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第140話 出陣式②

 さて、マリアたちの母国復帰をきっぱりと拒否した俺たちは、東方諸国の王族たちに丁重に挨拶して部屋を退出すると、明日の出陣式の準備を急いだ。


 くだらない会議に呼ばれて中断していたが、実は先ほどまで、俺の戦闘服をどうするか議論をしていた。


 というのも、俺はアンリエットとお揃いの冒険者用衣装を着ていたのだが、帝国軍幹部から、勇者部隊を率いる勇者としては軽すぎると言う意見が出たのだ。


 確かに軽業師や女シーフが着る服をアレンジしたものだから、軽いことは軽い。だが俺はアンリエットとお揃いのこの服がとても気に入っているし、今さら他の服を買いに行くのも面倒くさい。


 だから軍幹部には丁重にお断りしたのだが、勇者は帝国軍兵士たちの代表であり、戦闘服も軍規に定められたものを着用して欲しいと懇願されて困っていた。


 そのタイミングで、俺は大ホールに呼ばれて中座をしたのだが、もう面倒になった俺は去り際に、


「では帝国軍の制服から適当なものを選びますので、わたくしが戻って来るまでに用意してください」


 と言っておいた。そして戻ってみると、軍幹部が用意したのは男性用のゴツイ甲冑ばかりだったのだ。


 だが、


「あら、意外と素敵な制服ですね。わたくし気に入りました」


 そう、俺はもともとこういうガチ系の騎士になりたかったので、自分の身体の大きさに合わせて一番細身の白銀の甲冑を選んで着てみた。


「白銀の騎士・シルバーナイトでございます。皆様、これでいかがでしょうか?」


 俺がその場でクルリと一回転すると、軍幹部からは「素晴らしい」と拍手喝采の評価だったのだが、ローレシアを含む勇者部隊のほとんど全員が、この甲冑に猛反対した。


 女王としてふさわしくないとか、せっかくの美人なのに顔が隠れて勿体ないとか、可愛くないとか、可愛くないとか、可愛くないとか。


 ・・・勇者の戦闘服に、可愛さなんて必要か?


 もうどうでもいいから、誰か適当に決めてくれ。





 そこでクロム皇帝が仲裁して、過去の皇女が着ていた戦闘服なら軍規に違反しないという決定がなされ、それらが保管されている宝物庫へと案内された。


 どうやら代々の帝国皇女らは、魔族や周辺諸国との戦いにも度々出陣していたらしく、彼女たちは特別な戦闘服をこしらえていた。それらはもちろん、普通のドレスとは異なり一種の魔術具であるため、使用済みのものも捨てられずに国宝として保管されている。


 そして宝物庫の中を歩くと、実際大量の戦闘用ドレスが保管されていた。俺は一つずつ見て回ってかっこいいと思ったものをローレシアに確認していく。


 だが俺が選んだものはどれもローレシアの趣味には合わないらしく、だんだん機嫌が悪くなってきた。


 こうなると女の買い物は長くなるんだよな。


 ローレシアのダメ出しに俺がうんざりしていた時、隣にネオンがやってきていい戦闘服が見つかったと教えてくれた。俺はネオンに着いて行ってその服を見せてもらうと、途端にローレシアの機嫌が良くなった。




(わあっ! このドレス、とても素敵ですね!)


(・・・確かに戦闘服というよりはドレス寄りのデザインだし、この純白で清楚な雰囲気は、ローレシアの趣味にピッタリだな。それにスカートの丈も短くて、戦闘中にも邪魔にならず高速移動が可能だ)


(でもネオン様って、どうしてわたくしの好みをご存じなのかしら。今まで教室でもほとんどお話したことございませんのに)


(だよな。ちょっと聞いてみるか)




「あの~ネオン様、少しよろしいでしょうか」


「いいよ。なあに?」


「どうしてこの戦闘服をお選びになられたのでしょうか。とても素敵な服でわたくしも気に入ったのですが、もしよろしければ理由をお聞かせ願えないかと」


「この戦闘服はね、生地に魔金属オリハルコンが丹念に織り込まれていて、すごく軽量なわりに耐久性に優れているの。そして魔力伝導性も高いから攻撃魔法の発動性にも優れているのよ。それから頭からすっぽりとかぶるこのベールも魔金属オリハルコンがしっかり織り込まれていて、半透明になったり鏡面になったりと切り替えられるから、いろんな場面で役に立つの」


「それは素晴らしいのですが、ネオン様はどうしてそのようなことをご存じなのでしょうか」


「私はこの手の魔術具の研究が趣味で、自分でも色々と魔術具を作ったりしてるのよ。それに敵が光属性魔法で攻撃してくる可能性を考えると、この戦闘服が持つ防御機能は必須なのよ」


「光属性の魔法攻撃・・・それって我がアスター家の魔法と同じものなのでしょうか」


「厳密に言うと少し違うわね。アスター家のは魔力に頼った光攻撃なのに対して、私が想定している敵は、純粋な光エネルギーを直接ぶつけてくるの。まあ、念のための保険だけど、騙されたと思ってこの戦闘服は常に身につけておいてね」


 すげー、完全に考え抜かれた上での選択だった。


 しかしこのネオンって子、魔法や魔術具にメチャクチャ詳しそうだし、理路整然とした話し方で頭の良さも感じる。本当にあのセレーネの妹なのかよ。


 だが戦闘服に関しては、これで問題はないだろう。



「承知いたしましたネオン様。ではクロム皇帝、わたくしはこの戦闘服をお借りいたします」


 するとクロム皇帝はニッコリ笑って了承した。


「わかった。ではそのウェディングドレスは、余からローレシアへの贈り物としよう。なら余はこれに合うタキシードタイプの戦闘服に着替えねばならぬな」


 おいちょっと待て!


 これってウェディングドレスだったのかよ!


 誰だよ、戦闘服の中にそんな物騒なものを潜ませている輩はっ!







 さて一夜明けた出陣式当日、ここ帝都ノイエグラーデスの皇宮前広場には、前回の勇者部隊の出陣式よりもはるかに多い参列者で埋め尽くされていた。


 それもそのはず、俺の勇者部隊メンバーにはこのブロマイン帝国の頂点に君臨する皇帝や、東方諸国にその名を轟かす武装中立、魔法王国ソーサルーラの王子が参加しているからだ。さらにはソーサルーラの貴族がズラリと名を連ね、そしてこの俺、アスター王国女王自らが勇者として出陣し、そのアスター王国からは王族やら高位貴族がズラリと勢ぞろいした。


 つまり帝国軍の1小隊にあってこれほど爵位の高い部隊は、帝国の歴史上でも存在しない。20名のメンバーの中で平民なのは、ジャンとネオンのたった2人だけなのだ。




 広場の中央の一段高くなった壇上には皇帝の玉座が設置され、すでにリアーネが堂々と座っていた。その頭にはブロマイン帝国皇帝冠を乗せ、左手には王笏を持っていて、どこからみても立派な女帝である。


 その玉座の前には帝国貴族家の当主や属国の王族、東方諸国の主要な王侯貴族が整列しており、そのさらに外側には帝都ノイエグラーデスに暮らす帝国臣民たちが、クロム皇帝や勇者ローレシアの姿を一目見ようと殺到していた。


 そして出陣式の開会に先立ち、シリウス教会総大司教猊下が壇上に立つと、この俺ローレシアが、神がこの地上に遣わされた新たな使徒であり、シリウス教会の大聖女に就任したことを正式に発表した。


 この発表を聞いた全ての観衆は、貴族も平民も身分の貴賤を問わず、俺に平伏して深い祈りを捧げた。


 聖属性魔法で慣れたとは言え、これだけの数の人々から一斉に拝まれるのは、我ながらドン引きである。


 だがこのローレシア勇者部隊については、新たな神の使徒が遣わされて魔族を討伐するという宗教的位置づけが強化されてしまったことは確かである。


 会場は「聖戦」という言葉で溢れかえり、異様な熱気に包まれた。





 さて式典が始まると、まず最初に俺が皇帝の前で膝をつき、騎士の誓いを立てることになっている。


 俺は段取り通りに、颯爽と壇上に上がると皇帝の待つ玉座に向けて優雅に歩いていく。そしてリアーネの前に立つと・・・・・彼女は慌てて玉座から降りて、逆に俺に騎士の誓いを立てた。


「なっ、何をしているのですか、リアーネ様! わたくしがリアーネ様に騎士の誓いを立てるのです。段取りと違います。逆ですよ、逆!」


「いいえ、我が主君であり神の使徒でもあらせられるローレシア様に膝をつかせるなど、このわたくしにできようはずもございません!」


「だからと言って、あなたは今はブロマイン帝国皇帝なのです。お立場というものがあるでしょう」


 いきなり段取りがおかしくなった出陣式に観衆は戸惑い、会場はざわめきに満たされた。


 そんな中、総大司教の発表の際にも唯一俺に跪かなかった、ある意味一貫性のある男のヴィッケンドルフ公爵が、不機嫌さ全開で俺に向かって言った。


「ローレシア女王陛下よ。そなただけではなくクロム皇帝陛下も壇上に上げられたい。我が帝国の皇帝自らが魔族に対して立ち上がるところを見せてこそ、帝国臣民と周辺諸国を奮い立たせて団結が図れるのだ」


 上から目線で偉そうだが、言ってることは正しい。


「まあ確かに公爵のおっしゃる通りですね。ではクロム皇帝、あなたも壇上に上がって来てくださいませ」


「うむ。そなたが望むなら、そうしてやろう」




 そしてクロム皇帝が俺の隣に立つと、先ほどのざわめきはウソのように消えて、会場のボルテージは最高潮に高まった。


「大聖女ローレシア様、万歳!」


「クロム皇帝陛下、万歳!」


「ローレシア女王陛下、万歳!」


 俺たちへの万歳三唱が鳴り響く中、気になる声援もチラホラ聞こえてきた。


「クロム皇帝陛下、ご成婚おめでとうございます!」


「世紀のロイヤルカップルの誕生だ!」


「これで皇帝陛下にお世継ぎが生まれ、さらに魔族も倒せれば、我がブロマイン帝国も安泰だ!」


 ・・・しまった。


 俺はローレシアお気に入りの、ミニスカウェディングドレスを着てたんだった。


 そしてクロム皇帝は、タキシード風戦闘服・・・。


 完全に誤解されたっ!




 俺がどうやってこの誤解を解こうか考えていると、列席していた東方諸国の王族たちから突然の物言いがついた。そしてその王族たちを率いていたのは、まさかのソーサルーラ国王だった。


「先ほど公爵は「団結」という言葉を使われましたが、これではただの帝国の国威高揚のパフォーマンスであり、東方諸国との団結などどこにも見当たらん」


 その言葉に顔をしかめるヴィッケンドルフ公爵。


「ソーサルーラ国王、ではどうすればよろしいので」


「そうだな・・・、ここはバランスをとるためにも、我が息子ランドルフ王子を壇上に上げて、帝国と東方諸国の団結を示せばよい」


「確かにおっしゃられる通りか・・・仕方あるまい。ではローレシア女王陛下よ、ランドルフ王子も壇上に上げられよ」


 公爵め・・・俺に対してはイチイチ命令口調なのが気に入らないが、まあソーサルーラ国王の要望だし、言ってることも間違ってはいない。


 仕方がないから、その指示に従ってやるか。


「ランドルフ王子もこちらに上がってきてください」


「わかった。キミと皇帝のその服装では集まった観衆に間違ったメッセージを与えてしまう。キミがブロマイン帝国の皇后ではないことを、この場でキチンと示しておくとするか」


 そう言うと、タキシード風戦闘服を着たランドルフ王子が颯爽と壇上に上がると、俺の右手をとって口づけをした。


 それを見たクロム皇帝が、


「貴様っ! 余の妻に何をやっているのだ!」


「クロム皇帝。これはソーサルーラ式、騎士の忠誠の儀式だ。ソーサルーラの大聖女に対し騎士団長がとる礼節としてはこれが正式のものであるし、ローレシアはそもそもブロマイン帝国の皇后ではない」


 そして壇上での二人の言い争いを皮切りに、帝国元老院と東方諸国の王族たちの言い争いも始まった。たぶん、昨日の挙兵比率の話し合いがまだ決着していなかったのだろう。


 そして勇者部隊の中でも、タキシード風戦闘服を着たアルフレッドが壇上に上がろうとして、それをアンリエットに羽交い絞めにされて止められている。


 こうしてグダグダに始まった俺たちの出陣式は、大混乱のうちに幕を閉じたのだった。

次回、魔族討伐に向けて最前線へ


お楽しみに

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