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第178話 戦いの舞台は商都ゲシェフトライヒへ

 帝都ノイエグラーデス周辺では、正統政府義勇軍が二分しての同士討ちがまさに本格化していた。


 メロア騎士団がクラーク騎士団に奇襲をかけたことで端を発したこの戦いは、今や広大な平原全体で繰り広げられる激しい戦闘に発展し、両軍ともに多くの死傷者を生み出していた。その結果これまで同じ派閥としてともに歩んできた14家門が、互いに憎悪を燃やす関係となっていた。


 一方その戦場の遥か南方では、8万もの大軍勢が広範囲に軍事作戦を展開していた。


 この軍勢、これまで帝国貴族たちが魔族と蔑んで、聖戦の討伐の対象としていたアージェント王国の騎士たちであり、クロム皇帝の手引きによって帝国内を悠々と進軍すると、ヴィッケンドルフ公爵の生命線である補給路を叩いたり、帝都方面へと北上を続ける南海方面軍を牽制するなど、皇帝への強力なバックアップをしていた。


 そして帝都の北に目を向けると、そのクロム皇帝率いるアージェント方面軍12万がヴィッケンドルフ公爵領の領都ブラウシュテルンを完全に包囲し、籠城戦を始めた正統政府の摂政ヴィッケンドルフは、帝国の各地から呼び寄せた警察保安隊10万で守備を固めつつ、3方面軍の到着を待っていた。





 その正統政府の仮皇宮では、摂政ヴィッケンドルフのもとにシリウス教会総大司教のカルが訪れていた。


「ようやく摂政閣下への謁見をお許しいただき、閣下のお怒りも少しは収まったものとお見受けしますが」


「・・・なあに、まんまとネルソンにしてやられた、そなたの無様な顔を見てみたくなっただけのことだ」


 新たな奴隷女をあてがわれたマルク皇帝が部屋に引き籠っている中、代わりに玉座に座るヴィッケンドルフ公爵は、つまらなそうにカルをあしらった。そんな公爵に対し、穏やかな笑みを浮かべたカルが、


「閣下が勇者レオンハルトに騙されてマルク皇帝など担ぎ出さなければ、そもそもこのような事態にならずに済んだはず。この私も被害者だとお考えいただいて我々の間ではもう手打ちにしませんか。閣下もそうお考えだからこそ、私の謁見を許可されたのでしょう」


「手打ちか・・・ふん、よかろう。確かに猊下の言う通りシリウス教会の力を借りなければ少々たち行かなくなってきたのも事実だ」


 そして公爵はカルに状況を説明する。


「我々が籠城戦を戦っていることは猊下もよくご存じのはずだが、ここが城塞都市で守りが固いとはいえ、敵は帝国最強を誇るアージェント方面軍12万の大軍であり、警察保安隊10万だけ守りきるのはどうにも心許ない。3方面軍の援軍を待つにしても、北海方面軍が苦戦を強いられており、現状ここブラウシュテルンに回せる兵力がないのだ」


「要するに、この領都ブラウシュテルンの兵力増強のため、平民の兵士を徴用したいと。それで我々教会の力を借りたいというところですかな」


「・・・早い話がそう言うことだ。あまり期待してはいないが、南海方面軍が到着するまでの急場しのぎにはなるだろう。頼めるか?」


「もちろんシリウス教会は摂政閣下の味方ですので、ご要望には応じましょう」


「とにかく急いでほしい。数はどのくらい見込める」


「実は今、帝国全土の司祭たちを集めて新たな枢機卿を選定する神官総会を開くことになっています。その枢機卿の選考基準に徴兵した兵士の数を付け加えればすぐにでも敬虔な神官兵を徴用できましょう。300人の司祭がそれぞれ1000人の兵を集めれば、30万の神官兵の部隊が出来上がります」


「30万の神官兵だとっ! ・・・そ、それで、その神官総会はいつどこでやるのだ」


「明日、商都ゲシェフトライヒで・・・」





 アージェント方面軍の司令部には、特殊作戦部隊のネルソン大将が訪れていた。彼はクロム皇帝とヘルツ中将たち幕僚に、シリウス教会のカルが商都ゲシェフトライヒで全土の枢機卿を集めて、新たな枢機卿を選定するための神官総会を開催し、教会復活を狙っていることを伝えた。


「ほう、さすが特殊作戦部隊。よくそんな情報を入手できたな。そうか、やっとカルがブラウシュテルンの外に出てきたか。大人しく引き籠っていればもう少し長生きできたものを、シリウス教会を潰されることが余程堪えると見える」


「ええ。そこで我々特殊作戦部隊は、シリウス教会とカルを始末するために総会に乗り込むことにしたのですが、その際に陛下がご健在な姿もお見せした方がよろしかろうと思い、こうして参上しました」


「・・・そうだな。商都ゲシェフトライヒは我が帝国でも有数の大都市でもあり、その総会で余の健在を知らしめるのはちょうど都合がいいな。だがカルとしては当然、余が現れることを絶対に阻止したいはず。ゲシェフトライヒにのこのこ出掛けていって、返り討ちに会うことはないのか」


「そこは大丈夫です。彼らの防備態勢や罠の数々は全て丸裸にしてますし、我が特殊作戦部隊の精鋭とアージェント王国からも2名の手練れが陛下の護衛に付く手筈です」


「わかった、では余も商都ゲシェフトライヒに乗り込むとしよう。ヘルツ中将」


「はっ!」


「ブラウシュテルン包囲戦はそなたに任せる。マルクとヴィッケンドルフの首を見事上げてみせよ」


「承知しました皇帝陛下。ここは我々にお任せを」






 帝都へ向けて進軍を続ける東方諸国連合軍は、軍馬を休めるために一時休息をとっていた。その間司令部では王族たちが集まって臨時の軍議が行われていた。


 アスター王国の騎士団長として軍議に出席していたアンリエットは、隣に座るローレシアが自分の発言中に突然話を中断をして、背後に控えていた護衛のネオンと顔を見合わせながら、ずっと黙り続けていることに戸惑いを感じていた。


 軍議メンバーの王族たちも、ローレシアが後ろを向いたまま完全に黙ってしまったため、一体何が起きているのか理解できず、天幕の中はザワザワとざわめき始めた。とりあえず軍議を中断してこの場を鎮めようとしたランドルフ王子が、


「ローレシア女王陛下はどうやら連日の戦いでお疲れのようだ。アンリエット騎士団長、今日の行軍は中止にして、陛下を休ませるため天幕へお連れしてくれ」


「承知した、ランドルフ王子。・・・ではローレシアお嬢様、我々の天幕に戻って少し休みましょう」


 そう言うとアンリエットは、ローレシアを外に連れ出すために立ち上がったが、それと同じタイミングでローレシアが再び動き出した。


「アンリエット、わたくしなら大丈夫です。それから王族の皆様も軍議を中断させてしまって大変失礼いたしました。では軍議を再開いたしましょう」


 何事もなかったように振舞うローレシアだが、


「ですがローレシアお嬢様、お身体の調子は・・・」


「わたくしは平気です。それよりも皆様にお伝えしなければならない重大な情報がございます。ブロマイン帝国南部にある商都ゲシェフトライヒにおいて明日、シリウス教会総大司教のカルが帝国全土の司祭たちを集めた神官総会を開催するそうです。カルを討ち取る絶好のチャンスですので、わたくしはそちらに攻め込もうと思います」


 ローレシアの突然の発言に、司令部の王族たちは戸惑いを隠せなかった。


「そんな情報をどこで聞いてきたのだ。いきなりそのようなことを言われても、全く意味がわからん」


「左様。もうすぐ帝都に到着するというのに、突然作戦変更されると、将兵の士気に影響がでる」


「ちゃんと我々にも分かるように説明してもらおう」




 軍議は当然のように混乱し、王族たちはローレシアにことの真偽を問いただす。その時、後ろに控えていた護衛のネオンが一つ咳ばらいをすると、


「王族の皆さまにお話がございます。ローレシア女王陛下はたった今、シリウス神からご神託をお受けになられたのです」


「何! 神託だと?!」


 ざわめく王族たちにネオンは話を続ける。


「神は嘆いておられます。シリウス教会総大司教カルはシリウス教の教えを破った背教者であり、民を救うべきシリウス教会は今や邪神教団になり果ててしまったと。神は彼らを誅罰するため、ここにいる神使徒ローレシア様にそのお役目をお与えになられたのです。さあローレシア様、今こそのそのアポステルクロイツの指輪を王族の皆様にお見せするのです!」


 ネオンのその芝居がかった発言に何かを察したローレシアは、その純白の手袋を外して、指につけたアポステルクロイツの指輪を王族たちの前に見せた。


 ローレシアの魔力で満たされたアポステルクロイツ指輪が、虹色のオーラを発して優しく光る。


「おお・・・その指輪に描かれた紋章は、まさしく神使徒テルル様のもの・・・それがアポステルクロイツの指輪なのか」


「ローレシア女王がシリウス教会から神使徒として任命を受けたというのは聞いていたが、こうしてアポステルクロイツの指輪をつけたお姿を見ると、いや実に神々しい・・・」


 王族たちがその指輪に感嘆しているとネオンは、


「皆様、シリウス教会は邪神教団であり、彼らの作った指輪は真っ赤な偽物です! ローレシア様はカルから与えられた指輪などとっくの昔に叩き斬ってしまわれ、今つけているこの指輪こそが、シリウス神自らがお与えになった本物なのです」


 指輪の神聖な輝きに心を奪われていた王族たちは、ネオンの発言を疑うことなく信じ込む。


「神はおっしゃられました。背教者カルとそれに付き従う魂の汚れた司祭たち、そして悪の巣窟となり果てたシリウス教会を討てと! これは聖戦なのです! 神の使徒であるローレシア様を商都ゲシェフトライヒに送り出すのです!」


 その言葉に王族たちがローレシアの近くに集まると、こぞって神に祈りを捧げ始めた。そして片目でウインクをするネオンの合図にローレシアは、


「シリウス神の命により、これよりわたくしは商都ゲシェフトライヒへ向かいます。この軍の指揮はランドルフ王子にお任せしますので、連合軍はそのまま帝都ノイエグラーデスへ向かってください」





 ローレシア勇者部隊全員を集めた俺は、これから商都ゲシェフトライヒに向かうことをみんなに告げた。


「さっきわたくしの所に、帝国軍特殊作戦部隊工作員のアーネスト中尉から通信魔法で連絡があり、シリウス教会総大司教カルが商都ゲシェフトライヒで神官総会を開催するという情報提供がありました。絶好の機会ですので連合軍の指揮はランドルフ王子にお任せして、我々ローレシア勇者部隊はシリウス教会と戦いましょう」


 突然の俺の発言にみんな驚いていたが、帝国に巣くう諸悪の根源がシリウス教会と総大司教カルであることはすでに明白であり、それに異論を唱えるものは誰一人としていなかった。そしてアンリエットが、


「ローレシアお嬢様、ゲシェフトライヒまではどうやって行くのですか」


「アージェント王国で購入した携帯用の軍用転移陣を使用します。現地にはすでに特殊作戦部隊の工作員が乗り込んでいて、彼らの転移陣にジャンプできるよう設定も終わっているとのことでした」


「承知しましたローレシアお嬢様。それでは総員準備にかかれ。すぐにここを出発するぞ!」

次回、ゲシェフトライヒに到着したローレシアたちを待っていたのは・・・。


お楽しみに

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