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第132話 魔族の正体

 勇者部隊の出陣式も終わり、ここ帝都ノイエグラーデスにおける俺の用事は全て終わった。後は魔法アカデミーに戻って属性魔法の訓練をし、早急に魔族との戦いに備えなければならない。


 リアーネの言っていた融和派的考え方でいけるのなら俺もそうしたいのだが、今の俺が置かれた立場ではそれは選べないからな。


 だからアランと肩を並べて魔族の侵攻を食い止め、そして魔界に突撃して魔王を倒す。この辺りはよく見る王道展開であり、それで人類が救われるのならやるしかないのだろう。


 ・・・だが待てよ?


 アランはああ言っていたが、魔王って確か帝国内に潜んでいるんじゃないのか? だったらわざわざ魔界に行かなくても、帝国内で魔王を探し出して倒してしまえばいいんじゃないのか。


 だがアンリエットも言っていたように、一撃で巨大な基地をも破壊するような桁外れの強さ。俺一人ではどう考えても倒せないし、普通の騎士団を連れて行ってもその強大な魔力の前に、きっと犬死をさせられてしまうだろう。


 そうすると先ほどの勇者部隊のように専用のチームを組んで戦うことになるのだが、もし俺が作るとしたら、アスター騎士団の最精鋭のローレシア親衛隊をベースに、足りない部分をランドルフ王子のソーサルーラ騎士団から最精鋭を借りて補っていく感じだな。




 そんなことを考えていると、いつの間にか俺の隣にクロム皇帝が立っていた。


「ローレシア、今から教会に行くぞ」


「教会ですか? ・・・ま、まさか、これから二人で結婚式を挙げるなんて言うのではないでしょうね! わたくしクロム王子とはまだ結婚しませんからね!」


「何を言っておるのだ。これからシリウス教会の総大司教に会って、魔族についての話を聞かせてやろうと思っただけなのだが・・・そうか、教会で二人だけの結婚式を挙げるというのも悪くはないな。ナイスアイディアだぞ、ローレシア」


「ちっ、違うのです! わたくしの勘違いですので、今申し上げたことは忘れてくださいっ!」





 アスター王国やソーサルーラもそうだが、この世界ではシリウス教という宗教が信仰されている。唯一神シリウスが世界を創造したとするこの宗教は王候貴族から庶民に至るまで、多くの人たちに浸透している。


 そしてこの宗教の総本山は、ここ帝都ノイエグラーデスの中心にそびえ立つシリウス教会大聖堂であり、これから俺は、この教会のトップに君臨する総大司教猊下と面会する。


 大聖堂の一番奥にある特別礼拝堂に、俺たち4人と皇帝、そしてその近衛騎士たちが入って行く。見事なステンドグラスで彩られ、古い歴史を感じさせる荘厳な印象のその礼拝堂では、総大司教が俺たちの到着を待ち構えていた。


「シリウス教会、総大司教のカルです。クロム皇帝陛下、ローレシア女王陛下、そしてお付きのみなさま、本日はようこそお越しくださいました」


「うむ。今日ここを訪ねたのは他でもない。いよいよ我々人類と魔族が最終決戦を行う。経典で予言された審判の時が訪れたのだ。そしてここにいるローレシアはその人類代表となる勇者の一人なのだが、シリウス教において魔族がいかなる存在なのか、彼女に教えてやってほしい」


「ローレシア女王陛下のことは、ここシリウス教会においても大変注目しておりました。ですので今回直接お話しできる機会をいただき、皇帝陛下には大変感謝申し上げます」


 総大司教がクロム皇帝な恭しく頭を下げる。そしてクロム皇帝が今度は俺の方へと向き直ると、


「ローレシア。魔族とは絶対神シリウスの力を宿した強大な存在であり、シリウス教には魔族の正体が記されているのだ。だから魔族を理解するために、本日は総大司教に講義をお願いした」


「シリウス神の力を宿した存在・・・わかりました。それでは総大司教猊下、よろしくお願いいたします」





 礼拝堂の椅子に全員が腰を掛けると、総大司教による講義が始まった。


「そもそも魔力とは何か。それはシリウス神が持つ奇跡の力そのものであり、神の創造物たる人間が神からその力を分け与えられることで、魔法としてその力を世界に顕現させることができるのです」


「魔力は神の奇跡の力であり、それを使うのが魔法」


「だが魔力を持つ人間はごく限られた一部の者だけであり、魔力保有者は神の代理人であり貴き者すなわち貴族。これが原初の人類に神から授けられたとされる経典ルシウスに記された世の理でございます」


「魔力を持つから貴族・・・」


「ところが魔力は、祖先から子孫へと代々引き継がれていくうちに、どんどん小さくなっていく。そのため神は、消え行く魔力を補充するために、新たな神の代理人をこの地上へと遣わしてくださる」


「つまり親から受け継がれる魔力とは無関係に、突然強力な魔力保有者が誕生すると。それが先ほど出陣された勇者たちなのでしょうか」


「彼らもきっとそうなでしょうが、神が新たに遣わされる代理人は必ずしも勇者とは限らないし、お遣わしになる場所も貴族家ではなく、むしろ平民の両親の元の場合が多い。それこそ神のみぞ知る」


「神のみ心のままにということですね」


「そのとおりです。神の行いに是非はなくただそれを受け入れるのが我々人間のできること。ところが古の時代にはそれを快く思わなかった集団がいた。それが邪神教団です」


「邪神教団!」


 邪神教団の名前は前にマリエットから聞いたことがある。確かに聖属性魔法を独占している奴らで、俺はカルト教団か犯罪組織のようなイメージで考えていた。


 だがこの文脈でシリウス教の総大司教が口にするということは、かなり古い時代から神と魔族との関係に深く絡んでいた組織ということになる。




 そして総大司教の講義は続く。


「魔力が自然と失われてゆく世界の在り方に異を唱えた彼らは、神から遣わされし代理人をただ持つだけでは飽き足らず、自らの力で魔力を地上に補充するために、なんと神の使徒をこの地上に召喚してしまったのだ」


「か、神の使徒なんかを召喚できるのですか!」


「はい。その秘儀はすでに失われましたが、かつての邪心教団はその力を持っていたとされています」


「失われた秘儀・・・」


「はい。そして彼らが召喚した神の使徒とは、原初のルシウス経典にその名が記される大天使スィギーン、ネプツニ、ビスマス、オーンセン、キガース、アスタチン、シルバの7柱です。そして堕天使となった彼らを人間の男女の肉体に受肉させ強制的に交わらせた」


「だ、堕天使を人に受肉させたのですか?!」


「はい、それが魔族の誕生です」


「つまり魔族とは神の使徒だった天使の成れの果て」


「その通りです。そして古の大地に降り立った魔族たちは、やがてこの大陸の西方に根を降ろし、そこに住まう人々を奴隷として支配するようになった」


「恐ろしい・・・」


「それ以来、魔族に捕らわれた人々を解放するための戦い、聖戦が始まりました、つまり人類と魔族との戦いは邪心教団の愚行より端を発したわけですが、その長い戦いが繰り広げられた後、一つの転機が500年ほど前に訪れました」


「・・・500年前」


「実は魔族も人間同様、代を重ねるごとにその魔力を失って行ったのです。神の使徒と言えども世界の摂理には逆らえなかった。そして聖戦が人間の優勢になっていた頃、突如この地上に魔王が降臨したのです」


「魔王が!」


「当時、衰えたとはいえ悪の限りを尽くしていた魔族の王に対し、魔王はその強大な魔力を使って魔城ごと焼き付くしてしまうと、生き残った魔族どもを次々と配下に従え、魔族の領域を急速に拡大させていった。これが現在の魔界の誕生です」


「魔界・・・魔界の境界門の向こう側」


「その通りです。当時の魔王は、自分に逆らう者に対しては容赦がなかったが、恭順の意を示す者にはその魔力を強化させ、さらにより強力な魔法を惜しみ無く分け与えていったと伝えられています」


「つまり魔王はその眷属をどんどん増やしていった」


「はい」




 ローレシアもこれまで聞いたことがなかった魔族に関する知識。それをシリウス教の総大司教は流れるように一気に語った。


「一つ質問なのですが、魔族とはどのような姿かたちをしているのですか。昨日の元老院では、昔ながらの騎士の恰好をした蛮族だとお聞きしましたが」


「そういう魔族もいますが、多くは我々と寸分たがわぬ姿をしており、外見では全く区別ができません」


「えっ! 外見では区別ができないのですか?!」


「はい。この事実は帝国臣民に無用な混乱を招くために、教会幹部とごく一部の貴族・軍関係者のみの極秘事項とされています」


「確かにそんなことが一般に知れたら、お互いが疑心暗鬼に陥ってしまいますからね」


「はい、女王陛下のおっしゃる通りで、この帝国ではかつて、魔族を巡る陰惨な出来事が起こったのです。歴史書からは削除されましたが、民衆の間で大規模な魔族狩りが行われたのです」


「魔族狩り・・・」


「魔族が外見だけではわからないため、その疑いをかけられた多くの罪なき人々が、拷問の末に惨殺される事件が頻発し、このシリウス教会関係者もそれに手を貸したことから、他国にもそれが広がり暗黒の時代を迎えたのです」


「暗黒の中世・・・」


「ですのでそういった過去の過ちを引き起こさないため、教会と時の権力者たちは魔族の正体を隠しとおす決断をしたのです」


「だから魔族の本当の姿について、誰に聞いてもハッキリしたことが分からなかったのですね。でもだとすると魔族と人間の区別って一体なんなのでしょうか。平民から見れば、魔族も貴族もどちらも魔力を持っていて、明確な区別はできませんよね」


「だがシリウス教では、魔族は神を裏切り人類に代わって世界の支配を目論む不倶戴天の敵とされてます。それが証拠に、我々人間と魔族との間には、その見た目以外に決定的な違いがあるのです」


「決定的な違いがあるのですか!」


「それは魔法の体系です。我々人類の使う魔法は唯一神シリウスから賜ったものを長年研究を積み重ねた、人類の知恵の結晶。片や魔族の使う魔法は邪神教団と魔王がもたらした、似て非なる邪悪な秘術なのです」


「なるほど、魔法とは神の奇跡をこの世に顕現させる術だとすれば、間違った魔法を使えば、それが神の御心に背いたものとなるということですね」


「さすがはローレシア女王陛下。そのとおりです」


「でしたら異なる魔法を使用している人を探せばいいのですよね。それで魔族がわたくしたちのすぐ近くにいる可能性は」


「ゼロではございません。これまでは帝国の軍事力が勝っておりましたので、奴らが魔界の境界門を越えて帝国に入り込むことはなかったのですが、去年の夏に魔王の侵攻を許してからは、昨日の元老院での報告どおり、帝国内に3体の魔族の侵入を許しています」


「でもたったの3体・・」


「ですが、3体発見したということは、その10倍はこの帝国のどこかに潜んでいるかもしれません」


「ご、ゴキブリみたいですね!」

次回、魔法王国ソーサルーラへ戻ったナツは


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一つの事をここまで伝聞のごとくそれぞれの視点で書けるとは作者様すばらしいです。 [一言] これなぜアスターが帝国の東側にいるのかも謎ですね。 後、残りのランドン、ネプチューン、ビスマルクの…
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