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第188話 聖地アルトグラーデスの戦い②

 最初に攻撃を仕掛けたのはローレシアの妹のフィリアだった。


 地下神殿から脱出する時から、俺の隣を走りながら詠唱していた彼女は、敵がこちらに気付くよりも先にその大魔法を放った。



【光属性固有魔法・カタストロフィー・フォトン】



 完全に瞳孔が開ききったその不気味な深緑の瞳から禍々しいオーラが溢れ出すと、獰猛な笑みを浮かべながら放たれたその閃光は、攻撃を受けたことすら認識できない刹那の間に、敵を蒸発させた。


 その威力も確かに衝撃的だったが、フィリアの唱えた詠唱呪文には本当に驚いた。


「これがカタストロフィー・フォトンの真の詠唱呪文でしたのね・・・」


 フィリアのおかしな発音でも、俺にはその呪文の内容が正確に聞き取れた。


 それは昔の子供向け魔法少女アニメに出てくる有名な呪文をただ適当に繋げただけの単純なもので、俺のような日本人には馴染み深くて覚えるまでもないが、この世界の人間には長くて難解な呪文となる。


 これを考えた奴はかなり頭がいいと思うが、俺のような大の男が唱えるにはかなり勇気がいる。ていうか普通に恥ずかしい。



「お義母様、その指輪にもカタストロフィー・フォトンを発動させるための魔法陣が刻まれています。すでに呪文はご存知だと思いますが、フィリアのように発音すればより強力な魔法が発動するはずです」


「承知しました。ではわたくしはしばらくフィリアの近くで戦いますので、その真似をしてみましょう」


 そんなアナスタシアの背後に突然敵が転移してくると、俺たちへ攻撃が加えられた。



 【無属性固有魔法・ホーリージャッジメント】



 ワームホールで転移してきたその男は、ニヤニヤ笑いながら硬直している俺たちに近づいて来る。


 ステッドだ。


 また性懲りもなく現れたこの男や一緒に転移してきた仲間たち全員の指には、カルの作った偽物のアポステルクロイツの指輪が光っていた。


「おほーっ! ここには一体何体の魔族がひしめきあってるんだよ。おお怖えぇ(笑) だがやっと巡ってきたチャンスだ。今度こそ油断せず、すぐに全員を殺してやる!」


 たぶんカルの魔法戦部隊の中にいたステッドたちはずっとこの機会を狙っていたのだろう。フィリアの魔法に即座に反応して奇襲をかけてきたのだ。


 そしてステッドがまんまと俺たちの拘束に成功すると、間髪入れずにその仲間たちが俺たちそれぞれの弱点属性の魔法を放とうとしていた。


 あまりの手際のよさに、このケースを相当練習したのだろうが、拘束を受けていないアンリエットがとっさに前に出てると、すぐにバリアーを展開した。


「出たなアンリエットめ・・・だがもう遅い。野郎共今すぐに魔法を撃て!」


 だが男たちが魔法を放つより先に、2人の女性がアンリエットの隣に並んだ。一番最初にホーリージャッジメントの拘束から抜け出したのは、アナスタシアとフィリアだった。


 そして3人のバリアーで、彼らの魔法攻撃を間一髪防ぎきると、アナスタシアが怒りの形相でステッドを睨みつけた。



「いい加減になさいステッド! 今日こそはあなたを処分いたしますので覚悟なさい」


「くそっ! 俺たちの先制攻撃を防ぎやがった・・・しかもクソババアが一番先に魔族の拘束から抜け出すし、フィリアまでなぜかここにいやがる。一体どうなってるんだっ!」


 想定外の出来事に焦るステッドを嘲笑うかのようにフィリアが高笑いを上げた。


「あーらお兄様、お久しぶりですね。相変わらず父親譲りのうだつの上がらないお顔をしてますが、見苦しのでこのわたくしの前から消えて下さって結構です。オーッホホホ!」


「フィリア・・・貴様っ!」


 この二人が真っ先に拘束から抜け出した理由は不明だが、アポステルクロイツの指輪によって次々と拘束を抜け出していく俺たちにアナスタシアが、


「ここはわたくしとフィリアで何とかします。あなた方は早くカルを!」


「承知しましたお義母様。それではフィリアもお気をつけて」


「別にお姉様のために戦うわけではありません。わたくしの愛するご主人様のために、若奥様に力をお貸ししているだけです。では若奥様、ここはフィリアに任せて先をお急ぎ下さい」


「承知いたしましたフィリアさん。あなたなら必ず役目を果たしてくることでしょう。期待していますよ」


 そんなフリュオリーネやクロム皇帝たちとともに、フィリアの先制攻撃から立ち直りつつある魔法戦部隊に向けて俺達は走り出した。






 さてこの場に残ったアナスタシアとフィリアだったが、ステッドと10名の男たちを相手にたった2人で戦いに挑む。


 魔剣を片手に前線で大立回りをしてバリアーを粉砕していくフィリアに合わせて、遠隔からの魔法攻撃で一度に大ダメージを狙っていくアナスタシア。


 二人の連携プレイが上手く機能して一人、また一人と男たちを倒していくアナスタシアに、フィリアは、


「あら? お母様はいつの間にそんなに強くなられたのでしょうか」


「そういうフィリアさんこそ随分と剣の腕が上がりましたね。戦うのが嫌いで騎士団の訓練にも全く出なかったあなたが、本当に見違えましたわ」


「当然です。だってわたくしは愛するご主人様に強くして頂いたのですから。森の魔獣なら瞬殺ですわ」


 母と娘が語らいながら男たちを翻弄して次々と葬っていく様に慌てたステッドは、


「このクソババア・・・ちょこまかと遠隔魔法で姑息な戦い方ばかりしやがって、男らしく真正面から剣で勝負しろ!」


 だがアナスタシアは涼しげな顔で、


「親への指図は一切許しませんし、わたくしが男らしく戦う理由もございません。それにあなたにはアスター王家簒奪の罪状がございます。あなたのお仲間とともにわたくしがこの場で処刑してさしあげます」


「バーカ、誰がクソババアなんかに殺されるかよっ。それに俺はこいつらの仲間でもなんでもねえよ。俺の手駒としてカルの戦力を一時的に借りただけだ」


 すると男たちも、


「我らカル聖女隊は、この命に代えて魔族を討ち滅ぼす使命がある。光の魔族よ覚悟しろ!」


「ば、バカ! お前らは勝手に会話に入ってくるな」


 なぜか焦り出すステッドにアナスタシアは、


「聖女隊って、どういうことかしら。ここにいる全員どう見ても殿方ですよね。ふざけているのですか、あなたたちは」


「そうだお前たち! 何をふざけたことを・・・」


 だが焦るステッドに男たちが駆け寄ると、


「僕たちはもう仲間だよステッド。君もカル総大司教猊下を受け入れて魂の浄化に励んでいるじゃないか。だから魔族でありながら僕たちと共に戦っている」


「そしてカル総大司教猊下の聖なるザマルトを体内に取り込むことで、僕たちの魔力はこんなにも増大したじゃないか!」


「このアポステルクロイツの指輪が何よりの証。僕らは栄光あるカル聖女隊だ! なあステッド」


「黙れっ! お前たちとこの俺様を一緒にするな! 俺はお前らのような修道院の孤児ではなく、名門貴族アスター家の長男ステッド様なんだぞ! 俺は本当は魔力が強いのにあんなカルのザマルトを・・・くっ、くそーっ! 思い出しただけで、身の毛もよだつ!」


 そんなステッドの言葉の意味を理解し、唖然として攻撃の手を止める母親のアナスタシア。


 それと対照的に妹のフィリアはほくそ笑みながら、


「ウフフフッ。お兄様ったらついに殿方ともそういう関係になられたのですね。女好きで昔から派手に遊んでおられたようですが、どうせ女の立場がどうなのかお知りになりたくてそのような行為に及んだのでしょう。本当にハレンチな男ですこと・・・」


「違うっ! 俺はそんなことは断じてしてない!」


「もうお隠しにならなくてもいいではありませんか。それでお兄様も入られたのですか、その聖女隊に」


「誰が入るかっ!」


 だが男たちは口々に、


「ここにいるステッドこそ、僕たちカル聖女隊の新しいリーダーだよ」


「悔しいが、今の総大司教猊下はステッドにすっかり夢中で、毎晩のように寝室に呼ばれる彼の後ろ姿を、僕たちは悔し涙で見送っているのさ」


 屈辱と怒りで顔を真っ赤にしたステッドは、


「お、お前たちはもう黙れーっ! くそっ、こんな話を家族に知られるなど、なんという恥辱!」


 だが男たちはステッドの怒りに怯むどころか、


「家族か・・・僕たちは全員孤児なので、総大司教猊下との特別な関係を自慢したくても、聞かせる家族がいないんだ。そうか、これが家族との語らいか」


「アホかーっ! こんな恥辱に満ちた家族の語らいがこの世にあってたまるか!」





 カル聖女隊が言い争いを始めたが、そのあまりにもはしたない内容に耳を塞ぎたいアナスタシアは、


「あなたの現状はよく理解できました。ですがシリウス教の教義では、魔力保有者による同性同士のそのような行為は固く禁じられているのは、シリウス教会の神官兵になったあなたなら、当然承知しているはず。シリウス経典に基づきここで処刑されるか、奴隷の身分に堕ちて死ぬまで人々に奉仕するのか選びなさい」


「だからうるせえって言ってるだろ、クソババア! ここでお前を殺して、カルのやつもついでに殺して、とっとと家に帰る! 俺を待っててくれている極上の奴隷女がいる我が家へな!」


 その時アナスタシアからブチッと何かがキレる音がしたのを、フィリアは聞いた。


「奴隷女ですって! あなたという人間は、一体どこまで落ちぶれれば気が済むのでしょう。高貴なアスター家の血筋を奴隷女に与えるなど断じて許すことはできません!」


 完全に怒り狂ったアナスタシアはアスター家の名誉と誇りのため、目の前にいるこの愚か者を確実に消滅させられるよう、持てる魔力の全てを振り絞った。


 そして隠された魔力を求めて内に秘めた何かを探り当てると、アナスタシアの視界が突然緑色に染まっていった。そう、ついに自分の深淵に眠る魔力の鉱脈を見つけたのだ。


 アナスタシアの瞳孔が開ききって深緑の瞳から禍々しいオーラが流れ出すと、同じ状態のフィリアから、


「まあ、お母様ったらなんて恐ろしい形相を。それでは本物の鬼ババアですわ」


「フィリア、あなたにだけはそれを言われたくございませんが・・・フフフッ、これほどの魔力がこのわたくしにも備わっていたのですね。さあフィリアさん、この愚かで汚らわしい男を血祭りにあげますわよ!」


 そして二人は魔剣を白く輝かせると、ステッドとその仲間たちに斬り込みながら、魔法の詠唱を始めた。唱えるのはカタストロフィー・フォトン。


 どんどん増大していく2人のオーラに、ステッドと聖女隊(男)は目を大きく見開いて硬直した。


「僕たちもかなり魔力が高くなったと自信を持っていたが、この二人の魔力は化け物!」


「ひーっ! ぼ、僕はまだ死にたくないっ! せめて最後だけは総大司教猊下の胸の中で・・・」


「アホかお前らは。下らないことを言う暇があったら早くバリアー全力展開しろ。そうだな・・・もし生き残ったらこの俺がお前らにも女の良さを教えてやる。俺の奴隷女を貸してやるからそいつで勉強しろ!」


「女・・・す、ステッドがそこまで言うのなら勉強してみようかな。その奴隷女を僕にも使わせてくれ」


「ぼっ、僕もっ! 死ぬ前に女がどんなものか知っておいきたい。じゃあ生き残ったやつで順番に勉強だ」


「そうだ。俺の女で勉強したい奴は、死ぬ気で攻撃に耐えるんだ。死んだら勉強できねえぞ」


 目の色が変わった聖女隊は二人の剣撃を退けると、魔力を振り絞って全力のバリアーを完成させた。


 同時に、ステッドたちの会話を聞かされ顔をひきつらせたアナスタシアは、フィリアともに少し後方に下がるとその魔法の発動準備が整った。


 アナスタシアの手の先に、人生で初めて放つカタストロフィー・フォトンの魔方陣が禍々しく展開する。


「この下衆どもが・・・女を一体何だと思っているのよ! あなたはもうここで消滅なさい、ステッド!」


「本当に無様ですわ、お兄様。こんな兄がいることがご主人様に知られてしまったら、わたくしはきっと森に捨てられてしまいます・・・。だから死ねっ!」



【光属性固有魔法・カタストロフィー・フォトン】

【光属性固有魔法・カタストロフィー・フォトン】



 眩いばかりの2本の閃光が聖女隊を貫くと、辺り一面が真っ白に染まり、撃った本人たちを含めて全ての人間の視覚が奪われた。





 その後徐々に視力が回復して行くと、ステッドたち聖女隊のいた場所には何もなくなり、少し離れた場所で一人の男が倒れていた。


 全身に火傷を負ってボロボロに傷ついたその男に意識はなく、服は消し炭のように炭化して、その端正な顔は見るも無惨に腫れ上がっていた。


 だがその男がステッドであることは、アナスタシアとフィリアにはすぐにわかった。


 おそらく聖女隊のメンバーを女で釣ってバリアーを展開させて、全員を見殺しにした上で自分だけ逃げようという魂胆だったのだろう。


 だがその結果がこの無様な姿だ。


 どこまでも卑劣な男に、アナスタシアは懐にしまっていた拘束の魔術具を取り出すと、それをステッドに使用した。


「悪運強く生き残ってしまったこのバカ息子には、アスター王国に連れて帰って法の裁きを受けさせます。ここで死ななかったことを後悔するほどの厳罰が待っているでしょう。わたくしは後で追い付きますので、フィリアさんは先にみんなの所に行ってちょうだい」


「承知しましたわ、お母様。では愛するご主人様と若奥様のために、このフィリアは一仕事して参ります」

次回もおたのしみに

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― 新着の感想 ―
[一言] 有名な呪文といえば自称、美少女天才魔導士のお馴染みの呪文もあったりするのかな。
[一言] なんだこれはたまげたなぁ
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