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第131話 勇者部隊の出陣式

 深夜遅くまでアナスタシアとリアーネの女子トークに付き合わされた俺は、眠い目を擦りながら勇者部隊の出陣式に着ていくドレスに着替えていた。


 俺は別になんでもよかったのだが、ローレシアがやたらこだわるため、いくつか持ってきた服の中から、彼女がお気に入りの純白の勝負服を着ることにした。


 俺のチョイスにローレシアはとても満足そうにしていたが、似たような服がたくさんある中で、何でこのドレスがいいのか俺には全くわからなかった。


 だが皇宮侍女たちはみんな口を揃えてこう言った。


「まあ素敵! 妖精のようにお美しいです皇后陛下」


「はあ・・・清楚」


「とても私たちと同じ人間とは思えません・・・」




 まあ、ローレシアが妖精みたいに綺麗なことぐらい俺もよく知ってるが、皇后陛下は止めてくれと思っていたら部屋の扉がガチャリと開いて、クロム皇帝が中に入ってきた。


「やっと準備ができたようだなローレシア、待ちくたびれたぞ・・・って、そなた」


「おはようございます、クロム皇帝。本日の勇者部隊の出陣式に着ていくドレスですが、こんな感じでよろしかったでしょうか」


「ああ・・・本当に美しい。完璧だよローレシア! そうだ、出陣式の場を借りて余とそなたの婚約を発表してしまおうか」


「やっ、やめてください! わたくし、クロム皇帝と結婚するなど一言も申しておりませんっ!」


「だがこの宮殿は気に入ってくれたのであろう」


「そういう意味だとは知らずにここに泊めていただいただけなのです。もし勘違いをさせてしまったのなら申し訳ございませんでした」


「別に勘違いなどしておらん。余はローレシアからのいい返事を気長に待っておるだけだからな」




 ダメだこの男、俺が何を言っても全然へこたれない。ていうか、なんでこいつはローレシアのことを、そこまで好きなんだろうか。


「・・・あの、わたくし以前から疑問に思っていたのですが、なぜクロム皇帝はわたくしと結婚しようと思われるのですか。わたくしよりも素敵な女性なんか、他にいくらでもいらっしゃると思うのですけれど」


「余が伴侶にしたいと思える女性はそなたのみ。そなたを気に入ったからというのでは、理由にはならないのかな」


「はい、全くなりません。わたくしは胸も小さいし、世の中にはもっと胸が大きくて素敵な女性はいくらでもいると存じます。どこを気に入られたのか自分自身がさっぱり理解できていないので、もっと具体的に教えていただけると助かります」


「ん? ローレシアは自分の胸のことを気にしているのか。確かによく見るとそなた、胸が随分と慎ましやかだな」


「ほ、放っといてくださいませっ! ていうか、クロム皇帝は今まで気がつかなかったのですか?」


「女性の胸の大きさをイチイチ気にする男がいるとも思えんが、そなたの場合その胸も含めて魅力的な女性だと思うのだがな。今日も綺麗だぞ、ローレシア」


 この皇帝、胸の大きさなど関係ないと言いきりやがった! それが俺に対する思いやりなのかガチの貧乳マニアなのかはわからないが、ちょっとカッコいいと思ってしまったのは秘密である。



 ドクンッ!



 ん・・・胸が痛い。



 ドクンッ! ドクンッ!



 こ、これはまずい・・・・久しぶり感じるこの胸のときめきは、遠足で感じたアルフレッドに対するものと同じ。いや、あの時以上だ。


 うわっ・・・か、顔も熱くなってきた・・・。


 まずい・・・静まれ心臓!


 勝手に反応するなこの身体!


 俺は男なんかにときめきたくないんだ。頼むから、もう勘弁してくれ・・・。




「どうしたんだローレシア。朝からツンツンしていたわりには随分と顔を赤くして可愛いな・・・。よし! やはり今日の出陣式で二人の婚約を正式に発表してしまおう」


「ち、違いますっ! わたくし、クロム皇帝のことなんか好きでもなんでもないんですから、かっ、勘違いしないでくださいませっ!」


 俺はこのままここにいたら自分がおかしくなると思い、思わず部屋を飛び出してしまった。





 結局どこにも行く当てのなかった俺は、リアーネに説得されて部屋に戻されると、朝食をクロム皇帝と共に済ませて、帝都宮殿前の広場での勇者部隊の出陣式会場へと向かった。


 皇帝からは、俺の座席もちゃんと用意しているので一緒に式典を見ようと誘われたが、嫌な予感がしたので今回はきちんと断った。


 案の定、式典会場に着くと、皇帝の玉座の隣にもう一つ玉座が並んでいたので、俺は慌ててそれを撤去してもらった。


 この皇帝、完全に外堀を埋めに来やがったな。お、恐ろしい・・・。





 さてこの勇者部隊の出陣式では、広場につめかけた多くの民衆が期待を込めて見守る中、勇者が皇帝の前で順に騎士の忠誠を立てた後に、部隊を率いて魔界の境界門のあるダゴン平原へと出陣していく。


 ただ、帝国内に正体不明の魔族が入り込んでいるため、途中転移陣を使ってジャンプしつつ、5つの部隊はそれぞれ別経路を通って最前線に集結するらしい。




 さて、危うく皇帝の隣に座らされるというピンチを乗り越えた俺は、舞台裏で順番待ちをしている勇者たちに直接ねぎらいの言葉をかけていた。


 帝国が見つけ出し育成した勇者は全部で5名。そして勇者をサポートするために最精鋭で組織された勇者部隊が全部で5組。そのすべてが今回出陣する。


 中には育成途中の勇者もいるそうなのだが、7万もの魔族の軍団が押し寄せる中、一切の出し惜しみは許されなかった。


 俺は勇者一人ひとりと言葉を交わしていく。5人全員が男であり、俺と同じ女勇者は一人もいなかった。みんなかなり緊張していて、俺が話しかけてもたどたどしい返事が返ってくるだけだった。


 魔力は確かに強いのだが、こんなガチガチで本当にちゃんと戦えるのだろうか。




 だが最後の5人目の勇者へねぎらいの言葉をかけに向かった時だった。突然、俺のよく知る男が目の前に立ちはだかると、いきなり睨みつけてきたのだ。


「ローレシア! 貴様、よくもここに顔が出せたな」


「カミール・メロア・・・どうしてあなたがここに」


「どうしてもこうしてもない! ここにおられるのは帝国最強の勇者にしてメロア家の次期当主、アラン・メロア様だ」


「この勇者様は、あなたのご家門の方でしたか」


「そうだ! 本当は俺もアラン様の勇者部隊に入りたかったのだが、力不足で入れて貰えなかった。だからせめてこの部隊の助けになろうと、魔法アカデミーの遠足の優勝賞品を始め様々な特典アイテムを入手しては、この部隊に提供してきたのだ」


「それであなたは、なりふり構わず必死でアイテムをかき集めていたのですね」


「そのとおり。この人類存亡の危機に、周辺諸国は我が帝国への協力を惜しむことは許されない。わかったなら、とっととその闇のティアラを俺によこせ!」


「あなたは、まだそんなことを言っているのですか。だからと言って、わたくしのアイテムをあなたに差し上げる理由などございません」


「この人類の一大事に、貴様というやつはっ!」




 そしてカミールが俺の頭から闇のティアラを奪うため、俺に掴みかかろうとした瞬間、アランが身体を滑り込ませてカミールを押し退けた。


「カミール、いい加減にしろ!」


「しかしアラン様! このティアラは特別な魔術具」


「いいからお前は黙ってろ! ローレシア女王陛下、このカミールがこれまで大変失礼なことをしていたようで、このとおり謝罪いたします」


 アランはそう言うと俺の前で深く頭を下げた。俺は慌ててそれを止めると、


「アラン様・・・あなたが謝罪する必要などございません。それよりも魔族との戦い、頑張ってください」


「ありがとうございます、女王陛下。でもあなた自身も勇者だと聞いております。・・・今回の魔族との決戦、あなたは出陣されないのですか」


「クロム皇帝との約束で、魔族との戦いにはこのわたくしも参加することになっております。ただわたくしはまだ魔法アカデミーの学生で、ようやく雷属性魔法の習得を始めたばかりの未熟者。いつ戦いに向かうのかはまだ何も決まっておりません」


「そうですか。・・・こんなことを言うのは差し出がましいのかも知れませんが、今の女王陛下のお力があれば、すぐにでも出陣頂きたい。・・・・他の4人の勇者とはもう話をされたのですよね」


「はい、アラン様が最後でしたので」


「だったらお気づきのはずだが、彼らでは戦力として心もとないことを」


「・・・魔力が足りないのですね」


「やはりお気づきでしたか。確かに彼らは7属性全てに適合していてそれなりに魔力も強い。魔法の習熟も女王陛下よりも上かも知れない。だが魔族と戦うために必要な魔力の絶対量がまだまだ不足している」


「魔力の絶対量・・・」


「本当はもう少し時間をかけて、ちゃんと覚醒させてから出陣させるべきなのですが、今回のスタンピードは彼らの成長を待ってはくれなかった。育成途上の彼らですら戦場に投入せざるを得ないこの状況、女王陛下の参戦がどれだけ望まれているか、ご理解頂けるものと思います」




 真剣な表情のアランに、俺は思わず答えてしまう。


「・・・し、承知いたしました。状況は極めて厳しいということは昨日の元老院の報告を聞いて実感しているところでございます。わ、わたくしもできるだけ早く、戦場に向かうよう努力いたします」


「本当にかたじけない。これより私は出陣いたしますが、叶うことならば魔界の境界門では肩を並べて戦いたいものです。そして共に魔界へと突入し、魔王を討ち滅ぼしましょう。では先に戦場で待っています」


 そう言ってアラン・メロアは馬に飛び乗ると、皇帝の待つ玉座の前に向かって、部隊の仲間を引き連れて駆けていった。

次回、魔族について、シリウス教の総大司教から話を聞く


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] 外堀が埋められていく。 まあ、、外堀から埋めにかかるのは基本中の基本ですよね。 [気になる点] 4人全員でなくて良いと思いますが、アラン以外の勇者にも言葉をかわしているならセリフあった方が…
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