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第139話 出陣式①

また長くなってしまったので、2つに分けました



 勇者部隊のメンバーが確定し、「ローレシア宮殿」と命名されてしまった帝都ノイエグラーデスの宮殿にメンバー全員が勢ぞろいした。


 そしてクロム皇帝が代理皇帝リアーネと元老院議長ヴィッケンドルフ公爵を宮殿に呼びつけると、予定通り明日、勇者部隊の出陣式を行うことを告げ、参列する帝国貴族・属国の王族、東方諸国の王侯貴族たちに勇者部隊のメンバーを公表するように指示した。




【ローレシア勇者部隊】


勇者

ローレシア・アスター(アスター王国女王、魔法王国ソーサルーラ大聖女)


物理盾

ロイ・ハリソン(ローレシア親衛隊)

ケン・フーバー(同上)

バン・ヘイズ(同上)


魔法盾

イワン・アスター(父、ローレシア親衛隊)

アナスタシア・アスター(母、薔薇騎士隊隊長)

ネオン・アーネスト(魔法アカデミー3年生)


物理アタッカー

アンリエット・ブライト(伯爵令嬢、アスター王国騎士団長)

アルフレッド・ハーネス(公爵令息、ローレシア親衛隊)

ジャネット・テラー(薔薇騎士隊切込隊長)


魔法アタッカー

クロム・ソル・ブロマイン(ブロマイン帝国皇帝)

ランドルフ・ソーサルーラ(魔法王国ソーサルーラ第2王子、ソーサルーラ騎士団長)

ジャン(ソーサルーラ騎士団・大聖女付き近衛騎士)


支援・補給部隊

マリア・ローゼス(メイド長、一代男爵)

アンナ・マーブル(メイド軍団所属、魔法アカデミー研究科、一代騎士爵)

キャシー・リンドン(同上)

ケイト・バークレイズ(同上)

レスフィーア・ハーネス(公爵令嬢)

マーカス・アスター(アスター王国副騎士団長)

ショーン・レイス(子爵)




 ところがこの勇者部隊の陣容が発表になると、途端に大パニックが起きた。すべての帝国貴族たちが、


「皇帝陛下自らが出陣されるのであれば、当家もぜひ勇者部隊のメンバーに加えていただきたい」


 と皇宮に殺到したのだ。これをリアーネが皇帝権限を振りかざして強引に押しとどめたのだが、厄介だったのは東方諸国の王族たちの方だった。


 出陣式の参列のために帝都に来ていた王族(魔法王国ソーサルーラとアスター王国以外)を急遽、皇宮の大ホールに集めて帝国元老院幹部たちが兵力の50%の拠出を求めたのだ。そしてそれに王族たちが大反発していたところにソーサルーラとアスター王国を主体にした勇者部隊の発表が行われた。


 しかもソーサルーラはゼロ、新興国のアスター王国でさえも兵力の20%で許されている事実を聞くや、勇者部隊に自分達も参加するから拠出割合を減らせと騒ぎ始めたのだ。


 さすがのリアーネも、東方諸国の王族に対して皇帝権限を振りかざして黙らせるわけにもいかず、むしろヴィッケンドルフ公爵率いる元老院の暴走を止めるにはいい薬だと、高みの見物を決め込むつもりだった。


 ところがそんな元老院と東方諸国の王族との話し合いの潮目が変わったのは、勇者部隊のメンバーの中に自国出身者が入っていることに王族たちが気付いた時だった。


 つまり支援・補給部隊のメンバーであるメイド軍団のマリア、アンナ、キャシー、ケイトの4名は、それぞれ出身国は異なるのだがいずれも東方諸国の元貴族で、その身分を奪われて平民に落とされ、遠くソーサルーラの修道院で一生を送ることを命じられていた者たちだったのだ。


 そしてその4国は、彼女たちの名誉を回復して王国貴族としての爵位を与え、国の代表として勇者部隊に参加させるから、兵の拠出割合を大幅に減らせと要求してきたのだ。


 そんなことをされては困る元老院はリアーネに対して、勇者部隊のメンバーからその4人を外し、代わりに帝国名門貴族の子弟をメンバーに入れるよう、俺に頼んでほしいと要求してきたのだ。


 さらには4国に抜け駆けされては困る他の東方諸国の王族たちが結託し、彼女たち4人の名誉回復に反対したり、自分の息子を勇者部隊に推薦したりと、議論は泥沼にはまっていった。


 そしてとうとう俺とマリアたち4人は、元老院幹部と東方諸国王族との泥仕合が行われている大ホールに呼ばれてしまったのである。


 本当はそんな話し合いなど無視してもよかったのだが、リアーネに無理に代理皇帝を押し付けてしまった手前、彼女に助け船を出す必要があると思ったからだ。





 俺は部屋に着くなり、全員の前でキッパリ言った。


「お話は伺いましたが結論から申し上げれば、勇者部隊のメンバーは確定いたしました。よってこれからの変更は致しません。マリアたち4人の名誉回復については彼女たちの意思に任せますが、それを皆様方の政治の道具に利用するのだけはやめてくださいませ」


 俺のその言葉に、その場にいるほぼ全ての者たちが苦々しい表情を浮かべたが、4国の王族は大喜びで、マリアたちの王国貴族への復帰を宣言した。


 だが4人は、


「そのお話、お断りさせていただきます」




 当然4人は喜んで貴族に復帰すると思っていた王族たちは、即座に断られたことに、何が起こったのか分からず唖然としてしまった。


 そしてその中の一人が、


「・・・なぜ断る。そなたたちはみなそれぞれの王国への帰還を許され、貴族社会に復帰できるのだぞ」


 それに答えたのはメイド長のマリアだった。


「なぜと申されましても、私たちはすでに名誉回復がなされており、ソーサルーラ国王から爵位もいただいております。ですので今さら王国へ帰還しろと言われても、どうしようもないのですが」


「いやこのメンバー表によると、そなたたちの爵位は一代限りのものだし爵位も低い。特にそなたは、わが王国の名門ローゼス家の出身ではないか。だったら今の爵位を捨ててこちらに戻ってくればいい」


 ていうかマリアって、名門貴族の出身だったのか。俺は成り行きを見守っているが、話はここからどんどんエスカレートしていく。


「いいえ、国王陛下。わたくしたちはすでに魔法王国ソーサルーラの貴族であり、ソーサルーラの大聖女であらせられるローレシア様に絶対の忠誠を誓う臣下なのです。ですので今さらあなた方に忠誠を誓う考えなど毛頭もございません」


 マリアがそう言い放つと、4人はキッパリとお断りするために頭を下げた。だが、その言葉に4国の王族たちは怒り狂った。


「この女どもめ! これほどの破格の申し入れを踏みにじるとは、お前たちはどこまで頭が悪いんだ。女は黙って男の言うことを聞いていればいいんだ!」




 その言葉を聞いたマリアが謝罪していた頭を上げて、国王をキッと睨むと、


「・・・私たちだって、ちゃんと考えた上でこの結論を出しているのです」


「ふん、そのバカな頭でか」


「・・・私たち4人はそれぞれ追放された理由は異なりますが、自分に何の落ち度もないのに夫や婚約者、あるいは親兄弟たちから不当な罪を押し付けられて、無理やり家を追い出され修道院に入れられたのです。その悔しさがあなたたちにお分かりですかっ!」


 マリアが涙を流しながら叫ぶと、それまで勢いに任せて怒鳴り散らしていた王族たちは、途端に言葉を詰まらせた。


「そ、それは、そなたたちの家門の者が悪いのであって、我々王族には伺い知らぬことだ」


「ええ、そうでしょうとも! 王族は貴族同士の内紛には見向きもしないから、貴族はやりたい放題。国王なんて表面的に忠誠心を見せておいて、適当に税金を納めていればそれで満足していると考えている人達ですから。そんな貴族社会に私たちが無理やり復帰させられて、これからどうやって暮らせと言うのよ。バカにするのもいい加減にして頂戴!」


 最早言いたい放題のマリアだったが、王族たちにも心当たりがあるからか、マリアに言い返したりはせずに受け入れてくれるための条件を聞き出そうとする。


「・・・では、どうすれば戻って来てくれるのだ」


「だから先ほど申し上げたとおり私たちはローレシア様に忠誠を誓ったので王国には復帰できません。もしどうしてもとおっしゃられるのなら、わたくしたちにも生き残る手段が必要です。まずわたくしを追放した家門を断絶させて責任者を処刑か流刑にし、わたくしたちには伯爵位以上の新たな家門の創設と王国騎士団の一部譲渡をお願いいたします」


「なんだと! そんなことできるわけがない!」


「ではこのお話はなかったことに」


 マリアの母国の国王は激昂するが、他の王族たちは側近と何やら話をしている。


「これで兵力の拠出割合を減らせるのなら安上がりではないか。この際マーブル家は潰してしまって、その小娘にマーブル家を名乗らせらばいいじゃないか」


「しかし王子、そんなことをしたら王族からマーブル家に嫁いだ者たちまで平民になってしまいますが」


「それは不味いな。勝手に決めては父王に叱られてしまうし、さりとて兵力の50%など、おいそれとは飲めぬ話だし弱ったな」


 他の王族も


「おいリンドン家を潰した場合、我が国はどうなる」


「バークレイズ家は王家に反抗的だからこの際」





 だがどの国の側近も首を縦にはふらなかった。4人を自国の貴族に復帰させる作戦が頓挫した4国の王族たちは、マリアたちを睨み付けながら、


「お前たち、後悔しても知らぬぞ・・・」


「あら今度は脅しですか? でも私たちにはそんなもの通用いたしません。なぜならここにいる大聖女ローレシア様のお力は、たかが王族程度では及ぶべくもない強大なものです。そしてそのローレシア様に絶対の忠誠を誓った我らメイド軍団の団結は、魔金属オリハルコンよりも硬いのです。もし私たちの誰か一人に手を出せば、他の全員が地の果てまでも必ずや復讐してご覧にいれます。うふふふ・・・」


 マリアの不気味な笑いに硬直する王族たち。そしてアンナたちも口々に自分の思いをぶちまけた。



「わたくしたちは魔法アカデミー研究科で毎日のように魔法の修練に明け暮れており、アスター邸でもメイド軍団には戦闘訓練が推奨されており、メイド同士で切磋琢磨して参りました。せっかくの機会ですので、わたくしたちの破壊魔法を今ここでご覧いただいてもよろしいのですよ」



「ソーサルーラ魔法アカデミーは、男女の差別どころか貴族や平民などの身分すら関係なく、魔力がある者なら誰でも平等に学べる素晴らしい学校です。私たちは今の環境を捨てたくありませんし、あなた方の国にこれほどの環境が整っているとは到底思えません」



「ローレシア様は男女関係なく、その実力と忠誠心さえあれば誰でも取り立てていただけます。わたくしたちもただの修道女だったのに、エール病治療をともに頑張った繋がりだけで侍女に取り立てていただいて、魔法アカデミーの研究科にも入れていただき、ついに勇者部隊のメンバーにまで抜擢いただきました。このような大恩をお返しする前に、母国なんかに帰れるわけないじゃないですか。バカなのはあなたたち王族の方でしょ!」


 マリアたち4人の言いたい放題の言葉に悔しそうに歯軋りしながらも、最早何も言い返すことができなくなった王族たち。そしてその様子を見てホッと胸を撫で下ろす他の東方諸国の王族たちと帝国元老院幹部、そして代理皇帝リアーネ。




 完全にメンツを失った4国の王族達は、今度は俺を睨みながらくどくどと嫌みを言い出した。王族としては新参者なのだから立場をわきまえろとか、歴史ある我が王家をもっと敬えとか、勇者部隊が女ばかりでけしからんから、この4人ではなく男を重用しろとか。


 もう話も終わったので、俺は4人を連れてさっさと部屋から退出しようと思ったら、それまで黙って話を聞いていたリアーネがついにぶちギレた。


「そこの者ども、ローレシア様に不遜な態度を取ることは、このわたくしが許しません!」


「り、リアーネ代理皇帝・・・。しかし、このローレシアはまだ女王になったばかりの新参者。東方諸国の王族としては一番格下なのですが・・・」


「お黙りなさい! シリウス教会から明日正式に発表される予定でしたが、このわたくしはもう我慢の限界です! ここにいるローレシア様は、シリウス教会の大聖女に在らせられます。その証拠に総大司教倪下より贈られたこの指輪をご覧なさい!」


 俺は早くこの場を立ち去りたかったが、リアーネが完全に怒り狂ってるし、頭の中でもローレシアがリアーネと同じテンションで怒り狂っていた。ここで黙って引き下がると、あとでローレシアから散々文句を言われるだろう。


 俺は面倒くさいなと思いつつ、右手の手袋を取って総大司教にもらった指輪をみんなに見せた。


 すると、


「その指輪の紋章は、最高位の神使徒にのみ許されたアポステルクロイツ!」


 みんなが口々にそう叫ぶと、全員が胸に手を当ててその場で神に祈りを捧げ始めた。そして、さっきから俺に嫌みを言っていた4国の王族たちは、慌てて俺の前にひざまずくと、青ざめた顔で俺に赦しを乞うた。


 なにこれ、スゲー威力だな。このアポなんとかと言う指輪は・・・。

次回、出陣式本番


お楽しみに

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