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第176話 メロア騎士団との戦い

 レイス子爵の案内で要塞奥深くまで侵入した俺たちローレシア勇者部隊は、要塞中央の砦に設置されていたマジックバリアーの大型魔術具を見つけると、その砦ごと木っ端みじんに爆破した。


「周りの敵はどこかへ撤収したようですね。城壁のバリアーも完全に消えましたし、さっそくワームホールで城壁に穴を開けてみましょう」


 俺は闇属性魔法が使えるアルフレッドとランドルフ王子と一緒にワームホールで城壁を侵食させてみた。


 まずワームホールを2つ発生させて、片方の球体で城壁の岩石をえぐりとって、もう片方から排出する。これを連続して掘り進むため、本来の使い方より魔力の消耗が激しい。


 これを俺が半径2メートルぐらいの球体で掘り進んでいくのに対し、他の二人が同じようにやろうとすると数十センチぐらいの球体しか発生しない。


「すまないローレシア、僕たちにはキミと同じようにはできそうにない」


 申し訳なさそうに謝るアルフレッドに、


「元々わたくしは魔力が強い方でしたし、闇のティアラとアポステルクロイツの指輪がわたくしの闇の魔力を増幅しているのでこのようなことができるのです。お二人の球体は地面を整地するのにちょうどいい大きさですので、騎士団が通りやすいように地面近くの壁面や瓦礫を取り除いてくださいませ」


「そうだな・・・それも重要な仕事だな」


 そうして俺たちは、連合軍の前線が戦っている地点に向けて、城壁を掘り進みながら戻って行った。





 だが頑張って連合軍の最前線まで掘り進んだ結果、出来上がったのは道幅4メートルほどのトンネルに過ぎなかった。


 これだと大軍が進軍するにはあまりにも狭すぎて、城壁から騎士が出てきた瞬間を狙い打たれて、格好の餌食になってしまう。


「これでは全く使い物になりませんね。いっそ城壁を丸ごと消滅させるぐらいでないと大軍の進軍は不可能ですが、わたくしの魔力ではこの巨大な城壁を一つ消すごとにマジックポーションを3本は飲まなければなりません。そのペースで仮に要塞内の半分の城壁を消すとすれば・・・アンリエット、人間は一日に何本のマジックポーションが飲めるものなのでしょうか」


 俺がため息をつきながら暗算を始めると、アンリエットがそっと耳元で、


「ナツ・・・マジックポーションの本数以前に、この城壁を一つ丸ごと消すなんてことは、普通の人間にはできないんだぞ。最近ナツの感覚がずれているのか、発想が本物の魔族のようになってしまっている。ローレシアお嬢様の評判にもかかわるので、少しは言葉を慎んでくれ」


「まあ、わたくしとしたことが・・・。確かに最近は魔力を湯水のように使う作戦ばかりやっておりましたので、感覚が少し鈍っていたのかもしれませんね。ですが、この城壁は本当にどうしましょうか・・・」


 トンネルを拡張する作戦なんて、軍事行動というよりはもはや土木工事の範疇じゃないかと頭の中でツッコミを入れていたところ、連合軍の後方にいる部隊から伝令が駆け込んできた。


「女王陛下、後方の部隊が敵の奇襲を受けました! 2万以上の敵軍が側面から突如現れて、あっという間に我が軍が分断されてしまいました!」


「何ですってっ! 2万もの軍勢など一体どこに隠れていたのですか!」


 俺は斥候を放って、敵の軍勢がどこかに潜んでいないか慎重に確認しながら、ここまで軍を進めて来た。だから2万を超える軍勢なんか見逃すはずなかった。


「ローレシアお嬢様、我々前線部隊と後方の補給基地を完全に分断されてしまっては危険です。要塞攻略はこのまま彼らに任せて、我々アスター騎士団だけでも後方の救援に回った方がよいでしょう」


「そうですね。ではランドルフ王子、前線はお任せしますので、ソーサルーラ騎士団を中心に要塞の敵に圧力をかけ続けてください。わたくしはアスター騎士団を率いて後方の敵に対処いたします」


「承知した。ここは俺たちに任せて早く行け!」






 アスター騎士団を連れて急ぎ後方に向かうと、伝令の報告の通り、連合軍は完全に分断されて両軍が入り乱れての乱戦が繰り広げられていた。


「誰か戦況の報告を!」


 俺はここを指揮する王族を見つけて、状況を聞く。


「ローレシア女王っ! やっと助けに来てくれたか。敵は警察保安隊だ」


「警察保安隊・・・兵力は2万以上と聞きましたが、そんな大軍がどこに潜んでいたのですか」


「分からない。だが帝国貴族の騎士団と思われる一団が警察保安隊を指揮して、この乱戦状態を作り出してしまった。敵の動きから察するに、おそらくガートラント要塞の帝国軍と連動して我々を挟撃する作戦だ」


「挟撃・・・」




(ローレシア・・・完全にしてやられたな。俺たちが要塞の攻略に手間取っている隙に、敵は二手に分かれて俺たちの軍勢を二つに分断して、要塞との間で押しつぶそうということらしい)


(・・・ナツ、とても危険な状況ではないのかしら)


(だな。今の状況を整理すると、俺たち連合軍の前半分に当たる3万が倍の6万の敵に挟撃を受けていて、しかも片側が難攻不落の要塞になっている。ランドルフ王子たちは少し距離を取って要塞との攻防を繰り広げているが、軍全体が要塞側に押されるとランドルフ王子たちの部隊が一方的に蹂躙されることになる)


(そうですね。でしたら要塞は諦めて、前線の戦力もこちらの後方の敵に集中させましょう)


(いや、そうすると要塞から帝国軍が出撃してきて、俺たちは後背から攻撃を受けることになる。結局倍の敵を相手に2正面作戦を展開せざるを得ない)


(それなら一体どうすれば・・・)




 打開策が見つからないまま、ひとまずこの乱戦状況では魔法も使えないため、多少の犠牲を払いつつ一旦兵を引いて態勢を立て直した。


 そしてこの戦闘は夜になっても続き、将兵たちにも疲れの色が隠し切れなくなっていた。俺は仕方なく、ランドル王子に余剰戦力をこちらに回してもらうよう伝令を出した。


 しばらくすると、伝令が返事を持って帰ってくるよりも先に、ソーサルーラ騎士団全軍がこちらの戦場にやってきた。


「どうしたのですかランドルフ王子。たしかに援軍はお願いいたしましたが、ソーサルーラ騎士団を全てこちらに移動させて、要塞の方は大丈夫なのですか」


「要塞の方は他の王国の騎士団に任せても大丈夫だろう。敵は持久戦を考えているようで、要塞から積極的に打って出て攻撃をしかけてくる気配がない」


「まさか・・・それではせっかく挟撃がうまく行っているのに、チャンスを見逃すことになるのでは」


「こちらの戦場を見てハッキリ分かったが、今の戦況は帝国軍が意図して起こしたものではない」


「・・・とおっしゃいますと」


「敵方面軍司令官のエレット中将は、奇をてらった作戦をとらず堅実な用兵を好むことが、これまで戦いで確認できた。もし彼がこの状態を作り出したのなら、要塞から兵を出撃させて一気に片をつけるか、少なくとも我々を要塞から追い出して再び正門を閉じようとするだろう。だが彼は今のところ何のアクションも起こしていない」


「要塞にいるのは帝国軍、そしてここにいるのは警察保安隊と帝国貴族の騎士団。この2つの軍勢は連携が全く取れていない・・・」


「その可能性があったから、夜戦で後方の敵に攻撃を集中した方がいいと思い、ソーサルーラ騎士団を全て連れてこちらに来た。要塞の帝国軍に気付かれる前に目の前の敵を一気に叩くぞ!」


「承知しました!」





 ランドルフ王子の策により、要塞側には相応の戦力を残して継続的に攻撃を加えつつ、主力は密かに後方に戻して警察保安隊に対し総攻撃を開始した。


「総員、突撃っ!」


 俺の号令ともに総攻撃が始まると、これまで均衡が保たれていた前線の一部が崩壊した。そこにソーサルーラ騎士団の魔法攻撃を集中させ敵を分断していく。


「撃って、撃って、撃ちまくりなさい! そしてこのまま敵を分断しつつ前進。敵軍の向こう側にいるはずの友軍のところまで、敵を侵食なさい!」


 俺たち連合軍のど真ん中を分断した敵軍は、逆に言えば連合軍に挟撃を受けている戦形にはなっている。連携が全く取れていないので挟撃とは言いがたいが、彼らと合流できれば再び一つの軍隊として色々な作戦が取れる。


 一方、連合軍の突然の総攻撃により、激しい戦闘で疲労のピークに達していた警察保安隊は、一度前線の守りが崩れると、そこから雪崩を打ったように隊列が崩壊していく。そして勢いに任せた俺たちは、敵陣の奥深くまで軍を一気に進めた。すると、


「ローレシアお嬢様、前方に騎士団です! これまで警察保安隊に守られていたようで、無傷の軍勢が我々の前に立ち塞がっています!」


「それは強敵ですね。見たところ数千騎ほどの騎兵隊ですが・・・あ、あの旗は勇者アランの紋章! ということはメロア騎士団。なぜ彼らがここに」




(ローレシア、勇者アランの実家のメロア騎士団だ。主戦派貴族なんかたくさんいるはずなのに、なぜよりによって彼らが俺たちに向かってくるんだ。・・・彼らと戦うのは少し気が引けるな)


(そうね、勇者アランはわたくしたちの恩人。自分の命を捨ててまで、クロム皇帝とわたくしたちをダゴン平原の戦場から逃がしてくれた人ですからね)


(だよな・・・でもメロア騎士団は俺たち東方諸国連合軍と戦うために、この戦場に現れた)


(ええ。そしてナツ、あなたはこの東方諸国連合軍の将兵を率いる司令官です。だから個人の感情を表に出すことなく、冷徹に彼らと戦わなければなりません)


(もちろんわかっているよ。だから俺が弱音をはくのはローレシア、キミにだけだよ)




「我が連合軍の全ての将兵に告ぐ! 我々の敵は前方にいるメロア騎士団。敵軍を崩壊させるため、メロア騎士団長とその司令部を探して集中的に攻撃なさい。なお敵の強力なマジックジャミングにより属性魔法が一切使えませんので、魔力保有者は通常の武器を取って戦うこと。ただし、ローレシア勇者部隊とアスター騎士団、そしてソーサルーラ騎士団は・・・訓練通りにマジックバリアーを全力で飛ばしなさい! 総員、攻撃開始っ!」


 俺が命じた「バリアー飛ばし」という攻撃方法は、ダゴン平原でのブロマイン帝国とアージェント王国の戦いの中で、強力なマジックジャミング下でも使える魔法攻撃として、両軍ではよく知られるものだった。


 だが軍閥化の進んだ帝国では、アージェント方面軍以外にはこの攻撃方法があまり知られておらず、メロア騎士団も実戦では初めて見るようだった。


 そして今、数百以上にも及ぶマジックバリアーが、メロア騎士団の騎士たちに無情にも襲い掛かった。


「ぎゃーーーっ!」


「ぐわーーっ!」


「これはまさか魔法攻撃か?! この戦域にはマジックジャミングが効いているはずではないのか!」


「おい、バリアーが破られたぞ! 急いでバリアーを張りなおせっ!」


 混乱する敵に次々と撃ち込まれるバリアーの砲弾。バリアーとバリアーがぶつかって弾け飛んで、そして敵のバリアーが敗れた瞬間、その頭上に雨のように矢が降り注ぐ。 





 突然、連合軍の猛攻にさらされたカミールは、ひっきりなしに伝えられる伝令からの報告を、ただ呆然と聞いていた。


「そんなバカな・・・さっきまでは完全に勝っていたのに、なぜこんな展開になったのだ」


 だが何が起こっているのか理解できないカミールの視界にも、ついに連合軍の馬群の姿が見えて来ると、メロア伯爵から借りた騎士たちが次々と無残に倒されていく様子を目の当たりにし、初めて自分が敗北しつつある現実に頭が追いついた。


「この俺が負けるだと・・・嫌だ! 魔法アカデミー主席であるこのカミール・メロアが、東方諸国のような劣等国に負けるはずがない。俺はブロマイン帝国の名門貴族、メロア伯爵家の人間なんだぞ!」


 だがカミールがいくら大声で叫んでも、連合軍の攻撃は止まらない。


 何もかも自分の思い通りに行かない現実に、カミールは屈辱を感じつつも迫りくる死の恐怖には勝てず、ガタガタと震えながら全軍に指示を出した。


「ぜ、全軍撤退しろっ! この戦場はもう放棄して、ガートラント要塞に逃げ込むんだ!」


 側近は慌てて全軍に撤退命令を伝えようとするが、この深夜の乱戦では命令が行き届くわけもなく、ただ自軍を混乱させるだけだった。


 なかなか撤退が進まない騎士団に焦るカミールは、彼らを見捨てて自分だけ逃げだすことにした。


「俺はみんなに逃げるよう命令した。だがその命令を聞かずにここで戦死しても、それは俺の責任ではなく自己責任だ。俺は死にたくないし、絶対に生き延びてやる。俺は特別なんだ・・・ここで死んでいい人間ではないんだ・・・」

次回、要塞攻略戦決着


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これって誰も気づかなかったのは魔術的な何かで通路が見えなくなっていたからでしょうか? [一言] メロア伯爵は転移陣使って真っ先にメロア騎士団を撤退させないのはなぜでしょうか?ダゴン平原…
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