第19話 聖属性魔法と魔法アカデミーへの編入
「少し長くなるから順を追って説明するわね」
「はい」
「まず、あなたたちの魔力についてだけど、光属性の弱い魔力しかなかったローレシアさまがどうして全属性の強い魔力を持つことができたのか」
「そのことはわたくしも不思議に思っておりました。どうして属性が増えたのでしょうか」
「実はローレシアさまには元々全属性の魔力が備わっていたのだけど、魔力の絶対量が少なすぎたために最も適性のある光属性しか発現しなかったの」
「もとから全属性が備わっていた・・・ではどうして突然魔力が増えたのですか」
「それがもうひとつの魂が持っている魔力なの」
「もうひとつの魂」
「これはいくつもの古文書に記載されている内容なので間違いないのだけれど、この世界の人間からは徐々に魔力が失われていて、代を重ねる度に子孫の魔力は祖先よりも小さくなっているの」
「それは何となく感じておりました」
「ところがこの世界にはある仕組みがあって、失われていく魔力を補充するために、魔力が豊富な人間の魂を異世界から取り寄せて、この世界に取り込んでしまうのよ」
「まさか! それが異世界転生・・・」
「異世界からの魂は普通、新生児の身体に憑依するのだけど、今回はたまたまローレシアさまの身体に憑依してしまった」
「どうしてそんなことが」
「死者召喚の指輪のせいね」
「この指輪が・・・」
俺は指にはめている、すでに光を失った死者召喚の指輪を見つめた。
「この指輪を使って、亡くなったローレシアさまの魂を召喚する際に、たまたま同じタイミングで異世界から転移してきた魂も呼び寄せられてしまったの。そしてほぼ同時にローレシアさまの身体に定着した。先に定着したのが異世界からの魂だったから人間として復活したけれど、もし順番が逆でローレシア様が先だったら、ゾンビになっていたかもね」
「えぇっ! ぞ、ぞ、ゾンビになってたかもしれなかったの、わたくし・・・」
「・・・まあその時はおそらく、もうひとつの魂は他の新生児に憑依し直して、ゾンビになるのはローレシアさまだけでしたが」
「・・・・・」
「それで、異世界から来た魔力の豊富な魂がローレシアさまの魂とともにひとつの身体に定着したために、もともとあった7属性が全て発現して水晶に強く反応したのよ。しかも聖女の適性まで持っていたから、第8属性である聖属性まで解放された」
「そういうことだったのですね」
「つまり結論を言えば、ローレシアさまはアンデッドではなく普通の人間、それも勇者と聖女を兼ね備えた最強の魔導師になる資質まで獲得したのよ」
「最強の魔導師!」
俺はその言葉に強い興奮を覚えた。これだよ、やっと異世界らしくなってきたぞ。
「あら、最強の魔導師に興味があるの?」
「それはもちろんございます。わたくし、いろいろな魔法を覚えて、早く強くなりたいのです」
「それはどうして?」
「わたくし、今まで一人では何もできずに、いつもアンリエットの世話になってばかりでした。でも、わたくしはもうアスター家の令嬢ではございません。冒険者として一人立ちし、逆にアンリエットを養っていけるだけの強さが欲しいのです。もしよろしければ、このわたくしに魔法を教えて頂けませんか!」
俺とローレシアの共通の望みを、思わずマリエットに言ってしまった。だがそれを聞いたマリエットは、
「もちろん、あなたたちには魔法を教えるつもりよ。でもそんな熱い気持ちを聞かされると思わなかった。せっかくだから、とっておきの魔法を教えてあげましょうか」
「ありがとうございます! それでとっておきとは」
「門外不出の聖属性魔法・・・」
「・・・聖属性魔法がここにあるのですか」
「実はあるのよ」
「さすが魔法アカデミーですね」
「・・・といっても、初級魔法の2つだけだけどね」
「初級魔法の2つだけ・・・魔法王国ソーサルーラの魔法アカデミーと言えば、魔法研究の中心地。そんな所でも聖属性魔法は2つしか知られてないのですか」
「ええ。聖属性魔法は系統外魔法で、ある組織が独占しているのよ」
「ある組織・・・誰が独占しているのでしょうか」
「悪名高いある教団よ」
「ある教団?」
「ここからはるか西の彼方にある、魔族崇拝の邪教徒の総本山。命が惜しければ近づかないことね」
(ローレシアはその教団のことを知っているのか?)
(いえ詳しくは・・・ただ、魔族崇拝の狂信者のことは聞いたことがあります)
(・・・そうか。あまり危険な宗教には関わらない方がいい。それより俺たちはここにある魔法を習得していこう。それでも時間は山のように必要だろうから)
(その通りですね、ナツ。わたくしたちはまず、この魔法アカデミーで多くの魔法を学んでいきましょう)
「マリエット、わたくしはこのアカデミーで魔法を学びとう存じます。お許し頂けるでしょうか」
「ええ、私がローレシアさまとアンリエットを学校に推薦してあげるから、明日からこの魔法アカデミーの学生として魔法を学べるよう編入手続を進めしょう。それから聖属性魔法については私が直々に指導してあげる。それでいいかしら?」
「よろしくお願いいたします!」
明日から学生か。まさかこんな展開になるとは思ってなかったけど、なんか楽しみだな。
「ちなみにその聖属性魔法とは、どのようなものでしょうか」
「このアカデミーで把握しているものは2つ。一つは一時的に生き物の成長を促進する魔法「グロウ」。もう一つは草木を枯らす魔法「ウィザー」です」
「グロウとウィザー! どういう風に使うのですか」
「聖属性魔法を使える人がそもそもいなかったので、実際の効果はよくわからないのだけれど、文献によると、例えば自分にグロウをかけると、一時的に自分の最盛期の肉体になって潜在能力を引き出せるとされているわね」
「すごい。一時的に最盛期の肉体に成長するのですね。ウィザーはどんな風に使うのですか」
「こちらは草木を枯らす魔法とされていて、文献によると、農地の雑草をうまく枯らすことで、作物の収穫量を増やすことができるようよ」
「雑草を枯らす魔法・・・。それって、アンチヒールと効果が似ていませんか?」
「確かに似てるわね。でもウィザーは動物には効かないようなので、攻撃魔法としてはむしろアンチヒールよりも使い勝手が悪いかもしれないわね」
「うーん・・・あ、ひょっとしたら魔力の消費量がアンチヒールより少なくて済むかもしれませんね。でもその2つでしたら、まずグロウを覚えようかしら」
俺はグロウの使い道を考えて、ふとあることに気がついた。だが俺の考えを察したローレシアが、それに待ったをかけた。
(ナツ、わたくしの胸を実験台にするのはやめてくださいませ!)
(気づかれたか。でもひょっとするといい感じに成長するかもしれないぞ)
(嫌です! そんな怪しい魔法の実験台にわたくしの身体を使用しないでください)
俺の心の中が恨みがましい感情で満たされていく。ローレシアさまが完全に怒っていらっしゃる。
(わかった! 絶対にやらないから、そんなに怒らないでくれよ)
(約束ですよ!)
「それからアカデミーではどんな魔法を教えて頂けるのですか」
「ローレシアさまは全属性なので、まずどの属性から勉強するか決めましょう」
「属性を選ぶのですか。うーん、光、聖ときましたので、次は闇でしょうか・・・」
「では闇属性クラスへの編入手続をとっておくわね。それともう一つ、無属性魔法ですが今のあなたたちが必要としている魔法があるの」
「わたくしたちが必要としている魔法・・・それはいったい」
「無属性魔法「チェンジ」よ。この魔法を使うと、あなたたち2人の間で身体の支配権をスイッチすることができる」
「そ、そんな魔法があるのですか!」
「ええ。もとはブライト家に伝わるアンデッドを制御するための魔法なのですが、原理として魂と肉体の切り替えを行うものだから、今言った効果がきっとあるはずよ。・・・たぶん」
「たぶん・・・」
「でもあなたたちがこれから生きていく上で必ず必要になる魔法だと思うから、これを習得するだけでもこのアカデミーに来た価値はあるはず。その死者召喚の指輪に必要な魔法陣を取り付けておくから、私に預からせてくれない。明日にはできてると思うから、放課後この研究室にいらっしゃい」
その後俺たちは、マリエットとともにアカデミーの事務室へ行き、編入に必要な手続きを行った。そしてアカデミーの生徒として登録され、制服と学生手帳を手渡された。明日から他の学生たちと共に授業を受けることになったのだ。
学生手帳には俺達が受けるコースが書かれていて、俺は闇属性魔法コース、アンリエットは火属性魔法コースだ。午前中はそれぞれのクラスに分かれて魔法の勉強を行い、午後はマリエットの研究室で無属性魔法「チェンジ」、聖属性魔法「グロウ」と「ウィザー」の3つの習得をする。
かなりハードなスケジュールだが、俺とローレシアの2人が力を合わせればきっと何とかなるだろう。
次回から、魔法アカデミーでの学園生活です
ご期待ください




