表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/200

第128話 魔族の脅威

 そしてヘルツ中将の報告がいよいよ本題に入る。


『しばらく姿を消していた魔王が再び現れたのが、あの邪神教団の結界門に接した最前線の軍港トガータです。この冬、何の前触れもなく突如魔王が来襲すると、たった一発のエクスプロージョンで、あの巨大な軍港を木っ端みじんに吹き飛ばしてしまいました』




「アンリエット。エクスプロージョンってたしかあのマーガレットが使用した大魔法ですよね。あれって、そんなに凄い魔法だったのですか」


「いいえ。私も使用することができますが、軍港を吹き飛ばすような破壊力などありません。それをやってのけるほどの強大な魔力を持っているから魔王なのではないでしょうか」


「なるほど、さすがは魔王ですね」




『魔王はその後、我が帝国が保有する最大の魔石鉱山であるルメール鉱山と、そこで取れた魔石の備蓄を行うルメール基地を同時に攻撃し、さらに遠く離れたムガド基地をも破壊するというまさに離れ業を演じ、我々の命綱である魔石を多数失う結果となりました』




「リアーネ様、帝国軍は魔石を何に使っているのでしょうか」


「我々人類が魔族と戦うためにはやつらの強力な魔法を封印する必要があり、帝国軍では魔石を大量に消費して広域的なマジックジャミングを発生させて戦っているのです。つまり魔石を失えば魔族本来の戦闘力が解放されて、我々は手も足も出なくなります」


「それは大変ではないですか! たしかソーサルーラは大量の魔石を保有しています。国王にお願いして、今からでも魔石の輸出を増やさなければ」


「そうしていただけると助かります」




『その後魔王は再び姿を消しましたが、その代わりに別の脅威が発生しました。闇の魔将軍、雷の魔将軍の来襲です。この2体は破壊力こそ魔王には及びませんが、神出鬼没に帝国内を荒らし回り、我が軍事拠点を効率的に破壊しています』


 ヘルツ中将の報告が終わるのを待たず、元老院議員たちが次々に質問を投げかけていく。



『ヘルツ中将。魔王と魔将軍の姿は確認できたのか』


『いいえ未確認です。なにせ攻撃を受けるまではその気配すら全く感じさせず、攻撃が終わった後もすぐに雲隠れして完全に姿を消してしまいます。彼らの去った後には、ただ完全に破壊された基地の残骸だけが残されているのです』


『なんということだ・・・。それで街や村の被害状況はどうなっている』


『今のところ特に被害の報告はなく、魔族は軍事拠点にしか出没していません』


『なぜ軍事拠点にしか出没しないのだ』


『魔族は魔石ばかりを狙ってきているのです。戦時体制下で民間への魔石供給を制限しておりますので、街や村に魔石はなく、また軍事拠点でも補給基地だけが襲われております』


『まさかマジックジャミングに魔石が必要なことが、奴らにバレてしまったのではないのか』


『彼らも一応知恵を持っているため、その可能性はあります。ただ彼らは人間と同じ姿形をしているものの、我々人類に比べて知能が低く、文化レベルも数百年以上は遅れている。南の未開エリアに存在する蛮族が昔ながらの騎士の格好をしているのをイメージした方が分かりやすいかと』


『だったら、騎士の格好の大男や大女を探せばよいのではないか』


『もちろんやっています。ただ魔界の境界門にはそのような個体が多数存在しているのですが、帝国内では今のところ発見に至っていません』




(魔族って人間タイプだったんだ。昔ながらの騎士の格好をした大男ということは暗黒騎士とかデュラハンみたいな奴らか。相手にとって不足はないぜ)


(人間タイプと聞いて、わたくしちょっとホッといたしました)


(え、どうして?)


(だって巨大なモンスターとかだったら恐ろしいじゃないですか)


(でも凄い魔力を持っているのに人間と同じような姿をしている方が恐ろしいと思うよ。だって魔族がこの議場に紛れ込んでいても、誰も分からないんだから)


(ヒーーーッ!)




『魔族がこの帝国内に侵入したのはわかった。魔王と魔将軍のどちらでもいいので、その3体は早急に見つけるように。それでスタンピードの方はどうなっているのだ』


『では話をスタンピードに戻しますと、現在魔族どもに率いられた死の軍団が魔界の門を抜けて、続々と我が帝国領に進軍しています。その数およそ7万以上』


『7万だとっ! 通常の10倍以上じゃないかっ! これまでの歴史上見たことのないほどの大軍勢だ』


『ええ、人類史上空前のスタンピードです。今のところは帝国軍の総力を持ってなんとか侵攻を防いでいますが、前線が再度突破されるのも時間の問題かと。そうなれば後は、この帝国の領土が魔族どもに蹂躙されるのみです』


『まさかそこまで酷いことになっているとは・・・』


『しかも厄介なことに、魔族どもは海からもこの帝国に侵攻しつつあります』


『海からだと! 魔族はロクな軍艦も持っておらず、我が帝国海軍が完全に海を支配していたではないか! 海軍はいったい何をしているのだ!』


『実は陸軍よりも海軍の方が、戦況は悲惨なのです。というのもやつら、我々も知らないような新魔法を編み出したようで、マジックジャミングの届かないはるか水平線の先から、的確に我が艦隊を狙い撃ちして沈没させてくるのです』


『水平線の先からだと? 艦影も見えないうちにどうやって艦隊の位置が分かるのだ。そもそもそんな長い距離を届かせる魔法など存在するわけがない』


『それが、どうやったのか全くわからないのですが、奴らは巨大な鉄の塊を飛ばして来るのです。遠方より飛んでくるためにその勢いが速く、当たれば何もかも粉砕するため、帝国の軍艦と言えども一撃で轟沈してしまうのです』


『巨大な鉄の塊・・・』


『実はこの魔法、魔界の門でも使用されていて正体が判明したのですが、陸軍より海軍の方に被害が集中しています』


『旧態依然で何の進歩もないあの魔族どもが新魔法を編み出しただと・・・魔族どもにそんなことができるなんて、歴史書や聖典をひっくり返してもどこにも載っていないぞ。そもそも神から知恵を授かったのは、我々人類だけではなかったのか!』


『だがこれが現実なのです。彼らは完全に安全な場所からいつでも自由に我々を攻撃でき、我が帝国艦隊は敵の存在を知る前にいきなり船を粉々にされて、気がつくと大海に放り出されていて、やがて海の藻屑となるか魔族どもに捕まり魔界へと連れ去られるのです』


『お、恐ろしい・・・。魔力が圧倒的な上に新魔法を編み出せる知恵まで備わった7万以上の軍勢。そして魔王の復活と魔石の枯渇問題・・・ヘルツ中将、我々人類が魔族に勝てる見込みはあるのか』


『現在ボルグ中佐率いる特殊作戦部隊が魔界への潜入を果たし諜報活動をしております。ただ現在は完全に連絡が途絶えていて、報告を待っているところです』


『あのシリウス教会直属の諜報部隊か。その新魔法を含め情報の入手は必須だが、それだけでは心許ない』


『そのために勇者部隊の派遣を要請したのではありませんか。5人の勇者全てを投入するという元老院の英断には感謝いたします』


『だが5人の勇者だけでそんな魔族どもを抑えることができるとはとても思えんが』


『勇者は魔族に対抗できる魔力を有しております。従ってマジックジャミングが切れた局面で魔将軍に突撃し、一体ずつ各個撃破する作戦です。死の軍団もそれを率いる魔将軍さえ潰せばあとは何もできない烏合の衆。そして彼らの隙をついて、勇者たちが魔界に突入し魔王を倒せば我々の勝利です』


『なるほど。だがそれだと時間がかかりすぎる上、一か八かの賭けが過ぎる。そもそも魔石の枯渇が先に来れば、そんな悠長な作戦では抗し切れんだろう』


『その通りです。そこで元老院の皆様にお願いです。ぜひ兵力の倍増、軍事物資の補給、そして最大級の戦時体勢の発令、周辺各国への協力の要請、とにかく打てる手段の全てを至急お願いします。このままでは人類が滅びてしまいます!』


 ヘルツ中将の報告が終わり、議長がこれから審議を始めるための総括を述べる。


『ヘルツ中将はこれで下がってよろしい。ではさっそく予算と外交についての審議に入ろう。戦時国債を増発して戦費を捻出するもよし、周辺各国にも魔族との戦いに協力するよう一層の圧力をかけるもよし。言うことを聞かない国は、この際全て属国にしてしまう手もあるな。意見のある議員は挙手を願おう・・・』




(なあ、ローレシア・・・)


(なあに、ナツ)


(この世界の魔族って、ちょっと強すぎじゃないか。今の報告を聞いて勝てるビジョンが全くなくなった。だって俺たちの魔力ってそこまでチートじゃないし)


(ふーん・・・それでなあに?)


(俺たち、皇帝ととんでもない約束をしてしまったんじゃないのか)


(・・・だから言いましたよねっ! 魔族などという恐ろし存在と戦うのなんて、わたくしは嫌だって!)


(すまんローレシア・・・。物語の世界ならどれだけ魔族が強くても最後は人間が勝つようになってるんだけど、やっぱり現実は厳しいわ。今の話を聞いたら、どう贔屓目に見ても勝てる見込みはないよ)


(じゃあ、そうするのよ。皇帝に謝罪して約束を無しにしてもらう?)


(その方がいいかも。でも約束を反古にする代わりに俺が皇帝の花嫁にさせられそうだけどな。でも魔族に立ち向かって殺されるよりはましだ。なにせ今俺たちが死んでしまったらアスター王国の未来が・・・)


(・・・わかりました。ナツは女の子として、皇帝を受け入れる覚悟が出来たということですね)


(うっ・・・すまん。実はまだ覚悟はできてない)


(ごめんなさい。少しナツに意地悪なことを言い過ぎましたね。でも魔族がこのまま帝国に攻め込んできたら、本当に人類滅亡してしまいそうよね。そしたらアスター王国の未来もなくなるわけですし、わたくしたち一体どうすればいいのでしょうか)





「ヘルツ中将からの報告も終わり、元老院の審議が始まりました。ローレシア女王陛下もご退出下さい」


 外務卿が恭しく俺の退出を促すとリアーネもそれに頷き、俺に退出をするよう言った。


 俺たちは議事の邪魔にならないように後方から静かに退出したが、そんな俺たちの様子を一人の老議員がじっと見つめていたことに、俺たちは誰も気づいていなかった。

次回、リアーネから見た帝国元老院です


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「なにせ攻撃を受けるまではその気配すら全く感じさせず、攻撃が終わった後もすぐに雲隠れして完全に姿を消してしまいます。」がなぜそうなっているか誰も仮設を立てたり、考察しないとは。 「我々人類に…
[一言] 魔族強そうですね( ´∀` )b ローレシアとナツがさらに強くなるのが楽しみですヽ(・ω・´)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ