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第141話 転移陣中継基地の女子会

 終始グダグダになってしまった出陣式だったが、集まってくれた民衆は軍馬で出陣する俺たちローレシア勇者部隊を熱い声援で送り出してくれた。


 そして式典会場を出発した俺たちは、そのまま同じ帝都にある帝国軍本部に入った。当たり前のことだが前線へは馬ではなく転移陣を使って移動する。


 そしてすぐに一回目の転移を行い、帝国中部の中継基地まで一気にジャンプした。




 帝国最西端の最前線までは、一度に転移せずに1日1回、3回に分けて転移を行うのだが、これは帝国の領土があまりに広く、普通の人間では長距離の転移に身体が持たないからだそうだ。


 そもそも転移陣は帝国兵でもごく限られた兵士にしか利用できず、それもかなりの訓練を積む必要があるものらしい。


 ただし強力な魔力を持った者は、転移に対する魔力耐性があるため厳しい訓練は不要なのだ。今回の勇者部隊を編成する際、事前にクロム皇帝から魔力の強い者をメンバーとするようにとの指示があったのも、一つはこれが理由だった。


 だがついこの前、俺はデートと称してクロム皇帝とともにいきなり最前線近くの軍港トガータまで転移して、ひどい吐き気に襲われた。しかもその日のうちに往復して戻ってくるという無茶をさせられたのだ。


 そしてそんなことをしたら普通は死ぬらしく、側近たちは生きた心地がしなかったらしい。


 何をやってくれてるんだよ、あのくそ皇帝は!




 さて一日目の転移を終えた俺たちは、今日はこのままこの基地に宿泊して、再び明日西に向けて転移することになる。ただし勇者部隊の移動経路は極秘事項であり、俺たちがこの基地にいることは基地幹部以外に誰にも知らない。


 だから基地幹部から全員に認識阻害の魔術具が手渡され、各自の宿泊部屋に入るまでは魔術具を作動し続けなければならなかった。


 その宿泊部屋だが、この中継基地はそれほど大きな基地ではなく、部屋のタイプは一般兵も士官も区別なく同じタイプのもので、二段ベットが3つで6人が泊まれるような部屋だ。


 これを女子には2部屋が用意され、俺の部屋にはアンリエットとレスフィーア、ネオンという同世代の女の子たちと、そのお世話係としてメイド長のマリアが同室となった。


 そしてもう一つの部屋には、アナスタシアとジャネットの薔薇騎士隊コンビと、アンナ、キャシー、ケイトのアカデミー研究科3人組という大人の女性部屋となった。


 そして問題の男子の部屋だが、俺・・・・ではなくローレシアを取り合っている3人はそれぞれ別の部屋に分けた方がいいというロイの意見で3部屋に別れてもらった。


 クロム皇帝の部屋には、大人で人当たりの良いロイとケンをお世話係につけた。そしてランドルフ王子の部屋にはジャンとバンを、アルフレッドの部屋には元フィメール貴族のオッサン連中であるイワン、マーカス、レイス子爵を同室にさせ、元王子の面倒を見てもらうことにした。


 これでうまく行けば、今後はこのメンバーで固定しよう。




 夕食はそれぞれの宿泊部屋でとり、それが終わると風呂の準備をアンリエット、マリア、ネオンの三人がてきぱきと進め、俺はレスフィーアと二人で雑談をしながら風呂が出来上がるのを待っていた。


 やはりレスフィーアの話は新しいコレクションの説明だったが、それがいつしか俺が誰と結婚するのかという話題に変わった。


 いわゆる恋バナである。


「ローレシア様はお兄様とご結婚されるものとばかり思っておりましたが、今のご様子だとクロム皇帝をお選びになられたということでしょうか」


「いいえレスフィーア様。わたくしはまだ誰とも結婚する予定はございません」


 ここはきっぱりと否定しておいた。クロム皇帝が埋めた外堀は、その都度掘り返しておくのが吉だ。


「でもローレシア様は今年成人をなさる年齢ですし、本来はエリオットとご結婚されていたはず。お世継ぎのことを考えれば早くご結婚された方がよろしいと存じますが」


 そうなんだよな。この世界の貴族令嬢は18で結婚するのが一般的で、アカデミーの同級生の多くの女子は卒業と同時に結婚するらしい。


「そうですね。いずれはアスター王国の世継ぎを産むために誰かを配偶者として決めなければならないのですが、実はまだその決心がつかないのです」


「そうなのですか? 先ほどの出陣式ではクロム皇帝の口からハッキリとローレシア様はご自分の妻だとおっしゃられてましたが」


「それはクロム皇帝が勝手におっしゃってるだけなのです。本当に困ったお人ですね」


「そうだったのですね。でもいずれご結婚されるのなら、ローレシア様はもちろんこの3人の中からお選びになるのですよね。今のところどなたが有力なのでしょうか」


 さすが女子会。


 レスフィーアがぐいぐい突っ込んでくる。





「・・・ここだけの話ですが」


 俺が声のトーンを少し落とすと、レスフィーアが目を輝かせながら近づいて来た。


「実はわたくし、以前からアルフレッドのことがずっと気になっていたのです」


「やっぱり、お兄様が本命っ!」


 レスフィーアが両手を口に当てて興奮していた。


「アルフレッドのことは親友で戦友だと思っていたのですが、彼の近くに行くとわたくしの心臓がとてもドキドキするのです。ひょっとしたら彼のことを好きなのかなと思ったのですが・・・」


「ローレシア様、それは好きってことで間違いないと存じますが、何か気になることでも?」


 レスフィーアが早く続きをと催促している。


「実はこの前、クロム皇帝にも全く同じドキドキを感じてしまったのです。わたくしは別にクロム皇帝のことは好きでもなんでもないので、この心臓のドキドキ感は好きとは違う別の何かだと結論付けました。ですので、アルフレッドとは親友ですが恋愛対象ではないということになりました」


 まあ、俺が好きなのはローレシアとアンリエットだけだし、そもそも野郎なんかに恋愛感情を持つわけがないのだ。それを証明してくれたクロム皇帝には、もはや感謝しかない。


「えーっ、それは残念です。わたくし、ローレシア様にはぜひお兄様とご結婚していただきたかったのですが」


「さすがはレスフィーア様。やはりお兄様の幸せを願っているのですね」


「いいえ、お兄様に特別な思い入れはございません」


「でしたらレスフィーア様も王族とのつながりが欲しいとかでしょうか? あのマーガレットも王族に執着しておりましたからね」


「それも違います。わたくしも元王族ですし、マーガレット様のような王族に対する憧れはございません」


「ではどうして?」


「ローレシア様がお兄様と結婚されたら、わたくしのコレクションルームにお招きしやすくなるからです」


 そっちかー!


「コレクションルーム! そ、それは・・・た、大変魅力的なご提案ですわね。オホホホホ」


「はい! コレクションルームはまだまだ規模を拡大していきますので、ぜひご期待下さいませ! ・・・でも今のお話の流れで行けば、ランドルフ王子の線は完全に消えたと考えてよろしいのですよね。先ほどの式典で王子がローレシア様の手にキスをされたのが気になるのですが」


「消えたも何も、まだ3人とは何も始まっておりません。・・・でもひょっとして、レスフィーア様はランドルフ王子を狙っているのでしょうか?」


「べ、べ、別にランドルフ王子を狙っているのではないのですが、わたくしも結婚相手を募集中でして、誰かいい殿方がいないかなと・・・」


「あれ? レスフィーア様にはすでに婚約者がいらっしゃるとお聞きしてましたが?」


 と、今ローレシアが俺に教えてくれたのだが、


「ええ、わたくしの婚約者は同じフィメール王家の親族だったのですが、この前の内戦で彼はフィメール王国側に残ってしまったため、わたくしとの婚約も解消になってしまったのです」


「そういうことでしたか。わかりました、我が王国の公爵令嬢のお相手を探すことは、女王であるこのわたくしの仕事です。お任せくださいませ」


「ありがとう存じます。でしたらお兄様をどうなさるかも含めてご配慮ください。ハーネス公爵家の家督をわたくしが継ぐ可能性も残されていますので」





 そして風呂に入った後、就寝時間まで女子会の続きをみんなでやり、その後明日に備えて早めに眠りについたのだが、




 ・・・俺は誰かに起こされて目を覚ました。こんな遅い時間に一体誰が。




「・・・ローレシア。少し話したいことがあるんだけど、ちょっといいかな?」


「・・・ネオン様?」


 俺の枕もとにネオンが立っていた。


「こんな時間にどのようなお話でしょうか」


「遅い時間にごめんね。ちょっとみんなに聞かれたくない話だったから、申し訳ないけど起こさせてもらったの」


 ネオンは少し遠慮がちにそう言った。


「わかりました、少しお話しをしましょう」


「ありがとう。ところでローレシア、その右手につけているシリウス教の指輪。それどこで手に入れたものなの?」


「このアポなんとかって指輪ですね。これはシリウス教会の総大司教猊下からいただいたものなのです」


「アポなんとかって・・・それはアポステルクロイツと言って神使徒の聖なる証とされている特別な紋章。シリウス教の創始者であるテルルが布教の際に用いた紋章でもあるのよ」


「へえ、そうだったのですか。ネオン様ってシリウス教にお詳しいのですね」


「・・・ていうか、ローレシアが知らな過ぎるだけだと思うけど。ひょっとしてあなた、シリウス教信者ではないとか」


「い、いえいえ、もちろん熱心で敬虔な信者ですわ。ただ宗教にあまり関心がなかったので、知識が少しだけ足りないのかもしれませんわね。オホホホホ」


 まずい! ・・・今、ローレシアは睡眠中だから、シリウス教の知識をフォローしてくれる人がいない。俺シリウス教なんて全く知らないし、とにかくここはうまくやり過ごさないと。


 だがネオンは、


「そう・・・まあ、あなたのように宗教に全く関心のない人が近くにいるから、こういうやりとりにもすっかり慣れてしまったわね。全くもうっ・・・」


 せ、セーフっ! なぜか納得してくれた。ネオンがリアーネみたいな敬虔な信者じゃなくて助かったのかも。


「でもネオン様はどうしてそんなにシリウス教にお詳しいのですか?」


「別に大したことはまだ言ってないんだけど・・・、まあいいわ。私の実家のアーネスト家は商家だけど、過去にはシリウス教会の枢機卿も輩出したことのある熱心な信者の家系なの。だから子供の頃から絵本代わりに経典を読まされたり厳しく育てられたからかな」


「それで納得がいきました。わたくしの装備についてもお詳しかったのは、商家出身で様々な魔術具に囲まれていた上に、敬虔な信者だからなのですね」


「そういうこと。それよりローレシア、その指輪にはつけた人の魔力を引き出す効果があるんだけど、あまりそれに頼り過ぎない方がいいと思うの」


 この指輪はやはり何かの魔術具だったのか。そしてネオンはこれが何なのかを知っているようだ。


「魔力を引き出す効果ですか・・・確かに、この指輪からは膨大な魔力を感じますが、でもそれはこの指輪に神様の奇跡の力が封じ込まれているからではないのですか?」


「いいえ、シリウス神はこの世界に直接手を出すことはできないの。だから神の御力は、神の代理人である貴族・・・魔力保有者が自分の魔力で起こす魔法でしか具現化できないのよ。だからその指輪から魔力を感じるのだとすれば、それはあなた自身の魔力なのよ」


「これがわたくし自身の魔力・・・」


「でもねローレシア。それが膨大と思えてしまうならば、無理に引き出してしまうと恐ろしい結果につながりかねないの。私はあなたの命を一番に考えているから、絶対に無茶なことだけはしないでね」


 俺を本気で心配しているのが伝わってくる。


「ネオン様・・・どうしてそれほどまでにわたくしのことを」


「ふふふっ。あなたの命を守ること、それが魔法盾の本来の役割でしょ」


「確かにそうでしたわね」


 このネオンという女子生徒は、とんでもなく物知りだし頭もいい。ハッキリ言って底が知れないが、彼女の目を見て分かるのだ。彼女は俺のことを本気で守ろうとしている。



 だから俺はネオンのことは信じていいと直感した。




「今から向かう戦場にいる敵・・・魔族はとても強いわ。この勇者部隊も相当な強さだけど、それでもまともにぶつかれば絶対に無傷ではいられない。それでも私はあなたを必ず守ってあげる。だから私の言うことだけは絶対に信用してね」


「ええ、もちろんです。これからよろしくお願いいたします、ネオン様」

次回、いよいよ前線基地へ


お楽しみに

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