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第168話 フィメール王国の攻防①

 東方諸国連合軍がアスター王国を通過しフィメール王国との国境に差し掛かったところで、俺はそこに展開するフィメール騎士団に使者を送り、女王ローレシアの名前でマーク王との会談を申し入れた。


 国境に突如として現れた大軍に腰を抜かしたフィメール騎士団守備隊長が慌てて転移陣で王都に飛ぶと、事態を重く見たマーク王は即座に重臣たちを連れて、国境まで転移してきた。


 そして国境の砦で会談がセットされ、連合軍からは俺とソーサルーラ国王、そしてマーク王の実父で、元フィメール王国の国王、ハーネス公爵の3人で臨み、ローレシア勇者部隊を護衛につけた。


 フィメール王国側は、かつて第2王子であったマーク王と、その王妃でありクロム皇帝や皇女リアーネの異母妹のマリン、そして外務卿や騎士団長などの重臣が並んだ。




「お久しぶりですマーク国王陛下。お元気そうで何よりです」


「お会いするのは戴冠式以来ですね、ローレシア女王陛下。・・・それにしてもこんな大軍を引き連れて、我がフィメール王国にどのようなご用件でしょうか」


 平静なそぶりを見せているが、フィメール王国側の出席者の表情はみんな硬かった。


「そのことですが、わたくしたち東方諸国14か国はブロマイン帝国に対して宣戦布告いたします。ついてはその旨を帝国を簒奪した逆賊ヴィッケンドルフにお伝えいただきたく存じます。併せてフィメール王国には降伏を勧告いたします」


「なっ! せ、宣戦布告って・・・まさか本当に帝国に宣戦布告なさるおつもりですか。勝てるわけがないからやめておいた方が」


 マーク王が顔を真っ青にして俺たちを止めようとするが、俺の隣に座るハーネス公爵が口を開いた。


「マーク、悪いことは言わん。フィメール王国を滅ぼされたくなければ、大人しく降伏するのだ」


「・・・父上、そういう訳には行きません。私は国王と言えども帝国の命令には逆らえないのは父上も良くお分かりのはず。ここで降伏などしようものなら我が王家は取り潰され、フィメール王国もブロマイン帝国に吸収されて地図上から完全に消えてしまいます」


「だが我々の進軍の邪魔をすると、最初にそなたたちを叩き潰すことになる。降伏して我が連合軍に加わればフィメール王国も助かる道があろう」


 ハーネス公爵が説得を試みるが、それでもマーク王は首を縦に振らない。


「父上・・・あなたには帝国の強さがわからないのですか! 宣戦布告などバカなことはやめて、大人しくアスター王国に帰ってください。今なら何も聞かなかったことにできますし、ソーサルーラ国王も武装中立が国是ならアスター王国なんかには同調せず、すぐに兵を引いてください!」


「マーク、父の言うことが聞けぬのか! ・・・そなたとは先のキュベリー公爵の反乱の際にも色々とあったが、幼い頃から帝国への人質にさせて悪いことをしたと思っているのだ。だから悪いことは言わん、我々と馬を並べて逆賊ヴィッケンドルフを討伐するのだ」


 だがマーク王はそれでも頑なに降伏勧告を受け入れず、今度は俺に向き直ると、


「隣国の女王に対して誠に言いにくいのですが、ローレシア女王は魔族でありクロム皇帝を殺害したという話を聞いています。私もそのようなことは信じられないのですが、帝国ではローレシア女王を捕らえて火刑に処す方針が既に決定しています。申し訳ありませんが、降伏勧告をお受けすることはできません」


 俺は魔族であることをその場で否定したが、フィメール王国が未だ敵側である以上、クロム皇帝の生存やアージェント王国の実態を教えるわけにはいかない。


 言える範囲でハーネス公爵が説得を試みたがそれもむなしく、マーク王が帝国側に残る意思を変えることができなかった。子供の頃からの人質であり、帝国に対する恐怖心が刷り込まれてしまっているのだろう。


 そして会談は決裂し、宣戦布告はフィメール王国が責任を持ってヴィッケンドルフに伝えることを約束してもらうと、全員が席を立った。


 みんなが会議室を離れようとする中、ハーネス公爵とアルフレッドがマーク王と立ち話を始めた。彼らの寂しそうな表情を見ると、どうやら最後の別れを惜しんでいるようだった。俺はその様子を横目で見ながらマリン王妃と別れの挨拶を交わして、そのまま会議室を去った。


 その後マーク王たちが王都に転移したのを確認して、東方諸国連合軍は国境を越えてフィメール王国へ侵攻した。そして各地の守備隊を蹴散らしつつ、3日目には王都を望む平原で帝国軍と相対した。


 いよいよブロマイン帝国との戦争の開始だ。






 東方諸国連合の宣戦布告に慌てたエレット中将は、幕僚を引き連れて残存2万の部隊に転移すると、これをフィメール王国に集結させて、主力部隊の3万の兵力が戻ってくるまでの間の臨時司令部を設置した。


 一方のマーク王はフィメール王国騎士団を率いて、王都正面の平原に展開する帝国軍の一翼を担っていたが、フィメール王国に入国したばかりのエレット中将が目の前に現れた連合軍に対処するための軍議を招集すると、マーク王にも作戦指示を伝えた。


「敵主力は我々方面軍が対処するが、問題はソーサルーラ騎士団だ。やつらの魔法攻撃力は未知数であり、それに備えようにも我々には十分な量の魔石がない。帝国内で暴れまわっていた魔族のせいで、なけなしの魔石が全てアージェント方面軍に回されていたのだ。したがって魔法に定評のフィメール騎士団2000騎に、ソーサルーラ騎士団の足止めを任せたい」


「そんな無茶な・・・ソーサルーラ騎士団は東方諸国最強の魔法戦部隊。それを我々だけで相手をするのは絶対に無理だ」


「わかっている。だからお前たちにはシリウス教会の魔法戦部隊をつけてやる。ステッド、こっちに来い」


 そう言うとエレット中将は一人の青年を紹介した。




「こいつはシリウス教会魔法戦部隊隊長のステッド・アスター。隣国アスター王国の女王ローレシアの実の弟だ」


 するとステッドがマーク王に敬礼をした。


「チョリース。アスター王国次期国王のステッド・アスターで~す。隣国の国王同士仲良く頼むよ」


 へらへらと半笑いしながら挨拶をするステッドに、マーク王は苛立ちを隠さなかった。


「このような男がローレシア女王の弟だと? 彼女とは似ても似つかぬ不誠実な態度。どうしてこんなやつがシリウス教会の魔法戦部隊の隊長なんかやっているのだ」


 エレット中将は怒るマーク王をなだめるように、


「マーク王の気持ちもわからなくもないが、これでも総大司教猊下から預かった大事な戦力。せっかく貸してやるのだからありがたく使うがいい」


「しかし、こんなのが味方に付いたところでソーサルーラ騎士団に勝てるわけがない。それに敵軍にはローレシア女王本人がいる。ここは方面軍の主力で何とかした方が・・・」


「な、なんだと! ローレシアが東方諸国に戻っていたのか!」


 その何気ない一言に、だがエレット中将は意外なほどの驚きを見せた。


「ローレシア女王がいるから、宣戦布告を受け取る際に国王同士で会談を行ったのだ。なぜ彼女がここにいることにそれほど驚くのだ?」


 マーク王は半分呆れ顔でエレット中将に尋ねる。


「ローレシアは魔界の境界門でクロム皇帝を殺害した後、魔族に寝返ったと聞いていたから、てっきり魔界に行ったものとばかり」


「なんだと? そんな話は一言も聞いていないぞ! そもそもなぜクロム皇帝が魔族との戦いの最前線に行くのだ。属国だからと何の情報も与えずに、命令だけ押し付けるとは、バカにするのも大概にしろ!」


「黙れ! ・・・ああそうだ、お前たちは所詮属国。帝国貴族としては最も新参者なのだから大人しく我々古参貴族の命令を聞いておくのがよかろう」


「なんだとっ!」


「東方諸国方面軍司令官として命令する。フィメール騎士団は直ちに、ソーサルーラ騎士団に向けて進軍を開始せよ!」


「くっ・・・」




 東方諸国連合軍の中にローレシアがいることを知ったエレット中将は、焦りと同時に手柄を上げる大チャンスと考え、反対するマーク王になりふり構わず命令を下した。すると中将の隣にいたステッドも、


「マーク王もそんなに心配せずに、まあ見てなって。実はこの俺様には、総大司教からもらったこのアポステルクロイツの指輪に加え、魔族に神罰を与えることができるホーリージャッジメントという魔法がある。これで姉上をこの世から完全に消し去ってやるから。マーガレットの身体にもそろそろ飽きて来たし、さっさとアスター王国を手に入れて、後宮に世界中の姫を集めたハーレムを作ってやるぞ。ウヒヒヒヒ」

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