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第158話 ナツの秘密

 しばらくディオーネ城に滞在することになったが、ここではクロム皇帝のリハビリを生活の中心に据え、その合間に領地の視察に行く予定だ。


 意識を取りもどしたばかりの皇帝は、やはり疲れたのだろうか、ディオーネ城に到着するとすぐに眠ってしまった。そこで皇帝の世話はマーカスとマリアたちに支援部隊に任せて、俺はアンリエットたちを連れて領地の視察へ向かった。




 この城下町では、いたるところで経済復興のための工事が行われており、特に東西南北の4か所にあったスラム街は取り壊されて大規模な再開発が行われているそうだ。


 そこでまず驚いたのが、土木工事にクレーン車やトラックが使用されていること。あの戦闘機フレイヤーにも驚いたが、ここでは日本でおなじみの土木機械が普通に使われていた。それに加えて土木作業に特化したゴーレムが人間と一緒に働いており、現代なのかファンタジーなのかよくわからないカオスのような光景が展開されていた。


 するとアルフレッドが隣に近寄って来て、


「あそこにある機械は、ナツの世界にあったものと同じものなのか」


「形は少し違いますが、あのようなものがたくさんございました。とても懐かしいですね・・・」


「やはりここは転生者の街なのだな。・・・ナツは元の世界に帰りたいか?」


 アルフレッドは少し寂しそうな顔で俺に尋ねるが、


「いいえ。もし戻る方法があったとしても、わたくしは元の世界には戻りません。アスター王国に骨をうずめるつもりです」


「そうか! ネオンと楽しそうに会話をするナツを見て、どこか遠くへ行ってしまうんじゃないかと心配していたんだ・・・よかった」


 アルフレッドはそう言って嬉しそうにほほ笑んだ。






 だが俺たち二人の会話を聞いていたイワンとアナスタシアが、不安そうな顔で俺とアルフレッドを引っ張りだし、人のいないところへと連れ出した。そして、


「ローレシア、一つ聞きたいことがあるのだが教えてくれないか」


「・・・お父様。今の会話を聞いてのことなら、転生についてですよね。承知しましたが、どこからお話しすればよろしいでしょうか」


「そなたの中には異世界からの魂と、わが娘ローレシアの魂の2つが同時に宿っていると考えている。それで間違いはないか」


 イワンが俺を見る目は何かに怯えるものではなく、真実を追求するものだ。俺はこくりと頷くと、呪文を一つ唱えた。



【チェンジ】



 ここはローレシアの口から説明した方がいいだろうと思い、俺は後ろに下がった。


「ええ。お父様のお考えの通り、わたくしのこの身体にはわたくしの魂と、異世界からの来た「ナツ」の魂の2つが宿っています。さっきまでここにいたのがナツで、今ここにいるのは、あなたたち2人の娘のローレシアです」


「やはりブライト伯爵やレイス子爵の言った通りだったのだな。それで2つの魂が同居して、身体は大丈夫なのか?」


「今のところは大丈夫です。魔力が大幅に増えたこと以外は何も異常はございません」


「そうか・・・それはよかった」




 イワンがホッとしたような表情をみせるが、アナスタシアはまだ混乱している。


「今のあなたは、わたくしの娘のローレシアということで間違いはないのですね」


「ええお母様。でもお母様には、わたくしとナツの違いが分からないのですか?」


「なんとなくは分かるのですが、それでもやはり心配なのです。わたくしの元にはもうあなたしか残っていないのですから。あなたまでいなくなれば、わたくしはもう・・・」


 アナスタシアはそう言って泣き出した。


 以前の彼女からは想像もつかないほど、母親らしい反応をしていた。そんな彼女を見るローレシアからは嬉しそうな感情が伝わってきた。


 フィリアと違って、アナスタシアはちゃんと改心をしてくれてよかったな、ローレシア。





 少し落ち着いたアナスタシアが、ローレシアに問いかける。


「ローレシア・・・魔族との戦いが決まってからずっと、あなたらしからぬ行動をしていたので、わたくしとても不安だったのです」


「お母様には気づかれていたのですね」


「ええ。・・・話し方はいつものローレシアなのですが、考え方とかちょっとした所作が少しはしたないというか・・・もしかしてナツというお方は下級貴族の生まれの令嬢か、まさか平民の村娘なんてことは!」


 アナスタシアはとても心配した表情でローレシアを見つめる。そのローレシアも困った様子で、


「お母様とお父様。今から話すことはまだ誰にも言わないと約束して頂けますか?」 


「あ、ああ、約束する・・・」


「もちろんです! ですので、正直に教えてくださいませ」




(ローレシア、この二人に本当のことを話しても大丈夫なのか? 特にアナスタシアなんか、ショックで気絶する未来しか見えないぞ)


(その時はその時よ。どうせいずれ話そうと思っていたし、今がその時だと思うの)


(・・・わかった。ローレシアがそれでいいなら、キミに任せるよ)




「お母様、どうか落ち着いて聞いてください。ナツは令嬢ではなく殿方です」


「・・・!」


 やはりアナスタシアがショックで卒倒しそうなところを、イワンが慌てて抱き支える。どうにか意識は保っているが、完全に血の気を失ったアナスタシアが心配そうに尋ねる。


「殿方の魂があなたの身体に入っているということは・・・その・・・いろいろ大丈夫なの?」


「大丈夫って、何が?」


「何がって・・・そんなはしたないことを、このわたくしに言わせないで!」


「はしたないことって・・・そ、そういうことをお聞きしたいのですね。もちろん最初は全く大丈夫ではなかったですし、恥ずかしい思いもたくさんいたしました。・・・でもナツと二人で困難を一つずつ乗り越えて・・・わたくしたち、結婚いたしました」


 その瞬間、アナスタシアはショックで気絶した。





 イワンとアルフレッドがアナスタシアを木陰に運び、彼女の目が覚めるのを静かに待った。そしてアナスタシアが再び意識を取り戻すとアンリエットも呼んで、アルフレッドと3人でこれまでの経緯を話した。


 その途中、何度も卒倒しそうになったアナスタシアだったが、最後はようやく諦めの境地にたどり着き、状況だけはなんとか理解してくれた。


 そして、


「ローレシア・・・事情はよく分かりました。これを知っているのは、ここにいる5名だけなのですよね」


「はい、お母様。あまりにも荒唐無稽なお話なので、秘密を打ち明ける相手は慎重に選ばねばなりません」


「その方がいいでしょう。わたくしもショックで何度も気を失ってしまいましたし。それよりローレシア、あなたがナツと結婚したというのは、同じ身体で離れることができないから百歩譲って認めるとして、ナツとアンリエットが結婚したというところが、わたくしにはよく理解できませんでした」


「わたくしの理解ではナツがアスター王国の国王で、わたくしが女王。そしてアンリエットはナツの側室という理解でいます。国王なら伯爵家の令嬢を側室に向かえることは普通に行われていて特に問題ございませんし、ブライト伯爵からもアンリエットを正式に譲り受けており、手続き上の不備も一切ございません」


「・・・その理解に立てば、確かにそうなのかもしれません。ですがナツは殿方と言っても魂だけの存在であり、アンリエットと結婚することなどできません」


「ナツは魂だけの存在ではございません。ここにこうしてちゃんと身体がございます」


「ですがそれはローレシアの身体ではないですか」


「ええ。でもこれはナツの身体でもあります」


「・・・・・」


「・・・・・お母様?」


「・・・ごめんなさい、ちょっと頭が混乱していて」


「とても複雑な状態ですので、お母様が混乱されるのも無理はございません」


「でも勘違いならごめんなさいね、ナツとアンリエットが結婚しているということは、その・・・あなたたち二人は一緒に寝たりするのですか」




 アナスタシアがいきなりとんでもない質問をぶっ込んできた。


 それを聞いたアンリエットは顔が真っ赤になり、俺の顔も急に火照って、心臓の鼓動が急に早くなってきた。そしてローレシアの羞恥心が怒涛の如く、俺に押し寄せて来る。


 この質問は、新婚生活の様子を親族から聞かれるという、キッツイあれだ・・・。


 イワンは話を聞きたくない様子で、よそ見をしたりそわそわしているし、アルフレッドもかなり気まずそうな表情で遠くの方を見ている。


 なのに、アナスタシアだけが興味津々で、少し頬を赤くしながら興奮している。




「・・・それで、二人でどんなことをするの?」


 何も答えないローレシアに、アナスタシアは少し前のめりになりながら質問を掘り下げてくる。


「そ、それはわたくしがやっているのではなく、ナツとアンリエットが・・・あ、アンリエット! あなたから答えなさい」


「ローレシアお嬢様! そんなこと、私の口からはとても申し上げることができません」


 アンリエットに全てを押し付けたローレシア。だが、アナスタシアはさらにたたみかける。


「アンリエット、とても言えないようなことを二人でしているのですね。具体的にはどんなことを!」


 ダメだ。アナスタシアに変なスイッチが入った。


 容赦なくアンリエットを追い込むアナスタシアと、顔を真っ赤にしながら言葉にならない声で呟くアンリエット。そしてついに、


「そ、その・・・ナツと一緒にお風呂に入ってお互いの身体を洗いっこしたり、一緒のベッドで眠ったり」


「お風呂で洗いっこしてるのね! ・・・そ、それでベッドではもちろん、眠っているだけではないのでしょう。何をしているのか具体的に教えなさい」


「い、いえ・・・あの、その・・・」


「・・・二人はベッドで何をしているの? さあ早く言いなさいアンリエット!」


「あの、その・・・な、ナツが私の・・・」


 アンリエットが何かを口にしようとしたその時、


「お母様っ、いい加減にしてください! アンリエットはあなたの上官ですよ!」 


 ついにローレシアがブチ切れた。





 なんとかこの変な話題を中断させたローレシア。


 その後話題は、アスター王国の後継者の話になる。


「ところでローレシア。あなたはナツ以外のどなたと結婚するの。ちゃんと世継ぎを産まないとダメよ」


 まあ、その話になるよな。


「それについてはナツと相談が済んでいます。わたくしはナツ以外の殿方とは絶対に結婚いたしませんが、代わりにナツが適当な殿方を探して、世継ぎを産むことになっております」


「・・・つまり、あなたはちゃんと結婚する気があるわけですね」


「いいえ、わたくしではなく、ナツが殿方と結婚いたします」


「・・・どっちでも同じことですよね」


「全く違います。わたくしはナツを深く愛しておりますので生涯他の殿方と結婚する気はごさいませんし、わたくしが他の殿方に抱かれるなんて想像しただけでも恐ろしいと、ナツもおっしゃってくれています」


「・・・それはわかりましたが、ではどうやってナツは殿方と結婚するのですか。まさかその身体が分裂するとか?」


「クスクス・・・。何をおっしゃっているのですか、お母様は。人間の身体が分裂するはずないではありませんか。常識で物事をお考えくださいませ」


「身体に2つも魂を持っているあなたにだけは、常識を語られたくありません! ではどうやって・・・」


「わたくしとナツはいつでも自由に入れ替わることができます。ですので、アスター王国の女王として活動している時はこのわたくしが、王配の配偶者としてのお務め・・・夫婦生活はナツが一手に引き受けます」


「・・・そういうことですか。ようやく理解が追いついてきました。でもそんな変な状態で結婚相手など見つかるのですか。ずっと黙っているわけにもいかないし・・・」


 するとアルフレッドが、


「それなら大丈夫。僕がナツと結婚します」


「アルフレッド様が? ・・・ナツは殿方ですが、殿方同士で結婚してもいいのですか?」


「ナツが男だということは承知してますが、僕はローレシアの次にナツを愛しているし、結婚できるなら魂が男だろうと特に問題ありません」


 な、なんだと!


 アルフレッドが俺を愛しているだとっ!


 アルフレッドは俺の大切な親友だと思ってたのに、なんだこのBLみたいなシチュエーションは・・・。


「そ、そうですか。随分と潔いのですね。でも殿方同士で結婚って、これはこれで少し興奮しますね」


 ダメだ、このアナスタシアは。


 腐ってやがる・・・。


「でも、クロム皇帝やランドルフ王子もローレシアと結婚したがっていますが、彼らにはこの事を伝えなくてもよろしいのですか?」


「いずれは伝えようと思っておりますし、その上で誰を伴侶に選ぶかを決めなければなりません。ですがそれを決めるのはわたくしではなくナツです。ただナツはまだ殿方同士で結婚する覚悟ができていないので、わたくしはただ黙ってナツのことを見守ることにしているのです」


「・・・そう、わかりました。そこまで考えているのなら、アスター王国の後継者問題も大丈夫でしょう。わたくし安心いたしました」


「お母様は、そんなことを心配されていたのですか」


「当然です。せっかく建国したアスター王国が後継者問題で分断でもしたら、また無駄な血がたくさん流れてしまいます」


「ええ。ですのでわたくしの代わりにナツが頑張ってくれるのです」


「そう・・・。もしもの時はこのわたくしが頑張ろうかとも思いましたが、どうやらその心配はしなくてもよさそうですね」


「お母様が頑張るって・・・もうっ! 親のそんな話は聞きたくありませんっ! はしたないのは、お母様の方でしょ!」

次回はディオーネ領から出発し、一行は帝国を目指して東へ進軍。そして、

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ローレシアもアンリエットもナツの子供産みたいとは思わないんですかね。 [一言] 冒頭に邸の敷地内に入り、使用人や残って領地運営している家人のだれかに部屋を用意させている一文があると良い…
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