第12話 最強への決意
(俺のいた世界か・・・俺の住んでいた国にはそもそも貴族なんていなかった)
(貴族がいないのですか?)
(ああ。貴族も魔法も何にもなくて、全員が平民だ)
(え、全員が平民ですって?!・・・フフフッ)
(どうしたんだ急に笑い出して)
(ごめんなさい。でも全員が平民というのがよくわからなくて、あの王族や貴族たちが全員平民になった姿を想像してみました。そしたら、なんだか可笑しくなってしまったの)
(そう言えば、俺のいた世界にも昔は貴族がたくさんいたんだけど、時代が進むと貴族制度は古臭いものとしてどんどん廃止されて行ったんだよ。今ほとんどの国は、平民が政治をしているよ)
(貴族制度が古臭いもの・・・)
(俺たちがいた世界はここよりもずっと進んでいて、魔法はないけど便利なものがたくさんあって、みんなが豊かに暮らしてたんだ)
(例えばどんなものがあるのですか?)
(一度に何千人もまとめて運ぶ、馬車よりもずっと早い乗り物とか、空を飛ぶ乗り物だってある。どんなに遠くにいる相手ともいつでもすぐに会話ができて、どんな病気でもたいがい治せて、みんな長生きだ)
(ナツ、それを魔法というのではないのでしょうか)
(これは魔法ではなくて科学っていうんだよ。魔力がなくても誰でもが簡単に使えるからね)
(魔力がなくても誰でも簡単に使える・・・すごい! わたくしもそんな夢のような世界で暮らしてみたいです。ナツも自分の世界に帰りたいのではなくて?)
(いや、俺は自分の世界には帰りたくない)
(どうしてですか? そんな素晴らしい世界なのに帰りたくないなんて・・・)
(俺は両親に捨てられて、社会からも落ちこぼれていたんだ)
(何があったのですか。もしよろしければ、わたくしに話していただけませんか)
俺は自分がここに転生するまでの出来事を、ローレシアにも分かるように話した。
子供の頃から両親に愛された記憶がなくいつも放置されていた。そんな両親には金がなく、小学校の給食費を滞納して周りから白い目で見られることは度々だった。
中学のころは部活の費用が出せずにすぐに部をやめてしまい、必死で勉強して高校に進学したものの家の生活費を稼ぐためにアルバイトに時間を割かれた。なのに借金だけ残して両親が突然蒸発し、借金取りから逃れて部屋に閉じこもっているうちに命を失ってこの世界にやってきた。
(そう・・・ナツもわたくしと同じような境遇なのですね)
(ローレシアと同じ?)
(ええ。家族から愛されることもなく、周りに翻弄された挙句に命を失ってしまった)
(・・・同じ境遇か。そうかもしれないな)
(でも、わたくしナツのお話が聞けて本当によかったと思います)
(俺もだよローレシア。君の話を聞いて思ったんだが、君は貴族社会から追放されたんじゃなくて、その下らないしがらみから抜け出せたんだと思う。だからこれからはアンリエットと3人で暮らしていけるように、頑張ればいいさ)
(貴族社会から抜け出せたか・・・。そうですね、そのためにはいつまでもアンリエットに頼らなくてもいいように、わたくしたち自身が強くならないといけませんね)
(そうだ。そのためにはまずは勇者レベル2を目指そう。そしてどんどん強くなって・・・)
(強くなって、どうするのですか?)
(その第3王子をぶっ飛ばそう!)
(ぶっ飛ばすって・・・えーーーーっ!?)
(俺はその第3王子とやらに完全に頭に来たんだ! こんないい子になんでそんなひどい仕打ちができるんだよ。それにその何とか公爵家の令嬢もひどいし、そもそも君の家族がひどすぎる)
(怒ってくれるのはありがたいのですが、それ本気じゃないですよね?)
(もちろん本気だ! だが今はまだ無理だ・・・いつかきっと、勇者レベルがうんと上がったらという話になるけどな)
(勇者レベルが上がったらですか・・・ええわかりました! それではわたくしも、第3王子をぶっ飛ばすことを目標に魔法の腕を上げますね。わたくしたちはせっかく8属性持ちになったのですから、他の属性魔法の勉強もいたしましょう。まずは魔導書の入手が目標でどうかしら)
(魔導書っ! いいねそれ。それじゃあ魔導書を購入するためにどんどんお金を稼ぐぞ)
(それで魔法をたくさん覚えて身体もうんと鍛えて)
(鍛えて、それで)
(わたくしたち、最強を目指しましょう!)
今日はローレシアとゆっくり話ができて本当によかった。
お互いのことを少しだけかもしれないけれど知ることができて、目標も共有できた。俺たちは2人で1人だから、これからもこんな感じで力を合わせて前に進んでいくんだろう。
さて女の子の日も終わって早速トレーニングを再開した。午前中は薬草採取クエストをして、稼いだ賞金で食料品を買い込む。そして午後は宿屋に戻って、部屋の中でトレーニングだ。
ローレシア的には俺にネグリジェ姿を見られるのはギリギリOKのようなので、その服装で筋トレメニューをこなしていく。身軽になったら腕立て伏せ2,3回はできたのだ。
一通りのメニューを通しで行い、疲れたら即ヒールで体力を全快にし、筋トレで破壊された筋繊維はキュアで瞬時にダメージ回復させる。ヒールとキュアの重ねがけだ。
そして午前中に買い込んだ鶏肉など、タンパク質が豊富な食料で腹を満たした。
このやり方が意外と効果が高く、本来なら1日や2日かかっていた超回復による筋力の増強が、一日に何十往復も行うことができた。おかげで日本では考えられないほどのスピードで筋トレの効果が上がり、初日の夕方には腕立て伏せが20回程度できるようになっていた。
これは大量の魔力を保有し、光属性魔法の回復系魔法を使いこなす俺たちにしかできない訓練方法だろう。
(ねえ、ナツ)
(なんだ、ローレシア)
(そんな筋トレばかりをしていたら、わたくしの身体が男の子みたいにガッシリと筋肉がついてしまうんじゃないかしら?)
(・・・たぶんそんなことにはならない気がする)
(どうしてそんなことが言えますの?)
(アンリエットを見てみなよ。あんなに重い武器を軽々と使いこなせるほどの筋力がありながら、手足はあんなにほっそりとして、理想的なプロポーションを保っているじゃないか。ローレシアだって大丈夫だよ)
(・・・・・)
(どうしたんだよ急に黙り込んで)
(ナツのエッチ)
(どこがエッチなんだよ)
(アンリエットの身体をじっくり見過ぎですっ!)
(ご、ごめん)
(・・・そのかわり、私の身体なら少しぐらい見てもいいですよ)
(え! この身体を見てもいいの?)
(もちろんこのネグリジェを着た状態でです。それ以上はまだダメですからね)
(それって今と状況は変わらない気が)
(わたくしが男の子みたいに筋肉がガッシリついてしまわないように、よく注意しておきなさいということです。勘違いしないでくださいませ)
(そういうことか。それなら了解っス!)
次回、アンリエットの弟子としてクエスト開始




