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第148話 ダゴン平原の戦い②

 しばらく考えた末に、俺は勇者レオハルトを切り捨て、残り3部隊を撤退させる決断をした。俺の大切な仲間や他の勇者部隊のみんなが、一人のバカのために犠牲になる必要はない。


 俺は彼らを連れ帰るためにアランの部隊に再び向かったが、ちょうどそこへ勇者アランが勇者レオンハルトを連れて戻ってきていた。


 間に合った!


「勇者アラン! 後方にも魔族が展開を始めました。今すぐに撤退を!」


 俺はすぐに勇者アランに状況を伝えると、


「勇者ローレシア、撤退は中止だ。このまま南へ進軍しよう。既に敵が展開しつつある東に向かうよりも、ここから南側の敵軍勢の方が手薄なことがわかった。そこを突破して南を迂回して帝国軍と合流する」


 ・・・何を言ってるんだ勇者アランは。


「勇者アラン! 南には魔族の主力が陣取っていますし、仮に軍勢が手薄に見えてもそれを突破できる保証はございません! 今ならまだ東側は魔族が展開しきれておらず、撤退もギリギリ可能です!」


 俺はアランに必死に訴えかけるが、それを見たレオンハルトが苛立ちを見せながら、


「キミ! 南の突破口はこの僕が見つけたんだ。すでに僕の勇者部隊が攻撃を開始していて敵は後退しつつある。敵の増援が来るまでに一気に突撃をかければ、脱出ついでに魔将軍を倒せるかもしれないんだぞ」


「しかし、それがわたくしたちを誘い出すための擬態の可能性もございます。そんな不確実な作戦よりも、ここは確実に東へ撤退した方が・・・」


 俺はレオンハルトの意見を拒否して撤退を進言した。だがレオンハルトは、


「勇者ローレシア、これは勇者アランが僕の進言を取り入れて決めたことだ。この戦場においてはリーダーの判断は絶対だ」


「勇者レオンハルト、勇者部隊の作戦行動は全員による合議制ではなかったのですか?」


「キミはバカなのか? 戦場でそんなことをしていたら何も決められない。ふっ、時と場合も理解できないなんて、これだから属国の女王なんかを僕たちの仲間に入れるのには反対だったんだ」


 こいつ、言わせておけば・・・。


「この際はっきりと申し上げますが、アスター王国はブロマイン帝国の属国ではなく、一つの独立国です。どうもあなた方帝国人はわたくしたち東方諸国をバカにしているようですが、あなたこそ時と場合を理解して下さいませんか。まあ、今はそんなことを議論している時間もございませんし、すぐに撤退しましょう」


 だがレオンハルトは顔を真っ赤にしながら、


「属国の女は黙れ! お前は皇帝の寵愛を受けているだけのただの愛人のくせに、皇后を気取って僕たち帝国貴族に口出しをするな! お前は僕たちの命令に従って南に進軍すればいいんだよ。下賤の愛人風情が」


 コイツっ!


 帝国貴族以外はまるで認めないような言いぶりが、全く気にいらない。それにそもそも俺は男だし、皇后気取りなんかするはずがない!


 もうこのバカと議論していてはダメだな。これ以上無駄な時間を使っている余裕はないし、勇者アランがリーダーだというのなら彼に翻意を促そう。


「勇者アラン、直ちに東へ撤退しましょう。今ならまだ間に合います」


「いいや勇者ローレシア、我々は南へ進軍する・・・これは決定事項だ」


「どうして・・・なのですか?」


「私が見た限り、東へ撤退するよりも南を突破する方が生還の可能性が高いと考えている。それにキミは僕をリーダーとして認めて、指示に従うと言っただろ。わかったら勇者ローレシアも南へ進軍してもらおう」


「くっ・・・勇者アランがそこまでおっしゃるのなら承知いたしました」


 仕方がないか・・・。この状況で最善を尽くそう。





 俺は部隊に戻って説得に失敗したことをみんなに謝ると、部隊を引き連れて南への進軍を開始した。みんな代わる代わる、俺を励ますために話しかけてくる。


「ローレシアよ。帝国に戻ったら余があの勇者レオンハルトなる痴れ者を処刑してやる。だがまずは生き残ることが先決。そなたのことは絶対に守ってやるので余の傍から離れないようにしておけ」


「・・・クロム皇帝、ありがとう存じます。皆様の命を危険にさらすだけの愚かな提案をしたレオンハルトだけは決して許せません」


 ランドルフ王子も、


「ローレシアの怒りは俺の怒りだ。魔法王国ソーサルーラとしても、レオンハルトと彼のクラーク家とは、今後一切の取引を中止することを約束しよう」


「お気遣い大変ありがとう存じますランドルフ王子。ソーサルーラからそんなことを言われたら、クラーク家の皆様はさぞお困りになるでしょうね」


 そしてアルフレッドも俺の耳元で囁いた。


「・・・ナツ、僕たちが力を合わせて戦えば、どんな逆境でも必ず生きて帰れるはずだ。なぜならここには僕やアンリエット、そしてフェルーム内戦を共に戦った心強い味方が揃ってるんだ。諦めずに頑張ろう」


「アルフレッド・・・」


 その声を聞いた瞬間、俺の心臓は飛び跳ねた。


 ドクン・・・ドクン・・・。


 俺は平静を装いながら、


「頼りにしてますね、アルフレッド・・・」


 アルフレッド・・・頼むから耳元でささやくのはやめてくれ。こんな時なのに、なんか変な気持ちになってしまうから・・・。






 南に向けて転進した俺たちは、勇者レオンハルトの部隊を先頭に、ローレシア勇者部隊が左翼、勇者バーツが右翼、そして中心に勇者アランという陣形で南にいる魔族の軍勢と対峙した。


 前方からは土魔法メテオによる膨大な量の隕石が飛んできて、さらに頭上にはエクスプロージョンが絨毯爆撃のように降り注いでくる。だがどの魔法も俺たちのバリアーを突破できるものではなく、大したダメージを与えることもできていない。


 一方我が方は、勇者レオンハルトがその膨大な魔力を生かして、無数の氷柱を魔族に向けて次々と発射している。またそれに触発されたのか、勇者バーツもメテオにより巨大な隕石を召喚させては魔族に向けて放っていた。


 ただ魔族との距離が少し離れているため、魔法アタッカーたちの魔法攻撃は届いていないように見える。それを見た勇者アランは、自分自身は攻撃魔法を撃ち始めたものの、仲間は防御に専念させていた。これはいい判断だと思う。


 俺も自分は攻撃魔法を撃ち込みつつ、みんなには自分の射程距離に入るまでは防御に専念するよう指示。


 だがみんなは次々に攻撃魔法を撃ち始めると、その魔法攻撃のきらめきが前方の魔族の軍勢を一瞬照らし出していく。うちのメンバー全員が、他の勇者部隊の魔法アタッカーよりも魔力が高く、攻撃が余裕で届いているようだ。


 結果、ローレシア勇者部隊の火力によって、魔族はその後退速度を早め、しばらく我が方優勢のまま戦場は南へ南へと移動していく。





 そんな勇者部隊の進軍も、やがて足が止まる。


 突然、敵正面から膨大な魔力を感じたからだ。


 今夜は月明かりもない新月の夜で、この戦場の様子は魔法攻撃によるきらめきしかないため一寸先は闇。だがこの魔力の強さは、敵の姿が見えなくてもはっきりと伝わってくる。俺は隣にいるアンリエットに、


「これが魔将軍クラスの魔力なのかしら・・・とくに大きな魔力反応が全部で4つ。いよいよ敵の主力がこの戦場に合流してきたのね」


「ローレシアお嬢様、やはり南側は危険です。今からでも東側に転進した方が」


 だが言ってるそばから、巨大な魔力反応はその数を増やしていき、左右や後ろにも魔将軍クラスの魔力反応が感じられるようになった。


 ・・・8体全部現れたか!


 そして全方位、完全に囲まれてしまった。


「総員、マジックシールド全開!」


 俺は瞬時に判断して全員に攻撃を中止させ、自分の身を守るように指示した。そして案の定、強力な魔力を伴った攻撃魔法が俺たちを一度に襲った。


 あらゆる魔法攻撃がミックスされた、飽和攻撃だ!








 魔族が初弾を撃ち尽くして魔法攻撃が一旦静まり、巻きあがる土砂や爆煙もおさまってくると、勇者部隊の状況がうっすらと見えて来た。


 俺たちローレシア勇者部隊に被害はなく、勇者アランの部隊も同じ。もともと全員が防御に専念していた上に勇者ヤーコブのバリアーも間に合って、なんとか耐えたようだ。


 だが、勇者レオンハルトと勇者バーツの両勇者部隊はバリアーが破壊されて魔法攻撃の一部が通ってしまい、自身の魔力が比較的低い物理盾や物理アタッカーを中心に地面に倒れていた。



 そして魔法攻撃が徐々に再開されると、魔族からは再び容赦ない魔法攻撃が叩き込まれた。さらに第2段の強力な魔力の膨張も確認。


「全員、第2波に備えてバリアー展開!」


 俺はみんなに指示を出した後、他の勇者部隊の様子を見る。ここから勇者バーツの姿は見えないが、勇者レオンハルトは完全にパニック状態らしく、メンバーに反撃命令を出しているようだ。魔法アタッカーから攻撃魔法のオーラが膨れ上がっていく・・・。


 あのバカ!


 俺は慌てて勇者アランの元にかけよると、


「ここでバリアーを張らなければ、あの部隊は全滅してしまいます! あのレオンハルトという人は、なぜそんなこともわからないのでしょうか!」


「ああ、あいつ訓練で習ったことを全て忘れて、すっかり混乱している。・・・勇者として生まれて、クラーク家で甘やかされて育った彼は、こんな逆境を経験したことがないのだろうが、さすがにあの混乱ぶりは酷すぎる」


「そんなことはどうでもいいので、早く勇者ヤーコブのバリアーをあの部隊に展開してください」


「それはできない。レオンハルトたちが攻撃魔法を放つまでは、こっちからはバリアーを張れないんだよ。自分の攻撃がバリアーで跳ね返って自爆するからな」


「だったら魔法の詠唱を中断させて、バリアーを展開するように指示を・・・」


 だが、勇者アランが動き出すよりも先に、第2波の魔法飽和攻撃が襲いかかってきた。


 俺は慌てて自分の部隊に戻ると、みんなと一緒にバリアーを展開して、攻撃がおさまるのを待った。






 やがて攻撃がおさまって、俺はすぐにレオンハルト勇者部隊の状況を確認した。


 だが、部隊は本人だけを残して全滅していた。

次のエピソードは明日公開します。

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