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第152話 フィリアの逆襲

 俺の目の前には敵のボスであるアウレウス公爵と、その弟のアウレウス伯爵の二人が魔剣を握りしめて立っている。


 この二人が俺のターゲットだ。


 そしてその回りには、闇属性を持つ4体の魔族と、認識阻害によりその姿は不明だが火属性を持つ魔族が2体と光属性、風属性、雷属性がそれぞれ1体ずつ。


 その11体全員が、俺に攻撃を仕掛けようと魔剣に魔力を込めている。だがそこに、ロイ、ケン、バンの3人組が間に割って入った。


「お待たせしました、ローレシア様!」


 3人が魔族の中に突撃して乱戦状態を作り出すと、間髪入れずに、アンリエットとアルフレッド、それにジャネットの3人組も到着して、6人がかりで場をかき回していった。


 おかげで俺はターゲットの二人だけに集中できる。



【闇属性魔法・ワームホール】



 今度は俺が彼らを生け捕るために、ワームホールを仕掛ける。だが、


「フンッ!」


 二人が闇のオーラを膨張させると、俺のワームホールは呆気なく霧散した。どうやらワームホールはお互いに効かないようだった。そこへ、


「ローレシア、待たせたな」


 クロム皇帝。


 俺は彼が皇帝であることを魔族に悟らせないため、何も言わずに黙ってうなずくと、阿吽の呼吸で魔剣を構えて、二人で突撃した。






 魔族のど真ん中に突撃し、背中合わせで剣をふるいながら、アンリエットはアルフレッドに話しかける。


「ナツたちは、アウレウス公爵兄弟とうまく戦えているようだな」


「そうだなアンリエット。だが本当はクロム皇帝ではなく、この僕がナツの隣で戦いたかったよ」


「それは私だって同じ気持ちだ。だがこれはネオンの考えた作戦。強力な敵部隊を倒すためには、この組み合わせが最適なんだそうだ」


「それは分かっているが、あのネオンはここにいる魔族の仲間じゃないのか? 本当に信用できるのか」


「私はネオンを信じている。なぜならナツの命を助けるために必死に作戦を考えて、自らも魔族の群れに飛び込んで戦っていた。その時のネオンの目にウソ偽りはなかった」


「・・・確かにアンリエットの言うとおりだ」


「それより乱戦状態を作り出すことにも成功したし、そろそろ私たちのターゲットである火属性の魔族どもに集中するぞ。アルフレッド、ジャンネット、この私についてこい!」


 それだけ言うと、アンリエットは2体いる火属性の魔族をめがけて突撃をかけた。






 ネオンからの作戦指示を受けたイワンとアナスタシアは、並んで走りながら闇属性の魔族に向けて突撃を開始していた。


 その僅かな時間、アナスタシアはずっと気になっていたことをイワンに尋ねた。


「・・・ねえあなた。時々なのですが、ローレシアがわたくしたちの娘とは思えない瞬間があるのです」


「アナスタシア・・・やはりそなたも感じていたか」


「もちろんです。わたくし、あの子の母親ですから。そして今のローレシアがまさにその別人のように感じるのです。いいえ今だけではなく、ブロマイン帝国にいる間中、ずっと違和感を感じておりました」


「・・・実は前にローレシア本人から聞いたことがあるのだが、ローレシアは一度フィリアに殺された後、ブライト家伝来の死者召喚の魔術によって、アンリエットがその魂を復活させたというのだ。その真偽を確かめるためその後ブライト伯爵に話を聞いたのだが、ローレシアの魂ではない別の何者かの魂を呼び寄せてしまった可能性があるのだそうだ」


「そんなことが本当にあるのでしょうか」


「私はネクロマンシーに詳しくないので理屈はわからないのだが、ブライト伯爵とレイス子爵が口を揃えてそのように言っていた」


「別の魂・・・そう言えばさっきネオンが言っていた転生者って言葉、あれはまるで別の世界の魂がローレシアの身体に乗り移ってきたような言い方でした」


「私もさっきのネオンの言葉で確信した。アンリエットはローレシアの身体に、異世界からの魂を召喚してしまったのだ」


「でも普段はいつものローレシアですし、別の世界からきた魂というのはちょっと・・・」


「例えば、ローレシアの身体に2つの魂があると考えればどうだ。それが切り替わっているのだとすれば、たまにローレシアが別人に思えることも、あのような膨大な魔力を持つようになったことにも納得がいく」


「2つの魂・・・そんなことが」


「・・・さあ、話は終わりだ。我々はあの若い2体の闇属性の魔族を相手に、ローレシアのためにしばらく時間を稼がなくてはならない。光と闇、戦いは熾烈を極めるだろうが、決して私の傍を離れるではないぞ、アナスタシア」


「はい、あなた!」






 アンリエットとアルフレッド、ジャネットの3人は火属性の魔族のうち1体を取り逃がしてしまい、残りの1体と戦っていた。


 だがこの魔族は、これまで見たこともないようなスピードで動き回り、認識阻害の魔術具の効果と相まって、3人がかりでも捉えることすらできなかった。


 そして何とか剣を当てても、その膨大な魔力によりなかなかダメージが与えられない。


「なんなんだコイツは・・・強すぎる!」


 アンリエットがそう唸ると、アルフレッドも焦りを募らせながら、


「まずいなアンリエット・・・。火属性のもう1体を完全に見失ってしまった。ジャネットはわかるか?」


「いやすまない。目の前のコイツに手一杯でそれどころじゃなかった」


 ジャネットはすまなそうにアルフレッドに答える。だがアンリエットが会話を遮り、


「済んだことは仕方がない。それよりも3人で取り囲んでコイツの動きを封じる。行くぞ!」


 そして3人は、火属性の魔族に攻撃が通らないまでも、身体を覆うバリアーを地道に削っていった。





 その時、


「このクソゴミどもーっ! わたくしのご主人様から今すぐ離れろっ!」


 突然訳の分からない叫び声を上げながら、光属性の魔族が飛び込んできて、


「ご主人様! このクソゴミの処分はこのフィリアに任せて、早くクレア様を探しに行ってくださいませ」


「フィリア助かったよ! でもこいつらはかなり強いから、ヤバくなったら絶対に逃げるんだぞ」


「はい! こんなクソゴミどもに簡単にやられるフィリアではございませんし、ご主人様のお世継ぎを産むまでは絶対に死ねません。ていうか死んでたまるもんですかっ!」


「フィリアのそういうところは、寒気がするほど恐いけどすごく信頼できる・・・よし、ここは頼んだ!」


 そして逃げる火属性の魔族を追いかけようとアンリエットたちが追撃態勢に入るが、光属性の魔族が即座に強力なバリアーを展開し、その追撃を阻んだ。




「まずいなアンリエット。これで火属性の魔族を2体とも取り逃がしてしまった。これでは作戦が・・・」


「気にするなアルフレッド、戦場ではよくある話だ。ナツが作戦通りに公爵兄弟と戦えてさえいれば、我々は臨機黄変に対応するのみ。それよりも公爵たちが4体になってしまったことの方がマズイ。早くこの光属性の魔族を始末して、あちらを分断させなければ」


 アンリエットは平然とそう言って魔族に攻撃を再開するが、ジャネットは焦りの表情を見せていた。


「アンリエット様! このフィリアとかいう光の魔族もさっきのと同様、動きが速すぎて捉えきれん!  つ、強い」


「フィリアか・・・名前は気に入らないが、あの無能なバカと違ってこの魔族はかなり優秀なようだ。さっきの魔族と同様に、3人で取り囲んでこいつに自由なスペースを与えるな!」


 アンリエットは2人にそう指示をすると、魔族の動きにうまくタイミングを合わせて、炎のオーラが燃え盛る魔剣シルバーブレイドを鋭く一閃した。


 快心の一撃!


 剣はバリアーに阻まれたものの、魔族の身体はよろめき多少のダメージは与えた。それでも魔族は平然とした顔でアンリエットを睨みつけている。


 ・・・表情が認識できる?


「に、認識阻害の効果が消えていく・・・ていうか、お前はフィリアっ! ど、どうして貴様がこんなところにいるのだ!」


 アンリエットたちが取り囲んでいたのは、光の魔族ではなくアスター城の地下牢から忽然と姿を消した、指名手配中のフィリアだった。


 その彼女がなぜか帝国軍の女性士官の制服を着て、このダゴン平原に突如現れて不敵に笑っているのだ。


「こいつ他の勇者部隊に紛れ込んでいたのだろうか」


「いやアンリエット、それはないと思う。認識阻害の魔術具を使っていたのはクロム皇帝とネオンの二人ぐらいだし、逃亡中のコイツがわざわざ僕たちの傍にいる理由もない・・・」


「しかし以前のフィリアお嬢様とはまるで別人。一体どうなっているのでしようか、アンリエット様」





 混乱する三人に対し、フィリアは大きな緑色の瞳の瞳孔を全開にさせて不気味に口角を上げた。


「あら、アンリエット久しぶりね。でもあなたの馬鹿力のせいで、認識阻害の魔術具が壊れてしまったじゃないの。どうしてくれるのよ」


「貴様っ・・・この暗殺者め、直ちに逮捕する!」


「暗殺者ね・・・。なら、あなたも殺してあげるわ。アンリエット、今すぐここで死ねっ!」


 そう言うが早いか、フィリアはアンリエットの喉元に、最短距離で剣を突き立てた。


「くっ!」


 だがアンリエットは紙一重でこれをかわすと、すれ違いざまに剣を振りぬく。しかしこれをフィリアが即座にかわすと、ジャネットが背後から脳天めがけて振り下ろした大剣も、フィリアは振り返ることもせずに身体をスライドさせただけでかわした。


 速いっ! そして強い!


 これが無能なくせに、ローレシアお嬢様への対抗心ばかりが強い嫉妬深い令嬢、フィリアだというのか。そんなバカな・・・。


 そんなアンリエットの焦りを見透かしたように、緑の瞳をさらに大きくしたフィリアが、


「あら? アスター騎士団最強と呼ばれたアンリエットも、たかがこの程度の実力だったのね。うふふ」


「フィリア・・・貴様は一体どうやってそんなに強くなったのだ。いや今はそんなことよりも、どうやって地下牢から抜け出したのか言えっ!」


「あなた・・・それが人にものを聞く時の態度なのですか? まあいいですわ、折角ですので無作法もののアンリエットにも、この素敵なお話を聞かせて差し上げます。あの地下牢からは、最愛のご主人様がお姫様抱っこで助け出してくださったのよ。若奥様のワームホールを使ってね」


 フィリアが頬を赤く染めながら、深淵の闇へと引きずり込みそうな瞳で不気味な笑みを浮かべる。その恍惚の表情にアンリエットの背筋は凍ったが、


「ワームホールだと? ・・・確かにその可能性は考えていたが、ローレシアお嬢様ほどの魔力を持つ者がわざわざ貴様のような無能な娘を助けるわけがないと一番最初に候補から外していた。だがそのまさかだったとはな」


「ふん、誰が無能な娘よ! ・・・今だからこそローレシアお姉様の魔力が別格だとわかりますが、ご主人様たちの魔力だって格段に強い。アンリエットなど、束になっても勝つことはできませんわ」


「ご主人様というのは、さっきの火属性の魔族のことだな。だがなぜ魔族が貴様を助けた。まさか以前から魔族とつながりがあって、ローレシアお嬢様の暗殺もその魔族の手引きによるものか!」


「魔族、魔族とさっきからうるさいわね。ご主人様は魔族なんかではなく、その実力で若くしてアージェント王国の伯爵になられた立派な高位貴族です。そしてこのわたくしフィリアは、ご主人様の下僕として一生おそばにお仕えすることを許されたのです」


「アージェント王国・・・さっきナツが言っていた、魔界の呼び名か。つまりそのご主人様は、やはり魔族ではないか!」


「いいえ! ご主人様がご自分は魔族ではないとハッキリとおっしゃってましたので、絶対に魔族ではございません。まあ、わたくしはご主人様が貴族でも魔族でもどちらでも構いませんけど」


「貴族と魔族を一緒にするな、この不信心者がっ!」


「シリウス教など、もう必要ありません。ご主人様はわたくしも自分と同じ存在だとおっしゃってくれて、アージェント王国で一生おそばにいさせていただけることになったので、それだけで幸せなのです」


「なるほど。貴様は魔族に寝返って一生魔界で暮らすと、そう言っているのだな」


「そうとってもらっても構いません。でもご主人様を魔族と呼ぶのならこのわたくしやローレシアお姉様、それにアスター家全員が魔族ということになりますけど、それでもよろしいのですか、アンリエット?」


「・・・一体どういうことだ、フィリア」




「あなたのような無礼者にはこれ以上は教えません。昔のように「フィリア様」と呼んで膝をつけば、教えてあげないこともございませんが、ウフフフ」


「くっ・・・黙れ、この痴れ者が! どういうことかとっとと言え!」


「では無駄話は終わりです。3人まとめて相手にして差し上げますから、早くかかってきなさい。ご主人様から授かったこの膨大な魔力と、お父様やお姉様のような紛い物ではない真のカタストロフィー・フォトンの破壊力をあなたに見せて上げる。だから、今ここで蒸発して消えなさい、アンリエットっ!」

魔族との戦いはいよいよ佳境へ


次回もお楽しみに

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