第124話 プロローグ②(ソーサルーラでの新婚生活とアルフレッドの決意)
午前中に雷属性魔法の授業を受けた後、午後も魔法の特訓をするために、マリエットの研究室を訪れた。
「まあまあ、これは女王陛下。アカデミーに復学されたそうで、大変御無沙汰しております」
「マリエットもお元気そうね。今日からまた、午後はここで魔法の勉強をさせて頂きたいのですが」
「もちろん結構ですが、水属性魔法はかなり上達されたようですし、そろそろ他の属性にでもチャレンジされた方がよろしいかと」
「はい。今日からはアンリエットに火属性魔法の特訓をつけてもらおうかと思っております」
「それはいいですね。ブライト家は火属性魔法が得意ですから。・・・ところでさっきから気になっているのですが、どうしてアンリエットと手をつないでいるのですか」
「こ、これは・・・」
気がつくとアンリエットが俺の手にそっと触れていた。俺は慌ててアンリエットの手を放すと、
「アンリエット! ど、どうしてわたくしの手に触れているのですかっ!」
するとアンリエットは顔を真っ赤にして、
「ローレシアお嬢様をお守りするために・・・その、手をつないでおこうかと思いまして」
「・・・だそうです。何か変でしょうかマリエット」
「私には、護衛と言うよりはもう少しほわっとした、そうまるで恋人同士のような雰囲気を感じましたが」
「「ギクッ!」」
「まさかお二人は女同士にもかかわらず、ついにそのような関係になられたのでは」
「そっ、それは・・・」
俺たちをじーっと見つめていたマリエットが、急に表情を緩めてふっと笑った。
「冗談です。アンリエットは昔から精強な騎士が好みでしたし、将来は自分の子供を鍛えて上げて、家族でローレシア様の護衛騎士をするのが夢だと、散々聞かされていました。そのアンリエットがローレシア様自身とくっつくことなど、あろうはずがございません」
「そ、そのとおりですっ。女同士でそのような関係になる訳がございませんっ!」
「そんなに力一杯否定されると逆に心配になってしまうのですが・・・まあいいでしょう。ではいつものように研究室は自由にお使いいただいて結構ですので、終わったらカギを閉めて私にお返しください」
「「承知しました」」
俺はアンリエットを研究室に連れ込んで鍵をかけると、アンリエットと向かい合わせに座った。
これから火属性魔法の訓練を始めるのだが、アンリエットに手取り足取り魔法を教えてもらうのだ。
俺を見つめて頬を赤く染めるアンリエットに、俺はさっきの態度を謝った。
「さっきはマリエットの前だからアンリエットの手を振り払ってしまいました。大変申し訳ございません」
「それはわかっている。私こそ勝手に手を繋いで悪かったなナツ。ただ、なるべくナツと一緒に居たくて」
「アンリエット・・・」
「・・・アスター王国にいる時は、ナツとはあまり時間を過ごせなかった。建国のバタバタもあっていつもローレシアお嬢様がご活躍されていたからな」
「重臣たちとの会話はやはりローレシアでないと務まりませんので。でもこの魔法アカデミーでは、わたくしの方が多めに登場する予定です」
「別にローレシアお嬢様がダメと言うわけではないのだが・・・でもようやく、結婚して以来初めてナツとゆっくり過ごせるな」
「そうですね。ここでは午後の魔法特訓も夜のギルドでの戦闘訓練も担当はどちらもわたくしですし、それにアスター邸のお部屋もアンリエットと一緒なので」
「・・・昨夜はエミリーとカトレアも一緒だったが、今夜からはまた私たち二人で、あの部屋に住むことになるのだな」
「は、はいっ! あの・・・、不束者ですがよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそっ、よろしく頼むっ!」
俺とアンリエットはお互いに頬を染めながら、ペコペコお辞儀しあった。
「アンリエット・・・わたくし、もう少しあなたの傍に寄らせていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんだナツ。もっと私の近くに来てくれ」
「はい・・・」
俺はアンリエットとほとんど顔がくっつきそうな距離まで近づくと、二人のアツい時間を過ごした。
(ファイアーの練習です)
夜になると親衛隊の全員を引き連れて、ギルド裏の闘技場で夜の戦闘訓練を行った。ここでは聖属性魔法グロウを使って、最高の状態での濃密な訓練を行う。
魔法を使うと、ロイ、ケン、バンの3人はその姿があまり変化しないが、俺たちアカデミー生4人は大人へと成長し、逆にローレシアの両親のイワンとアナスタシアはかなり若返った。
この二人は一時的にでも若返るのがとてもうれしいらしく、夜の特訓でも一番気合いが入っていて、最後まで二人で模擬戦や魔法の撃ち合いをしていた。
お前らちょっとハリキリ過ぎだ。年寄りは筋肉痛が二日目以降にくるんだぞ。
そしてみんながクタクタになって訓練を終えると、またぞろアスター邸に向けて夜道を帰って行く。
その道すがら、アルフレッドが俺に近付いてきて、みんなに聞こえないようにこっそり話しかけてきた。
「ナツ、ローレシアは近い将来王配を迎え入れることになると思うのだが、僕もまだ候補として考えてもらっているのだろうか。彼女から何か聞いていないか」
「これはアルフレッド様だけにお教えいたしますが、ローレシアはどの殿方も王配には迎え入れません」
「えっ!? だってそれでは、ローレシアのアスター王家の血筋が途絶えてしまうだろう」
「でもローレシアは、わたくしナツの本妻でございます。ですので、わたくし以外の殿方と結婚することはございません」
「ローレシアがナツと結婚したことは知っているが、それとは別に本物の男性を配偶者に迎える必要性は、ローレシア自身も理解していたはずだ。・・・まさか僕以外の男に決まったから遠回しに拒否してるのか」
「ち、違います。別にクロム皇帝やランドルフ王子に決まったわけでもございません」
「そうか・・・それはそれでホッとしたが、だったら王家の跡継ぎはどうするつもりなんだ」
「時期が来れば配偶者は迎え入れます。ただし結婚するのはローレシアではなく、このわたくしです」
「・・・ん? それって、ローレシアが結婚して王配を迎え入れるのと何が違うんだ。話がよく見えないんだが」
「何を言っているのですかアルフレッド様。わたくしと結婚するということは夫婦である時間はローレシアは一切表に出て来ずに、このわたくしが全て対応することになるのですよ!」
「それがどうしたんだ? 中の人がナツになっても、実体はローレシアなのだから、やはりどちらでも同じではないか」
「あの~、つかぬことをお伺いいたしますが、アルフレッド様はわたくしと結婚することに何の抵抗もないのでしょうか。わたくしは殿方なのですよ?」
「・・・抵抗など特にない。そもそもナツが男性だと言われても今一つピンとこないというか、僕はアンリエットみたいにナツとローレシアの区別がはっきりとつくわけじゃないんだ」
「・・・さ、左様でございましたか」
「でもありがとうナツ! これで僕のやるべきことがはっきりとわかったよ」
「・・・はあ。ちなみにアルフレッド様は、これからどうなさるおつもりなのでしょうか」
「僕はローレシアではなくナツ、キミに全力でアタックするよ。必ずキミを僕に振り向かせて見せる!」
「ええぇぇぇ・・・」
その時、隣で黙って話を聞いていたアンリエットがアルフレッドに食ってかかった。
「アルフレッド! ・・・ナツはこう言っているが、私はナツが王配を迎えることに、まだ納得したわけではないからな!」
「アンリエット・・・そう言えばキミもナツと結婚していたんだったな」
「ああそうだ。そして今夜から、ナツとの新婚生活がスタートする。だから私のいる前では、ナツへの全力アタックとやらは控えてもらおうか」
「新婚生活って、女同士で一体何をするつもりだ」
「何をって・・・」
アンリエットは顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせてしまった。完全に自爆である。
「わわわわ、私は知らん! わっ私に何をするつもりなのかはナツに聞いてくれっ!」
「アンリエットっ! 変な話をわたくしに振らないでください。答えられるわけないではないですかっ!」
「そう言えばナツ、ローレシアお嬢様との新婚生活は何をしているんだ。やはり・・・」
「へっ、変な想像はしないで下さいませっ!」
顔を真っ赤にしてワタワタ焦る二人に呆れながら、アルフレッドはナツへの猛アタックを心に誓うのであった。
こうして魔法アカデミーでの日々が再開し、俺とローレシア、アンリエットの3人での新婚生活、そしてアルフレッドの俺へのアタックが始まった。
そして季節はすっかり春になり学年が一つ進んだ。
今日からはアカデミーの3年生。クラスはそのまま雷属性クラスなのでクラスメイトもそのままだ。
だが新学年のウキウキした気分に水を差したのが、今朝届いたクロム皇帝からの招待状だ。帝都ノイエグラーデスで勇者部隊の出陣式があるので参列してほしいとのこと。
(なあローレシア。勇者部隊って何だろうな)
(・・・さあ、何でしょうね。わたくしあまり興味がございませんので)
(帝国関係の話になると、ローレシアは随分と覚めてるよな。俺たちも7属性持ちの勇者なんだし、いずれはこの勇者部隊とやらに配属されるかも知れないぞ)
(わたくしは帝国貴族ではないので、そんな部隊には参加しません。そんなに興味があるのならリアーネ様にでも聞いてみれば?)
(なるほど! ちょっと聞いてみるか)
「リアーネ様。クロム皇帝からのお手紙にございます勇者部隊とはどのようなものなのでしょうか」
「読んだそのままの意味にございます。ブロマイン帝国はとても人口が多いので、7属性の全てに適性のある者が少数ながら存在します。そうした者を全国から探し出し、専用の部隊を作っているのです」
「まあ! それではわたくしの他にも、7属性勇者はいるのですね」
「はい。わたくしの知る限り、帝国には5人の勇者が存在します。そしてその勇者をサポートするために、様々な役割の兵種が集まり一つの部隊を構成します。つまり勇者部隊は5つ存在するのです」
「そんなにも!」
「彼らもいよいよ魔族との戦いの最前線に投入されるので、帝都で華々しくセレモニーを行うのでしょう」
「とてもよくわかりました。それでわたくしたちはいつ帝都に出発すればよろしいのでしょうか」
「こんなギリギリに招待状を送りつけてくる皇帝など無視しても差し支えないと存じますが、もし出陣式に参列するのであれば、転移陣を使って式典の前日に帝都に着いていればよろしいかと。つまり明後日です」
「承知いたしました。もちろん参加いたします。わたくしとても楽しみです」
「はあ・・・」
さて、新学期早々2日でアカデミーを休むことになった俺だったが、今日と明日はしっかりと魔法の練習をしておこうと、張り切って登校した。
そしてカトレアと一緒に雷属性クラスに入ると、いつも空席だった俺の左隣の席に、男女の生徒が既に座って何やら雑談をしていた。
うわさの転校生二人組がやっと登校して来たのだ。
だけど、あの二人どこかで見たことが・・・。
・・・あいつ、あの時のラノベ主人公だ。
次回、うわさの転校生との対面。そして、
お楽しみに




