第111話 死闘! ローレシア vs キュベリー公爵①
今章のラストバトルです
少しこのエピソードが続きます
映像宝珠を王都各所に送った翌日、アスター騎士団は王都に向けて北進を開始した。キュベリー公爵が激怒して領都に引き返してくれることを期待して。
なお公爵領を占領した際に物資を大量につんだ馬車ごと商人を雇い入れている。即席の補給部隊として、いかなる戦況にも即応できる態勢を整えるためだ。
そしてちょうど公爵領と王族直轄領との境界に差し当たったところで、舞い戻ってきたキュベリー騎士団1200騎の隊列を遠くに捉えた。
ローレシアは次々に指示を出していく。
「敵、約1200騎に対して我が連合軍は500騎。兵数に2倍以上の差がございますので、直接の戦闘は避けて遠隔からの魔法攻撃に徹してください。火力は低くなりますが必ず敵の射程外からの攻撃を心がけること。いいですね」
「はっ!」
「アンリエット率いるアスター騎士団は敵の左翼を、ブライト男爵の率いるブライト騎士団は敵の右翼を、ランドルフ王子率いるソーサルーラ騎士団は敵中央をそれぞれ分担して、公爵軍全体に攻撃が行き渡るようお願いいたします」
「ローレシアお嬢様。どうして攻撃を分散するのですか? 遠隔攻撃で火力が弱いからこそ、攻撃を一点に集中させた方がよろしいのでは」
「確かにその方が攻撃力は上がりますが、逆に我々の側面や後背に回られて騎士同士の乱戦に持ち込まれる恐れがございます。そうなると魔法の火力押しも難しくなり、わたくしたちの利点が失われ、兵数の差で負けてしまう危険性がございます」
「・・・わかりましたが、それだと長期戦を覚悟せざるを得ませんね。幸い公爵領から大量に物資を手に入れましたので補給には事欠きませんが」
「ええ、そのための補給部隊ですので。でもわたくしはこの戦いをあわよくば短期決戦に持ち込もうと考えています」
「短期決戦って・・・まさかっ!」
「ええ。チャンスがあれば、わたくしが親衛隊を連れて敵陣に突撃いたします。わたくしたちの勝利条件はキュベリー公爵のクビを取ること。この1点のために連合軍500騎には、敵に付け入る隙を作っていただきます」
「それならば私もお嬢様とともに突撃いたします!」
「いいえアンリエット。あなたにはアスター騎士団の指揮を任せます。アンリエットが騎士団を率いてくれるからこそ、わたくしは安心して突撃をかけられるのです。・・・アンリエット、全軍に号令を!」
「・・・くっ、承知いたしました。それではアスター騎士団、ブライト騎士団、そしてソーサルーラ騎士団の勇敢なる騎士諸君!」
アンリエットが苦渋の表情で騎士たちに向き直ると全軍に号令をかけはじめた。
「キュベリー公爵領の占領に成功した我々の戦いも、いよいよ次が最後。残すはキュベリー公爵のクビだ! だが公爵は、強大な魔力を誇る超一流の魔導騎士だ。ヤツに勝てる者は我々の中にほとんどいないだろう」
アンリエットの話に騎士団はシンと静まりかえる。
「だが公爵に勝てる騎士がいるとすれば、それはこのローレシアお嬢様である! お嬢様の勝利のために、そして我々、アスター騎士団連合軍の勝利のために、今こそこの命をかける時が来た! さあみんな、この一戦を一丸となって戦い、必ず勝利をもぎ取ろう!」
「「「おう! すべては我らの勝利のために!」」」
アンリエットの檄により士気が最高に上がった騎士たちに向けて、ローレシアも話し始めた。
「公爵との決戦を前に、わたくしから皆様へ支援魔法を送ります。500名もの大人数ですのでわたくしの魔力ではそれほど長い時間持続しないかも知れませんが、わたくしの精一杯を受け取ってくださいませ」
そういうとローレシアは静かに目を閉じた。
ローレシアの身体から魔力が湧き出してくる。そのオーラの色は虹色。七属性が合わさった勇者の魔力、そして聖女のみが使える聖属性魔力が解放される。
ゴゴゴゴゴッ・・・オオオオオッ・・・
そして虹色のオーラが一度天空に向けて解き放たれると、上空で渦を巻きながら大気中のマナを大量に吸い込み、ローレシアの身体へと再び戻って行った。
キイイイイイイイイーーーンッ
空気を切り裂くような鋭い音を響かせながら、聖属性のオーラはローレシアの身体の中で限界まで高められた。
そして、
【聖属性魔法・グロウ】
ローレシアがその言葉を発した途端、500名全てをカバーするほどの巨大な魔法陣が頭上に姿を現し、虹色のオーラが駆け巡ってその魔方陣を光輝かせた。空からは神の降臨を思わせる神々しい光が降り注ぎ、神聖で静謐な空間が突如そこに現出した。
「ああ・・・我らが大聖女ローレシア様・・・」
騎士たちはその光景に、全員が地面にひざをついて両手を握り締め、涙を流しながら天から降り注ぐ神光とその中心に立つローレシアに最大の祈りを捧げた。
この魔法に見慣れているはずのアンリエットでも、今まで見たことのないような特大の聖属性魔法に思わずひざをつき、ローレシアの両親までもが我が子に祈りを捧げ、淀んだ感情が押し流されて心が素直に浄化されていった。
「ああぁ・・・ローレシア、ダメな母親で今まで本当にごめんなさい・・・本当は分かっていたのだけど、自分が間違っていることを娘の前で認めることがどうしてもできなかったのよ。許して・・・」
「ローレシア・・・・お前は本当に神に祝福された、アスター一族の真の後継者だったのだな。お前こそ、我がアスター家の誇りだ! 光の大聖女ローレシア」
そして500名全員の身体が虹色に輝き出すと、その魔法が発動した。
「おい・・・何だお前のその姿、随分若返っているじゃないか!」
「そういうお前も、まるで20代前半の頃のようだ」
「わ、私のお肌がツルツルすべすべになってるっ!」
一部の騎士たちはグロウで若返った経験があったものの、ほとんどは初めて体験する魔法であり、全員が20代前半頃に若返ったため、お互いの姿を見て大騒ぎになった。
それはローレシアの両親も同様だった。
「何なの・・・このローレシアの魔法は。あ、あなたのその姿、若い頃に戻っているではありませんか!」
「そういうお前も、結婚した頃の姿に戻っているぞ」
「あら? お父様とお母様って、二人とも随分と美男美女でしたのね。ウフフフ」
「お前はローレシアなのか? 随分と大人っぽく成長したようだが、何なんだこの魔法は」
「これは魔法王国ソーサルーラに伝わる聖属性魔法・グロウ。能力の限界を引き出すために一時的に人生で最高の頃の肉体に変化させる魔法です」
「人生で最高の頃の肉体、それが20代前半頃と言うわけか。・・・だがお前の胸はあまり成長していないようだな」
「大きなお世話ですっ! でも二人の若い姿を見るのはとても新鮮ね。お母様がわたくしと同年代に見えるし、随分と美人で・・・む、胸も大きいのね」
「わたくしはアスター家の分家の娘でしたが、魔力も一番強くて昔は殿方から随分とモテたのですよ」
「へ、へー・・・そうなんですか。それは良かったですねっ(わたくしの貧乳はお父様の方の遺伝なのね。でもナツは胸が小さい方が好きって言ってくれたし、別にいいもん)」
「ローレシアお嬢様、ご両親とのお話はそれぐらいにして、魔法の効果にも限りがございますし、そろそろ行きましょう」
「それもそうね。それではアンリエット、号令を!」
「全騎! 出撃せよ!」
「「「おーーーーっ!」」」
最高に士気が高まったアスター騎士団連合軍は、ロングレンジからの魔法攻撃に集中し、序盤から戦いの主導権を握った。
キュベリー騎士団にも当然魔導騎士は存在したのだが、主力は通常戦力であり魔法に特化したアスター騎士団連合軍との魔法の撃ち合いになると、2歩も3歩も分が悪かった。
しかもローレシアの聖属性魔法・グロウの効果がうまく作用して、攻撃魔法の射程距離も破壊力も向上した結果、当初想定よりも大きな攻撃力を発揮させることに成功した。
結果、キュベリー公爵騎士団1200騎はみるみるうちにその数を減らしていった。
王都での戦場から離脱して、ローレシアを倒すために猛然と馬を飛ばしてきたキュベリー公爵は、突然の魔法攻撃にその進軍の勢いを止めざるを得なかった。
「なんなんだ、あのアスター騎士団の魔法攻撃は! どうしてあんな遠距離から、これほど強力な攻撃ができるのだ」
「わかりません。わが方の魔導騎士も反撃を試みてはいるのですが、この距離では攻撃魔法がほとんど届かないため、今はバリアーの展開に注力させています」
「ヤツらとは魔法の射程距離が違うのか。ええい! ボウガンでも投石器でもなんでもいい、遠隔攻撃ができるものはなんでも使って攻撃せよ!」
「はっ!」
だが公爵の苛立ちをよそに戦況は全く好転しなかった。ボウガンよりもアスター騎士団の魔法攻撃の方が射程が長く、また接近するほどその火力が増すため、公爵騎士団は完全に足止めを食らった形で、一方的にダメージを与えられる展開のままだった。
「このままだとマズいぞ! よし、左右に広げ過ぎた陣形を中央に集中させてバリアーも中央前方に展開。敵中央を一点集中突破して敵後背に回り込み、乱戦状態に持ち込むんだ」
「承知しました!」
「ローレシアめ。数の暴力で貴様を押し潰してやる。騎士団の戦い方というものを教えてやろう!」
次回、戦闘が本格化
お楽しみに




