第121話 エピローグ①(アンリエットへの褒美)
ローレシアの戴冠式を翌日に控えた夜、ローレシアに呼ばれたアンリエットは彼女の部屋を訪れていた。
「お呼びでしょうか、女王陛下」
「・・・女王陛下って呼ぶのはやめてください。アンリエットにはこれまで通りの呼び方をお願いするわ」
「承知しました、ローレシアお嬢様。明日は大切な戴冠式、今日は早くお休みになられた方が」
「戴冠式も大切ですが、わたくしにはもっと大切なことがございます。実は今からアンリエットに褒美を取らせようと思うのです」
「褒美・・・ですか?」
「ええ褒美です。アンリエットにはこれまでとてもお世話になりました。幼いころからずっと一緒で、修道院にもついて来てくれて、その後冒険者にもなって、ソーサルーラでは一緒に魔法アカデミーにも通って、エール病とも戦った。そしてフィメール王国でもずっと大活躍で、わたくしたちついにアスター王国まで建国してしまいました。今まで本当にありがとう」
「そんなお嬢様・・・褒美などそのお言葉だけで十分です。それに褒美ならナツにこそあげてください」
「もちろんそのつもりです。今日はアンリエットとナツの二人に褒美を差しあげたいの」
「そうでしたか。それでナツにはどんな褒美を差しあげたのですか」
「まだあげてないわ。これから二人にあげるのです。ではアンリエット、こちらに来て」
「はい、お嬢様・・・え、そちらはお風呂場では」
「そうよ。まず二人でお風呂に入りましょう。褒美はそれからです」
「お嬢様とお風呂ですか。なんかエール病の救護キャンプを思い出しますね」
「そうね。あの時はみんなとお風呂の順番でもめましたが、つい最近のことなのに懐かしいわ」
お風呂場では侍女のサラ、ニア、ミルの3人が風呂の準備をしていた。
「すでにお風呂の準備はできております。早速お二人のお支度をいたしますね」
「サラはわたくしを、ニアはアンリエットをお願い」
サラとニアは慣れた手つきで二人の服を脱がせていく。その間もミルはお風呂の準備を続ける。
ニアに服を脱がせてもらうアンリエットは少し恥ずかしそうだ。
「どうしたのです、そんな恥ずかしそうな顔をして」
「いえ、侍女に着替えさせてもらうのが、どうにも落ち着かないのです」
「アンリエット、あなたは今はもう伯爵令嬢であり、しかも王国騎士団の騎士団長というれっきとした高位貴族なのです。ですので侍女に全てを任せるのが貴族のマナーなのですよ」
「それは分かってはいるのですが、その・・・正直に申し上げますと、この下着が少し恥ずかしくて」
「恥ずかしいって・・・何を言っているのですか! それは高位貴族が着用する下着で、純潔を守ってくれる大切な物なのですっ。アンリエットにも純潔を守らなければならない、大切な人がいるのでしょう」
「は、はい・・・それはいますが、しかし」
「アンリエットのためを思って、あなたが仕立てたものができあがるまで、わたくしの下着を貸してあげたのです。胸と違ってそちらは問題なかったでしょ」
「いえ、問題はございました・・・」
「ま、まさか、ひょっとしてわたくしが太っていて、下着が合わなかったとか・・・」
「そ、そうではございません。お嬢様の下着ということはつまり、この下着はナツが身に着けたものということですよね。それを私なんかが・・・その」
アンリエットは自分の発言にさらに恥ずかしくなり、顔が耳まで真っ赤になっていた。
「あーっ! なっ、なっ、何てことを言い出すの! アンリエットは・・・もうっ! そんなことを言うとこのわたくしまで恥ずかしくなるじゃないのよ!」
「すみませんお嬢様。ただどうしてもそのことが気になってしまい、この下着をつけていると一日中ナツのことを考えてしまって・・・身が持ちません」
「一日中・・・その気持ち、少しわかります」
「ということはお嬢様も下着に興奮して・・・」
「ちっ、違いますっ! わたくしの場合は常にナツが一緒なので、結果的に一日中ナツのことを考えているのですっ!」
「・・・うらやましい」
「あ・・・べ、別にアンリエットに自慢しようとして言ったわけではありませんが、ご、ごめんなさいね。でもアンリエットはそこまでナツのことを」
「・・・はい」
耳まで真っ赤にしたアンリエットに、ローレシアが真っ直ぐに向き直ると、
「こほん。それでは、わたくしからアンリエットへの褒美を発表いたします。今日からアンリエットをナツの側室にいたします」
「そ、側室?! こ、この私がナツの側室にっ!」
「そのとおりです。もちろん正妻はこのわたくしですが、アスター王国女王としてアンリエットをナツの側室として認めます。末永く幸せになりなさい」
「ローレシアお嬢様ぁ・・・ありがとうございます。このアンリエット、お嬢様のご恩を生涯をかけて尽くさせていただきます!」
「これからもずっと一緒ね、アンリエット」
(ということでナツ、あなたへの褒美はなんとアンリエットでした。彼女を側室にしてあげてくださいね)
(なっ、な、な、な・・・・!)
(どうしたのですか、ナツ?)
(そ、側室って、いったいなんだ! 俺はどうしたらいいんだ?!)
(ちょっと落ち着きなさい、ナツ。あなたはアスター王国の国王なのですよ。フィメール国王を見ても分かるように、国王たるもの側室の一人や二人は普通いるものです。もちろんこの正妻であるわたくしが認める側室は、アンリエットただ一人だけですが)
(俺が国王だって?)
(わたくしが女王なのだから、ナツは当然国王よね。まさか当事者意識もなく、これまでアスター王国建国のために働いていたのですか)
(うぐっ、そんなことはないのだが俺が国王だと?)
(そう国王です。それともナツはアンリエットなんか必要ないとでも?)
(いや、それは絶対にない。だがローレシア、キミは本当にそれでいいのか)
(・・・わたくしがそうしたいの。仮に辺境でのスローライフが実現したとしても、わたくしは同じことをするでしょうね。わたくしは、ナツとアンリエットの3人でずっと一緒に仲良く暮らしていたいのです)
(そうか・・・ローレシアがそれを望むなら俺に拒む理由なんかないよ。アンリエットは俺の初恋の女の子だし、騎士としての師匠だし、そして一番の盟友だ。だがアンリエットが俺の側室なんかになったら、一生子供を授かることが出来ないが、本当にそれでいいのだろうか)
(それは大丈夫よ。アンリエットの本心はすでに聞いてます)
(いつの間に?!)
(ナツが眠っているときです。アンリエットはナツと添い遂げられるなら、他には何もいらないらしいわ)
(アンリエットはそこまで俺のことを・・・)
(わかったら、アンリエットを受け入れてあげて)
(ああ、わかった。・・・ありがとうローレシア)
(・・・わたくしたち3人で、末永く幸せになりましょうね)
「それではサラ、ニア、ミル。わたくしたちこれからお風呂に入りますが、あとはアンリエットにやってもらいますので、もう自分のお部屋に戻ってもらって結構です」
「「「承知いたしました、女王陛下」」」
ローレシアは、サラたちが風呂場を去ると同時に、身体の操作を俺に切り替えて、ニヤニヤしながら静観モードに入ってしまった。
そして風呂場の鏡には、顔を真っ赤にした二人の美少女が向かい合っている姿が映し出されていた。
「あ・・・あのー、アンリエットさん? ここでこうしていても風邪をひくのでお風呂に入りましょうか」
「そっ、そ、そ、それもそうだな・・・・はっ、早く風呂に入ろうナツ。先に入ってくれ」
「え、ええ・・・そうさせていただきます」
俺が慌てて風呂につかると、アンリエットもゆっくりとお湯の中に入ってきた。
わりとゆったりとしたバスタブも、二人が同時に入るとやはり窮屈だ。向かい合って座るとアンリエットのすらっと伸びた長い両足が俺の両足と交互に重なる。お互い邪魔にならないように足を折りたたむと、身体が徐々に密着していく。
「ナツ! 私から最初に身体を洗ってやろう。おっ、おっ、お嬢様のお風呂当番で慣れているからな」
「よ、よろしくお願いいたします。その後はわたくしがアンリエットのお身体を洗いますね」
「・・・お願いする」
アンリエットは慣れた手つきで俺の身体を隅々まできれいにしていくが、顔は完全に真っ赤だ。そして、俺の身体を最後まで洗いきると、今度は俺がアンリエットの身体を洗っていく番だ。俺は石鹸をつけた手でアンリエットの肩に触れた。
「ナツはいつも私の胸を見ているが・・・そんなに気になるのか」
「え・・・気付いていらしたのですか」
「もちろん気が付いていたさ。・・・そんなにこの胸が好きか」
「ご、こくりっ・・・」
「え、え、遠慮はいらない。今日から私はナツの側室なのだから・・・むっ、胸もちゃんと洗ってほしい」
「ごくりっ・・・よ、よ、よろしいのですか」
「ああ、・・・やさしく頼む」
「しょ、承知いたしました」
俺は石鹸をつけた両手でアンリエットの胸をそっと包み込んだ。ローレシアとは違う豊かな双丘にやさしく手を滑らせると、アンリエットは我慢できずに吐息をはいた。
俺はアンリエットがとても愛おしくなり、彼女の身体を手繰り寄せると、うなじから背中、そして身体のあらゆる部分まで丹念にゆっくりと丁寧に洗いつくしていった。
しばらくして俺は、薄く涙を浮かべながら俺の顔をボーッと見つめるアンリエットに気がつき、そう言えば彼女にまだちゃんと自分の気持ちを伝えていないことに気がついた。
昂った気持ちを少し落ち着かせるため、お互いの髪の毛を洗いっこしてそれも終わると、二人で静かにお湯につかった。
お風呂にゆっくり入れるようにと、アンリエットは俺の後ろに座って、身体をもたれかからせてくれた。アンリエットの胸がクッションになって、とてもゆっくりと安らげた。
少し落ち着いたところで俺が話をしようとすると、先にアンリエットが俺に尋ねた。
「お嬢様から聞いてしまったのだが、ナツの初恋の相手は私だったのだな」
「・・・じ、実はその通りです。わたくし、クールンの宿で初めてアンリエットを見た時、一目ぼれをしてしまったようなのです。こんなかわいい女の子を見たことがないと」
「私が可愛い? それならローレシアお嬢様の方がずっと可愛いと思うのだが」
「ローレシアは確かにとても可愛いのですが、どこか人間離れした美しさで、何より自分自身の姿でしたので、わたくしはアンリエットの方に惹かれました」
「そうだったのか・・・」
「でも本当に好きになったのは、一緒に特訓をする中でアンリエットの色々な面がわかってからで、あなたとの特訓の時間は本当に楽しかった」
「そうか・・・私と同じだな。私もナツとの特訓の時間がとても楽しくて仕方がなかった。・・・実は私もナツが初恋の相手だったのだ」
「え、わたくしが初恋の相手?! だって、わたくしが殿方であることを知ったのはつい最近のことでは」
「そ、そうなんだ。実は私はナツが殿方と知らずに、女性に初恋をしてしまったと勘違いして、随分と眠れぬ夜を過ごしてしまったんだ・・・」
「女性に初恋・・・フフフ。アンリエットにそこまで想われていたなんて、なんか嬉しいですね」
「だからこれまで自分の気持ちを抑えてきたのだが、ナツが殿方だと知ってからはもう、自分の気持ちが抑えられなくなってしまった」
「・・・わたくしたちは初恋同士、相思相愛だったのですね」
「ああ・・・好きだナツ。愛してる」
「わたくしも・・・アンリエットのことが好きです」
俺はアンリエットに告白をすると、アンリエットの方に向きなおって、そっと唇を重ねた。
アンリエットは目をつむると、両手を俺の背中にまわして、そして俺を受け入れた。
次回、最終回
お楽しみに




