第113話 死闘! ローレシア vs キュベリー公爵③
ローレシア親衛隊は、選りすぐりの騎士たちで構成されていた。
ロイ、ケン、バンの3人は王国騎士団の所属であり元第3王子のエリオットの近衛騎士を務めた他、国賓であるローレシアの護衛騎士を実力でもぎ取るほどの、王国きっての最精鋭である。
ジャンはソーサルーラ騎士団の所属で、平民出身のアカデミー生ながらも王家からその実力を買われて、大聖女ローレシアの外遊の護衛騎士に抜擢されるほどの実力を有している。
そして今や親衛隊の主力となった薔薇騎士隊。彼女たちはアンリエットを崇拝してただひたすらに強さを追求した結果、男性騎士に身体能力が劣る分を魔力でカバーし、ついにはアスター騎士団最強とまで言わしめた部隊である。
そもそもアスター騎士団が魔法を中心に戦法が組み込まれた異質の軍隊であり、その騎士団の中で魔力に突出した彼女たちは、間違いなく王国トップクラスの魔導騎士であった。
そしてローレシアの両親。アスター伯爵は当主としての器量こそイマイチだが、魔力はかなり強くダテにアスター家の当主を名乗っていたわけではなかった。ローレシアが推測するように、平均的な魔導士の3~4倍もの魔力を有している。
ローレシアの母・アナスタシアも、もとはアスター侯爵家分家の娘であったが、その中でも最高の魔力を有していて、跡継ぎを産むために本家正妻として迎え入れられたほどだった。
そんな最強の魔導騎士たちが、ローレシアとともにこのキュベリー騎士団の司令部に突撃をかけたのだ。
そこは周りすべてが、敵、敵、敵。
そんな死地に飛び込めるのもひとえに、彼ら彼女らが強力な魔力を保有していたからに他ならない。
そして今まさにキュベリー公爵をあと一歩のところまで追いつめたのだ。
【風属性魔法・トルネードクラッシュ】
アナスタシアの放った大魔法は強力な竜巻を発生させ、十数人の騎士を馬ごと吹き飛ばした。いきなり宙に舞いあげられて恐怖に絶叫する騎士たち。その中に忌々しげな表情のキュベリー公爵がいた。
「くそっ・・・こんなところでトルネードクラッシュなんか撃ちやがって! 人をゴミか何かと勘違いしているのではないか」
公爵は宙を舞いながら悪態をつくと、しかし自らも風魔法ウインドを発動させて周りの暴風を打ち消し、静かに地上へと舞い降りた。
「だが風はワシの得意属性でもある。ワシに風魔法は通用せん」
そしてすぐさまこの場を逃げ出そうと走り出した。
だが、俺はすでに後ろに回り込んで公爵の退路を断っていた。
「何だと! ローレシア、お前いつの間に!」
「さあキュベリー公爵、わたくしと戦いなさいっ! 今度はあなたの寝室のようにはいきませんので、覚悟なさい!」
「・・・調子にのりおって。あの時はお前をワシの女にしようと手加減をしてやったのだが、もうやめだ。お前はこの場で確実に殺す。ワシも一切手加減なし。本気を出すのでそのつもりでかかって来るがいい」
「上等ですわ。では参りますっ!」
俺は魔剣シルバーブレイドを虹色のオーラで纏うと公爵との間合いを一気に詰めて剣を打ち込んだ。
「速いっ!」
公爵は慌てて剣で防御を試みるが一瞬間に合わず、公爵の身体を覆うマジックシールドが俺の剣戟により軋みをあげた。
先制攻撃に成功した俺は、その勢いに乗って公爵に連打を打ち込み、バリアーの防御力をどんどん削り取って行った。
「くそっ・・・ローレシア、なんてパワーだ。お前、本当に女なのか・・・」
だが体勢を立て直した公爵は、俺の攻撃を剣で受け止めると猛然と剣をふるい始め、やがて戦いを五分の展開に持ち直してきた。
「やるじゃないかローレシア。だが奇襲で決めきれなかったのはお前にとっては致命傷だ。ここからワシも本気を出すが、はたしてついてこれるかな」
そう言うと公爵は、まるでギアチェンジしたかのように動きが加速していった。
キン! キン! キン! キン! ガシッ!
「どうしたローレシア! お前の動きが止まって見えるぞ」
「くっ!」
公爵は何かの魔法を使ったのか、動きがますます加速していった。あっという間に形勢が逆転し、俺が押され始めた。マズいぞこれは。
だが俺も漠然と戦っているわけではない。この打ち合いの間にも魔法の準備は着々と整えていた。身体をキュア&ヒールの光のオーラの膜で覆うと、左手にはミラーによる魔法の盾を、そして頭上にはアイスジャベリンをいつでも発射できる状態にしておいた。
だが公爵も何かの魔法の準備を整えており、それを発動するタイミングを計っているようだ。そして俺が魔法を撃つ隙は全く与えてくれない。
こいつ、こんなに強かったんだ。
だがその時、
「ローレシア! 死ねーーーーっ!」
どこからかマーガレットの叫び声が聞こえると、それと同時に大きな魔力の気配がした。俺はすぐにマーガレットを探す。
俺と公爵の戦っている周囲は、ローレシア親衛隊と公爵騎士団が入り乱れての乱戦状態になっており、その乱戦のさらに外、少し離れた場所にマーガレットの姿があった。
両手を俺の方向に突き出しているところを見ると、どうやら何かの魔法を放ったようだが、すぐに警戒をしたものの何も起きないし、何も飛んでこない。だが公爵は自分の準備していた魔法を全てキャンセルして慌ててバリアーを全開にした。そして、
「マーガレットっ! お前はいったい何をやってるんだっ、バカ野郎!」
公爵が激怒しているが、マーガレットは公爵の怒号に反応せずに、ただ俺を見てニヤニヤと笑っていた。だがそこでジャンの声が聞こえた。
「お嬢! バリアー全開だ! 急げ!」
【無属性魔法・マジックシールド】
俺は慌ててアイスシャベリを捨てると、バリアーを最大限に展開し、ジャンの目線の方向、つまり自分の頭上に目を向けた。するとそこには巨大な魔方陣と、上空からゆっくりと舞い降りる白い光点があった。
そして次の瞬間、
カッ!
その光点が上空で炸裂すると、強烈な熱線と爆風があたり全体を包み込んだ。
(うわぁぁぁっ! ローレシア、何だこの魔法は!)
(ナツっ! 火属性魔法・エクスプロージョンよ!)
(エクスプロージョンって、爆発・・・爆裂魔法か、うわーーーっ、熱い!)
(きゃーーっ! ナツ! 熱い! 助けて!)
俺はバリアーの展開が遅れたため、マーガレットの放ったエクスプロージョンの熱線をもろに食らってしまった。
慌てて魔力を注ぎ込んでバリアーを強化。その後の爆風は防御できたがやはり最初のダメージが大きい。
わずかな時間だが、身体中を熱線にさらされたため火傷を負ってしまった。ローレシアの白い肌が真っ赤に爛れてしまったが、それをキュア&ヒールのオーラの膜が立ち所に癒していく。
そして爆風が荒れ狂う様子を、俺はバリアーの中に身を潜めてじっと見つめる。キュベリー公爵も俺と同様に身体を低くして爆風に耐えている。
ローレシア親衛隊のみんなは、爆心地である俺の頭上からは少し離れており、みんな俺よりも早くバリアーを構築していたため、全員無事だった。
それはキュベリー騎士団も同様なのだが、騎士の中には魔力を持っていないものも多く、自分でバリアーが展開できない彼ら彼女らは、爆風に直接さらされて次々に焼け死んでいった。
「むごすぎる・・・」
(ナツ・・・わたくし今日ほどマーガレット様に怒りを感じたことはございません。味方の騎士たちがいる中でこんな魔法を平然と撃てるなんて!)
(ああ、これは酷すぎる。あいつはローレシアを2度も殺そうとして、今回これで3度目だ。しかも味方の騎士をたくさん道連れにして。公爵よりも先にアイツを倒すか)
(ええ! わたくしの婚約破棄と王国追放から始まった今回の騒動、全ての元凶は彼女よ。そして帝国を呼びよせてフィメール王国を滅亡の淵に追い込んだ稀代の悪役令嬢に、今こそ引導を渡しましょう!)
次回、決着!
お楽しみに




