けて、中の座席に無理矢理勇者二人を乗せると、カル自身も胸から頭の部分にあるコックピットに乗り込んだ。


 そして巨大な魔剣を抜くと、クロム皇帝めがけてものすごい速度で突進した。だが、



 【無属性魔法・マジックシールド】



 俺は瞬時に二人の間に身体を滑り込ませると、バリアーを展開させて搭乗型ゴーレムの攻撃を阻止した。



 バギャーーーン!



 巨大な重量を持つ搭乗型ゴーレムの衝撃はものすごく、カルを弾き飛ばした反動で俺のバリアーも一撃で粉々にくだけ散った。


「ローレシア助かった・・・だがアイツの魔力は相当に強力だった。カルと二人の勇者の魔力が加算されているようで、そなたの魔力よりも強くなっている」


「なるほど、わたくしのバリアーを一撃で破壊できたのはそういうことなのですのね。ですが3人の魔力を合わせてもこの程度だとすれば、勇者の魔力の枯渇は相当深刻だということです」


 単純計算ならアポステルクロイツの指輪で倍増しても俺の魔力は3人の合計には及ばないはずだが、今の彼らにそこまでの魔力は感じない。


 なら俺は指輪で魔力をブーストして、彼らを圧倒するのみ。俺は指輪に魔力を込めた。





 搭乗型ゴーレムの重い巨体をようやく立ち上がらせたカルは、俺がアポステルクロイツの指輪を輝かせていることに気が付くと、


「ほう、まだその指輪を持っていたのですね。フフ、それはとてもいい指輪なので存分に使うといい。ではそろそろ攻撃再開と参りましょうか」


 そう言うとカルは、ゴーレムの巨大な魔剣に勇者の証である7色のオーラをまとわせると、クロム皇帝ではなく俺に向かって思い切り打ち込んできた。



 ズドーーンッ!



 俺も魔剣でその剣戟を受けると、返す刀でゴーレムの腹部めがけて思いっきり剣を叩き込む。



 ガッチーーンッ!



「かっ、硬い・・・」


 剣が完全に弾かれて痺れた手をオートキュアで回復させていると、間髪いれずにカルの反撃が襲い掛かってくる。それをギリギリのところで避けると、カルがニヤリと笑いながら、


「帝国史上最強とも噂される勇者ローレシアの実力も所詮はこの程度だったのですね。このゴーレムの実力はまだまだこんなものではありません。どんどん加速しますが、あなたはどこまでついてこれるかな?」


 カルの言うとおりゴーレムの速度はどんどん加速していき、戦いが進むにつれて俺もその速度について行けなくなってきた。しかも奴にはまだ余裕があるようで、俺の魔力切れを誘うように、絶妙のタイミングで俺のバリアーを破壊する。


 頻繁に魔力を出し入れさせることで魔力の消費を強制する、実に老練な戦い方だ。


 俺は他のみんなの状況をチラッと確認する。


 みんなは俺がカルとの戦いに集中できるように、敵の神官兵を近づけさせないよう戦ってくれている。


 敵と味方が入り乱れる大混戦の中で、戦線はかなり広がってしまっているが、みんなが無事であることを確認すると、俺はカルとの持久戦を覚悟をする。




 俺は腰につけたマジックポーションに手を伸ばして一気に飲みほすと再びカルに向けて攻撃を仕掛けた。バフを自分にかけ直して最大限まで加速し、ゴーレムの速度に対応する。


 だがゴーレムのスピードは天井知らずで増していき、ついには俺の対応限界に達した。


 そして敵の大剣が猛烈な速度で振り下ろされると、よけきれなかった俺の脳天めがけて、その大剣が迫ってきた。



 バギャーッ!



 俺のバリアーを粉々に粉砕した敵の大剣が、駒送りのようにゆっくりとしかし確実に自分に迫ってくる。スローモーションの景色の中で、自分の身体は鉛のように重く、身動き一つできない俺は目だけで大剣の動きを追う。


 ここで俺は終わるのか・・・。


 そう思った瞬間、俺の視界の中に誰かが割って入ってくると、カルの大剣をその魔剣で受け止めた上に、パワーで押し返してゴーレムを弾き飛ばした。


 マジかよっ!


 地面に座り込んでいた俺を、その人物は手を貸して立ち上がらせてくれる。


「た、助かりました・・・って、あなたはフィリア」


 そう。俺を助けてくれたのは、ローレシアを3度に渡って殺そうとしたあのフィリアだった。瞳孔を開ききったフィリアが不気味に笑うと、


「お姉様はまだ、ご主人様がお作りになられたアポステルクロイツの指輪を十分に使いこなせていません。ですからこのような無様なお姿をさらすことになるのです。みっともない姉などわたくしの邪魔でしかありませんので、このわたくしが本当の戦い方を教えて差し上げます。よくご覧になることね」


 そして、その魔法を発動した。



 【無属性固有魔法・超高速知覚解放】



 その途端、フィリアがまるで動画の倍速再生のようにその動き方が変わった。そしてそのパワーも数倍に跳ね上がり、ゴーレムと互角に戦い始めた。


「お姉様もわたくしの真似をなさって」


 俺はフィリアがやったのと同じように、その呪文を唱えた。




 【無属性固有魔法・超高速知覚解放】

次回決着


お楽しみに

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