第126話 謎の転校生②
女王様のような威厳の女子生徒と、取り巻き令嬢のようなシスターの二人組が優雅に歩き去っていった。
その後ろ姿を見ながら、俺はホッとため息をつき、
「すごい二人組でしたね、アンリエット、カトレア」
「はい。あの女子生徒からはローレシアお嬢様以上に女王の貫録が出ておりました。何者なんでしょうか」
「元シスターの私から見れば、あのシスターからは神にお仕えするという気概が一ミリも感じられませんでした。むしろ邪悪な気すら感じましたが、気のせいでしょうか」
「悪役令嬢とその取り巻き令嬢のコンビと考えれば、わたくしはむしろしっくりと来ましたが・・・」
俺たちが呆気にとられていると、風属性クラスの女子生徒たちが緊張感が解けたように、わらわらと廊下に出て来た。
「フリュオリーネ様とマール様って本当にお強よかったのね」
「さっきの魔法の授業での、カミールの無様な失態。私スカッとしましたわ。クスクス」
「プッ! 本当よね。もういい加減にマール様に楯突くのを止めればいいのに。それにしてもマール様の戦闘力もすごかったですが、フリュオリーネ様の魔力は一体どうなってるのでしょうか」
「魔力といいその立ち居振舞いといい、あの方が平民とはとても思えませんわ。あれは完全に女王様よね。いっそローレシア様とお二人でコンビを結成されたらとても面白いと思うのに」
「あ、待って! そこにローレシア様ご本人がいらっしゃるから!」
「あっ、ローレシア様だ! し、失礼いたしました。オホホホホ」
俺に気付いた女子たちは気まずそうに、食堂の方へと慌てて走り去って行った。
「アンリエット。あの女王様がまさかの平民でした」
「・・・だとしたら、ものすごい平民ですね。あんなに威厳のある平民が住んでいるなんて、一体どんな国なのでしようか」
「あのシスターもただの取り巻き令嬢ではなく、すごい戦闘力を持っているようですし」
「戦うシスターというところが、ローレシア様とよく似てますね」
「やはりエミリーもそう思いますか。あのシスターってわたくしとどこか似ているというか、他人のような気がしませんの。なぜかしらね」
(ナツっ! わたくしあんな変なシスターなんかに、全然似てませんっ!)
(わ、悪かったよローレシア。そんなに怒るなよ)
(ナツは貴族令嬢は全員悪役令嬢だと思ってるから、そんな風に見えるのですっ! ふん!)
(あの扇子をバカにしたのは謝るよ。それにあの二人は平民だから、悪役平民と悪役シスターだ)
(うるさい。それ、全然謝罪になってないでしょ!)
そして今度は男子生徒がゾロゾロ教室を出て来た。ほとんどの男子生徒は頬を赤らめて魂の抜けたよう表情で食堂へ向かって行く。
「ああ、フリュオリーネ様・・・」
「この俺も、次の授業で戦いを挑んでみよう。そして徹底的に叩きのめして頂きたい」
「ちょっと待てよ。僕が先に相手をしてもらうんだ」
「慌てなくても、あの方は全員と相手してくださる。だからお前らは俺の後な」
完全に魅了されている男子生徒の中に一人だけ屈辱の表情をたたえている男がいた。
「カミール・メロア・・・」
俺がうっかりつぶやくと、俺に気付いたカミールがサッと目を伏せた。
・・・コイツのことは前から気に入らなかったし、丁度いい機会だ。少しからかってやるか。
「あなたが女子生徒に膝をつくなんて、一体どういう風の吹き回しですか」
「ちっ、見てやがったか。だが貴様には関係ない!」
「確かに関係ございませんが、あなたのような傲慢な貴族が平民の女子生徒に膝をついているのが理解できなくて。もしかしてあの子のことが好きなのですか」
「貴様は何を言ってるのだ! 好きなわけあるか!」
「では、ブロマイン帝国の貴族のあなたが膝を屈するということは、さらに上位の国の平民なのですか」
「貴様、ブロマイン帝国のことまでバカにするのか! 帝国はこの世界の至高の国家であり、さらに上などは存在しない!」
「ではあなたは、その至高の帝国よりも格下の国の、しかも好きでもない平民の女子生徒に膝を屈したということですね。プーッ、クスクス」
「お前・・・よくもそれだけこの俺に減らず口が叩けるな。大聖女のくせにそんな嫌な性格してやがったのか。・・・アイツらはブロマイン帝国の人間だ」
「ブロマイン帝国・・・。え? ちょっと待ってください。わたくしあなたをからかっていただけなのに、少し頭が混乱してきました」
「この俺をからかっていただと! どいつもこいつも俺のことをバカにしやがって!」
たしかコイツは帝国の伯爵家だったはずだ。なのに同じ帝国のしかも平民に頭を下げている。これは一体どういうことなんだ。だが俺が混乱している間も、カミールは俺にどなり散らしている。
「カミール、少し教えてください。あなたが平民に頭を下げたということは、帝国では貴族より平民の方が身分が上ということですか? ざ、斬新な国ですね。そうすると奴隷が一番上で平民、貴族と続き、クロム皇帝が一番身分が下ということなのでしょうか?」
「うるさい、お前はもう黙れ! 気分が悪いので失敬する!」
そう言うとカミールは食堂の方に走り去った。
放課後、俺はマリエットの研究室での練習を早めに切り上げて、帝国へ行く準備をするためアスター邸へと帰宅した。そして自室へ戻る途中、応接室で楽しそうに話しをする女子たちの笑い声が聞こえた。
「アンリエット、どなたかお客様が来ているようね」
「そのようですね。中を確認してきます」
アンリエットが応接室の様子を確認すると、中からエミリーを伴って出てきた。
「おかえりなさいませローレシア様。今日はお友達が遊びに来てくれていて、是非ローレシア様にご挨拶がしたいと」
「この前お話してくれた方たちね。カトリーヌ様と」
「セレーネ様です。お二人とも中でお待ちですので、どうぞこちらに」
俺はアンリエットとエミリーともに、応接室の中に入った。するとそこにはカトリーヌともう一人、白銀の長い髪に真っ赤な瞳をした美少女が立っていた。
「あれ・・・あなたはネオン様?」
「ネオンを知ってるということは、あなたは雷属性クラスなのね。あの子とはよく間違えられるんだけど、ネオンの姉のセレーネです。初めまして」
セレーネはにっこり微笑むと、俺に近付いて握手を求めて来た。随分とフレンドリーな女の子だ。
「ローレシア・アスターと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。エミリーから聞きましたが、あなたはすごい天才魔術師なのですね。このわたくしが苦労して考案した水属性魔法ウォシュレットを一瞬でマスターされたのでしょ」
「天才だなんてそんな。それに私よりも、あの魔法を編み出したあなたの方がよほど天才だと思うわよ! それより今日はみんなにお土産があるの」
セレーネがそう言うと、カトリーヌが喜んで、
「セレーネ様のお土産なら、きっと素晴らしいものに違いございませんわ」
「えっへん。じゃあまずはカトリーヌからあげるね。じゃじゃーん! 下着を瞬間換装する軍用魔術具~」
「それは一体どういうものなのですか?」
「これはどんな複雑な構造の下着でも、一瞬で脱いだりはいたりすることができる軍用魔術具なのよ。これがあると軍事行動中に急にオシッコに行きたくなっても、侍女の助けなしにいつでもどこでもすぐにできるのよ。カトリーヌにピッタリでしょ」
「うわあ! ありがとう存じます。とても素晴らしい魔術具ですね。わたくしもこれで安心して遠足に行くことができます」
「喜んでもらえてうれしいわ。では次はエミリーね。じゃじゃーん! おっぱいを○○して△△する軍用魔術具~」
「せ、セレーネ様、これは一体どのような魔術具なのでしょうか」
「エミリーって巨乳でしょ。だから普段からいろいろと大変だと思うの。だからこの魔術具を使えば○○が△△して、□□が××で◎◎できるのよ。ね、エミリーにピッタリの魔術具でしょ」
「うわあ! ありがとうございます、セレーネ様」
な、な、な、何なんだよこの女は!
この異世界に転生してきて初めて見たよ、いきなり下ネタから会話が始まって、しかもこんな直接的な表現を使う女の子。
オシッコって言うな! お花摘って言えっ!
パッと見、とんでもない美少女なのに、なんだろうこの残念ヒロイン。実に残念な女の子だ・・・。
(びっくりしたよなローレシア。この世界にはこんな残念な美少女がいるんだぜ。世界って広いよな)
(・・・・・)
(ローレシア?)
(・・・・・ボンッ!)
(ローレシア? ・・・うわあ大変だ、ローレシアの思考回路が完全にショートした!)
ローレシアが何の反応も示さなくなって焦る俺に、セレーネは笑顔で近づいてきた。
「さて最後のローレシアにはコレ! じゃじゃーん、おっぱいを大きくする軍用魔術具~」
「まさか! ・・・そ、そんな魔術具がこの世に存在するのですか」
「そうよ、素敵でしょ。ローレシアは胸が小さいことをすごく悩んでるってエミリーから聞いていたから、きっと喜んでくれると思って」
「す、すごい・・・嬉しいです! そ、そ、それで、その魔術具はどうやって使うのですか?」
「すごい食いつきようね。大丈夫だから焦らなくても教えてあげる。この魔術具に魔力を込めると胸の部分にマジックバリアーが展開されて、敵の攻撃から胸を防御してくれるのよ。見た目、巨乳の女騎士に見えるからローレシアにピッタリでしょ」
「・・・それってただのパットじゃないですかっ!」
「そうとも言うわね。まあ、軍用魔術具なんて戦いの中で必要な機能しか持ってないし、本当におっぱいが大きくなるんだったら、この私が先に使ってるわよ」
「え? セレーネ様って、胸は十分に大きいではありませんか。使う必要が全くございませんよね」
「・・・私、ネオンより少し小さくて、いつもあの子にバカにされてるの。もう、思い出しただけでも腹が立つわ。悔しいっ!」
贅沢な悩み過ぎて最早言葉も出ないが、ローレシアの意識がなくなっていて助かったぜ。
こんな話を聞かせたら、絶望の底まで突き落とされてしまうからな。
アホ回はここまでで、次回からは帝国で魔族の脅威に触れます
お楽しみに




