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第119話 母の改心

「まあ、改まってどうされたのですかリアーネ様」


 広いベッドではローレシアを真ん中にして左にリアーネ、右にアナスタシアという風に並んで横になっていたが、リアーネに答えたのはアナスタシアだった。


「先代のブロマイン皇帝、つまりわたくしのお父様ですが、正妻の他にも多くの側室を抱え、兄弟姉妹の数も優に10人を超えておりました。そしてそれぞれが次代の皇帝を競うライバルで、誰一人として仲の良い兄弟姉妹はいませんでした」


「まあ、とても厳しいご家門でしたのね、ブロマイン帝国の皇室は」


「はい。それもこれもより強い皇帝を誕生させるための仕組みなのですが、結果的に弟のクロムが皇帝の座に就き、負けたわたくしたちは政敵として帝国の中枢部から全員排除されてしまいました。殺された兄弟たちもいる中で、わたくしはたまたまキュベリー公爵家との政略結婚により、このフィメール王国に逃げることができました」


「それは幸運だったのでしょうか」


「そうですね。キュベリー家ではとても良くしていただけましたが、2年間の結婚生活でフィリップとの間には結局子を成せず、公爵家は滅んでみんな帝国に連れられていかれてしまい、わたくしだけがアスター家に拾われることとなりました」


「・・・そう。でもあなたがここにいることは皇帝が了承してくれているし、少なくとも命の不安におびえることはございません」


「はい、本当にローレシア様には感謝しております。ローレシア様とは最初こそ色々ございましたが、その後は何かと気を使っていただき、とても親切にしていただきました」


 二人の会話を聞いていたローレシアはリアーネの方に向き返り、


「リアーネ様・・・わたくしはあなたと同じように、家族から追放された身。だからどうしても他人事とは思えなかったのです」


「ええ、わたくしもローレシア様がとても他人とは思えず、実は妹のように感じているのです・・・もしよろしければ、わたくしのことを姉だと思って甘えていただけるとうれしいのですが」


「わたくしを妹のように・・・。でしたらわたくしもリアーネ様を姉のようにお慕い申しあげても?」


「それはもちろん! では、もう少し近くに寄らせていただきますね、ローレシア様」


 そういうとリアーネがローレシアにピッタリとくっついてきた。


「ああ、これが妹の温もりなのかしら・・・」





「ローレシア・・・わたくしの話も聞いてください」


 今度はアナスタシアが語り出した。


「お母様・・・突然どうしたのですか?」


「わたくし、あなたにちゃんと謝りたかったのです」


「お母様・・・」


「この間の聖属性魔法・グロウをかけられたときに、まるで憑き物が落ちたようにあなたへのわだかまりが全て消えたのですが、それと同時にこれまであなたにしてきた仕打ちが頭の中によみがえり、罪悪感で押しつぶされそうになっているのです」


「・・・そうですか」


「だからね、これからは今までの分を取り返すようにローレシアのことをかわいがろうと思っております」


「え、わたくしをかわいがるのですか?」


「そうです。でなければわたくし、あまりの罪悪感に心が耐えきれません。お願いだから、あなたのことをかわいがらせてくださいませ」


「いえ、わたくしはもう親からかわいがられるような年齢ではございませんので、お断りいたします」


「そんなことを言わずに、この17年分をとりかえさせてください」


「17年分も! ひ、ひょっとしてわたくしが34歳になるまでかわいがるおつもりでは」


「あら、ダメかしら?」


「ダメに決まってます!」


「でも、リアーネ様には妹として甘えるのでしょう。だったらこの実の母にも娘として甘えるのが道理なのでは」


「うっ・・・し、しかし」


「・・・わかりました。わたくしがこれまであなたに冷たく当たっていた報いを今受けているのですよね。とても辛いですが、わたくし耐えて見せます」


 そう言って涙を流し始めたアナスタシアを見かねたリアーネが二人の会話に入り、


「ローレシア様・・・母親に甘えるのに年齢など関係ございません。むしろ甘やかしてくれる親がいるだけ幸せというもの。わたくしの両親はもうこの世におりませんので、ローレシア様が大変うらやましいです」


「あら、リアーネ様のご両親は他界されたのですか」


「はい、父が死んでクロムが皇帝になった時に、政変で母は殺されてしまいました」


「それはお辛かったでしょうに・・・もしよければ、リアーネ様もわたくしのことを母親だと思って甘えてくださってもいいのですよ」


「本当ですか!?・・・では、これからはわたくしとローレシア様とアナスタシア様の3人で母娘のように暮らしてもよろしいですか」


「もちろんです! 二人とも存分に甘えてください。わたくしもお二人を甘やかします」


「そんなこと二人で勝手に決めないで!」


「いいえ、もう決めました。わたくしもローレシアの近くで寝ますね」


 そういうとアナスタシアもローレシアにくっつき、いつくしむようにローレシアをそっと抱き締めて、眠りにつくまでずっと頭を優しくなでていた。


 リアーネもローレシアの背中にぴったりくっついたまま両手でしっかりと抱き締めており、その状態のまま、やがて二人からは寝息が聞こえてきた。




(ナツ! 大変なことになってしまったわ)


(わかってるよ! でもどうするんだよこれ。二人にサンドイッチにされて暑くて眠れん)


(そうなの。二人とも眠ってるはずなのにすごい力で抱きついていて、無理に振りほどくと起こしてしまいそうで)


(しかしお前の母親は、改心しても性格までは治らないんだな。17年分お前を可愛がるって、やることが極端すぎるんだよ)


(人の話を聞かない所もね。・・・でも、お母様とリアーネ様が仲良くしてくれるのは、いいことよね?)


(・・・だな。今夜はもうこのまま眠るしかないか。しかし二人とも胸が大きいな。両サイドからものすごいボリューム感が・・・・)


(こんな時にまた胸の話なの?! もうっ! ナツのバカ、エッチ!)






 そして戴冠式の日が訪れた。


 ここフィメール王城には近隣諸国から国王夫妻や代表団、高位貴族たちが参集し、王城の謁見の間は人で埋め尽くされていた。


 ローレシアは王侯貴族たちの最前列に立ち、ソーサルーラ国王やランドルフ王子の隣で、マークの戴冠を見届けた。


 本来なら最前列、あるいは玉座の隣に立っているはずだったブロマイン帝国皇帝クロムは、本当に帝都に帰ってしまったようで、戴冠式には帝国軍の司令官が出席していた。


 どうやら属国となったフィメール王国にはもう興味がないようだ。




 そのフィメール王国の玉座には、第2王子マークとその王妃でリアーネ同様に皇帝との政争に敗れた妹のマリンが並んで座っていた。


 玉座の周りにはマークの母親とそれに近しいフィメール王族が並び、マークの伯父にあたるザルツ公爵(今回の戦勝により伯爵から昇爵)もその列にいた。


 その王族の列には当然キュベリー公爵家系統の者はおらず、レスフィーア王女などのハーネス侯爵家系統の王族さえ一人もいなかった。






 戴冠式もつつがなく終わり、その後は盛大なパーティーが夜遅くまで開催された。


 各国首脳たちは外交にいそしみ、貴族たちは社交に余念がなかった。ローレシアのもとには、たくさんの王侯貴族が挨拶に殺到し、ダンスはおろか食事をとる暇さえもないほどだった。


 ようやくそれも一段落すると、改めてソーサルーラ国王とランドルフ王子とで今後について話し合った。


「これでこのフィメール王国は第2王子マークとブロマイン帝国のものになり、領土の半分はわたくしが統治することを前提に帝国の支配から逃れることができました。それでわたくしの身分について、相談させていただきたいのですが」


「そのことなのだが、ローレシアは一国の支配者となったので、さすがに侯爵のままではマズいと思う」


「でも候国にするという方法もあると思いますが」


「そうなのだが今回の場合、国土が新フィメール王国とほぼ同じ大きさであり、亡命貴族を多数受け入れて処遇するなら、ローレシアには相応の地位が必要だ」


「ですが、国王陛下には多大な恩義もあり、まだ何も役割を果たせていないのにたった数か月でソーサルーラを去るわけには」


「そこで提案なのだが、我が国の侯爵位は返上いただくとして、大聖女にはそのままご着任いただきたい。だから引き続き我が国の医療に従事いただくことで、我が国の役に立ってもらう。これでどうかな」


「・・・それで恩義が果たせるのなら、願ってもないことです」


「なら決まりだな。それでは今後の両国の友好と繁栄を祈念して乾杯しよう。魔法王国ソーサルーラ大聖女兼、アスター王国ローレシア女王陛下」





 その翌日、ローレシアはブロマイン帝国軍司令官と面談し、互いの国家の承認と捕虜交換、亡命者の受け渡しに関する協定文書に署名した。


 その結果、地下に幽閉されていたフィメール国王と第3王子アルフレッドが釈放され、アスター王国に強制送還されることとなった。この二人は国外追放という扱いになり、今後フィメール王国の国土を踏むことは許されなくなった。


 同時に、ハーネス侯爵家系統の王族も全員アスター王国へ亡命することになり、併せてハーネス侯爵家や外務卿のウォーレン伯爵など旧王家の重臣たちの亡命も決まった。


 騎士団の捕虜交換も行い、その後改めて双方どちらの国に住みたいか希望を聞いた。その結果、キュベリー騎士団のほとんど全員と、王国騎士団の約7割がアスター王国を選んだ。


「わたくしの国が騎士だらけになってしまいましたが、フィメール王国は本当に大丈夫なのでしょうか」


 すると当然アスター王国への亡命を希望したロイ、ケン、バンの3人は、


「あちらは帝国の属国。軍事的には帝国が庇護するため、他国から攻められる心配もなく、騎士もたくさん必要ないのです」


「それよりも、これで正式にローレシア様の近衛騎士としてお仕えできますね!」


「ええ、引き続きよろしくね、ロイ、ケン、バン」


 こうしてフィメール王国におけるすべての用件を片付けたローレシアは、ようやくソーサルーラの我が家へと帰宅した。





 レスフィーアのエール病治療から始まった今回の騒動は、終わってみれば、フィメール王国の半分をローレシアの統治下に置くことで決着をみた。


 ローレシアは気がつくと若き女王陛下となってしまったのである。


(確かにフィメール王国へは戻っていませんが、本当にこれでよかったのでしょうか?)

次回、エリオットとマーガレットの処分です


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと気になるのがローレシアの弟妹を両親みたくキュベリー公爵との戦いに連れていってたらどうなるのか。アナスタシアみたいに改心?するのか変わらずに悪態をつくのかどっちだろう?
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