第123話 プロローグ①(魔法アカデミーへの復学)
後日談スタートです
ここからは不定期更新となりますが、
完結までお付き合いいただければ幸いです
戴冠式の翌日、フィリアが忽然と姿を消した。
夜、地下牢に食事を持って行った衛兵が、いつもは泣き叫んでいるフィリアが静かだったので、とうとう死んでしまったのかと慌てて牢屋に駆け寄ると、跡形もなく消え去っていたのだそうだ。
しかも牢屋の中が荒らされたり、鉄格子がこじ開けられた形跡もなく、直前までフィリアが普通に過ごしていた状態のまま、ただ忽然と居なくなっていた。
まさに神隠しだった。
「フィリアの捜索を大至急お願いいたします。あの子はマーガレットと違って魔術具による行動の制約を受けておりません。再び大罪を犯す前に、必ず捕まえて地下牢に収監してください」
ローレシアがそう言うと、騎士団長のアンリエットが治安部隊長に向かって指示を出した。
「フィリアはローレシアお嬢様の殺害を2度も図った凶悪な殺人者だ! ヤツを野放しにしていては今度は女王暗殺などを企てかねない。アスター王国の未来のためにも、絶対にフィリアを捕縛しろ!」
「はっ! 直ちに捜索を開始します」
治安部隊長たちが慌てて立ち去ると、その場に残ったローレシアとアンリエット、そして側近のリアーネが同時に大きなため息をついた。
「ローレシアお嬢様は、フィリアの脱獄について何か心当たりがお有りですか」
「心当たりではないのですが、わたくしなら闇属性魔法ワームホールを試してみるでしょう。ただフィリアはその魔法が使えないし、外部の協力者が使ったとしても、城の外から地下牢に転移するには強力な結界を突破する必要があり、普通は実行不可能」
「お嬢様なら突破できるのですか」
「試してはみるでしょうが、自信はございません」
「ローレシア様ほど強力な魔力保有者は、ブロマイン帝国にもまずいませんし、外部からの侵入は少し考えにくいですね」
「それに、仮にそのような者がいたとして、フィリアを連れ去る理由がわかりません。あの子にはリスクに見合う価値などございませんし、そんな強力な魔力保有者と事前に知り合いだったとも考えられません」
「結局、脱獄方法は不明のまま、フィリア本人を見つけ出す以外に方法はなさそうですね」
「ええ。ところで魔力と言えば、わたくしもそろそろソーサルーラのアカデミーに復学したいのだけれど。クロム皇帝との約束で、わたくし魔族と戦わなければなりませんし、そのためには魔法の修行を十分にしておきたいのです。リアーネ様、そちらの手配をお願いしてもよろしいでしょうか」
「承知いたしました。復学なさるのはローレシア様とアンリエット様、そしてアルフレッド様の3名でよろしいでしょうか?」
「それでお願いいたします。ただしソーサルーラにはわたくしの親衛隊を連れて行きます。リアーネ様もついて来てくださいね」
「ローレシア様の側近ですので、もちろん心得ております」
フィリアの失踪があってしばらくは、その捜索やら王国の運営やらで忙しい時間が流れた。だが王国の運営も次第に重臣たちに任せられるようになると、ローレシアはすぐに復学の準備を整えて、魔法王国ソーサルーラへと向かった。
そしてアスター邸に戻ったローレシアは、リアーネや親衛隊に部屋を割りふると、久しぶりの自室のベッドに大の字に寝っ転がった。
(あー、やっぱりこの部屋は落ち着きますね)
(そうだな。ここにいれば女王の仕事からは解放されて学園生活に戻れるからな。昼間は魔法の修行、夜はアンリエットと剣術の修行だ)
(・・・でもその後は、魔族との戦いが待っているのですよね。わたくしとても恐ろしいのですが)
(俺はすっげー楽しみだよ! 魔族ってどんな奴らなんだろうな。ツノがあったり背中に羽が生えてたりするんだろうか)
(体長10メートルの大男かも知れませんよ。・・・でもすぐに、嫌でも知ることになるのですから、わたくし今は魔族のことなど考えたくもありません)
(わかった。なら後の楽しみにとっておくよ)
そんなことをローレシアと話していると、ノックの音がして、エミリーとカトレアが部屋に入ってきた。
「ローレシア様とアンリエット様。今夜の当番は私たち二人です」
「まあ、エミリーにカトレア! ちょうどよかった。明日からアカデミーに復学いたしますので、わたくしのいなかった間の話を、ぜひお聞かせくださいませ」
「「はい! そのために来ましたので」」
その夜、ローレシアの部屋の広いベッドには、ネグリジェ姿の4人の少女が並んで横になっていた。ローレシアとアンリエットを挟んだ両端にエミリーとカトレアが寝転んでいる。
そしてその二人がアカデミーでの出来事を、代わる代わる話してくれた。
「それでエミリーは、カトリーヌ様とその新しく来られた転入生のお二人と仲良くなったのですね」
「はい。先ほどローレシア様のお花摘みで使用いたしました水属性魔法ウォシュレットはいかがでしたか。カトリーヌ様には免許皆伝をいただきましたの」
「まあ、カトリーヌ様から免許皆伝を! わたくしの魔法とも寸分たがわぬ素晴らしい出来でした」
「やった! でもその転入生の方はもっとすごいのですよ。この魔法をたった一度ご覧になられただけで、完璧に使いこなせて見せたのです」
「えっ?! あの(ナツが)苦労して編み出した魔法をたった一度で・・・。す、すごい転校生がやって来られたのですね」
「はい。カトリーヌ様も彼女は天才だとおっしゃられてました。それにものすごい美人で性格も明るくて、クラスの男子はみんな彼女のファンになってしまいました。も、もちろんローレシア様には敵いませんが」
「そんな完璧な優等生が世の中には存在するのですね。わたくしもぜひ一度お会いしてみたいです」
「明日アカデミーに行けばいらっしゃいますし、最近はこのアスター邸にもよく遊びに来られています」
「まあ! ここに来られたこともあるのですか。だったらこのわたくしもお友達になれるでしょうか。そう言えば、カトレアのクラスにも転入生が入ってきたのでしょ。どんなお方なのかしら」
「はい、男子生徒と女子生徒の二名です。ただお二人ともクラスメイトとはあまり交流を持たず、午前中は魔法の授業に没頭して、午後は選択科目も取らずにずっと図書館にこもって魔法の勉強をしているのです」
「そんなに一日中魔法の勉強だけされているなんて、随分と真面目な方たちなのですね」
「ローレシア様も似た様なものだと思いますが」
「そ、そうでしょうか・・・」
「それにそのお二人はとても魔力が強いのです。この前に魔法実習の授業で対戦した時には、クラスの誰もそのお二人には敵わなかったのです」
「誰も敵わなかった・・・。ちなみにその転校生の方はどちらから見えられたのですか」
「ブロマイン帝国だそうです」
「ブロマイン帝国・・・。帝国は大きな国ですので、本当にいろいろな方がいらっしゃるのですね。でもわたくしのいない間に随分と優秀な生徒がアカデミーに集まって来たようで、明日の登校が楽しみです」
翌朝、身体当番の俺はアンリエットとアルフレッド、それに護衛騎士のロイ、ケン、バン、イワン(父)と薔薇騎士隊隊長のアナスタシア(母)、側近のリアーネを引き連れて魔法アカデミーに登校した。
久しぶりにアカデミーの校門をくぐると、ちょうど俺たちと入れ違いに、アカデミーから出て行く学生の一団とすれ違った。
見たことのない学生たちだな。
一人はちょうど俺と同じぐらいの男子生徒で、その周りをとびきりの美少女3人が取り囲んでいた。
・・・お前はラノベ主人公かよ。
そしてもう一人、ベールを深くかぶったシスターがその隣を歩いている。シスターが俺に気がつくと一瞬ビクッと震えたような気がした。なんだこいつ?
俺は妙にその学生たちが気になって、すれ違う際に少し振り返って見た。するとその男子生徒も同時に振り返り、俺のことをジッと見ていた。
まあ彼らもアカデミーの学生だし、そのうち会うこともあるだろう。俺は気を取り直すと、再びアカデミーに向かって歩き出した。
まずは復学の報告をするために、アカデミー長室を訪れた。
「これは女王陛下。わが校へ復学いただき、大変名誉に感じております」
「やめてくださいアカデミー長。いつものようにフランクに接していただきとう存じます」
「承知いたしました、女王陛下。それでは復学に当たり、陛下は引き続き闇属性クラスでよろしいのでしょうか」
「そのことですが、ブロマイン帝国の皇帝との約束でわたくし魔族と戦うことになりました。ついては別の属性魔法を習得したいと思っております」
「なるほど。それで属性は何をご希望されますかな」
「光と闇と水はある程度マスターいたしましたので、残りは4属性なのですが、火はアンリエット、風はアナスタシアが得意ですので、わたくしが選ぶとすれば土か雷のどちらかかと」
「なるほど。ただ雷属性クラスは転入生が二人入ったばかりで定員をオーバーしてしまっています。一方、土属性クラスはまだ定員に空きがございますが」
「そうですか。では土属性クラスに・・・」
「ちょっと待った!」
とつぜんアカデミー長室のドアが開き、ジャンが中に入ってきた。
「お嬢、久しぶり!」
「どうしたのですかジャン、突然こんなところにやってきて」
「ランドルフ王子・・・騎士団長の命令で、俺は大聖女様専属の護衛騎士に任命されたんだ。これからはロイたち同様、正式にお嬢の親衛隊の一員に加わることになったんだ」
「まあ! それはとても助かります。なんと言ってもジャンほど土属性魔法を使いこなす人は周りにいませんからね。・・・であればわたくしはやはり雷属性魔法を習得すべきなのかもしれません」
「・・・承知しました。では定員オーバーではありますが、女王陛下の雷属性クラス編入を認めましょう」
「ありがとう存じます、アカデミー長」
俺は先生に連れられて雷属性クラスに入ると、教壇の前に立ってみんなに紹介された。
「またこのクラスに新しい仲間が加わることになった。なんとアスター王国を建国されたばかりのローレシア女王陛下が、闇属性クラスからこの雷属性クラスに転籍されることになった」
「ローレシア・アスターです。今日から雷属性クラスの一員として早く皆様に溶け込みたいので、仲良くしてくださいませ」
「「「きゃーーー!」」」
俺が挨拶をした瞬間、呆然としていたクラスメイト達が一斉に大騒ぎになった。
「ローレシア様がうちのクラスに来てくれたっ!」
「し、信じられないわ! あのローレシア様がまさか雷属性クラスに!」
「逆に闇属性クラスは今ごろ涙目なんじゃないのか」
「そ、そうね・・・。でもあそこは、イケメンのアルフレッド様がいるから別にいいんじゃない、女子は」
「でもこんな短い期間に転入生が3人だぞ。一体うちのクラスはどうなっているんだ」
「あれ? そういえばあの二人、今日はまだ来てないのね。珍しい・・・」
すると先生が思い出したように、
「そうだみんなに伝えてなかったな。あの二人は今日からしばらくの間休学することになった」
「「「えーーーーーーっ」」」
今まで盛り上がっていたクラスメイトがガッカリした様子だ。
「せっかくあの最強の二人に加えて、ローレシア様も揃ったのに・・・」
「彼らは急に大金が必要になったらしく、ギルドのクエストに向かったようだ。それが終われば帰ってくるそうなので、別に心配しなくていいぞ」
「なんだ、そうだったのか。でもこれで今年の遠足は間違いなく雷属性クラスの優勝だな」
「じゃあ、女王陛下はカトレアの後ろに机を用意したのでそこで授業を受けてください」
「承知いたしました」
俺はカトレアにウインクすると、後ろの席に座る。今日からこの雷属性クラスで腕を磨き、魔族との戦いに備えるんだ。
俺は気持ちを引き締めると、初めて接する雷属性魔法の授業に集中した。
次回、ナツとアンリエットとのラブラブ生活
そしてアルフレッドの新たなる決意
お楽しみに




