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第172話 ガートラント要塞の戦い

 ブロマイン帝国領内に入った俺たちは、長期戦に備えるため兵站を整えながら侵攻して行った。


 俺は他国への侵攻は初めてのため連合の王族たちにノウハウを聞いてみたのだが、みんな隣国との小競り合いの経験しかなく、敵国に深く侵攻した経験は誰もなかった。


 そこで司令部の中に魔法アカデミーの卒業生や研究科生を集めた参謀本部を設置。ここで具体的な作戦をを立てることにしたが、最も怖いのが物資がない状況での帝国内での孤立であったため、今回は前線への物資の供給を第一に考えることになった。


 一応、各国から供出される食料や武器、魔石の類いは、一度アスター王国に集積することになっていたが、前線が帝国内へ進むにつれて補給路も順次伸ばしていき、補給基地や防衛隊も組織していった。


 一方、フィメール王国の先の帝国領内がどうなっているかと言うと、ここはかつて東方諸国だった属国が集まっていて、帝国の支配下に入ってからは固有の戦力を持つことを制限されているため、俺たち連合軍の侵攻に対し組織だった抵抗は見せなかった。


 最大の障害となると思われた警察保安隊の部隊も、彼らの任務は基本的に街を盗賊の襲撃から守ったり、領地を任されたかつての王族たちが反乱を起こさないように威圧するのが仕事だ。


 従って、各領地には1000騎前後しか配置されておらず、帝国全体では30万の大組織でありながら、俺たち東方諸国連合軍の侵攻には対応できなかった。


 彼らは職務上一度は抵抗を試みるもののすぐに撤退を開始し、俺たちは戦闘にかける時間よりも属国の占領とその輸送基地化、防衛態勢構築にほとんどのリソースを費やしていた。


 そうして支配領域に兵站を伸ばしていき、ようやく到達したのがアスター王国と帝都との中間地点にあるガートラント要塞だった。





 いよいよ最大の難所の攻略を前に、俺は王族たちに作戦指示を出す。


「ここは難攻不落と言われる要塞で、周囲は切り立った山々になっていて迂回するルートはございません。そして前方に見える要塞正門は、人類が建造した最も巨大な扉と言われており、物理防御、魔法防御ともに最強を誇ります。実際、外部からの攻撃でここを突破した者は歴史上存在しません。ですので、真正面から突撃しても兵を損ねるばかりで、我々の兵数がいくら多くても突破することは不可能でしょう」


「噂には聞いていたが、実際に目の前で見るともはや壮観と言う他ないな・・・。して、ローレシア女王はこの要塞攻略にどのような秘策をお持ちか」


「別動隊を組織してこの要塞の内部に潜入し、扉の制御室を制圧して正門を解放します。正門が開いたら全軍を要塞内に突入させ、中で待ち構えているであろう帝国軍と決着をつけましょう」


「別動隊が潜入? 誰がそのような危険な任務を」


「わたくしとローレシア勇者部隊です」


「女王自らが! だがどうやって・・・ひょっとして秘密の侵入経路をご存じだとか」


「そんなものは存じ上げません。少数精鋭で真正面から突破します」


「そんな無茶な!」


 だが作戦参謀たちにも他に対案がなく、俺の作戦に可能性をかけるしかないため、結局作戦は決行されることとなった。


 俺は勇者部隊の中からメンバーを選抜し、物理アタッカーのアンリエット、アルフレッド、ジャネット、物理壁のロイ、ケン、バン、魔法アタッカーのランドルフ、ジャンに魔法壁のイワンとアナスタシア、ネオンの12名で要塞に特攻をかけることにした。





 ガートラント要塞からの射程距離ギリギリの位置に隊列を組む東方諸国連合軍。敵も俺たちのことは既に視界にとらえており、要塞正門のある巨大な城壁の上には魔導師や弓兵が立ち並び、投石器などの発射準備も完了していた。


 そんな中、俺は号令をかける。


「ローレシア勇者部隊、突撃っ!」


 そして軍馬から降りた俺たちは、要塞に向けて走り出した。


 要塞からは俺たち12人に向けて攻撃が開始されるが、俺たちの展開した強力なバリアーは、その攻撃のことごとくを跳ね返していく。


「敵に反撃を行う必要はありません。攻撃を防ぐことに集中して、バリアーが破れる前に別の人がバリアーを張り直し、ちゃんと11人でローテーションを組んでいれば大丈夫です。その間にわたくしは自分のオーラの強化に集中します」


 要塞に近付くほどにその攻撃は激しくなり、連合軍の陣営で見守っている王族たちから見れば、集中豪雨のように降り注ぐ攻撃で俺たちの姿がかき消されるほどだった。


 だがその攻撃がどんどん要塞方向に近付くことで、間接的にローレシア勇者部隊が今だ健在であることを確認できた。


 そしてついに正門までたどり着いたところで、俺は自分の持てる限りのオーラを解き放った。アポステルクロイツの指輪がキラリと光り、闇のティアラが怪しげな光を放った。



 【闇属性魔法・ワームホール】



 すると俺たちの前に黒い球体が浮かび上がったが、対となる出口の球体とはまだつながらない。要塞を覆うマジックバリアーがワームホールによる転移を強固に阻害しているのだ。


 だが俺はさらにオーラを爆発させると、正門の内外に発生した二つの球体を強引につなげる。


「うおーーーーーっ!」


 体内のオーラが濁流のように渦巻いて、ものすごいスピードで回転する。そして空気中のマナをかき集めて魔力のオーラへと変換していく。


「私たちの魔力も使いなさい!」


 そう言ってネオンがアポステルクロイツの指輪を光らせながら俺に魔力を送り込むと、アンリエットたちも見よう見まねで、俺に魔力を届けてくれた。


 そして、


「今、ワームホールがつながりました。みなさま球体に飛び込んでください!」


 そして俺たち12人は史上初めて、ワームホールによるガートラント要塞正門の突破を果たした。





 要塞司令部ではエレット中将が伝令より報告を受けていた。


「ローレシア女王とその部下たちが、我が軍の猛攻撃に耐えて要塞正門に接近を果たした後、忽然とどこかに消え去りました!」


 その報告に息を飲む中将とその幕僚たち。


「まさかとは思いますが、ワームホールで要塞内に侵入した可能性は」


「・・・考えたくもないが、ヤツらは我が帝国史上最強のローレシア勇者部隊だ。人間の魔力ではこの強固なバリアーをワームホールで突破するなど絶対にありえない話だが、魔族のローレシアならあるいは」


「では要塞内に侵入したと考えて直ちに捜索隊を!」


「・・・そうだな。目的地はおそらく要塞正門の制御室だ。あそこの守備兵力では話にならんから、すぐに魔法戦部隊を投入せよ!」


「はっ!」





 要塞正門をワームホールで跳躍した俺たちは、城壁の建物内部に潜入するため、入口を守っていた守備兵を即座に消滅させると、速やかに中に侵入して門の制御室を探し始めた。


 今の俺はワームホールで魔力を使い果たしたため、マジックポーションを飲みながら、攻撃も防御も他のみんなに任せて、ただひたすらに建物の中を走る。


 この巨大な正門の構造上、開閉は扉の上部で行うはずであり、俺たちは建物内の螺旋階段をひたすら上へ上へと駆け上がる。途中警備兵に見つかるも、ロイ、ケン、バンの3人が敵を即座に斬り捨てて、ほぼ全速力といっていい速度で階段を駆け上った。


 そして建物最上階、城壁屋上に並ぶ敵守備隊がいるちょうど真下には、正門の上部を通る長い廊下が走っていて、廊下のちょうど真ん中当たりに扉が見える。


「たぶんあそこが制御室でしょう。早くあの中に入りましょう」


 だがその先の廊下の反対側からは、帝国軍の兵士が次々と現れこちらに走ってくる。さらに俺たちが登ってきた階段からも、帝国軍兵士が追いかけてきた。どうやら挟み撃ちにされたようだ。


「ローレシアお嬢様。ここは私たちが対応しますのでお嬢様は制御室へお入りください」


「ええ。アンリエット、お願いね」


 俺は魔法壁の3人を連れて、制御室に駆け込んだ。







 【無属性固有魔法・ホーリージャッジメント】


「なっ!」


 だが制御室の中には、シリウス教会の修道女たちに囲まれたステッドが隠れていた。そして俺たちを待ち構えていたように、突入と同時にあの魔法を撃ってきたのだ。


 俺たちの身体が、再び魔法で拘束される。


「これはこれは、ちょうど魔族だけが全員お揃いで、実に都合がいいな。アスター家の3人にエクスプロージョンを撃ちやがった白い魔族が一匹。だがこの制御室なら正門が壊れるを怖れて大魔法が撃てないはずだ。さあて、姉上たちにはここで死んでもらおうか」



 ステッドはニヤニヤしながら剣を抜くと、真っ先に俺に向かって斬りかかってきた。だが俺は身体の拘束を簡単に打ち破ると、魔剣シルバーブレイドでステッドの剣を弾き飛ばした。


 それに唖然とするステッド。


「なぜだ! なぜ姉上にこの魔法が効かない!」




 俺にこの魔法が効かない理由か・・・。


 たぶんこの魔法は、特定の人間のオーラを体内で凝固させて、身体の動きを封じ込めるものなのだろう。だが幸か不幸か今の俺は魔力を使い果たした上にまだマジックポーションを飲んだばかりで、ほとんどオーラが循環していないのだ。


 だからわずかなオーラが凝固したって、普通に筋力で打破できるのだが、そんなことをバカ正直にあいつに教える必要はない。


 俺は黙って剣を握りなおすと、丸腰のステッドめがけて剣を振り下ろした。



 ガキーン! ガキーン! ガキーン!



 魔力がないため、ステッドのバリアーによって俺の剣が弾かれるが、そんなことはお構いなしに俺は剣を振り続けた。



 ガキーン! ガキーン! ガキーン!



「やめろ、姉上! そんな攻撃は俺には通用しない。俺にはこのアポステルクロイツの指輪があるんだ。以前の俺とは比べ物にならないほどの強い魔力があるんだぞ!」


 あれは俺がカルにもらったものと同じ、冥界の呼び声という魔法が込められた魔術具だな。ハウスホーファ総大司教倪下は、あれを使い過ぎると魔力が使えなくなると言っていたし、なら!



 ガキーン! ガキーン! ガキーン!



 俺は容赦なくバリアーに剣撃を当て続ける。こうしていればバリアーの維持に魔力を使わざるを得ず、冥界の呼び声により体内の魔力を残らず絞りとられるはずだ。そしてステッドの魔力はいずれ枯渇する。


「くそーーっ! アポステルクロイツの指輪よ、俺にさらなる魔力を!」


 すると指輪が怪しく光るとステッドの魔力が一段と大きくなった。


 こうなったら持久戦かと思い始めた時、俺の斜め前で硬直していたネオンが拘束から解け、開口一番



 【焼き尽くせ】



 一言そう言うと、ネオンが前に突き出した腕の先から白く輝く光球が発射され、ステッドのバリアーを一撃で破壊し、ステッドが炎に包まれた。


「ぎゃーーっ!」


 何だ今の魔法は・・・たった一言で強力な魔法が発動した。


 高速詠唱・・・しかも日本語だと?


 そして今の攻撃でホーリージャッジメントの効果が掻き消えて、イワンとアナスタシアも動き出した。


 そしてアナスタシアがステッドに冷たく言い放つ。


「ステッド・・・あなたは2度までもこのわたくしたちを殺そうとしましたね。もう死ぬ覚悟はできているのかしら」


「ち、違うんだ母上! 聞いてくれ、これには深いわけが!」


「わたくしたちを殺してアスター王国を簒奪するという話なら、もう聞きました」


「違うんだ! 俺はカルに命じられて!」


「もうあなたはわたくしたちの子供ではありません。アスター王国転覆を企む反逆者として、今ここで処刑致します!」


 そしてアナスタシアが呪文の詠唱を始めると、隣にいたイワンも、


「ステッド、そなたをこのような人間に育て方たのは我々2人の責任かもしれないが、結果としてそなたがしでかしたことは重大であり、その命を持って償わなければならない。覚悟するかがいい」


 そう言うとイワンは、ステッドの首を切り落とさんと剣を振り抜いた。


「うわあっ!」


 ギリギリで新たなバリアーを展開させて、首を切られるのを免れたステッドだったが、できることはそれで精一杯だった。


 じりじりと後ろに後退するステッドだが、急に後ろに飛びのくと味方であるはずの修道女を自分の盾にしてイワンの前に叩きつけた。そして、



 【風属性魔法・ウインド】



 とたん、背中に強風を発生させたステッドは、俺たちの間を強引に突破すると、そのまま廊下の窓をぶち破って城門へと落下して行った。


「飛び降りた・・・自殺をしたのでしょうか」


 俺がつぶやくとアナスタシアは、


「いいえ、風魔法ウィンドを使って地面に着地したのだと思います。わたくしなら同じ魔法で追いつくことが出来ますが、今はステッドよりも正門を開ける方が先決ですね」


 キュベリー公爵が使ってたあれか・・・。


「お義母様のおっしゃるとおり、今は早く正門を解放してわたくしたちも脱出しましょう。そして次こそ必ずステッドを仕留めましょう」





 要塞司令部のエレット中将は、ローレシアたちの手によって要塞の正門が解放されたことが告げられた。そして強固なバリアーで守られた7万の大軍勢が悠々と要塞の内部へと通過し、中では既に守備隊との交戦が始まっているいることが併せて報告された。


「バカな・・・こんな簡単に、ガートラント要塞に敵の侵入を許してしまうとは」


 力なく椅子に腰を下ろしたエレット中将は部下たちに指示を出した。


「だがまだ要塞が陥落したわけではない。ここは守勢に有利な要塞であり、ここで守りを固めればそうたやすく突破できるものではない。絶対に帝都になど抜けさせないし、死んでもここで防ぎきるのだ!」

次回、クロム皇帝側の話です


お楽しみに

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