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第129話 帝国の夜(前編)

長くなったので前後編に分けました


後編は夕方ぐらいにアップします




 そっと元老院を後にした俺たちは、外務卿に連れられて皇宮へと戻ってきた。外務卿は皇宮の執事長に俺たちのことを引き渡すと、晩餐会の準備があるとのことでどこかへと行ってしまった。


 そして後に残された執事長が、胸に手を当てて綺麗なお辞儀をしながら、恭しく俺に話しかける。


「ローレシア女王陛下には、宮殿をご用意いたしました。先代の皇后陛下が使用されていたものを全面改装したのですが、工事も完了して居住が可能ですので、帝国での滞在中はそちらでお過ごしください」


 俺は慌てて執事長に断りを入れる。


「ちょっと待ってください。クロム皇帝は本当に宮殿を用意していたのですか。てっきり冗談かと・・・」


「皇帝陛下はこんなことで冗談など言いません。本気でローレシア様をお見初になられたのですよ」


「そんな・・・。急に宮殿など用意されても、わたくしにはまだお答えする準備が」


「ええ、それはもちろん皇帝陛下も分かっておいでです。ですのでローレシア様のご意思を尊重されて、ご自分から皇帝陛下を求められるのを待っておいでなのです」


「・・・そんな、本当に困ります」




(ど、ど、どうしようローレシア。クロム皇帝が本気で俺のことを嫁にしようとしているぞ! 困ったな)


(そうね・・・。それにわたくし、あの皇帝のことがどうも苦手なんですけど)


(俺もだよローレシア! ていうか俺の場合は男全員が苦手なんだけど。男と恋愛なんか無理! 特にあの皇帝は押しが強い上に、何を考えているのかわからないし、底が見えないし、なんか薄気味悪いんだよ)


(わたくしもそれに同意見ね。リアーネ様を始め政敵である兄弟たちを容赦なく処刑した冷酷さ、自分の心を相手に読ませない飄々とした態度だけでも十分警戒に値するのだけど、わたくしが一番気になるのが彼の持つ魔力よ。今のわたくしたちだから感じることができるけど、彼は膨大な魔力を隠し持っているわ)


(ああそうだな。クロム皇帝が持つ底の知れない魔力は少なくともあのキュベリー公爵よりは上だな)


(・・・でも恋愛感情を抜きにして、わたくしたちの子孫のことだけを考えれば、クロム皇帝を選んだ方がアルフレッドやランドルフ王子と結婚するよりも正解なのは確かよね。だって魔力の強い子が生まれそうだから。・・・でもナツが結婚してくれるのだから、わたくしは3人の誰を選んでも構わないわよ。ナツはやっぱりアルフレッドのことが好きなのよね?)


(違うってば! 俺が本当に好きなのはローレシアとアンリエットで、アルフレッドはただの親友だ!)




 結局断りきれずに、俺達のために用意された宮殿に向かうと、宮殿の大ホールではすでに晩餐会の準備が整っていた。


 会場の奥には立派な玉座が2つ並んで用意されており、一つは俺の席でもう一つがクロム皇帝の席だ。


 だがクロム皇帝の姿はどこにも見えない。本来ならばこの晩餐会にクロム皇帝も出席予定だったのだが、元老院での審議が深夜まで続く見込みなのだそうだ。


 俺は自分の玉座に腰かけ、少し辺りを眺めてみる。


(ローレシア、この大ホールの大きさに比べて参加者の人数が少ないな)


(そうね。アスター王国の晩餐会と比べたら、やはり少し寂しいわね。でもここはよその国なんだし、こんなものじゃないのかしら)


 俺は少し気になってリアーネに尋ねてみると、さっきの元老院議員の反応でもわかるように、俺たちに対する帝国貴族の反感が強いらしい。今日の晩餐会にも外務卿をはじめとした皇帝に近しい貴族しか招待していないとのことだった。


 だが参加している貴族たちはみんな俺を大歓迎し、入れ替わり立ち替わり玉座に座った俺の前に跪いて、長い挨拶をして行った。


 これ、後で顔と名前が一致しないやつだな。


 そして晩餐会も何事もなく終了し、俺たちはようやく自分の寝室へと案内された。





 そこはブロマイン帝国の皇后にふさわしい豪華絢爛な寝室だった。最高級の調度品が設置された部屋の奥には、天蓋付きの巨大なベッドが設置され、皇宮侍女たちがズラリと並び俺たち4人の到着を待っていた。


 そして時間をかけて俺たちの就寝の準備を完璧に仕上げると、この寝室に隣接する侍女の控室へと、全員戻って行った。





「ローレシア、今夜は久しぶりに一緒に寝ましょう」


 後ろを振り返ると、アナスタシアが目を輝かせて俺の方をじっと見ている。そしてその手がワキワキと動いていて、俺を可愛がる気がすごく伝わってきた。


 そしてリアーネも、


「そうですね、お義母様。せっかくですので、今夜はみんなで一緒に寝ましょう。わたくしからも帝国の事情について少しお話しておきたいと思いますし」


「まあ! ではゆっくりとお話を聞かせてください」


 アナスタシアとリアーネが意気投合すると、


「それではローレシアお嬢様、私は隣の部屋で休みますので、今夜はご家族3人でごゆっくりとお過ごしください。それではお休みなさい」


「あ、待ってちょうだい、アンリエットっ!」


 だが俺の悲痛な助けを無視すると、アンリエットはさっさと自分の部屋に入ってしまった。





 広いベッドの真ん中に3人の女性が密集している。


 2人の女性に抱き着かれた俺がその真ん中で仰向けに横たわっているのだが、俺の右隣ではアナスタシアが慈しみの表情をたたえながら、俺の頭をずっと撫でまわしている。


 そして俺の左隣ではリアーネが俺の平らな胸にしっかりと顔をうずめながらスーハーと息をして、


「ああ・・・これが妹の香りなのね・・・」


 と、うっとりと呟いている。


 リアーネは昼間は仕事のできる女「ザ・クールビューティー」なのに、ベッドの上ではローレシアをひたすら溺愛する、ただの義妹バカである。


「あ、あの、リアーネ様! そんなことよりも、帝国の内情についてお話いただけるのではなかったのでしょうか!」


「そっ、そうでしたわね・・・。このまま妹の香りに包まれながら、幸せな眠りにつくところでした」


 あ、危ねえ・・・。この状態で二人に先に眠られてしまったら、また暑苦しくて眠れない夜を過ごすところだったよ。




「では、元老院でリアーネ様が少しおっしゃりかけていたお話をお聞かせくださいませ」


「承知いたしました。魔族に対する考え方についてですが、この帝国内には大きく分けて主戦派と融和派の2つがございます。主戦派は魔族と徹底抗戦し魔界に攻め込んで魔王を滅ぼそうとする者たちです。一方の融和派は魔族とはなるべく戦わず話し合って、互いの領域に踏み込まないよう協定を結ぼうとする者です」


「主戦派の考え方はシンプルで分かりやすいですが、融和派の言う魔族との話し合いなど、本当にできるのでしょうか?」


「魔族は人類より知能は低いながらも、言葉は一応話せますし、それなりに高い文化も持っています。帝国南方の未開領域にはエルフやドワーフといった亜人族も住んでいますが、魔族もそういった亜人の一種だと考えて対話が可能とする考え方なのです」


「ち、ちょっと待ってください! 帝国には魔族だけでなくエルフやドワーフも住んでいるのですか!」


「はい。南方の未開領域が帝国の領土なのかは疑問の余地が残りますが、ここから遥か南方にある深い山脈や死の砂漠を越えた向こう側に、エルフやドワーフたちが暮らす生息エリアが存在します」


「わたくしどちらかと言うと、魔族よりもエルフやドワーフたちとお近づきになりたいのですが・・・」


「まあ! 普通の貴族は彼ら亜人を蛮族として毛嫌いしておりますが、ローレシア様は彼らにも興味をお持ちなのですね」


「それは、もうもちろん!」


「ただ、彼らとは言葉が通じるので対話は可能なのですが、未開領域にたどり着くまでが大変で、今も細々とした交流が続いているだけなのです。また魔族に話を戻しますが、融和派の考えでは魔族はエルフたちと同じ亜人の一種であり、魔界とは普通に陸続きで行き来も容易なため、他の亜人族と違い不幸な衝突が起きてしまったと考えているのです」


「魔族がエルフと同じ亜人の一種ですか。わたくし、元老院でのお話を聞く限り、魔族と戦うのは得策ではないと思っています。魔族は強すぎますし仮に勝てたとしてもおそらく多くの兵が戦死して人類もボロボロになるでしょう」


「わたくしもそのように考えておりますが、理屈ではそれがわかっていても、どうしても魔族とは相いれないのが主戦派の考えです」


「主戦派はどうしてそこまで魔族を嫌うのですか? 何か理由が・・・」


「主戦派の考え方では、魔族は亜人ではなく神を裏切って魔界に堕ちた堕天使の末裔で、人類に代わってこの世界の支配を目論む不倶戴天の敵なのです」


「魔族は堕天使・・・だとすると確かに亜人とは異なり、どちらかと言うと神に近い存在ということになりますね。ただ宗教的な理由で魔族を相いれないのだしても、そんな超越的な存在と戦うのはなおさら得策ではない気がするのですが」

次回、主戦派の考え方が明らかに


そして話題はとんでもない方向へ進んでいく


お楽しみに

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