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第149話 ダゴン平原の戦い③

 アラン勇者部隊に救出された勇者レオンハルトは、呆然自失のまま勇者ヤーコブが眠っている移動式ベッドに座り込んで、治癒魔法師による治療を受けながら独り言を繰り返している。


「そんなバカな・・・僕の部隊が全滅だなんて、きっと何かの間違い。・・・僕は帝国の名門貴族クラーク家なんだぞ・・・とうしてその僕が・・・ブツブツ」


 一方、勇者バーツはメンバーにバリアーの展開を指示していたようで、第2波の攻撃を防ぎきることができていた。


 だがバーツに限らず、今回の攻撃を防げたとしても魔族は第3波、第4波と同じ攻撃を仕掛けてくるだろうし、包囲網も徐々に狭くなってきており、魔法攻撃は激しさを増す一方だ。つまりこのままでは俺達はやがて全滅する。


 おそらく同じ危機感を感じたのだろう、勇者アランが俺のところにやって来て、


「勇者ローレシア、心より謝罪させて欲しい。私が勇者レオンハルトの進言を聞いてしまったばかりに、こんなことになってしまって」


 深々と頭を下げて謝罪するアランだったが、


「わたくしに謝罪をする暇があれば、リーダーらしくちゃんと指揮をとってくださいませ。このままでは、わたくしたちは全滅してしまいます。早くこの包囲網の突破口を見つけなければ」


「・・・だが私には、これからどうすればいいのか、分からないんだ」


「分からないって、そんな無責任なことで一体どうするのですか!」




 すると完全に激怒した様子のクロム皇帝が、俺の隣にやって来て、


「勇者アランよ「勇者のことは勇者自身が決める」、今回の作戦が経典に基づく聖戦であるため、シリウス教の教えに従って、余はなるべく黙っていたのだが、貴様は同じ勇者であるはずの余の妻の進言を無視してこのような結果を招いてしまった。シリウス教会がなんと言おうと、帝国に帰還したら貴様には相応の処分を下す。覚悟しておけ!」


 クロム皇帝がそう吐き捨てるように言うと、アランが膝を地面につきながら青ざめた顔で、


「皇帝陛下、誠に申し訳ございませんでした! 私には勇者部隊を率いる能力がないことがハッキリいたしましたので、ただいまを持って私は勇者ローレシアの指揮下に入り、全て彼女の判断に従います。何なりとご命令を!」


 だがクロム皇帝はますます怒りを顕にして、


「もう遅いわ! こんな絶体絶命の状態にしておいて無責任にも余の愛する妻に全てを押し付けるとは!」


「いえ! 押し付けるつもりは一切ございませんが、しかしこれ以上私が指揮をとるのは・・・」


 頭を下げて必死に謝る勇者アランにクロム皇帝は、


「なら貴様に新たな任務を与えてやろう。この魔族の包囲網から無事生還するまで、貴様はその命をもってローレシアを守り抜くのだ。もし我が妻の身体に傷の一つでもつけて見ろ、貴様は死罪にしてメロア家はとり潰す!」


「・・・しっ、承知いたしました。この身に代えても必ずや勇者ローレシアをお守りいたします」


「わかったなら、さっさと持ち場に戻れ! それからあの痴れ者には死罪を申し付けるので貴様からその旨を伝え、勇者バーツにもこちらの指示に従わなければその命はない旨、しっかりと厳命しておけっ!」


「はっ、直ちに!」




 そして勇者アランが立ち去って、クロム皇帝が俺に向き直ると、


「本当にすまなかったな、ローレシア。あの勇者どもがここまで無能だとは思いもよらず、またシリウス教の教えにこだわりすぎていた余の判断も遅かった」


「いいえ、クロム皇帝が謝る必要などございません。むしろ年下だからと変な遠慮をして、勇者アランの申し出を断って指揮をとらなかったわたくしも悪いのです。まあわたくしが指揮をとっても、レオンハルトはきっと従わなかったでしょうけれど。でもわたくしはクロム皇帝がこの勇者部隊にいらっしゃって、本当によかったと思っています」


「ローレシアにそう言ってもらえると、この罪悪感も少しは軽くなるが、ここからが本当の正念場だ。あの勇者どもは全員使い潰しても構わない。どんな犠牲を払っても、そなただけは絶対に生きて我が帝国に帰して見せる。まずは正面の敵ではなく、ローレシアの言っていたように東の軍勢を突破しようか」


「敵の包囲網は完成してしまいましたが、その向こうにはまだ帝国軍の主力がいますので、うまく挟撃ができれば少しは可能があると思われます。それからわたくしはクロム皇帝の妻ではございません」


「そう言えばそうだったかな。ではこの戦いが終わったらすぐ結婚しよう」


「色んな意味でそういう発言は控えて下さいませ! では全軍に伝達。我々勇者部隊は東に向けて転進し、魔族の軍勢を突破して帝国軍との合流を果たします。準備が整い次第直ちに、突撃開始!」




 俺の指示はマーカスとレイス子爵によって即座に勇者アランと勇者バーツへと伝えられ、3部隊は速やかな連携のもと東へと進路を変えた。


 そして先頭を俺たちローレシア勇者部隊が、右翼は防御力の高いアラン勇者部隊、左翼をバーツ勇者部隊と正三角形のように配置し、その真ん中に勇者ヤーコブを乗せた荷車を置いて、3つの部隊全体にバリアーや支援魔法を供給できる態勢にした。


 その後も魔族の攻撃は熾烈をきわめたものの、攻撃を捨てて防御に徹することで、それ以降は深刻なダメージを受けることなく、かなりの進軍速度で東へ部隊を進めることができた。


 やがて敵の攻撃が東側からのみになったため、敵包囲網の東端までたどり着いたことを確信すると、俺は魔族の陣容を目視するため照明弾を撃つことにした。


「総員、照明弾用意!」



 【【【闇属性魔法・ワームホール】】】

 【【【光属性魔法・ライトニング】】】



 俺とアルフレッド、クロム皇帝他闇魔法が使える者全員でワームホールを敵上空に次々と出現させ、イワンとアナスタシア他光魔法が使える者全員でライトニングを放ち、光をワームホールを通して敵上空に転移させて戦場全体を照射した。


 10数個の照明弾が夜空に輝きだすと・・・はるか前方にある敵の陣容が浮かび上がってきた。俺は隣にいるアンリエットと確認する。


「ここからまだ距離があって少し見えにくいですが、小高い丘のようなところに敵が陣取っていますね。いくつか天幕があるようですがあれは何でしょうか。あと、我々と対峙している魔族は数10体ほどのようですね。アンリエットはこれをどうみますか?」


「天幕が設置されているのは確かに気になりますが、おそらく我々と帝国軍本体の分断に成功して、ここを拠点化しようとしている通常戦力の部隊がいて、その司令部か何かなのでしょう。だから逆に魔法戦力の数が比較的少ないのかも知れません」


 そしてアンリエットの反対隣にいたクロム皇帝が、


「ローレシアよ、あの天幕周辺に旗が何本も翻っているのが見えるか。あのように紋章が描かれた旗が多数ある場合は、かなり高位の名門貴族の本陣であることが多い。それにあの魔族たちの中にかなり強い魔力反応が2つある。あれは手強いぞ」


「確かにあの2体が突出していますね。・・・いいえクロム皇帝、強力な魔力を持つのはあの2体だけではありません。敵陣全体からあふれ出す闇のオーラがけた外れに強い。数は少ないけれどかなりの強敵です。皆様気を付けて」





 ところが、慌てて俺の隣に来たネオンが、


「ローレシア、あの部隊とは絶対に戦ってはダメ! これは罠よ! あの紋章は・・・この包囲網を使って私たちを追い詰めて、最終的に彼らの前に引っ張りだすことが目的だったのよ・・・完全にしてやられた。もうっ!」


「ネオン様・・・急にどうなされたのですか?」


「とにかくあの部隊を突破するのは中止。今からすぐ西に逃げましょう!」


「でもネオン様、西は逆方向で帝国軍との合流が絶望的に・・・」


「今は生き残ることが先決なの。ローレシアには絶対に生きていてもらわなくちゃダメなのよ!」


「でも・・・」


 その時、正面の魔族の魔力が跳ね上がって、魔将軍クラスの数が一気に増えた。・・・6、7、8!


 一体何が起きているんだ?!


 そしてネオンが叫ぶ。


「全員今すぐローレシアの近くに集まって! ローレシアはマジックバリアー全開! 早くっ!!」





 全員が傍に集まると、俺はバリアーを全開にした。


 その次の瞬間、戦場の空気が軋みを上げたかと思うと、バリアーが凍結して外の様子が何も見えなくなり、空気の爆発音だけが鳴り響いた。


「なっ、何事っ!」


 するとネオンが、いま外で起きている現象の説明を始めた。


「今、バリアーの外は極低温状態になっていて、空気がどんどん液化して行ってるの。そして真空になったところに外気が急激に流れ込んであんな連続的な爆発音が鳴り響いているの。魔法が作用してる間はずっとこんな感じで空気の液化が進行し、それが終わると今度は空気が一気に気化して急膨張が発生する」


 ドゴオオーーーン!


「ほらね」


 ネオンのいう通り、爆発音とともにもの凄い揺れを感じたが、どうやら今の魔法攻撃からは無事に身を守れたらしい。ローレシア勇者部隊のみんなが無事なことを確認すると、凍り付いたバリアーを一度消失させて他の部隊の様子を確認した。


 勇者アランの部隊は白く凍結したドームの中に入っているのでたぶん俺たちと同じで全員無事だろうが、勇者バーツの部隊はバリアーが壊れていて中の人たちが凍り付いていた。


 俺は彼らをすぐに救助するよう、支援・輸送部隊の7人に指示を出した。


「・・・ネオン様、それにしてもこんな大規模な氷結魔法が存在していたのですね」


「そうよ。この魔法は「絶対零度の監獄」といって、あらゆる物質を凍結させてしまう水属性の大魔法よ。これだけ距離が離れていてこの威力だから、これ以上近づくとローレシアでも無事ではいられないわ」


「絶対零度・・・空気が液化するほどの強力な魔法を受ければ、人間なんてひとたまりもございませんね」


「ええ。それにこの魔法を撃ってきた魔族はこの戦場でもトップクラスの強敵よ。彼らと戦うぐらいなら、レオンハルトのバカが全滅させられた南の4体をまとめて相手にした方が、まだマシだから」


「そうですね。一瞬、魔将軍クラスが8体ほどに増えた気がいたしましたし、その後方には通常戦力の大部隊が控えていることを考えると、その両方を相手にするのはさすがに危険な気が致します。でもネオン様はあの魔族の正体をご存じのような言い方ですが」


「その説明は後でちゃんとしてあげる。それよりも今は生き残ること。とにかく西へ逃げなさい!」


 俺はネオンに聞きたいことがあったが、東の魔族の危険性を本能で悟り、ここから逃げ出すことにした。




「全軍へ伝達、西へ転進します。逃げましょう!」

次回もお楽しみに



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