表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/200

第144話 魔族討伐作戦②

 そして魔族が俺たちの前に姿を現していよいよ戦闘が始まるわけだが・・・、


 魔族は全員、伝統的な騎士の格好をしていて、魔将クラスの3体はいずれも若い男性で、配下の暗黒騎士たちをそれぞれに従えてキチンと整列している。



(ローレシア、俺が思ってた魔族とイメージが違うんだけど。もっと荒れ狂った大男が魔獣を連れて襲ってくるのを予想してたけど、あれただの騎士団だよね)


(魔族の軍勢自体が騎士団だしそれを率いている魔族も騎士の格好をしていても何もおかしくないでしょ。甲冑のデザイン的には2、300年ぐらい前のフィメール王国の騎士って感じね。魔族といっても文明レベルの低い亜人の蛮族らしいし、あんなものなのではないのかしら?)


(ふーん、あれが蛮族ね・・・)




 その魔将の中の一人がアンリエットたちに向けて、大声で何かを話し始めた。


 ここからだと遠くてよく聞こえないが、どうやら戦いの前の名乗りを上げているようだ。その間、他の魔族たちは全員動きを止めて魔将の言葉を聞いている。


 ここだけ見れば、本当に中世騎士物語の世界に飛び込んだようだった。街を焼いて人々を皆殺しにするような残虐非道な魔族も、こうしてみると普通の騎士団に見えるから不思議だ。


 だが、そんな魔族の騎士道精神を完全に無視したジャネットが、魔将の話がまだ終わってないのにいきなり暗黒騎士たちの群れに飛び込み、馬上から大剣を振りまわし始めた。



(ナツ! ジャネットが飛び込んでしまったわ!)


(本当だ・・・さすが空気を読まないジャネットだ。これじゃあ、俺たちと魔族のどっちが蛮族だかわからないな)


(恥ずかしいから、せめて話が終わるまで待ってあげたらいいのに、ジャネットったらもうっ!)




 ドグオーーン! ボグーーーンッ!



 そんなジャネットが魔族の群れの中を突き進んで行くと、大きな衝撃音がして暗黒騎士たちが次々に弾き飛ばされていく。薔薇騎士隊でもダントツの怪力女のジャネットが大男たちをなぎ倒していく姿は、俺が好きだった無双系のゲームを思い出す。


 そしてその後ろをアルフレッドが駆けて行き、魔法の詠唱を始めている。あの二人はそういう役割分担なんだな。頑張れよアルフレッド。


 一方、クロム皇帝とアンリエットのコンビの方も、ジャネットほどの猪突猛進ぶりはないが、似たような戦法で暗黒騎士に守られた魔将に突撃をかけていく。


 ジャネットのあれはひょっとして、薔薇騎士隊時代のアンリエットの戦闘スタイルじゃないのか? 実はアンリエットが蛮族の女王だったとか?


 それに比べて、ランドルフ王子とジャンのコンビは静かに魔法の詠唱を始めている。ソーサルーラ騎士団の二人は、どんな攻撃方法を考えてるんだろう。





 そんな風に始まった魔族討伐は、魔族たちが約50体という数の有利を活かして、俺をめがけて全騎突入してきた。確かにリーダー的な立ち位置で指揮を取っているミニスカウェディングドレスの少女がいたら、そこが部隊の弱点だと誰でも思うだろう。


 だが魔将クラスの3体だけは、アンリエットたち6人の突撃が決まり、うまくその場に釘付けにできた。そして残りの暗黒騎士たちは、全員が怒り狂った状態でこちらに殺到してきた。


 そこをアナスタシアとイワンのコンビが、いつもの大魔法で迎え撃つ。



 【風属性魔法・トルネードクラッシュ】

 【光属性魔法・カタストロフィー・フォトン】



 魔族の軍勢の右半分には強烈な竜巻が発生し、左半分には強烈な光線が魔族たちを焼く。フィメール内戦では二人の魔法でかなりの戦果を上げたが、しかし魔族に対しては人間相手ほどには効果がなかった。


 暗黒騎士の強力な魔力により、基本的に魔法攻撃が通りにくいのだ。つまり魔族の魔力にアナスタシアの魔力が打ち消され、竜巻自体がそこまでの威力を出せず、重い鎧を着こんだ騎士を吹き飛ばすことができなかった。ただそれでもかなりの突風が発生しているため、彼らがこちらに攻撃を仕掛けてくる余裕はない。足止めとしてはかなり効果的だ。


 一方カタストロフィー・フォトンの方は、そこそこの破壊力を維持していた。フィメール内戦では1度に5、6名程度を蒸発させるだけの破壊力を持っていたが、ここでは一番先頭の2、3名に大ダメージを与えるにとどまっている。


 だが有りか無しかでいえば、効果有りだ。


 魔族の強力な魔力と鎧の持つ魔法防御力によって、光魔法の威力自体が抑え込まれているのだが、イワンの魔力は暗黒騎士に比べてもかなり上回っており、光魔法の特性と合わせて攻撃自体は通るのだ。


 それを見たロイが俺に進言する。


「あの魔族たちのように互角の魔力を持つ者を相手にするときは、物理寄りの魔法攻撃の方が有効です」


「わかりました。ではマーカスとレイス子爵はアイスジャベリンを、アンナ、キャシー、ケイトはメテオ、マリアとレスフィーア様はマジックバリアーを展開」


「「「はいっ!」」」


「お父様とお母様は引き続き同じ攻撃魔法をお願い。ロイたち3人はわたくしの護衛でネオン様は・・・」


 俺はネオンを見た。すると彼女は意図を察して、


「私は火と土と雷の3属性が使えるわ。でも今の戦況で有効なのはメテオかエクスプロージョンね」


「それではネオン様は・・・・エクスプロージョンをお願いできますか」


「いいわよ」



 ・・・エクスプロージョンを見てみたい。



 あのセレーネが放った特大のエクスプロージョンが俺の脳裏に今でも焼き付いている。







 一方の暗黒騎士たちは、ひたすら俺に向けて攻撃を集中させている。魔将3人がいなくても、自分たちの力だけで俺を潰してしまう自信があるようだ。


 そして暗黒騎士たちから放たれた様々な属性の魔法攻撃は、だがその大半がマリアとレスフィーアのダブルバリアーを突破できずに霧消していく。


 この二人は闇属性が得意だと聞いていたから、今回は防御に徹してもらったが・・・


 この二人、魔力が予想以上に強い!



 それでもバリアーを突破してきた敵の攻撃も多く、それらはロイ、ケン、バンの3人がことごとく叩き落してくれた。これぞ物理盾、任せて安心の3人組だ。


 この5人のおかげで、勇者部隊の中で俺だけが戦いに参加せず、全体の戦況を観察することができた。




 まずアンナ、キャシー、ケイトのアカデミー研究科3人組だが、メイド軍団の中でもトップクラスの魔力を誇っており、そのメテオはやはり強力だった。ソーサルーラ騎士団が彼女たちをスカウトしていると聞いていたがそれも当然だな。


 3人が連携して間断なく、しかも確実に暗黒騎士たちにダメージを与えているのは、さすがは東方諸国の高位貴族令嬢たちにして魔法アカデミー研究科で優等を取っているだけのことはある。


 そして意外だったのがレイス子爵だ。


 マーカスとのコンビで水属性魔法による物理攻撃を使ってもらっているが、アスター分家のマーカスよりレイス子爵の方が強かった。


 そう言えばこのオッサンは魔法にやたら詳しくて、俺の質問にも結構細かく答えてくれていた。だから魔法攻撃を強くするためのコツを色々知っているのかも知れない。


 思わぬ拾い物をしたな・・・。


 そしてそのレイス子爵以上に掘り出し物だったのがネオンだ。


 俺のことを絶対に守ると言ってくれたネオンだが、その言葉通りの活躍でエクスプロージョンがとんでもない破壊力を持っていた。


 あの時のセレーネよりもさらに一回り強烈な爆発が魔族たちを襲い、大ダメージを与えている。


 さてここまでの戦いでは、イワン、ネオン、レイス子爵の3人が頭一つ飛び抜けているが、アナスタシアを筆頭に他の全員が暗黒騎士と比べてもなんのそん色もない魔力を持っていることが確認できた。


 ・・・つまり暗黒騎士クラスは、俺たち以下の魔力しかもたないということか。


 この魔族が特に弱いのかも知れないが、ヘルツ中将は別にそんなことは言っていなかったし、これが魔族の平均と考えてもいい。


 だとしたら、魔族って貴族と何が違うんだろう。





 今度は魔将クラスと戦っている6人のエースたちに目を移してみる。


 最初に目を引くのは、やはりランドルフ王子とジャンのコンビだ。なぜなら大量のゴーレムが魔将を取り囲んでいて、その魔将の頭上にはメテオで召喚された岩石が矢継ぎ早に降り注いでいる。


 原理的には俺たちと同じ、物理寄りの魔法攻撃で戦う作戦なんだが、あのソーサルーラ騎士団コンビはそれをさらに徹底していて、とにかく派手なのだ。


 そしてその隣ではジャネットがとんでもないスピードで魔将に斬りかかっていた。まさに剣舞と言えるような猛ラッシュで敵を完全にくぎ付けにしていて、その間隙をぬってアルフレッドが魔法攻撃を繰り出している。


 アルフレッドは闇属性を得意とするが、他にも風と水も使える。そしてこの状況で彼が選択したのはやはりアイスジャベリンで、大気中の水分を集めて凝縮した氷柱が高速で魔将に連射されていく。


 ただ魔将クラスになるとやはり魔力が圧倒的に強いらしく、10発ぐらい撃ってやっと攻撃が通るという感じだ。でもアルフレッドの連射速度なら、俺が手伝わなくても大丈夫だろう。




 そしてクロム皇帝とアンリエットのコンビだが、


「え? もう魔将が倒されかけている・・・」


 このコンビは、ここから一番距離が離れているのだが、よく見るとアンリエットが放っているエクスプロージョンがどこかおかしい。


 爆発が魔将の近くに閉じ込められていて、爆散が起きていないのだ。そして爆炎が竜巻のように筒状になって上空へと立ち上っている。


「何なのでしょう、あの魔法は・・・」


 するとネオンが俺の近くに来て、


「あの二人、面白い攻撃をしているわね」


「ネオン様には、あれがどのような魔法攻撃かお分かりになるのですか」


「ええ。たぶんあれはクロム皇帝が強力なバリアーで魔将を円柱形に囲んでいて、その上からアンリエットがエクスプロージョンを落としているのよ。こうすることで魔将の逃走を阻止すると同時に、爆発のエネルギーをバリアーの中に閉じ込めて破壊力を増幅させているの。エクスプロージョンはメテオほどじゃないけど物理寄りの攻撃だから、魔将よりも魔力で劣るアンリアットにも、あのような有効打が出せるのよ」


「・・・なるほど。あんな戦い方があったのですね」


「ええ。でもあの攻撃が成功するためには条件があって、バリアーを展開する人の魔力があの中で一番強いことが必要なのよ。でなければ魔将はバリアーを破壊して逃げることができるし、アンリエットのエクスプロージョンをあんなふうに閉じ込めることができないから」


「つまりクロム皇帝の魔力は、魔将よりも上・・・」


「そう言うことになるわね。さすがブロマイン帝国の皇帝だけあって強いわね」


 クロム皇帝の魔力が強いことは俺も感じていたが、魔族基準で魔将クラスを越えているのか。


 魔将軍クラスとかそんなレベルだったりして。





 さて序盤優勢で始まった魔族討伐だったが、時間の経過とともに俺たちの勢いが徐々に失われて行った。50体の暗黒騎士を相手にしてきたイワンたち10人もさすがに魔力が厳しくなり攻撃の手が緩んできた。


 俺がキュア&ヒールを放って支援しているが、単純に敵の数が多すぎるのだ。


 そして敵はまだ優に30体以上も残っており、仮にこのまま放っておけば10人は負けるだろう。


 一方で魔将を相手にしていた6人は順調なようで、クロム皇帝とアンリエットは早くも1体を倒しきってこちらに戻って来ているところだ。




 さてこれで、魔族とローレシア勇者部隊メンバーの両方の強さのレベルはわかった。後は・・・、


「今度はわたくしが魔族と戦いますので、マリアたち支援・輸送部隊の7名は後方に下がってバリアーと支援魔法を展開、魔法盾の3人も後方から魔法攻撃を、物理盾はわたくしの護衛で前に出てください」


 それだけ言うと俺は魔法を唱え始めた。





 俺はアンリエットたち6人に当たらないように軌道を外しつつ、一度に多くの魔族を倒せる位置を探して移動する。ロイ、ケン、バンの3人に守られながら馬で駆けぬけてある地点で止まった。そして、



 【光属性魔法・カタストロフィー・フォトン】



 その瞬間、俺の目の前に発生した巨大な魔法陣が光のオーラで満たされると、周囲のマナを巻き込みながら渦を巻き、一気に集束して強烈な閃光が放たれた。




 そして射線上の暗黒騎士たちが一部消滅した。

次回、魔族掃討作戦決着


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ