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第143話 魔族討伐作戦①

エピソードを3つに分けました




 小部屋の真ん中にあるソファーに3人が腰かけると、隣に座ったクロム皇帝が話始めた。


「この部屋にローレシアだけ呼んだのには訳がある。魔族に関しては帝国の皇族、例えばリアーネでさえも知らされていない事実がある。今から言うことは勇者部隊のメンバーにも秘密にしておいてほしい」


「ヘルツ中将が同席しているということは、軍事機密に関わることでしょうか」


「まあそんなところだ。さっきそなたは「魔王」という言葉を口にしたと思うが、ヘルツ中将から作戦説明を聞いてておかしいと思うことはなかったか」


 そう言って、クロム皇帝が俺を試すような目で俺の答えを待った。




 正直言っておかしいと思うことはいくつかあった。俺はそれを順番に聞いてみる。


「魔界に侵攻して魔界の王を倒すというところです。元老院議会の報告でヘルツ中将は「魔王」という言葉を使われていましたが、先ほどは「魔界の王」とおっしゃられていました。この二つには明確な区別があるのでしょうか」


 その質問に、ヘルツ中将が答えた。


「よくお気づきになられましたね。この二つの言葉は明確に使い分けています。まず「魔王」とは500年ほど前にこの地上に突如現れた火属性の堕天使スィギーンの化身であり、その魔王が復活したかそれに近い個体が現在帝国内に潜んでいると我々は考えています。一方「魔界の王」とは、この魔王が500年前に作った魔界の国の王のことで、人間の王と同じように代々世襲されています」


「魔界にある国とは一体どのようなものですか?」


「繰り返しになりますが、ここからの話は魔族と直接対峙する軍幹部しか知らない最高機密であり、この戦いが終わっても決して口外しないようお願いします」


「・・・そんな重要なお話を、わたくしなどがお聞きしてもよろしいのでしょうか」


「これはシリウス教会最高幹部と、帝国軍の元帥たる皇帝陛下とごく一握りの軍幹部、皇帝陛下が特に指定する者だけの極秘事項ですが、ローレシア様はシリウス教会の大聖女ですので資格がございます」


 隣を見るとクロム皇帝もうなずいている。


「わかりました。それではお願いします」




「魔界には「アージェント王国」と呼ばれている国があり、魔族が人間を奴隷にして暮らしています。ですが人々はみな邪神教団の洗脳を受けて、魔族を貴族と勘違いして隷属してしまっているのです。「聖戦」とはそんな不幸な人々を洗脳から解放し、我々と手を携えて共に魔族と戦うようにすることなのです」


「実は聖戦という言葉自体、帝国に来て初めて知りました。魔族のこともそうですが東方諸国では王族や一部の貴族以外、一般にはあまり知られていない事実ですね」


 ローレシアが頭の中でそう言っているので、間違いはないだろう。


「なるほど東方諸国ではそうなのですね。魔族の情報については色々と複雑な歴史的背景があるので私も詳細は分かりませんが、魔族の情報はシリウス教会が厳格に管理していて、帝国とそれ以外の諸国では情報公開レベルが異なるようですし、帝国内でも臣民向けと王侯貴族向けでかなり異なります。もちろん帝国軍内部でも階級に応じて異なり、この複雑な情報統制を行っているのがシリウス教会直属の「特殊作戦部隊」と呼ばれる諜報機関です」


「諜報機関・・・そうですね、魔族については「魔族狩り」とか不幸な歴史があり情報統制は仕方がないことと存じます。それでわたくしたちは「魔王」ではなく「魔界の王」を倒すので本当によろしいのですか。魔王なら帝国内にいるので、わざわざ魔界に突入しなくてもいいと思うのですが」


「おっしゃられる通りなのですが、なにせこの魔王はまだ正体が未確認で500年前の魔王と現在の個体が同一なのかも不明。魔将軍ドルムと比べてその破壊力が桁違いであること、かつてのエメラルド王国を灰燼に帰した火属性魔法を操ることから「魔王クラス」と定義したにすぎません。それにその個体を倒すことが聖戦に当たるのかはシリウス教本部の判断がまだ出ておりません。したがって現時点では「魔界の王」を倒してアージェント王国を滅ぼし、人類を解放するというのが最終目標となるのです」


「なるほど。この戦いはあくまでシリウス教の教義に基づき行われ、聖戦に当たるかどうかの判断はシリウス教会に委ねられているということですね。承知いたしました」






 そしてエステルタール基地を出発して2日目。俺たちはようやく最初の目標である、帝国内に入り込んだ魔族の軍勢の一つを捉えた。


 実は、基地を出発してすぐに救援要請のあった街に向かったのだが、俺たちが駆け付けた時には街は既に滅ぼされており、焼け落ちた街のあちこちには住人や帝国軍兵士たちの死骸が転がっていた。


 食料などの物資も既に奪いつくされており、俺たちは奴らの逃走の跡を追いかけて、今日になってようやく追いつくことが出来たのだ。


 そして俺たちの軍隊を見た魔族たちは慌てて逃げ出したが、ヘルツ中将の見事な指揮により、魔族の軍勢を細い回廊に追い込み、両方の出口から挟み撃ちにして逃げ道をふさいだ。


 そのあまりの手際の良さに、さすがは帝国軍前線司令官とその精鋭部隊だと感心した。


 そのヘルツ中将が、


「ローレシア様、これで敵は袋のネズミ。我々を突破するために魔族が前面に出て魔法攻撃を仕掛けてくるはずです。魔将クラスは3体確認できておりそれ以外にも強力な魔力を持つ暗黒騎士が約50体ほど」


「承知いたしました。それでは敵の一般兵はそちらにお任せいたしますので、わたくしたちと魔族との戦闘に巻き込まれないようにお気を付けくださいませ」





 ヘルツ中将が部隊を指揮するためにここから立ち去ると、俺は勇者部隊全員を集めて作戦指示を出した。


「それでは皆様、これがローレシア勇者部隊の初陣となります。魔将クラスが3体とのことですので、魔族がどの程度強いのか、そしてどのような戦い方をするのかの情報収集の場でもあります。本来は戦力の逐次投入など悪手なのですが、今回は魔法アタッカーと物理アタッカーの6人で魔将クラスに攻撃を仕掛けて下さい。わたくしたちは6人の支援と他の暗黒騎士を担当いたします」


 するとアンリエットが、


「ローレシアお嬢様、私たち6人の役割は承知しましたが、6人がまとまって戦うのか3組に別れて戦うのか、どのような分担をお考えでしょうか」


「ではクロム皇帝とアンリエット、ランドルフ王子とジャン、アルフレッドとジャネットの3組に分けて、それぞれ魔将と当たってもらえますか」


「お嬢様、それだと魔法アタッカーと物理アタッカーが偏ってますが」


「どうせみんな、魔法も物理も関係なく強いでしょ」


「それもそうですね」


「では皆様わたくしの近くに集まってくださいませ。今から聖属性魔法・グロウをかけます」






 久々に使った聖属性魔法グロウは相変わらずド派手なエフェクトを伴って発動した。そして神々しい光が消える頃には全員が20代前半の姿に変身していた。さらにキュア&ヒールの重ね掛けによるバフを与えると、全員の身体が光属性のオーラに包まれた。


 この部隊では勇者の俺が、回復&支援魔法担当だ。


 この魔法を初めて見たレイス子爵が、俺に向かって深々と土下座をする中、白いタキシード姿で俺に片膝をついていたクロム皇帝がキラキラした目で、


「ローレシアよ。このような神々しい光を呼び起こせるとは、そなたは真に大聖女なのだな。さすが余の花嫁だ。それに大人になったローレシアも一段と美しさを増したな」

 

「聖属性魔法は全部このエフェクトですので、わたくしが大聖女かどうかは全く関係がございません。それにクロム皇帝は魔法をかけてもかけなくても姿が変わらないので、この魔法は必要ございませんでしたね」


「ふむ、余は常に最盛期だからな」


 クロム皇帝とそんなどうでもいい話をしていると、同じようなタキシード姿をしたランドルフ王子が、


「さすが我が魔法王国の大聖女様だ。是非、このまま末永くソーサルーラに君臨してほしい。俺と共に」


「また貴様か! 余の妻に手を出すな!」


「何度言ったら分かる。ローレシアはブロマイン帝国の皇后ではなく、魔法王国ソーサルーラの大聖女だ」


 そしてクロム皇帝とランドルフ王子がケンカを始めそうだったので、


「二人とも戦う相手が違います! 早く魔族の討伐に行って来てください!」


「「わかった! どちらがローレシアの夫にふさわしいか、その目でしっかり見ていてくれ!」」


 そう言うと二人は馬に飛び乗って魔族に向けて駆け出して行った。それに慌てたアンリエットとジャンが二人の後を追いかけて行く。





 そして三人目の白いタキシード男のアルフレッドが俺に近付いて来た。


「それじゃあナツ、僕も行ってくるよ」


「アルフレッド、気をつけて行ってきてくださいね。わたくし親友としてあなたのことを応援しています。もし助けが必要ならすぐに合図を下さいね。わたくしがすぐに駆けつけますので」


「それは心強いけど、僕もあの二人には負けていられないから、同じように扱ってくれ。それとナツが僕を親友と言ってくれたのはとても嬉しいが、僕は絶対にキミを妻にする。だからキミも僕のことをそういう目で見てくれることを願ってるよ」


 そう言って真剣な目で俺を見つめるアルフレッドに俺の心臓は鼓動を速くした。




 何だこの気持ちは・・・。


 顔が熱くてぼーっとなって、


 もうどうしていいのか分からなくなって、


 やっぱり、ジャネットの代わりに俺がアルフレッドに付いて行くことにしようかな。そうすれば・・・。




 するとジャネットが、


「ローレシア様、アルフレッド様にはこのジャネットがついています。私がガンガンに切り込んでいきますので、二人で最速の勝利をあげて見せます!」


「そうね! ジャネット、アルフレッドをお願いね」


 俺は一時の気の迷いをどうにか振り切って、二人を戦場に送り出した。


 何だったんだ、今一瞬よぎった妙な気持ちは。





 そして魔族に向かって行く二人の後ろ姿を眺めていたら、ネオンが近くに寄ってきた。


「ねえローレシア。聖属性魔法にはそんな魔法があったのね。知らなかったわ」


「これはソーサルーラに伝わる二つの聖属性魔法のうちの一つ「グロウ」です。ご覧の通り、自分の能力を生涯最高の状態にまで引き上げる効果があります」


「とてもいい魔法ね。他に何があるの?」


「あと一つは、植物を枯らすための農家御用達魔法・ウィザーです。他にも聖属性魔法は色々あるそうなのですが、魔法アカデミーの教授が言うには、邪神教団が独り占めにしているとのことでした」


「邪神教団・・・」


「邪神教団は、大昔に堕天使を召喚してこの世に魔族をはびこらせていた元凶なのだそうです。今回の魔族討伐でも敵として出てくるかもしれないので、ネオン様もお気を付けくださいね」


「そうね。敵も聖属性魔法を使ってくるかもしれないから、ローレシアも気を付けてね」

次回、いよいよ魔族討伐が始まる


お楽しみに


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