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第167話 東方諸国連合軍出撃

 クロム皇帝がアージェント方面軍を率いて帝都ノイエグラーデスを目指す一方、俺はローレシア勇者部隊とともに魔法王国ソーサルーラへ帰還した。


 アラン勇者部隊の8名は、勇者アランの無念を晴らすためにそのままヘルツ中将の指揮下に入ったため、帝国全土に点在する特殊作戦部隊の転移陣を使って俺と一緒にソーサルーラまで帰還したのは、クロム皇帝を除く19名だ。




 みんなをアスター邸に残すと、俺とランドルフ王子はすぐにソーサルーラ国王に謁見した。


 そしてダゴン平原での魔族との戦いの顛末や、レオンハルトとバーツによるクロム皇帝暗殺未遂の一件、長年にわたるシリウス教会による情報操作と、魔界・アージェント王国や邪神教団・シリウス教国の真実、帝国元老院の暴走とヴィッケンドルフ公爵による帝国簒奪を報告した。


 それを聞いた国王は真っ赤な顔で激怒して、手に持っていた王笏を床にたたきつけた。


「なんだそれは・・・断じて許せん! 帝国元老院もシリウス教会も、我々のことを一体何だと思っているんだっ! ・・・ランドルフ、東方諸国王族会議を直ちに招集せよ! 今こそ、あの高慢な帝国貴族どもに吠えずらをかかせてやる!」


「承知しました父上。国王たちに大至急連絡します」




 そしてその3日後、魔法王国ソーサルーラ王宮において緊急の東方諸国王族会議が開催された。


 ソーサルーラ国王からの親書を携えたローレシア侍女軍団が母国に特使として派遣されたため、会議に出席した大半の王族たちは彼女たちから既に事情を聞かされており、完全に憤慨していた。


 また侍女の出身国ではない王族も王族会議でソーサルーラ国王の怒りの説明を聞き、ただごとではない事態であることをすぐに理解した。


 そして議長であるソーサルーラ国王が机を激しく叩いて立ち上がった。


「今こそ我ら東方諸国が一丸となり、簒奪者ヴィッケンドルフと偽皇帝マルク率いるブロマイン帝国に対し宣戦布告する時が来たのだ! いつも無理難題を押し付けて我々から奪い続けて来た憎むべき帝国元老院主戦派と、己の私腹を肥やすために嘘の教義を押し付けて戦争を焚き付けてきた邪神教団シリウス教会こそが我々の共通の敵なのだ! 我ら東方諸国は、クロム皇帝と皇女リアーネに呼応して帝都ノイエグラーデスに進軍する! よもやこれに異論がある者はいないだろうな」


 ソーサルーラ国王の檄に対し、怒り心頭の王族会議メンバーの中にこれに反対する者は誰一人としていなかった。すなわちここに、東方諸国連合軍が結成されることが決定したのだ。


 多少の国土の大小はあれど、ほぼ同等の国力を持つ東方諸国はそれぞれがライバル関係で、長い歴史の中では互いに対立することの方が多かった。


 だが共通の敵である超大国ブロマイン帝国を前に、史上はじめてこの国々が一丸となれる時が来たのだ。


 各国は一律5000ずつの兵力で連合軍に参加することとなったが、これは帝国元老院の命令でダゴン平原に差し向けられるはずだった将兵たちである。


 つまり既に進軍の準備が整っていたところに今回の話が持ち上がったため、帝国元老院は結果的に自らの手で強力な敵の出撃準備をさせてしまったのである。


「やれ魔族討伐だの、人類の危機だの、聖戦だのとほざきおって、自らの私利私欲のために我々の貴重な兵力を利用しようとした薄汚い詐欺師どもに、この我々が正義の鉄槌を食らわせてやろうぞ!」


「そうだ! いつも我ら東方諸国を下に見やがって。今こそ奴らを地面に這いつくばらせて、我らの靴を舐めさせて命乞いをさせてやる」


「我ら東方諸国が力を合わせれば、帝国と言えどもおいそれとは手が出せないことを思い知らせてやれ!」






 そして、全会一致で終わった東方諸国王族会議から5日後、全14か国総勢7万にも及ぶ大兵力が、ここ魔法王国ソーサルーラに結集した。


 各国の軍隊は、その国王や王子などの王族が直接率いることとなり、俺はアスター騎士団や各貴族家からかき集めた騎士たち5000騎をアスター王国軍として再編して参戦した。もちろんローレシア勇者部隊はそのままこのアスター王国軍に組み入れた。


 そして出陣の時、東方諸国の盟主ソーサルーラ国王が全軍7万の将兵に向けて檄を飛ばした。


「さあ、我ら東方諸国連合軍の進撃開始だ! 国境線に展開する帝国軍の兵力はたかだか5万。我ら7万の軍勢の前には物の数ではない!」


 すると全軍から大歓声がこだました。これまで圧倒的な兵力差を前に苦渋を飲まされ続けてきた各国が、初めて兵力で帝国を上回ったのだ。その戦意たるや並大抵のものではなかった。


 そして国王は続ける。


「だからと言って我らがバラバラで戦っていてはいけない。なぜなら敵は統制のとれた軍隊であり数の優勢など簡単にひっくり返すことができる。それに我々の戦いはただ目の前の5万を倒すだけではなく、クロム皇帝や皇女リアーネの軍と呼応して、帝国の支配権を薄汚い簒奪者から取り戻すまで続くのだ」


 うおおおーーーっ!


「つまり5万の敵に対して、ただ単に勝てばいいのではなく、圧倒的勝利が必要なのだ! そのためには、我々14か国を指揮するリーダーが必要となる」


 ソーサルーラ国王の話に大きくうなずいた東方諸国の王族たちはこぞって、


「ソーサルーラ国王の言は誠に正しく、我が国に異存はない」


「我らも同様。ここは我らの盟主ソーサルーラ国王の指揮に従おう」


「「「同意、ソーサルーラ国王の下に集おうぞ」」」


 各国王族たちが次々に同意し、ソーサルーラを司令塔に指揮命令系統が整った。


「この提案に賛同いただき感謝する。では、魔法王国ソーサルーラが全体の指揮をとることにするが、なにぶんワシは実戦を指揮した経験がないため実際の指揮はワシの名代に執ってもらう」


「なるほど、ではソーサルーラ騎士団長であるランドルフ王子を名代に」


「うむ。それも考えたが、ランドルフ以上の適任者が我が国にはいるのだ」


「ほう、騎士団長より適任者がいるのですか。それは一体誰でしょうか」


「我が息子ランドルフを始め、東方諸国の高位貴族の令嬢たちや、あのクロム皇帝までも率いてダゴン平原においてアージェント王国軍と最後まで戦い抜いた、帝国史上最強の勇者。我が魔法王国ソーサルーラが誇る大聖女ローレシアである!」


 俺か・・・。


 だがこの国王たちはローレシアを新参者としてバカにしていた。


 だからこの話はきっと反対されるだろうし、ここで無理を押し通せばせっかく高まった戦意に水を差す。


 だが、





「史上最強の勇者ローレシアか・・・」


「帝国が誇る6人の勇者の中で圧倒的な戦闘力を誇り、他の勇者部隊が全滅した中でローレシア勇者部隊は一兵も損なわれることなく最後まで戦い続け、さらにアラン勇者部隊の生き残りまで救出してみせた」


「あの死病エール病を克服した大聖女か・・・いいだろう、我が軍は大聖女ローレシアの指揮下に入ろう」


「そうだな。ローレシア女王はまだ若いが実戦経験は我々よりも豊富」


「なによりあのクロム皇帝を部下として指揮した実績がある」


「帝都ノイエグラーデスで籠城戦を戦っている皇女リアーネは、ローレシア女王の側近だと聞く。ならばこれからの戦い、彼ら皇族との連携を取るためにも我ら東方諸国連合軍の総司令官にはローレシア女王こそがふさわしい」


 そして瞬く間に全ての国王たちが賛同し、ソーサルーラ国王が俺に隣に立つよう促すと、


「では大聖女ローレシアよ。我らに進軍の命令を」


 ソーサルーラ国王に場所を譲られた俺は、東方諸国の国王たちと7万の将兵を前に号令をかける。


「東方諸国の勇敢なる将兵の皆様、今こそ大陸の恒久平和の実現に向けて最初で最後の進軍を開始しましょう。我らの敵は欺瞞に満ちた邪神教団であるシリウス教会とそれに与する帝国主戦派貴族、そしてそれに群がる武器商人たち。戦争で私腹を肥やす彼らに我らの手でシリウス神の正義の鉄槌を食らわせましょう」


 そして、アポステルクロイツの指輪を天に掲げた。


「シリウス神は常に我らとともにあります。神の御名のもとこの真の聖戦に勝ち抜きましょう!」


 すると地鳴りのような大歓声がこだました。


「大聖女ローレシア万歳! 東方諸国連合軍万歳! シリウス神は常に我らと共に!」


 そして俺は号令をかけた。


「これより我々はアスター王国を通過し、帝国属国に成り下がったフィメール王国に展開中の帝国東方諸国方面軍に総攻撃をかけます。全軍出撃!」 


「「「おーーーーっ!」」」






 東方諸国方面軍司令官のエレット中将は、新皇帝マルクの勅命により帝都ノイエグラーデスに軍を進めている途中で、突然ヴィッケンドルフ公爵の使者として現れたシリウス教会総大司教のカルと対面していた。


「総大司教猊下にわざわざこんなところまでお越しいただき恐縮ですが・・・公爵からの命令とは一体何でしょうか」


 するとカルは穏やかな笑みを浮かべ、


「先ほど東方諸国全14か国が、我がブロマイン帝国に対して宣戦布告をしてきました。今頃進軍を開始しているはずで、至急その対処をせよとのことです」


「この時期にやつらが一斉に宣戦布告ですか? 皇女リアーネを討つために4軍が帝都に向かうタイミングを狙っていたとしても、あいつらが本気で帝国と事を構えて勝てると判断したというなら愚の骨頂。しかもあの仲の悪い東方諸国が一つにまとまるわけがない。全く信じられん・・・」


「だが実際に宣戦布告がなされましたので、エレット中将には直ちにここから引き返して東方諸国との戦いに専念してもらいたいとのこと。帝都はアージェント方面軍など残り3軍がいれば問題ありませんので」


「承知いたしました。東方諸国との国境沿いには2万の兵力を残してきましたので、我々3万が戻るまでは彼らが対処してくれるでしょう」


「それは結構。ですが宣戦布告をするぐらいですから彼らには相応の戦力があるものと注意してください。特に魔法王国ソーサルーラは武装中立を守り続けていただけに、強力な魔法戦力を保有しているはずです。その対処は大丈夫なのですか」


「あの国は長年中立を国是としていたため、彼らとの戦いは想定していませんでした。だがそうすると、彼らの魔法戦を封じるための魔石の備蓄が心許ない」


「やはりですか。そんなこともあろうかとシリウス教会が保有する魔法戦部隊を連れてきましたので、エレット中将にお貸しします」


 そう言うとカルは随行させていた一人の青年をエレット中将に紹介した。


「彼の名はステッド・アスター、アスター王国のローレシア女王の弟です」


「ローレシアの? では彼は魔族なのでは!」


「ええ、光の堕天使アスタチンに連なる者ではありますが、彼はその呪われた血筋を既に浄化され神の戦士として蘇りました。彼が魔法戦部隊を率いますので、軍用転移陣を使って東方諸国の国境線に送り込みソーサルーラ騎士団にぶつければ多少の時間は稼げるでしょう」


「へへっ、元魔族のステッドで~す。そういうことだからよろしく頼むよ、司令官殿」


 エレット中将はこのステッドという男の軽い態度に不信感を抱くものの、総大司教からの好意でもあり、教会の魔法戦部隊をありがたく受け取った。


「総大司教猊下、大変心強い支援に感謝します。では公爵の命令に従い我々東方諸国方面軍はこれより東方諸国の軍隊との交戦を開始いたします。公爵にはそのようにお伝えください」


「承知しました。ではエレット中将と東方諸国方面軍にシリウス神のご加護のあらんことを」

次回、フィメール王国会戦


お楽しみに

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